赤い滝の光に照らされながら、バンは崩落した道へ向かって歩いていた。
第四十七階層を横断する細い岩道は、その入口から大量の岩に塞がれている。
先ほど起きた噴出によって山肌が崩れたらしい。
人間ほどの岩だけではない。
家屋に近い大きさの岩塊が何層にも重なり、その隙間から赤い蒸気が漏れていた。
崩落の手前には、太く深い足跡が残っている。
前方へ向かう跡。
左右へ動き回った跡。
そして、岩山の内側へ続く跡。
バンは足を止めた。
「中にいんのか?」
答えるように、岩の向こうから低い音が響いた。
爪が石を引っかく音。
重い身体が岩へ擦れる音。
さらに、獣の喉から漏れる唸り声。
崩落した岩山の一部が、ゆっくりと持ち上がった。
一つの岩が転がり落ちる。
続いて二つ。
隙間の奥から、黒い爪が突き出した。
一本だけでバンの腕ほど太い。
爪が岩を左右へ押し退け、赤黒い頭部が現れる。
怪物は四本の脚を持っていた。
身体は大型の熊に似ているが、その背中は幾重もの岩殻に覆われている。
頭部から伸びる二本の角は前方へ湾曲し、先端が赤く熱を帯びていた。
赤い亀裂のような模様が首から腹へ走っている。
一体が岩山から這い出す。
その背後で、別の爪が動いた。
「一匹じゃねぇな」
二体目。
三体目。
岩山の左右からも同じ怪物が姿を現す。
合計六体。
崩落の中へ潜り込み、身体を岩と同化させるように隠れていたらしい。
先頭の怪物が頭を低くした。
前脚が地面を削る。
角の赤い光が強くなった。
「突っ込んでくんのか」
怪物が走り出した。
巨体に似合わない速度だった。
四本の脚が地面を叩くたび、細い岩道全体が揺れる。
正面から止めることは難しくない。
だが、その後ろには崩落した岩山があり、道の左右には赤い谷が広がっている。
殴り飛ばせば岩壁へぶつかり、さらに大きな崩落を起こすかもしれない。
バンは道の端へ移動した。
怪物が迫る。
湾曲した角が、バンの腹を捉えようと持ち上がった。
身体を捻る。
角の先端が赤い長衣のすぐ脇を通り過ぎた。
バンは怪物の首へ片手を置き、走る勢いを横へ流す。
「そっち行け」
巨体の向きが変わる。
怪物は谷へ落ちる直前で爪を地面へ食い込ませた。
岩道の縁が大きく削れる。
後脚を踏ん張り、強引に身体を引き戻した。
「落ちねぇのか」
怪物は振り返る。
赤熱した角を左右へ振り、バンへ向かって唸った。
残る五体も岩山から出てくる。
細い道を塞ぐように横へ並んだ。
一体ずつ相手をすることはできる。
しかし、この場所で長く戦えば、それだけ足場が壊れる。
背中の鞄へ炎や岩が当たる可能性も高くなる。
「魔石も持てねぇし、さっさと終わらせるか」
バンはクレシューズを両手で握った。
神器の四つの節が、赤い光を反射する。
右足を後ろへ引く。
腰を落とし、六体すべてを視界へ収めた。
怪物たちが一斉に地面を蹴った。
角を構えた六つの巨体が、狭い道を揺らしながら突進してくる。
バンはクレシューズを右側へ引いた。
節の連なった神器が伸びる。
先端が一体目の前を通り、二体目、三体目へ向かって大きな弧を描いた。
その軌道が六体すべてを捉える。
「乱獲(クレイジーハント)」
バンがクレシューズを横へ振り抜いた。
神器が通過した軌道に沿って、六つの黒紫色の魔石が怪物たちの胸から引き抜かれる。
硬い岩殻。
厚い筋肉。
太い骨。
そのすべてを無視して、魔石だけが宙へ飛び出した。
怪物たちの赤い模様が同時に消える。
突進の勢いを残した身体が灰へ変わり、六つの大きな灰の波となって道を滑った。
湾曲した角と岩殻の一部だけが残り、バンの足元を通り過ぎていく。
引き抜かれた魔石は、クレシューズの軌道に引かれるように一か所へ集まった。
バンは神器を止める。
六つの魔石が地面へ落ちた。
「いらねぇんだけどな」
売ればかなりの金になるのだろう。
だが、鞄にはもう余裕がない。
一つ入れるだけでも、水袋や酒瓶へ負担が掛かる。
バンは最も大きな魔石を拾い、少し考えたあと、崩落した岩の脇へ置いた。
「後から来る奴が拾うだろ」
残りも同じ場所へ集める。
帰還中の遠征隊なら、この道を通る可能性がある。
見つからなければ、そのままダンジョンに飲み込まれるだけだった。
怪物は倒した。
しかし、岩道を塞ぐ崩落は残っている。
バンは岩山へ近づいた。
隙間から熱風が噴き出している。
反対側へ続く空間は見えない。
「全部どかす必要はねぇか」
先ほどの第四十六階層と同じように、人一人が通れる穴だけを作ればいい。
バンは一番手前の岩へ手を向けた。
「強奪(スナッチ)」
岩の一部が持ち上がる。
だが、引き抜こうとした瞬間、岩山全体が僅かに沈んだ。
上に積まれた岩が擦れ合い、細かな破片が落ちてくる。
「これ取ったら全部落ちんな」
バンは岩を元の位置へ戻した。
適当に穴を開ければ、上部の岩が崩れて道ごと谷へ落ちる。
崩落の右側を見る。
岩壁との間に細い隙間がある。
幅は肩一つ分ほど。
鞄を背負ったままでは通れない。
左側は谷へ張り出した岩が続いている。
足場として使える場所はあるが、熱風が下から絶えず吹き上がっていた。
「鞄だけ先に通すか」
バンは右側の隙間へ近づく。
鞄を下ろし、クレシューズの先端を紐へ巻きつけた。
自分は岩壁へ身体を横向きにして入り込む。
胸と背中が岩へ挟まれるほど狭い。
赤い長衣がざらついた壁へ擦れた。
バンはクレシューズを少しずつ引き、鞄を後ろから運ぶ。
途中で鞄が岩へ引っ掛かった。
「酒割れんなよ」
無理に引かず、片手だけを隙間の外へ伸ばす。
引っ掛かっている岩の出っ張りを《強奪》で薄く剝がした。
鞄が再び動く。
数歩進む。
頭上で小石が落ちた。
岩山が僅かに軋む。
バンは動きを止めた。
崩落全体の振動が収まるのを待つ。
再び進む。
最後は身体を横へ抜き、反対側へ出た。
クレシューズを引く。
鞄も隙間から滑り出した。
「これで抜けたな」
中身を確認する。
水袋は無事。
酒瓶も割れていない。
バジリスクの鱗は鞄の背面で少し欠けていたが、熱除けとしてまだ使えそうだった。
赤い長衣の肩には新しい擦り傷が増えている。
「地上戻ったら、また直してもらわねぇとな」
鞄を背負い直す。
岩道の先へ進んだ。
◇
谷の中央へ伸びる岩道は、歩くほど細くなった。
左右にあるのは底の見えない赤い谷。
谷壁を伝って流れる赤熱した液体が、途中で火花へ変わって落ちていく。
足元の岩は黒い。
ところどころ赤い亀裂が走っているものの、今まで通った場所よりは安定していた。
だが、風が強い。
下から吹き上がる熱風と、山々の間を横切る風がぶつかり、岩道の上で不規則な渦を作っている。
普通の冒険者なら、足を滑らせただけで谷へ落ちるだろう。
バンは長衣の前を閉じた。
風を受けた鞄が左右へ揺れる。
紐を片手で押さえながら進む。
岩道の中ほどへ来たところで、前方の空気が赤く歪んだ。
熱風ではない。
朱色の翼が煙を切り裂く。
第四十五階層で見た飛竜型の怪物が、谷の下から飛び上がった。
一体。
その後ろに二体。
さらに左右からも現れる。
岩道を取り囲むように、八体の怪物が旋回を始めた。
「またこいつらか」
飛竜型の喉が赤く光る。
一体が炎を吐いた。
バンは走る。
細長い炎が背後の岩道を焼く。
二体目が正面から降下した。
大きく避ければ谷へ落ちる。
バンは頭を下げ、湾曲した角の下を潜り抜けた。
すれ違う瞬間、飛竜の翼を片手で掴む。
そのまま下へ引いた。
怪物の身体が岩道へ叩きつけられる。
魔石を抜けば終わる。
だが、残る七体が一斉に口を開いていた。
「鞄が焼けんのは困るぞ」
バンは倒れた怪物を持ち上げた。
巨大な身体を楯のように使う。
複数の炎が飛竜へ直撃した。
朱色の鱗が黒く焦げる。
怪物が苦鳴を上げた。
炎が止まった瞬間、バンは身体を谷へ投げる。
飛竜は落下しながら翼を開き、体勢を立て直そうとした。
バンが片手を向ける。
「獲物狩り(フォックスハント)」
胸から魔石が抜ける。
飛竜は灰となり、赤い谷へ散っていった。
残る七体が再び高度を下げる。
一体ずつ相手にしていれば、岩道が炎で崩れる。
バンはクレシューズを伸ばした。
先端を前方の岩柱へ巻きつける。
「付き合ってらんねぇな」
地面を蹴る。
クレシューズを縮め、身体を一気に前へ引いた。
岩道の上を低く飛ぶ。
左右から炎が交差する。
バンは鞄を片腕で抱え、身体を回転させながら炎の隙間を抜けた。
赤い長衣の裾へ火がつく。
着地すると同時に、手で叩いて消した。
「また焦げたな」
飛竜たちは追ってくる。
バンは走りながら気配を消した。
「絶気配(ゼロサイン)」
追っていた怪物たちの動きが鈍る。
姿は見えている。
足音も聞こえている。
それでも、目の前を走る存在を獲物として認識できない。
一体が炎を吐こうとして口を開いたまま、首を左右へ動かした。
別の個体は岩道の上へ降り立ち、爪で地面を探る。
バンはその横を走り抜ける。
怪物の翼が触れそうな距離だった。
振り返らない。
岩道の終わりへ着き、黒い山肌の裏へ回り込む。
飛竜たちの姿が見えなくなるまで進んでから、《絶気配》を解いた。
「数多いな、ここ」
戦えば魔石は増える。
だが、第五十階層へ着く前に鞄が裂ければ、ここまで集めた物を抱えて歩くことになる。
不要な戦闘を避ける方が早かった。
◇
岩道を越えた先には、第四十七階層の終わりを示す巨大な門があった。
左右の山が内側へ曲がり、上方で繋がっている。
門の中央には四十八の数字。
その周囲には、遠征隊が残した無数の傷があった。
矢印。
白い布。
噴出を警告する三本線。
飛行種を示しているらしい翼の形。
そして、門の内側へ向かう大きな矢印。
「最後の山か」
バンは門を潜った。
第四十八階層。
足を踏み入れた瞬間、これまでとは違う熱が全身を包んだ。
第四十七階層までの熱気は、山や亀裂から吹きつけるものだった。
ここでは空気そのものが焼けている。
息を吸うたび、喉の奥へ熱が入り込む。
岩も、灰も、煙も、すべてが赤い熱を持っていた。
普通の人間なら、立っているだけで体力を奪われるだろう。
バンは平然と歩きながら、背中の鞄へ手を触れた。
「こっちは平気じゃねぇな」
革がかなり熱い。
バジリスクの鱗を入れた背面はまだ耐えているが、左右の側面まで熱を帯び始めていた。
水袋を取り出す。
一つ目はほとんど空だった。
残りを飲み干す。
温かい水が喉を通る。
空になった水袋を畳み、鞄の外側へ結びつけた。
二つ目はまだ残っている。
第五十階層まで持たせるなら、無駄には飲めない。
バンは酒瓶も確認した。
中身は無事だったが、瓶全体が温められている。
「冷てぇ酒どころか、煮えそうだな」
瓶を布で包み直し、水袋と一緒に鞄の中央へ置いた。
周囲を大型の魔石と鱗で囲む。
鞄を閉じる。
第四十八階層には、はっきりした道がなかった。
黒い山の斜面が幾重にも重なり、その間を赤い川が流れている。
灰が絶えず降り続けているため、足跡もすぐに消える。
遠征隊が結んだ白い布も、その多くが焦げて黒くなっていた。
バンは近くの岩壁を見る。
白い塗料の矢印は半分ほど焼けている。
それでも向きは分かる。
「こっちか」
矢印が示す斜面を上る。
足元の岩が赤くなっている場所は避け、黒い部分だけを踏む。
途中で、山の奥から轟音が響いた。
バンは立ち止まる。
第四十六階層で聞いたものより大きい。
地面の下を何かが走るように、低い振動が近づいてくる。
岩壁の亀裂が一斉に明るくなった。
「また噴くのか」
周囲を見回す。
遠征隊が残した半円の避難印は見当たらない。
斜面の上には、大きく張り出した黒い岩がある。
その下だけ、赤い灰が積もっていなかった。
バンは走った。
岩の下へ滑り込む。
直後、第四十八階層全体が赤く染まった。
山肌の無数の亀裂から、炎と蒸気が噴き出す。
谷底の赤熱した川が膨れ上がり、火の粉を空中へ巻き上げた。
上方から赤い岩片が降り注ぐ。
雨ではない。
拳ほどの岩が、炎をまとって落ちてくる。
バンは鞄を下ろし、自分の身体で覆った。
肩や背中へ赤熱した岩がぶつかる。
皮膚が焼け、すぐに再生する。
赤い長衣には小さな焦げ跡が増えていった。
「服だけ狙ってんじゃねぇだろうな」
大きな岩が張り出しの上へ落ちた。
頭上の岩が軋む。
細い亀裂が走り、天井の一部が剝がれ始めた。
このままでは、鞄ごと埋まる。
バンはクレシューズを片手で握った。
落ちてくる岩へ伸ばす。
先端を巻きつけ、その軌道を横へ変えた。
二つ目も同じように弾く。
三つ目は拳で砕かず、掌で受け止めて脇へ投げた。
噴出は長い。
熱風が岩の下へ入り込み、鞄の表面を焼こうとする。
バンは赤い長衣を脱いだ。
鞄へ何重にも巻きつける。
自分の背中を熱風へ向け、風除けとなった。
皮膚が黒く焼ける。
だが、すぐに元へ戻る。
「あとどれくらい続くんだよ」
轟音は収まらない。
落下する岩が少なくなった代わりに、赤い灰が吹き込んでくる。
バンは目を細め、鞄を押さえ続けた。
やがて地面の振動が弱くなる。
炎の噴出が一つずつ止まり、赤熱した川も元の幅へ戻っていった。
最後に大きな蒸気が噴き上がり、階層へ静けさが戻る。
バンは身体を起こした。
背中に残っていた焼け跡が消える。
赤い長衣を鞄から外す。
外側は灰で黒く汚れ、裾と肩には焦げた穴が増えていた。
それでも完全には燃えていない。
鞄の革も変色していたが、中身は無事だった。
水袋を押す。
破れていない。
瓶が割れた音もしない。
「こいつ、結構丈夫だな」
長衣を着直す。
以前の鮮やかな赤色は、焦げと灰でほとんど分からなくなっていた。
◇
噴出の後、第四十八階層の景色は大きく変わっていた。
白い布はさらに焼け落ち、塗料の矢印も灰に埋もれている。
バンは進む方向を失った。
来た道は分かる。
だが、下へ続く道がどれなのかは見えない。
「面倒だな」
近くの最も高い山を見る。
上からなら、階層全体を見渡せるかもしれない。
バンはクレシューズを伸ばした。
山肌の突起へ先端を巻きつけ、身体を引き上げる。
赤い岩を蹴り、さらに上へ。
途中で崩れた場所は、クレシューズを別の岩へ移して越える。
頂上へ近づくほど熱風が強くなった。
赤い長衣と鞄が大きく揺れる。
最後の岩へ手を掛け、身体を引き上げた。
山頂は平らだった。
バンは立ち上がり、周囲を見る。
第四十八階層の赤黒い山々が、視界の下へ広がっている。
無数の赤い川。
煙を噴き上げる亀裂。
朱色の飛竜たちが遠くを旋回している。
その先。
山岳地帯が途切れていた。
「お?」
遥か前方に、赤ではない空間が広がっている。
平らな大地。
赤黒い山の壁を抜けた先に、灰色と褐色の荒野がどこまでも続いていた。
山岳の出口へ向かって、一本の大きな坂が下っている。
遠征隊が使ったらしい道も見えた。
噴出によって白い布は失われているが、何十人もの冒険者と荷物が通った痕跡までは消えていない。
削れた岩。
荷車の溝。
大人数が踏み固めた灰。
「あそこだな」
バンは山を下り始めた。
◇
出口へ続く道には、ほとんど怪物がいなかった。
先ほどの噴出から逃げたのか。
それとも、大勢の遠征隊が通ったことで近づかなくなったのか。
バンは残された痕跡を辿り、第四十八階層の終わりへ進んだ。
熱は少しずつ弱くなっていく。
空気に混ざる灰も減った。
赤い亀裂の数が少なくなり、黒い岩が褐色へ変わり始める。
やがて、左右に巨大な石柱が現れた。
これまで見た階層境界の門とは違う。
二本の石柱は途中で折れている。
周囲の岩壁も大きく砕け、何か強大な攻撃が通り抜けたような跡が残っていた。
片方の石柱へ、四十九の数字が刻まれている。
「ここが次か」
バンは石柱の間を抜けた。
熱風が止まる。
代わりに、乾いた風が正面から吹いてきた。
第49階層。
〈大荒野モイトラ〉。
赤黒い山岳とは異なる、広大な荒野が目の前に広がっている。
地面は灰色と褐色。
起伏は少なく、遠くまで見渡すことができた。
しかし、穏やかな場所ではない。
大地のいたるところが抉れている。
巨大な爪で引き裂かれたような溝。
何十メートルもの岩塊が砕かれた跡。
広範囲を黒く焼いた焦土。
地面へ突き刺さった折れた槍や矢。
そして、荒野の中央には、街の広場ほどもある巨大な窪みが残っていた。
窪みの周囲から放射状に亀裂が伸びている。
その一角には、赤黒い巨大な角のような物が突き刺さっていた。
バンが紅蓮の山岳で倒した怪物の角とは比べものにならない。
根元だけでも人間の胴より太い。
先端は砕け、表面には剣、斧、槍、魔法による無数の傷が刻まれている。
合同遠征隊が、ここで何かと戦った。
それも、数人で倒せるような相手ではない。
バンは大きく抉れた荒野を見渡した。
「随分派手にやったみてぇだな」
乾いた風が吹く。
灰と砂が舞い上がり、戦場跡の上を流れていく。
遠く。
荒野の奥に、小さな光が見えた。
一つではない。
一定の間隔で並ぶ魔石灯。
その周囲を、複数の人影が移動している。
遠征隊の一部が、まだ第四十九階層に残っているらしい。
バンは焦げた赤い長衣の襟を直した。
膨らんだ鞄を背負い直し、クレシューズを肩へ担ぐ。
「第五十階層まで、あと一つだな」
合同遠征隊が残した巨大な戦場跡へ足を踏み入れ、荒野の奥に見える光へ向かって歩き始めた。
第97話までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は第四十七階層の崩落地帯を越え、紅蓮の山岳で最も高温となる第四十八階層を突破し、第49階層〈大荒野モイトラ〉へ到達するまでを描きました。
複数の岩殻型モンスターに対しては、クレシューズを振る軌道へ対象を収めたうえで《乱獲》を使用しています。また、第四十八階層の大規模噴出では、バン本人ではなく、鞄、水、酒、赤い長衣を守ることを優先しました。
大荒野に残る巨大な戦闘痕は、合同遠征隊が往路で階層主と戦った跡です。
引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。