強欲の旅人は神の恩恵を受けない   作:ルクエリシオン

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第120話 海神ポセイドン

 ポセイドン・ファミリアの団員に案内され、一行は港の奥に停泊していた大型船へと向かった。

 

 甲板では船員たちが出航の準備を進めており、積み込まれた物資の確認や船具の点検が行われている。その中央、船首に近い場所に一人の男神が立っていた。

 

「久しいな、レグナイト。マキシムも」

 

「久しぶりね、ポセイドン」

 

「待たせたか?」

 

「いや、こちらも準備が整ったところだ」

 

 ポセイドンは二人と順に言葉を交わした。海を預かる神らしい落ち着いた佇まいで、周囲の船員たちも彼の動きに合わせて自然と行動している。

 

「今回は力を貸してくれて感謝するわ」

 

「礼には及ばない。海の脅威を放置すれば、いずれ陸にも影響が及ぶ。私たちにとっても他人事ではないからな」

 

 ポセイドンはそう答え、集まった者たちを見回した。

 

「ゼウスとヘラの精鋭に加え、鍛冶神たちまで来てくれたか。これなら要塞の修復も進められるだろう」

 

「まずは実物を見せてもらう。図面だけでは判断できないことが多すぎるからね」

 

 ヘファイストスが言うと、ゴブニュも頷いた。

 

「構造を確認しなければ、どこまで直せるかも分からん。現地で調べさせてもらうぞ」

 

「もちろんだ。あの場所は長く私たちが管理してきた。案内は任せてくれ」

 

 ポセイドンは二柱の鍛冶神へ答えた後、今度はバンへ目を向けた。

 

「君がバンか」

 

「そうだけど?」

 

「ゼウスとヘラから話は聞いている。ベヒーモス討伐に加わり、さらに単独で深層まで潜ったそうだな」

 

「大した話じゃねぇよ」

 

「謙遜する必要はない。神の恩恵を持たず、それだけの戦いを経験している者は珍しい」

 

「珍しいのは認めるけどな」

 

 バンは軽く笑った。

 

「それで、海の怪物を相手にする時は何をすりゃいい?」

 

「まずは海を知ることだ」

 

 ポセイドンは湖の向こうへ視線を向けた。

 

「陸上の戦いと海上の戦いは違う。足場は揺れ、視界は水に遮られ、敵が水中へ潜れば位置を見失う。力があっても、それだけでは対応できない場面がある」

 

「なるほどな。面倒くせぇ場所だ」

 

「だからこそ、我々がいる」

 

 その言葉に、ポセイドン・ファミリアの団員たちが静かに頷いた。彼らは海洋探索や水棲モンスターの討伐を専門としてきた者たちだ。水中での活動に長けた団員もおり、海上での案内や索敵は彼らが担うことになる。

 

「それで、リヴァイアサンの状況は?」

 

 レグナイトが本題へ戻す。

 

 ポセイドンの表情が僅かに引き締まった。

 

「昨夜、再び位置の変化を確認した。以前観測した海域から移動している。正確な進行方向までは掴めていないが、活動範囲は確実に広がっている」

 

「こちらへ向かっている可能性は?」

 

「否定はできない。ただし、現時点で進路を断定することはできない」

 

「姿は確認できたのか?」

 

 マキシムが尋ねる。

 

「ああ。遠方からだが、再び水面近くへ浮上した。背の一部と尾を確認している。間違いなくリヴァイアサンだ」

 

 その場の空気が変わった。

 

「近づいたのか?」

 

 バンが尋ねる。

 

「距離は保った。だが、巨体が動いただけで周囲の海流が乱れ、こちらの船は一時的に舵を取られた。正面から近づくのは危険だ」

 

「船ごと持っていかれるってわけか」

 

「そういうことだ。海上での戦闘では、敵の攻撃だけでなく、身体の動きそのものにも注意しなければならない」

 

 ポセイドンは一同を見渡した。

 

「だからこそ、海上要塞が必要になる。あれを拠点として使えれば、船だけで戦うよりもはるかに多くの選択肢が生まれる」

 

「要塞の場所は?」

 

 ゴブニュが尋ねた。

 

「ここから海へ出て、しばらく進んだ先にある孤島だ。私が発見したのは、食料と水を求めて航海していた時だった」

 

 ポセイドンは遠い記憶を辿るように話し始めた。

 

「島には大きな山と深い森があった。最初はただの無人島だと思っていたが、山の斜面で人工物を見つけた。石壁と道だ。自然にできたものではない。調べていくうちに、山の内部へ続く空間があることが分かった」

 

「それが海上要塞だったのか」

 

「ああ。人の手で造られた、古代の遺物だ。私が造ったものではない。発見してから長い時間をかけて調査し、最低限の維持を続けてきた」

 

「それでも、今は修復が必要な状態というわけね」

 

 ヘファイストスが確認する。

 

「その通りだ。動かすことはできるかもしれないが、外殻も内部の設備も傷んでいる。戦場で使うなら、君たちの力が必要になる」

 

「分かった。まずは現物を見せてもらおう」

 

 ゴブニュが答えた。

 

「案内しよう。船の準備もほぼ整っている」

 

 ポセイドンが船員へ合図を送ると、甲板のあちこちで出航の声が上がった。港に繋がれていた綱が外され、船員たちが帆と舵を確認していく。

 

「全員、乗船しなさい」

 

 レグナイトの声が響く。

 

「ここから先は海よ。陸の常識だけで動かないこと。ポセイドン・ファミリアの指示には従いなさい」

 

「了解した」

 

 マキシムが答え、各ファミリアの団員たちも続いて船へ乗り込んだ。

 

 バンは甲板の端へ移動し、港街メレンを振り返る。つい先ほどまで人々の声や荷車の音で賑わっていた街が、少しずつ遠ざかっていく。

 

「いよいよ海か」

 

 新しい鞄の肩紐を確かめ、背中のクレシューズを軽く直す。

 

「バン、何をしている?」

 

 ポセイドンが近づいてきた。

 

「いや、忘れ物がないか確認してただけだ」

 

「準備は済んだか?」

 

「ああ。あとは酒が足りるかどうかだな」

 

「……海の上では水も必要だぞ」

 

「分かってるって」

 

 ポセイドンは小さく笑い、船首へ戻っていった。

 

 やがて船がゆっくりと港を離れ、ロログ湖の広い水面を進み始める。湖を抜ければ、そこから先は広大な海だ。

 

 目指すのは、古代の海上要塞が眠る孤島。

 

 そして、その海域を動き回る三大クエストの一角――リヴァイアサン。

 

 海神ポセイドンの案内のもと、討伐隊はオラリオを離れた。

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