「おう、ハン。見事な大捕物だったな」
そんなクラウド・シティの特設保管庫。戦利品の山を前にホクホク顔のハンの元へ、連邦情報局のキャシアン・アンドーと、この街の主であるランド・カルリジアンが連れ立って現れた。
情報局からの正確な座標提供と、ベスピンの迅速な受け入れ・査定態勢。今回の討伐劇は、この二人の協力あってこそのものだ。
「おうよ! お前らの情報と受け入れのおかげでスムーズにいったぜ。何時も通り、ボーナスのマージンはキッチリそっちにも回すからな」
当然、ハンは何時も通りに分かち合う。すると、二人の笑顔が更に深まった。「殺さないでくれ」「法の加護を」「良かった。俺は俺のままで逝ける」と泣きわめきながら連行される海賊の悲鳴をBGMに育まれる美しい友情の光景があった。何時も通りに。
「ああ、助かる。旧共和国時代はもちろん、帝国時代まで放置されていた分、アウター・リムの海賊は、去年だけでも千人以上の犠牲者と1憶クレジットの損失を出したあんなデカい連中ばかりだからな。世も末だ」
「だからこそこんなに溜め込んでやがるんだ。俺たちには割が良い仕事さ。これからも狩って行くさ」
「だな、しかし溜め込みやがったな。これなら査定額も跳ね上がるぞ」
手元のデータパッドで押収品のリストを確認しながら、キャシアンはいつも通りの冷静な顔つきで頷いた。
……だがその直後、ふっと穏やかで満面の笑みを浮かべた。
「それにしても、本当におめでとう。ハン」
「ん? ああ、今回の戦果のことか? なに、大したことねえよ。俺とチューバッカ、それに501の連中がいりゃあ……」
「違う。君とレイアの結婚のことだ」
ハンの脳が、一瞬だけバグを起こした。
「…………は?」
「実は俺も、ジンと籍を入れるんだ」
ハンが間抜けな声を漏らしたのを完全にスルーし、キャシアンはどこか誇らしげに、しかし照れくさそうに言葉を続ける。
「お前さんたちのお陰で、帝国軍の収容施設から無事にゲイレン親父さんを救出できたからな。一つの区切りがついたから、ようやく正式に籍を入れられる。ジンは今、妊娠5ヶ月目なんだが……『ドレスを着るのにお腹が目立って恥ずかしい』と愚痴られていてね。まあ、俺からすればどんな姿でも最高に美しいと思うし、そう言ったら通信を切られてな。だが、その日の飯は豪勢だったよ。幸せってこういうものなんだな」
「おい、ちょっと待て」
「いやあ、家庭を持つというのは良いものだな。君もそう思うだろう? 子供が生まれるのが待ち遠しくてな仕事にも張りが出る」
冷静沈着にして裏仕事も請け負う情報部の男が、今や完全に「浮かれたプレパパ」の顔になって惚気を全開にしている。普段なら最高にイジりがいがある姿だった。
だが、今のハンにはキャシアンの惚気をイジる余裕は全くなかった。
彼だけ穏やかなアットホームな一日が吹き飛んだからだ。
「ちょっと待てって!! 俺とレイアが結婚!? どういうことだ、俺はそんな話一言も!」
「おいおい、照れてるからってそんなこと言うんじゃないぞハン。レイアに聞かれたら大変な事になるぜ……しっかし、こんだけの荷を捌く機会を街にくれてありがとうよソロ大佐殿! これで街は更に潤うぜ! 持つべき者は友人だな! いやあ、めでたいねえ!」
パニックに陥るハンの前に、今度はランド・カルリジアンが一歩進み出た。彼はマントを翻し、これ以上ないほど胡散臭くも爽やかな笑みを浮かべてハンの肩をバシバシと叩く。
「大佐殿とレイアの結婚式だ。親族とごく親しい友人だけの身内席だと聞いた時はションボリしたが、その分、連邦のお偉いさんの上澄みばかり! 連邦中からお偉いさんが集まる最高のビジネスチャンスじゃないか! 俺もクラウド・シティの、いやベスピンのトップとして、親族の友人枠でガッツリ人脈を広げさせてもらうぜ。ティバナ・ガスを売り込む最高の機会だ! 何着ていくか迷うぜ! 招待状ありがとうってレイアとルークに、お前さんからも言っといてくれ!
──それと、ハン、友人としてアドバイスしとくが、こういうキッチリした招待状とかは結婚したらレイアに全部任せとけ。招待状を送ってくれたレイアと比べてお前さんときたら……招待状どころか連絡さえしてこないんだからな。流石に呆れたぞ」
「ランド!? お前まで何言ってやがる! だから俺はレイアと結婚するなんて一言も……!」
『グオオォン! (五日前、レイアから通信があった時に「停戦中に結婚式を挙げるわよ」って言われて、「おう、いいぜ。大賛成だ。これからもよろしくな」って酒飲みながら頷いてただろ)』
横で査定を見ていたチューバッカが、呆れたような唸り声を上げた。
「ウソだろ!? 俺、あの時ベリル・レトネ(※コレリアン・ウイスキーの銘柄アホほど強い)をボトル一本空けてて……って、あれ夢じゃなかったのかよ!!?」
『……アロォォォォン(……お前が悪い。レイアにバレたら只じゃすまないぞ)』
「黙っといてくれ! ファルコンの改修は後回しだ! 結婚式の準備に今回のボーナス全額注ぎ込む! あと休み申請して、しばらく副長に501の指揮委ねて、いや全員結婚式に呼ぶべきか──」
相棒からの無慈悲な宣告、キャシアンからの心からの祝福(と惚気)、そしてランドからの計算高い祝辞。ボーナスで浮かれていた熱が『結婚』という大イベントで完全に吹き飛んだハンは、大慌てだった。
レイアと結ばれるという事そのものには一切の異論はない。しかし「このまま何もしなかったら、結婚後ずっと尻に敷かれてしまう」と危機感を噛み締め大慌てで式に向けた準備を始めるのだった。
そして──後年、産まれた子供たちに「海賊狩りで忙しくて、準備期間が短くな。大した指輪を用意できないって悩んでたら、ちょうど海賊から押収した荷の中に『秘宝』と呼ばれるペアリングがあってな。それを買い取ったんだ。これだ、綺麗だろ」と笑い話にするくらいには、自分が結婚するなんて夢にも思っていなかった事を見事に誤魔化してのけるのである。
「……というわけで。その、お願いできないかしら」
一方その頃。
新共和国軍の一角のアカデミーで。マラ・ジェイドは、かつてないほどにモジモジと視線を彷徨わせていた。
そんな彼女の前に立っているのは、二本の白いライトセーバーを腰に提げたトグルータの女性、アソーカ・タノである。
「私が、マラの『母親役』を?」
「……ダメ、かしら。私、孤児だし、親の顔なんて知らないし、家族なんていないの。でも、ルークのご家族はすごく温かくて、立派な人たちばかりで……」
普段の強気な態度はどこへやら。
マラは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で俯き──それでも、決意を秘めた瞳で真っ直ぐにアソーカを見つめ返した。
「結婚式で、花嫁には親の立ち会いが必要だって聞いたわ。でも、私には誰もいない。その時に真っ先に浮かんだのは……マスターの顔だったの。
十一歳の時、独りぼっちでただ生きるためだけに必死だった私を拾ってくれて、今日までずっと……本当の娘のように、温かい愛情をもって育ててくれたマスターの顔が」
言葉にするのは気恥ずかしいのか、マラの声は少し震えていた。それでも彼女は、胸の奥にある深い親愛の情を振り絞るように告げた。
「私にとって、あなたはただのフォースの師匠じゃない。……本当の、私のお母さんよ。だから、私の母親として、式の日に隣に立ってほしいの。お願い……」
「マラ……」
アソーカは目を丸くした後、ふっと優しく、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
かつて自分がジェダイ・オーダーを去った時の孤独を思い出す。その後、銀河の激動に何もできなった無力感を。そんな自分が。寄る辺なく生きるのに必死だった過去から救われ、家族の愛を知って、今ようやく自分自身の幸せな人生を歩み出そうとしている目の前の不器用な少女の母となれたのだ。
アソーカは一歩歩み寄ると、マラの肩を優しく抱き寄せた。
「ダメなわけないじゃない。喜んで引き受けるわ」
「マスター!」
「それに、マスター・スカイウォーカーと並んで親族席に座れるなんて、最高の特等席だもの。あのマスターが、義理の娘の前でどんな顔をして座っているのか、今から楽しみで仕方ないわ。せっかくだから、式の最中は顔が見えるように、透明なマスクでも被らせようかしら」
「もうっ、からかわないでよ!」
クスリと笑うアソーカに、マラが照れ隠しのように抗議の声を上げる。
血の繋がりはなくとも、愛情と数奇な運命が結びつけた確かな親子の絆。アカデミーには、二人の女性の穏やかで明るい笑い声が響いていた。