ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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老ジェダイの感嘆

 ハン・ソロは今の現実からひたすら逃げたかった。

 レイアとかいう人形みたいに綺麗な姫さんが、R2-D2とC-3POとかいうドロイド2体だけ連れて「難民救済の物資を載せてカミーノ星系まで運んで欲しい」と言ってきたのは、まあ良い。

 超絶危険地域への強行突破だが、目が飛び出るほどの大金を積んでくれたから納得した。

 

『ウゴォォ! (一国の姫様が護衛もつけずにドロイドだけ連れていくなんてヤバすぎるだろ! 絶対になんか裏があるぞ!)』という相棒チューバッカの的確すぎるアドバイスに従っておけばよかったと一時期考えたが、もはやそれは過去だ。

 

 途中、姫さんの強い要望でタトゥイーンに寄り、オビ=ワンとかいう胡散臭い老人を乗せる過程でハットの手下共と銃撃戦したのも、まあ誤差だ。

 道中の中継港で麻薬密売組織に囲まれた絶対絶命の時に、オビ=ワンが怪しい手品(マインド・トリック)を使い切り抜け、彼が絶滅したはずの「ジェダイ」だと判明したことは、まだ笑って済ませられる。

 今──ハイパースペースを抜けた途端、星を焼いたばかりで気が立っている帝国艦隊のど真ん中に放り出され、無数のTIEファイターにケツを追い回されているこの絶望的な状況に比べれば、それまでなどすべて笑って済ませられる些細な誤差だった。

 そう、今まで見たことが無いほど腕の良い帝国軍に追い回されていることに比べれば全ては誤差だ! 

 

「くそったれ! シールド出力低下! チューイ、補助パワーを後部に回せ! なんでこんなに腕の良い連中ばかりなんだよ! お決まりの単調なマニュアル飛行じゃねぇ、俺のフェイントに完璧に食らいついてきやがる! 帝国アカデミーの教官クラスが束になって追ってきてんのか!」

『ウオォォォ! (だから裏があるって言っただろこの大馬鹿野郎!)』

「文句は後だ! 姫さん、あんたの言う『救出を待つ難民船団』とやらはいったいどこにいるんだ!? 見渡す限りスター・デストロイヤーとTIEとデブリしかねえぞ!」

 

 操縦桿を乱暴に切りながらハンが怒鳴ると、芸術的な射撃でまた一機撃墜した銃座のレイアが身を乗り出してきた。

 

「文句を言わないでハン! 貴方の腕を見込んで頼んだのよ! ほら、あそこの小惑星の影! 逃げ遅れた民間輸送船が数隻隠れているわ! 撃たれてる! 行かないと!」

「あそこに行くまでにこっちが宇宙の塵になるんだよ!」

「ああ、何ということでしょう! 姫様、ソロ船長の仰る通りです!」

 

 ハンの背後で、金色のプロトコル・ドロイド、C-3POがパニックを起こして両腕を振り回していた。

 

「後部偏向シールドのエネルギーが残り十二パーセントを切りました! 我々がこのまま五分以上生存できる確率は、およそ三千七百二十分の一です!」

「黙ってろ金ピカ! 確率なんて聞きたくねえ!」

 

『ピロロロ! プピィーッ! (文句言ってないで早く左に避けな、この三流パイロット! アナキンならこんな面倒かけなかった! もっと後ろに目を付けるんだよ!)』

「その何言ってんのか分からんピーピーゴミ箱(R2-D2)も黙らせろ! なんで俺の船のシステムに勝手に繋がってんだ!」

『ウオォォォ! (馬鹿! 繋げたままにさせろ! そのアストロメク・ドロイドがいなかったら既に三回は落とされてるぞ!)』

「チクショウ! 俺の愛船がポンコツドロイドの手を借りなきゃ飛べねえってのか!? 冗談じゃねえ!」

 

 ハンは悪態をつきながら、操縦桿を限界まで押し込んだ。

 ミレニアム・ファルコンは激しく機体を傾け、目の前に迫っていた巨大な艦隊の隙間を、文字通り塗装を削り落とすほどの距離でギリギリ通り抜ける。

 追走してきたTIEファイターのうち一機が回避しきれずに戦艦に激突し、音のない爆発の花を咲かせた。

 

「やったわ! その調子よ!」

 

 また一機撃墜しながら銃座のレイアが興奮気味に歓声を上げる。

 

「喜ぶのは早いぜ姫さん! まだ後ろに二十機以上のお友達がくっついてきやがる! ──なんであれで一機しか落ちないんだよ! 連中間違いなくエース級だ!」

「ならもっとスピードを出しなさい! ハン、 貴方、この船は銀河一速いって豪語していたじゃない!」

「直線のスピードならな! 今は障害物競走の真っ最中なんだよ!」

 

 ドカンッ! 

 突如、かすった巡洋艦からのレーザー砲の衝撃で船体が激しく揺さぶられ、火花が散った。

 

「ああぁぁ! 何たる悲劇! 右舷スタビライザーが焼け焦げました!」

 

 C-3POが甲高い悲鳴を上げて頭を抱えた瞬間、再度衝撃が走った。

 

「今度はなんだ!? チューイ、被害状況は!」

『ウガァァ! (メインドライブの導力線がショートした! 俺が修理に回る!)』

『ピロピピ、ピーッ、ガガガッ! (引っ込んでろ毛むくじゃら! 配線バイパスは僕がやる! アンタらは前だけ見て飛ぶんだよ! キリキリ飛ばせやぁ! この密輸屋ども!)』

 

 R2-D2がコンソールのパネルをアームで器用にこじ開け、スパークを浴びながら高速でシステムを復旧させていく。

 

「よし、ならあの巨大な小惑星の割れ目に突っ込むぞ! あそこの磁気嵐の中ならロックオンされねえ!」

「正気なの!? あの隙間を通るなんて自殺行為よ!」

「ああ、姫様の仰る通りです! あの割れ目を無事に通過できる確率は──」

「金ピカの真似すんじゃねえ! 俺の操縦を信じろ、行くぜ!」

 

 ファルコン号が錐揉み回転しながら、岩と岩の極めて狭い隙間へと飛び込んでいく。

 背後を追うTIEファイター群もまた、一切の恐怖を感じさせない完璧な編隊飛行のまま、狂気の速度で岩礁地帯へと突っ込んできた。通常の帝国パイロットならとうに壁の染みになっている軌道だ。

 だか、今、背後にいる帝国パイロットたちはついてくるどころか撃ってきた。

 飛び散る火花、鳴り響く警告アラート、若者たちの怒鳴り声、ウーキーの咆哮、そしてドロイドたちの電子音が入り乱れるコックピット。

 ミレニアム・ファルコンの船内は、まさに極限のカオス状態にあった。

 だが、その狂騒の真っ只中にあって──。

 後部座席でしっかりとシートベルトを締めたオビ=ワン・ケノービだけは、周囲の喧騒などまるで聞こえていないかのように、余裕たっぷりに髭を撫でていた。

 

「落ち着きなさい、若者たちよ。フォースは我々と共にある。それに……どうやら『助け』が来たようだぞ」

「助けだとぉ!?」

 

 ハンがセンサーパネルを睨みつけた直後だった。

 ミレニアム・ファルコンの背後に迫っていた三機のTIEファイターが、突然、横合いからの猛烈なレーザー射撃を受けて次々と爆散した。

 

 

 

 

「なっ……なんだ!?」

 

 ハンの目の前を、信じられない速度で一機の小型機がかすめ飛んでいった。

 それは、帝国で見たことのないシルエットの機体──四枚の可変翼を持ち、機体装甲の一部が剥き出しのまま、識別信号を帝国軍の物から変え、正規の塗装とは異なる無骨なテストカラーに塗られた『プロトタイプXウイング』だった。

 だが、その洗練されたはずの最新鋭機の動きは、完全に物理法則を無視していた。

 慣性キャンセラーが壊れているのかと疑うような異常な急旋回、そして無茶苦茶なスピン軌道で敵のレーザーを回避し、次々とTIEファイターを撃ち落としていく。

 

『──こちら難民護衛機のルーク·スカイウォーカー! そこの貨物船、大丈夫!?』

 

 通信機から、ひどく若々しい少年の声が響いた。

 

「ルークだと!? おい坊主、見たこともねえスゲェ機体だが、お前正気か! なんだその無茶苦茶な飛び方は!」

 

『えっ? いや、マスター(アソーカ)からは「インコム社のテスト機だから無茶はするな」って怒られるんだけど、技術者の皆は「無茶をするんだ! 滅茶苦茶にするんだ! もっと激しく! もっと狂おしく! 限界を攻め立てるんだ! その生データをくれ! 壊してもいい! カネはベイダー卿が出してくれる! 遂に俺たちがフォース扱う連中の機体を作る時が来たぜ! QSE社(※ジェダイスターファイター作った宿敵企業)の連中ザマァ!!!」って言ってくれるし、この飛び方の方がしっくりくるっていうか……とりあえず、僕が敵を引きつけるから、その隙に輸送船団のところへ!』

 

 言うが早いか、ルークの乗るテストカラーのXウイングは、四枚の翼を展開したまま狂ったようなきりもみ回転(※スカイウォーカー家伝統のスピン回避)でTIEファイターの編隊のど真ん中に突っ込み、フォーメーションをズタズタに掻き乱し、一番近いヴィクトリー級スター・デストロイヤーのシールド発生器にプロトン魚雷を正確に叩き込み、一撃で火だるまにしてみせた。

 

「……信じられん。俺たちをここまで追い詰めたエース級の編隊を、ただの力技でねじ伏せやがった。あんな操縦で最新鋭機が空中分解しないなんて、どんな反射神経と機体だ」

 

 戦艦の長距離砲を見事に躱しながらハンが呆然と呟き、フォースに導かれた射撃でルークの背後につこうとしたTIEファイターを立て続けに3機撃ち落としていたレイアも目を丸くする。

 

『ピロロッ、ピピピピ! (あーあ。相変わらず無茶苦茶な飛び方するなぁ、スカイウォーカーの血筋は。アストロメク・ドロイド乗せてないし。分かるよ。君の機動についていけなかったんだね──やっぱり僕がついてなきゃ)』

 

 コンソールにプラグを繋いでいたR2-D2が、どこか呆れつつも懐かしむような電子音を鳴らした。

 その愉快げな電子音に、隣で頭を抱えていたC-3POが弾かれたように突っ込んだ。

 

「ちょっと! 何を寝言のようなことを言っているんですか、この不良品! 『スカイウォーカーの血筋』ですって!? そんな血筋聞いたことありませんよ!? あなたの論理回路は過負荷で完全にショートしてしまったに違いありません!」

 

 C-3POは金色の両腕をバタバタと振り回し、R2-D2のドーム型の頭をペチペチと叩いた。

 

「だいたい、あんな物理法則を無視した自殺スピンが遺伝してたまるものですか! 『僕がついてなきゃ』だなんて、どのスピーカーが言うんです! ああ、何たる悲劇! 帝国軍のレーザーに焼かれる前に、相棒のメモリ回路が焼き切れて幻覚を見始めた!」

『ピィーッ、ガガッ! (うるせぇな金ピカ! テメェは記憶消去(ワイプ)されてるから覚えてないだけだろ! ちっとは黙って前を見てろ!)』

「私がワイプされている!? またそんな出鱈目を! ソロ船長! この毒舌アストロメク・ドロイドを今すぐ初期化しないと、我々は彼の妄想と一緒に宇宙の塵になりますよ!」

「お前ら二体とも黙ってろ! こっちはまだ必死に逃げ回ってんだ!」

「あああ! 前方からまたTIEファイターが!」

「ちょっと! まだ振り切れてなかったの!」

『ウガァァ! (クソっ! 同胞と母星の復興の為にも死んでたまるかっ!)』

『ピィィィィィーッ! ギャガガガッ! (お前ら揃いも揃ってギャーギャーうるさいよ! 死にたくなきゃ黙って操縦桿と銃座握ってな! ハイパードライブの安全装置を全部引っこ抜いて、シールドを前方に極振りしたからね!)」

「なにぃ!?」

 

 ハンは自船のコンソールを見て血の気が引いた。後方と側面のシールド・ゲージがゼロになり、前方のシールドだけが真っ赤に振り切れていた。

 宇宙空間で追われているさなか、後ろを無防備にするなど自殺行為以外の何物でもない。

 

「おい、ふざけんな! 勝手になんてことしやがるバケツ! 後ろか横から撃たれたら即宇宙の塵だぞ!」

『ピポパポォォ! (後ろなんて顧みるな! 横なんて頭から捨てろっ! スカイウォーカー式だ! 前方に全速力で突撃して道を切り拓くのみ!)』

「くそっ! どこのどいつか知らんが! このバケツと前にコンビ組んでた奴は自殺志願者のイカレ野郎か、アホほど腕の良いイカレ野郎だ! 

 やってやらぁ!」

『ピィィィッ!!! (突撃だぁぁぁ!!!)

 

 

 騒ぎ立てるドロイド二体と、怒鳴る若者たち。

 その喧騒の中で、オビ=ワン・ケノービだけは、一人静かに目を閉じ、そして深く、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「……おお。フォースの導きは、かくも数奇で、美しい」

 

 タトゥイーンから突然姿を消したルークの行方を追い、帝国アカデミーに入校したと知り、一時は心労で寿命が縮む思いだった。だが、ルークは無事だった。

 無事どころか、才能を開花させ、立派に難民を守って戦い抜いている。レイアと共に。

 その確かなフォースの輝きを感じ取り、老ジェダイの心は深い安堵に満たされていた。

 

 そして何より──オビ=ワンは、先ほどルークがベイダー卿と呼んだときに親しみと尊敬があることに驚いてはいなかった。

 いや、むしろ待ち望んでいた『希望の光』をそこに見出していた。

 

(そうか……アナキン。お前は)

 

 パドメは正しかった。自分が誤っていた。悔恨と喜びに老ジェダイの胸は膨れた。

 

 

 

 

 突撃して見事に追撃から距離を空けたファルコン号の通信パネルに、別の暗号化された回線が割り込んできた。

 

『──こちら難民輸送船団、護衛官のマラ・ジェイド。ルーク! あんた、技術者の悪乗りに付き合ってないで、さっさとハイパースペースの座標計算を終わらせなさい!』

 

 凛とした、しかしどこか呆れを含んだ少女の声が響く。

 

『ご、ごめんマラ! でもインコムの人たちが、実戦でのスピン回避時の重力負荷データをもっと取れって──』

『その通りよ! スカイウォーカー! 君の機動に付いていけるアストロメク・ドロイドを用意出来なかったミスは我々の不手際! だからこそ今のうちに限界機動のデータをッ! イイッ! 良いわぁ! やはり実戦データには愛が籠もっている!! フォース使える連中の機動には味があるっ!!! もっとよ! 戦艦もう一隻! 今度はレーザーで落としながら! もっと私たちに生データ頂戴! 量産機に反映するために! 慣性ダンパーが焼き切れるまでスラスターを吹か──』

 

 ドゴォッ!! 

 

『あべっ!?』

 

 通信越しに強烈な打撃音と、女技術者のカエルが潰れたような悲鳴が響き、ガシャガシャと機材が倒れる音がした。どうやら輸送船のブリッジで、マラが物理的に技術者を殴り飛ばしたらしい。

 

『この頭戦闘機連中の話なんて聴くんじゃないわよ! 後でマスター(アソーカ)に言いつけるわよ! ただでさえ私たちは後で大目玉食らうんだからね!』

「……おい姫さん。なんだこのガキどもの通信は。帝国軍を相手にしたピクニックか何かか?」

 

 ハンが引きつった顔でレイアを振り返る。

 

『そこの、囮になってくれたポンコツ貨物船! 聞こえてる!?』

「あ!? 何がポンコツだ! ふざけんな、こいつは銀河一速い!」

 

 ハンが血相を変えて通信機に怒鳴り返そうとした瞬間、レイアがその後頭部を引っぱたかんばかりの勢いで身を乗り出し、マイクをふんづかまえた。

 

「退いてハン! ──聞こえているわ! ポンコツなのは全面的に同意するけれど、囮になった覚えはないわよ! それに、いったい誰に向かって口を利いているの!」

 

 オルデランの姫君としての気位の高さと、気の強さが完璧にブレンドされた、凛とした声だった。

 

「この船は難民のための支援物資を運んで来たオルデランの外交船で、私の名はレイア・オーガナ。オルデランの姫です。特使(自称)です! そちらが船団の護衛なら、無駄口を叩いてないで早く安全な合流座標を送りなさい!」

 

 ハンの「おい、俺の船をポンコツって認めるなよ! 勝手に外交船にすんな!」という抗議の声を完全に無視し、レイアは1歳年下のマラ相手に言い放った。

 

『……ふーん。ポンコツ船に乗ってる割には、ずいぶんと口の減らないお姫様ね』

 

 通信の向こうで、マラが少しだけ面白がるように鼻を鳴らしたのが聞こえた。

 

『オルデランの姫様が、なんでまたこんなとこで密輸船の銃座を撃ちまくってるのかは知らないけれど。

 ターキンの艦隊を引きつけてくれて助かったのは事実よ。こっちは民間船ばかりで、もうシールドが持たなかったの。今からこちらの安全な合流座標を送るわ。追撃のスター・デストロイヤーが来る前に、一緒に跳びなさい!』

 

 ピピッ、とファルコン号のナビコンピュターに、外部から強制的に座標データが流し込まれた。

 

「おい、勝手にシステムに干渉してきやがったぞ! どんだけ優秀なスライサーが乗ってやがるんだ!」

『ピロロロ! (僕が承認して受け入れたんだよ! ガタガタ抜かしてないでさっさと跳びな、三流パイロット! 戦艦まで来てるんだよ!)』

「やかましいゴミ箱め! チューイ、座標をセットしろ! ハイパードライブ起動だ!」

『ウオォォォ! (やってる! 舌を噛むなよ!)』

「あああ! メインエンジンが悲鳴を上げています! このままでは跳躍する前に船が空中分解してしまいますぅぅ!」

「金ピカは黙って何かに捕まってな! 姫さんもだ!」

「口を開いてないで早くレバーを引きなさぃっ!」

 

 神業のような銃撃でまた一機落としたレイアの怒鳴り声と同時に、ハンがハイパードライブのレバーを力任せに押し込む。

 コックピットの窓の外で、無数の星々が一瞬にして引き伸ばされ、眩いスターラインへと変わった。

 間一髪。ミレニアム・ファルコンと、小惑星の影に隠れていた数隻の巨大な難民輸送船、そしてルークのプロトタイプXウイングは、ターキンの艦隊が包囲網を狭める直前にハイパースペースへと逃げおおせた。

 青白い光のトンネルに包まれ、機体の激しい揺れがピタリと収まる。

 コックピットに、エンジンが安定して唸る低い駆動音だけが響いた。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 ハンは操縦席に深く背中を預け、どっと噴き出した冷や汗を拭った。

 

「……見たか、姫さん。間一髪だったが、これが俺とファルコンの力だ」

「ええ、そうね」

 

 息を整えたレイアは、乱れた髪を掻き上げながら涼しい顔で言い放った。

 

「あなたがポンコツ呼ばわりしたわ・た・し・の・ドロイドたちの完璧なシステム復旧と、名も知らない若者たちのおかげで助かったわ。ソロ船長殿は『指定されたタイミングでレバーを引く』という大役を見事にこなしてくれたわね」

「なんだと!? 俺の操縦テクニックがなきゃ今頃あの小惑星でデブリの仲間入りだったんだぞ!」

『ピピピ、ピロロロ! (僕のメンテナンスとシールド配分とルート計算のおかげだけどね!)』

「やかましい! 意味の分からんピーピー響かせるな──あとで、上物のオイルやるよ」

『──こちらルーク! そっちの貨物船の人たちも、ナイスアシストだったよ! 一緒に飛べて楽しかった! 助かったよ! ありがとう!』

 

 通信機から、緊張感の欠片もない声が弾んだ。

 

「……ったく。どいつもこいつも、俺の船をなんだと思ってやがる」

 

 ハンが頭を抱えて深いため息をつく。

 ウーキー族の相棒は『ウゴォ……(まあ、生きてりゃなんとかなるさ)』と肩をすくめ、C-3POは「私の部品がすべて繋がっていることに感謝します!」と神に祈っていた。

 そして、後部座席のオビ=ワン・ケノービは、喧騒を耳にしつつ、

 

「おお……これぞフォースの導き……希望の光よ……」

 

 と一人で深く涙しながら微笑み頷き続けていたのだった。

 

 

 フォースが「もっと他に気にすることがあるだろう」とツッコミを入れてきている気がするが、気のせいだろう。

 高々、謎の最新鋭機に乗ったルークがやってきて戦艦を沈めるほど暴れに暴れただけだ。

 高々、レイアが密輸業者の船に乗って特使だと大嘘をつき、自分を護衛として巻き込んで戦場へ突撃した上で、銃座で戦闘機を叩き落としてみせただけだ。

 高々、大艦隊の包囲などという絶体絶命の危機から避難民合わせて全員無事に逃げるという奇跡を起こしてのけただけではないか。

 アナキンとパドメの子供たちなのだ。この程度の微笑ましい腕白をしない方が、かえって驚くというものだ。

 彼らは『初対面の敵将を勝手に挑発して撃たせてから正当防衛で艦隊戦を始める』ことも、『元老院の許可なく勝手に未知の惑星と不可侵条約を結んでくる』こともしていないのだ。

 それだけの破滅的ななやらかしをしておきながら、「マスター、後はお願いします」とか「ジェダイ評議会との調整お願いします、オビ=ワン」などと、満面の笑みで後始末を投げてきたりはしない。

 

 あぁ、なんと優等生で、なんと胃に優しい子供たちだろうか!

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