ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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銀河を手中に収める男

「素晴らしい。素晴らしいぞ。我が弟子よ」

 

 銀河帝国皇帝パルパティーンことダース・シディアスは、手元のデータパッドに映し出された定期連絡を、まるで初恋の相手からの手紙を読むような甘い目で見つめていた。

 

「フォース・センシティブの資質ある者を集め、ライトサイドとダークサイドのバランスのとれた訓練を施すとは……思いつかなかった」

 

 送り主は、皇帝自身のクローンであり、かつては出来損ないとして扱っていたダサン・パルパティーンだ。(※言うまでもないが、ベイダーの元へ送り出す前に、情で縛り付け完璧なスパイに仕立て上げた。つまり、ダース・シディアスは彼に「真の父親」としての愛をたっぷりと注いで送り出した。シスたる者、利用できる感情は親愛であっても最大限に利用するのが当たり前だからだ)

 

「……老いたな、私は」

 

 ふと、ポツリと言葉にして痛感する。

 老いたのだ、自分は。

 ムスタファーの溶岩で身体の大部分が機械となり、もはや独力では自分を超えられないだろうと、愛弟子を内心で見切ろうとしていた。

 自分自身でさえ「フォースの器に満たない失敗作」と見切ったダサンを、これほどの能力を身に着けるまでに開花させる異常な育成能力が、あの機械の身体に秘められていたとは。

 アソーカ・タノの育成に失敗し、彼女をオーダーから離反させたアナキン・スカイウォーカー。

 ジェダイ・オーダーの残したそんな記録を鵜呑みにして、彼には育成能力が欠けていると判断していた。

 

「すまぬな、ベイダー卿。私の目は傲慢と過信に曇っていたようだ」

 

 腐りきったジェダイ・オーダーの記録。真っ先に疑ってかかるべきあんな三流カルトの妄言を参考にするとは。何という愚かさか。私は十三年もの間、最高の教師から教育の機会を奪い、無駄にしていたのだ。

 

「これが、老い、か。速やかに改めなければな」

 

 老いによる判断力の低下を自覚し速やかに修正したダース・シディアスは、送られてきた育成記録を穴があくほど見つめ直す。

 

「ほう、コレは……ふむふむ、なるほど……ふふっ。若さとは素晴らしいな。ホログラム越しでも、彼らが発する生命の香しい空気が伝わってくるようだ」

 

『ベイダー卿は辺境で私兵を集め、謀叛を企てています!』などと直訴に駆け込んできた、どこかの星区の総督だったか(※先ほどフォース・ライトニングで黒焦げにしたので名前は忘れた)の焼けた肉の匂いが漂う室内の空気を、ダース・シディアスは思い切り深く吸い込んだ。

 

「しかし、素晴らしい若者たちだ……どうしたものか」

 

 悩ましい。

 二年前にベイダー卿がフォース・センシティブの資質ある若者を集めだしてからというもの、幸せ一杯なダース・シディアスは贅沢な悩みを抱えていた。

 当初の計画では、ベイダーによる基礎訓練が一通り終わった後、彼らに殺し合いを含めた過酷な競い合いをさせ、最後まで生き残った一番優秀な若者を新たな弟子(ベイダーの後釜)にしようとしていた。

 だが、ダサンからの成長記録を読んでいるうちに、少しずつ考えが変わってきたのだ。

 

「彼らならば、シスを『組織』に出来るかもしれん」

 

 殺し合い、奪い合うために、師と弟子の二人だけを宿命付けられた『二人の掟』。

 もちろん、ダース・シディアスはその教義を心底信じているし、愛している。当たり前だ。自らも寝首を掻いて老害と化した師*1を殺したのだから。あの時はシスとして歓喜の絶頂に達し、賢者が喪われる事に悔恨した。

 だが、愛弟子ベイダー卿は、旧態依然としたシスの在り方に新たな可能性を見つけつつある。

 定期連絡をどう読んでも、ベイダー卿が育てている若者たちには強固な仲間意識がある。ダークサイドの力の引き出し方を学んでいても、決して殺し合おうとしない若者たち。

 その革新的な芽を、古い掟を理由に摘み取ってしまうことは、果たして正しいシスの道なのか? 

 

「なんと悩ましいことか」

 

 シスの教義は素晴らしい。絶対に。

 だが、それをより良く改革しようとする若者の試みを「掟に反する」と頭ごなしに否定し、認めないのは、それこそ滅び去ったジェダイ・オーダーの連中と同じではないか。

 あの無能な老害カルトどもと同じ思考の穴に堕ちるなど、ダース・シディアスの高いプライドが絶対に許さない。

 彼らが徒党を組み、強力な絆で結ばれたまま、ベイダー卿を先頭にして集団で自らに挑んでくる。そして自らを打ち破り、新たな『シス・オーダー』を作り出す。

 そう、集団で一人の絶対者を……

 

「いかん、いかんぞベイダー卿。シスが師を超える時は、やはり己一人のみで成し遂げねばならん」

 

 いくら組織化の実験とはいえ、徒党を組んでのリンチはシスの美学に反する。

 不意打ちや寝首を掻くのは大いに結構(※シディアス卿もそうしました)。

 しかし、確固たる己自身の圧倒的な我欲と渇望によって師を殺さないなど、真のシスとは呼べない。

 

「そう見ると、私を討つのはベイダー卿ではなく、やはり他の者か」

 

 哀しむべきことに、身体の大半を失ったベイダー卿は、もはや独力では私に勝てない。

 ならば、今育っている若者たちの誰かか。数人、そのまま育てば自らを超えるかもしれない途方もない資質を持った者がいる。自分が探して「欠損したベイダー卿よりも劣る者しかいない」涙した日々は無意味だった。もっと早くベイダー卿に育成させておけば。

 いや、待て。単なる早熟という可能性もある。私自身も、17歳でマスターに見出され、政治家としては随分と年を取ってから花開いた大器晩成型ではないか。若者の眩い輝きに目を晦まされて、拙速な判断を下してはならない。

 私の愛息子ダサン(※繰り返すがクローンの失敗作云々はパルパティーンの価値観において完全に過去の話である)も、ベイダー卿の育成によって見事に開花したが、まだ半開きだ。

 そして何よりも気がかりなのは、彼らのうち数人が、ライトサイドに傾きつつあることだ。

 ジェダイのようなカルトにならないのであれば、ライトサイドの力を使うのもありだ。だが、やはりシスを継ぐ若者たちには、もっとダークサイドの深淵に寄って欲しい。

 この切なる老人の願いを、いったい誰が責められようか。

 もっと若者に理不尽な試練を与え、怒りと悲しみを焚き付け、ダークサイドに引きずり込まねばならない。

 ならば。

 

「やはり、戦争だな」

 

 そう、戦争だ。

 かつてのクローン戦争のような、茶番めいたものではない。あれを遥かに上回る大戦争。銀河全体が一心不乱に狂い咲く、本物の大戦争だ。

 互いの正義と憎悪が激突し、拮抗した勢力同士が生死をかけて喰い合う。己の持てる全てを賭した総力戦。

 未来のフォースが澱み定かではなくなり、現在のフォースが極限まで強まる総力戦。

 ライトサイドの自己犠牲と、ダークサイドの自己肯定が、かつてなく強く輝く総力戦。

 怒りと憎しみ、そして絶望と希望が銀河の隅々まで満ちる総力戦。

 反乱の芽であるモン・モスマやベイル・オーガナたちを、あえて生かして泳がせていたのは、すべてこの日のためだったのだ。

 

「安心しろ、我が弟子よ。今度は私は、両陣営を裏から操る黒幕などという、つまらん真似はやらん。銀河皇帝として堂々と表舞台に立ち、帝国を率いようではないか」

 

 シスとして巨大な国家を率いて、愛弟子とその教え子の勢力と真っ向から雌雄を決する。なんと甘美な響きだろうか。圧倒的な権力の愉悦。これぞまさしくシスたる者の真の姿だ。

 手駒をチマチマと動かしていた前のクローン戦争では味わえなかった最高のカタルシスが、今度は味わえる。

 

「先ずは──圧政だな」

 

 未だにベイダー卿の勢力は弱すぎる。何よりも、反帝国感情を持つ勢力が銀河のあちこちに分散しているのが良くない。

 コレでは各個撃破で簡単に鎮圧できてしまい、何年も続く総力戦など出来やしない。

 駄目だ。そんなつまらない幕切れは絶対に許せない。

 私が弟子を打ち破り、その教え子を新たな弟子として迎えいれるか。

 あるいは、極限まで強くなった弟子の教え子が、見事私を討ち果たして新たな暗黒卿として君臨するか。

 

 戦争が小規模では、崇高な戦争目的が果たせない! 

 

「弟子の勢力圏のすぐ近くを、集中的に苛烈な圧政で締め上げるのだ。悲鳴を上げさせ、血の涙を流させ、耐えかねた民衆がベイダー卿に助けを求めざるを得ない状況を作らねばならない」

 

 そして、自分は『ベイダー卿の好きにせよ』と無気力な暗君を演じてそれを肯定する。

『皇帝やターキンに圧政されても、ベイダー卿の特区に逃げ込めば助けてもらえる。いや、いっそベイダー卿と共に皇帝と戦うんだ!』といううねりを意図的に作り出すのだ。

 そうすれば、五年、いや、三年もすれば、間違いなく帝国軍と拮抗しうる巨大な『反乱勢力』が完成する。

 そして、満を持しての開戦だ。

 ああ、直ぐに準備を進めなければ。手塩にかけて若者を育ててくれている愛弟子に、極上のプレゼントを贈らなければ。

 

「ふふっ……孫に甘いおじいちゃんの考えだな、コレは」

 

 パルパティーンは、一人でクックッと喉を鳴らして笑った。

 とりあえず、手始めに百万、いや一千万人くらい住んでいる環境の良い惑星を、見せしめに焼き払う所から始めよう。

 そこから徐々に周りの星系へと圧政の輪を広げていけば、恐怖に駆られた者たちは雪崩を打ってベイダー卿の勢力へと逃げ込むだろう。

 おおっ、そうだ。あの巨大な未完成の要塞、デス・スター。排熱ポートに致命的な細工がされているアレ。アレを、あえて欠陥があるままにして完成させねばな。

 反乱勢力に、『帝国は倒せる!』と勝利の目があるのだと全銀河に知らしめるために、初戦の派手な花火として景気良く散ってもらおう。

 高い金と大量の人命を注いだ意味があったな。

 

 

 

 

 シスとなるには、何が必要か。

 良心に屈せず、自身の飽くなき欲望を貫徹することの出来る精神性。旺盛で純粋な権力欲。そして、防御よりも攻撃を好み、どこまでも残酷になれる性質である。

 だからこそ、真のシスになれる者など銀河にほとんど存在しない。大抵の者は、星を焼く前に自らの良心や、道徳や愛に屈してしまうからだ。

 

「ああ……素晴らしき大戦争が待っている。新たなシスを生む大戦争が」

 

 自身の欲望という、たったそれだけの理由のために、最低でも数百億の人命と天文学的な資産を、薪として躊躇なく戦火に焚べる。

 想像はできても、それを一切の呵責なく、むしろ歓喜とともに実行できる者など、この広い銀河にまず居ない。

 悪魔たれ。というシスの教えを忠実かつ完璧にできる者などほぼ居ない。

 

「至急、ベイダー卿が勢力を急激に増して危機感を感じているターキンに囁いてやらねばな。政敵たるベイダー卿の領地のすぐ隣を、合法的に焼き払ってよいとなれば。彼なら、実に残酷に、そして実に巧く焼いてくれるだろう」

 

 今、この薄暗い謁見室の玉座に座る、たった一人の男を除いて。

 

「次から次へと、インスピレーションとやる気が湧いてくる」

 

 深い皺に覆われた顔を歪め、歓喜に満ちた高笑いが響き渡る。

 無数の命と築き上げられた文明。そのすべてを己の渇望を満たすためのただの薪として躊躇なく炉に放り込み、悲鳴を上げる銀河を自らの掌の上で踊り狂わせる。

 シスの後継者を得るために。

 

「ふはははっ! 私もまだまだ、若いではないか!」

 

 ダース・シディアスこそが、真のシスの暗黒卿である。

*1
ダース・プレイガス。賢者であり研究者タイプのシス。死者の復活などを唯一人可能とした。不老不死の技を究めて、自分と弟子のシディアス二人で銀河元老院の共同議長となり、二人で永遠のシスになろうとするほどシディアスを愛していた。その教義を越えた愛を「シスの面汚し」とシディアスは受け止めた




 この方、ラスボスとして完璧すぎるんですよね。殺す以外に止める方法が私には見つからない
 デス・スターなんて小石同然、皇帝の首を獲らなければ勝てない! そう見切ったモン・モスマは偉大です。
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