賞金稼ぎと怪物の仮面   作:秋山春

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2話

 

 

 ガビは木剣を手に、エレナと裏庭へ出た。

 照りつける陽光が眩しい。ガビは目を細め、手のひらで日を遮った。

 

「さーて、かるく遊んでやりますか」

 

 エレナは、飛んできた木の葉をまっぷたつに切り裂き、満足そうに木剣を肩に担いだ。

 

「言ってなよ。後悔させてやるからね」

 

 ガビは、ムッとして言い返す。

 

 風に揺られたイチョウの葉が、カサカサと音をならしている。二人はそれぞれ木剣を持ち、距離をとって向かい合った。

 

「勝利条件はいつも通り、私に一撃当てること。準備はいい?」

 

「いつでもいいよ」

 

「それじゃ……」

 

 互いに戦闘体勢に入ると、先に動いたのはエレナだった。剣は脱力させたまま、正面から突っ込んでくる。

 

 素直にカウンターを狙いたいところだが、そう上手くいかない事をガビは知っていた。

 

 エレナのフェイントには、これまで何度も痛い目に遭わされている。体の陰に隠している左手に何かを忍ばせていないとも限らない。

 

 じきに間合いがぶつかるというのに、これまでの苦い経験が思考を惑わせる。

 

 迷いを見抜いたのか、エレナは小さく笑うと、剣を強く握りしめる。そして、そのまま下から斜めに斬り上げた。直後、木剣同士がぶつかり合った鈍い音が響く。

 

「くぅっ……!」

 

 何とか受けることが出来たものの、腕が大きく弾かれ、衝撃で体がわずかに浮き上がった。

 

 当然、エレナがその隙を見逃すはずはなかった。

 すぐさま剣を引き戻し、流れるような動作で、ガビの胴目がけて真横に振り抜いた。

 

 すんでのところで、間に木剣をねじ込んだ。しかし、エレナの強烈な一撃は、ガビの体を吹き飛ばした。地面を跳ね、転がり、ようやく止まる。

 

「痛ったぁ……」

 

「ついこの間まで、泣きながらのたうち回ってたのに。ずいぶん強くなったもんだね」

 

 脇腹を抑えながら立ち上がったガビをみて、エレナは感心した様子でいった。

 

「な、何年前の話だよ」

 

「つい最近の話よ。大丈夫?って頭を撫でてあげてたのに忘れちゃったの?」

 

「うるさい」

 

 顔がじんわりと熱くなる。

 

「じゃあ、黙らせてごらん」

 

 ニヤニヤ笑いながら、手招きしている。

 ガビは、悔しくなって歯をくしばった。

 

「もう怒ったから」

 

 ガビは剣をかまえて走りだした。剣先で地面を削りながらエレナに詰め寄っていく。

 

 間合いに入る手前で、剣を振り上げて土くれを巻きあげた。目くらましだ。

 

 わずかに目を細めたエレナが、数歩下がる。

 ここだ、とガビが身をかがめて踏み込む。エレナのみぞおち目掛けて渾身の突きを繰り出した。

 

 完璧なタイミングで放たれた一撃は、勝負を決するに十分な威力だった。しかし。

 

 エレナは身を傾けて、ガビの攻撃をかわしていた。

 

 とどめのつもりで突き出した右腕は、限界まで伸びきり、まだ戻らない。その一瞬が致命的な隙となった。

 

「おかえし」

 

 ゆるりとガビの懐に入り込んだエレナは、木剣の柄で、ガビのみぞおちを突いた。

 

 衝撃で呼吸が止まり、ガビはたまらず膝を折った。

 息が吸えない。視界がチカチカと点滅して、胸の奥がズーンと響くように痛む。

 

「まだ……」

 

「いいえ。ここまでよ」

 

 体を丸めて苦痛に耐えるガビの首筋に、エレナの木剣が当てられた。

 

 戦闘訓練はいつものように、ガビの敗北で終わった。

 

 

「まだまだ修行がたりないねぇ」

 

 庭木の下でぐったり寝そべっているガビに、エレナが家から持ってきた水を渡す。ガビは礼を言うと、それを一気に飲み干した。

 

「ぜんっぜん、エレナに届く気がしない」

 

 口をとがらせて拗ねた声を出すガビ。エレナは慰めるように、ぽんぽんと頭をなでる。

 

「そんな事ないわ。私がちょっと強すぎるだけだから気にしないで」

 

「自慢かよ」

 

 エレナがくすくす笑った。

 

「でも、実際ガビは強くなったよ。だから、そろそろ次の段階に進もうと思うんだけど。どうかしら」

 

「ほんと?」

 

 ガビは跳ねるように飛び起きた。

 目を輝かせて、懇願(こんがん)するようにエレナを見る。

 

「剣! 本物の剣を振りたい!」

 

「そのつもりよ。でも修行はその分、厳しくなるわ。耐えられる?」

 

「うん!」

 

 ガビは、ブンブンと風切り音が聞こえる勢いで首を縦にふった。

 

「ならいいわ」エレナは苦笑いした。

 

「さっそく明日から始めようと思うけど、心の準備は?」

 

「いつでも出来てるよ。早く強くなって、エレナみたいな賞金稼ぎになるんだから」

 

 ガビは力強く言った。

 

 その日の夜、夕食を終えたガビが部屋で休んでいると、扉がノックされた。

 

 ガビが返事をすると、エレナがにこにこしながら部屋へ入ってきた。両手を後ろにして何かを隠しているようだった。

 

「どうしたの?」

 

 ガビが聞くと、エレナは「じゃーん」と、隠していた物をこれみよがしに見せつけた。

 

 ガビは押しつけるように渡されたそれを、まじまじと見た。古びた布が巻かれていて、細長くてずっしりとしている。

 

 エレナの方をチラリと見ると、にこにこしたまま「開けてみて」と言った。

 

 言われるまま布を取り去ると、ガビは目を丸くした。

 

「うわぁ……!」

 

 鉄の剣だった。

 刃は薄く、しなやかで、そして木剣より倍は重い。  

 持ち手には黒くて硬い皮が巻かれていて少々不格好だが、握ると不思議と手に馴染(なじ)んだ。

 

 長さは、今のガビに合わせて作られた木剣より少し長い。これをどうしたのかと聞くと、エレナのお古だといった。

 

「思い出の物でしょ。いいの?」

 

 ガビは、ワクワクした気持ちを隠しきれず、口元を(ほころ)ばせながら聞いた。

 

「ええ、私の大切な剣よ。それをあなたに託すの。大事にしてちょうだいね」

 

「もちろんだよ」

 

 ガビは大きく頷いた。

 自然と剣を握る手に力がはいった。

 

 エレナはにっこりしてガビの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。それから、浮かれるガビに釘を刺した。

 

「さっきも言ったけど、これからの修行はもっと厳しくいくから覚悟しなさい」

 

「う、うん」

 

 ガビは、喉をごくっと鳴らした。

 エレナはくすりと笑って、「おやすみ」と部屋をあとにした。

 

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