エルソス遺跡の内部は、外から見た以上に広かった。
崩れた石柱。
砂に半ば埋もれた階段。
天井近くまで続く巨大な壁画。
かつては大勢の人間が行き交っていた場所なのだろう。
だが今、そこに人の気配はない。
壁や床を這う黒い根。
その内側を流れる紫色の光。
そして、地下から絶え間なく響いてくる重い鼓動だけが、遺跡の静寂を乱していた。
――ドクン!
床に積もった砂が震える。
天井から細かな石屑が落ち、バンの赤いコートをかすめた。
「元気そうだな」
バンは聖棍クレシューズを左肩へ乗せたまま、暗い通路の奥を見据えた。
右腕はまだ布で吊られている。
本来なら、負傷した状態で正体不明の遺跡へ踏み込むなど、愚行と呼ばれても仕方がない。
アルフィアなら迷わずそう切り捨てるだろう。
だが、遺跡の外ではアンタレスの子供が増え続けている。
ぼろぼろの日記に書かれていた内容が正しいなら、あの子供たちが奪った力は、すべて地下の本体へ運ばれている。
ここで引き返しても、何も終わらない。
バンが一歩踏み出した。
足音に反応するように、壁へ絡みついていた黒い根が蠢く。
一本。
二本。
根の先端が石壁から離れ、鎌首をもたげる蛇のようにバンへ向いた。
「植物の真似までできんのかよ」
黒い根が一斉に伸びた。
一本が足首へ。
もう一本が首へ。
さらに壁の亀裂から現れた根が、背後へ回り込もうとする。
バンは上体を反らし、首を狙った根をかわした。
左足を持ち上げ、足元へ伸びてきた一本を踏みつける。
石床へ押し潰された黒い根が、大きく痙攣した。
だが、止まらない。
表面の内側を流れる紫色の脈が強く光り、踏まれた部分から細い根が枝分かれする。
無数の先端が、バンの脚へ巻きつこうとした。
「しつけぇな」
左手のクレシューズが動く。
鎖で繋がれた四つの棍が乾いた音を立て、鋭い先端が複雑な軌道を描いた。
バンの正面を通り過ぎたクレシューズが、途中で折れ曲がる。
壁際へ回り込み、黒い根の根元へ突き刺さった。
鈍い破裂音。
根が内側から裂け、紫色の液体を噴き出す。
液体が石床へ落ちた。
じゅう、と音を立て、表面を黒く焼く。
「やっぱ触るもんじゃねぇな」
切断された根はしばらく痙攣した後、力を失って床へ落ちた。
だが、その奥。
石床の亀裂から新たな根が伸びてくる。
一本を潰しても、すぐに別の一本が生える。
外にいたアンタレスの子供と同じだった。
本体へ繋がっている限り、末端だけを壊しても終わらない。
「面倒な親子だな」
バンは黒い根を踏み越え、通路の奥へ進んだ。
◇
通路の先には、円形の広間があった。
天井の一部が崩れ、細い陽光が砂煙の中へ差し込んでいる。
中央には、月を模した巨大な円形石板。
その周囲には、銀色の古代文字が幾重にも刻まれていた。
だが、文字の半分以上が黒い根に覆われている。
根が脈打つたび、銀色の光がわずかに弱まっていた。
『……戻れ……』
掠れた声が、再びバンの頭の奥へ響いた。
「まだ言ってんのか」
バンは円形石板へ目を向ける。
「戻ったところで、外の奴らは止まらねぇだろ」
返事はない。
ただ、黒い根の隙間から覗く銀色の文字が、弱々しく明滅した。
声の主が何者なのかは分からない。
古代の人間。
封印へ力を貸した精霊。
あるいは、長い年月を経ても消えずに残った思念。
少なくとも、バンに対する敵意は感じなかった。
むしろ、これ以上進ませまいとしている。
バンを守ろうとしているようにも思えた。
「心配すんな」
バンは左手の中でクレシューズを軽く回した。
「死ぬつもりはねぇよ」
その瞬間。
天井の穴から、紫色の影が落ちてきた。
一匹。
二匹。
十匹。
外にいた小型のアンタレスの子供たちが、次々と広間へ入り込んでくる。
半透明の身体が陽光を遮り、広間全体が紫色に染まった。
「お前ら、外で待ってろよ」
バンは面倒そうに目を細めた。
小型個体が一斉に触手を伸ばす。
その数は、地上で遭遇した群れよりも少ない。
だが、ここは狭い遺跡の中だ。
通路は限られ、壁や天井からも攻撃が届く。
一体ずつクレシューズで叩き落としていては時間がかかる。
そして、時間をかけるほど地下の鼓動が強くなっていく。
――ドクン!
広間の石板が震えた。
黒い根を流れる紫色の光が、地下へ向かって集まっていく。
「ちょうどいいか」
バンはクレシューズを肩へ戻し、左手を開いた。
身体の奥で魔力が動く。
この世界へ来た直後は、以前と同じようには掴めなかった力。
人。
魔物。
神の恩恵。
魔石。
バンが生きてきた世界とは、力の流れそのものが違っていた。
だが、これまでの旅で幾度も力へ触れた。
地上の魔物。
砂漠の生物。
ベヒーモス。
ザルドやアルフィア。
そして、目の前にいるアンタレスの子供たち。
異なる理の中に存在する力へ、バンの《強奪》は少しずつ馴染み始めていた。
一体だけを狙う必要はない。
目の前にいる群れ全体。
浮かぶための力。
触手を動かす力。
獲物へまとわりつくための身体能力。
浅く。
広く。
必要な部分だけを奪う。
バンの左手が、ゆっくりと閉じた。
「乱獲《クレイジーハント》」
目には見えない力が、円形の広間へ広がった。
宙を漂っていたアンタレスの子供たちの身体が、一斉に揺れる。
先頭の一匹が高度を失った。
続けて二匹。
三匹。
十匹。
紫色の群れが、雨のように石床へ落ちていく。
身体を膨らませる力が抜ける。
触手を持ち上げる力が失われる。
床へ落ちた子供たちは、細い触手をばたつかせながら、再び浮かび上がろうともがいた。
だが、その力すらバンに奪われていた。
「前より素直に引っかかるな」
奪った力がバンの身体へ流れ込む。
一匹ごとの力は小さい。
だが、数十匹分が重なれば無視できない。
左腕。
両脚。
背中。
煉獄で鍛え抜かれた肉体へ、子供たちから奪った力が上乗せされていく。
同時に、あの不快な感触も流れ込んできた。
冷たい。
皮膚の内側を、細い虫が這っているような感覚。
奪った力のさらに奥には、アンタレス本体へ続く太い流れがある。
バンは目を細めた。
深く奪おうとすれば、子供だけではなく、本体へも《強奪》が届くかもしれない。
だが、それは今やることではない。
相手の正体も、力の大きさも分からない。
下手に繋がれば、逆に何を流し込まれるか分かったものではない。
「そこまではいらねぇよ」
バンは奪う範囲を調整した。
アンタレスへ繋がる流れには触れない。
子供たちが自分の身体を動かすために持っている力だけを盗る。
石床へ落ちた一匹が、必死に触手を伸ばした。
先端がバンへ届く前に、力なく床へ落ちる。
「悪いな」
バンはクレシューズを構えた。
「そこまで弱りゃ、後は簡単だ」
聖棍が横薙ぎに走る。
一振りで、床へ落ちた複数の子供たちがまとめて弾け飛んだ。
四節棍が壁へ当たる直前で折れ曲がり、別の方向へ軌道を変える。
二振り。
三振り。
尖った棍の先端が、半透明の身体を刺し貫く。
鎖で繋がれた別の節が、その隣にいた個体を打ち砕く。
クレシューズは床、壁、石柱の間を縫うように駆け回り、動けなくなった子供たちを次々と仕留めていった。
紫色の液体が飛び散る。
だが、バンの身体には届かない。
聖棍が生み出す風と、予測不能な軌道が、液体をすべて外側へ弾いていた。
最後の一匹が、円形石板の上へ落ちる。
バンはクレシューズの先端を短く突き出した。
半透明の身体が貫かれ、そのまま動かなくなる。
広間へ静けさが戻った。
「今の身体じゃ、こんなもんか」
以前なら、さらに広い範囲。
さらに多くの相手。
数百もの生命から身体能力を奪い、一度に自分へ集めることもできた。
今は右腕を負傷している。
この世界の力へ完全に馴染んだわけでもない。
それでも、《強奪》は確かに戻ってきている。
ただ遠くの物を盗むだけではない。
相手の強みを奪い、戦いの土台そのものを崩す。
それが、バンの魔力だった。
「悪くねぇな」
バンの口元がわずかに上がる。
だが、その笑みはすぐに消えた。
円形の広間全体が、大きく揺れる。
壁。
床。
天井。
あらゆる場所を覆っていた黒い根が、一斉に持ち上がった。
アンタレスの子供たちから力を奪ったことで、本体に気づかれたのかもしれない。
黒い根が円形石板へ絡みつき、銀色の文字を押し潰そうとする。
根の内側を、紫色の光が激しく流れていた。
「今度はそっちか」
バンは左手を伸ばした。
狙うのは根そのものではない。
黒い表皮の内側。
石板へ食い込むための力を送り込んでいるもの。
細い流れを辿る。
根の中。
人の目では見えない位置。
そこに、紫黒い力が一か所へ集まっていた。
「獲物狩り《フォックスハント》」
離れた場所へ、《強奪》の見えない手が伸びる。
黒い根の内部で、何かが弾けた。
次の瞬間。
表皮を突き破り、指先ほどの紫黒い結晶が飛び出す。
結晶は空中を横切り、バンの左手へ吸い寄せられた。
それを失った黒い根が、急激に萎んでいく。
円形石板へ巻きついていた部分が剥がれ落ち、覆い隠されていた銀色の文字が姿を現した。
「中に隠してやがったのか」
バンは手の中の結晶を見る。
紫黒い光が、心臓のように脈打っている。
根へ力を送り込むための核。
同時に、アンタレス本体から命令と力を受け取るための器官でもあるのだろう。
結晶から、バンの生命力を吸おうとする細い感触が伸びる。
「盗らせねぇよ」
バンは左手へ力を込めた。
結晶が砕ける。
紫色の光が指の隙間から漏れ、そのまま消えた。
直後。
地下から激しい鼓動が響いた。
――ドクン!
先ほどまでとは違う。
ただの心音ではない。
怒り。
巨大な何かの感情が、遺跡全体を震わせていた。
「返してほしかったか?」
バンは砕けた結晶の欠片を床へ落とした。
「だったら、自分で取りに来いよ」
その挑発に応えるように、広間を覆う黒い根がすべてバンへ向いた。
床から。
壁から。
天井から。
子供たちとは比較にならない数の根が、逃げ場を埋め尽くしていく。
一本一本も、通路で襲ってきたものより太い。
「随分と怒りっぽい親だな」
最初の一本がバンへ伸びる。
頭を狙った突きを、バンは半歩横へ動いてかわした。
二本目が背後から迫る。
クレシューズを振るい、先端を根へ突き刺す。
だが、三本目。
四本目。
五本目。
数が多い。
根は互いに絡み合い、巨大な網となってバンを包み込もうとする。
さらに、切断された根の後ろから新たな根が伸びてくる。
「一つずつ相手すんのは面倒だな」
バンは攻撃の合間を縫い、左手を開いた。
目を閉じる必要はない。
黒い根の中を流れる紫色の力。
どの根へ。
どこから。
どれだけの力が送られているのか。
子供たちから奪った力が、バンの感覚をさらに鋭くしている。
一本目の核は、右側の壁。
二本目は、崩れた柱の裏。
三本目は、石床の下。
すべて、直接目で見ることはできない。
だが、《強奪》には分かる。
「隠すなら、もう少し上手くやれよ」
バンの左手が閉じる。
「獲物狩り《フォックスハント》」
一つ。
二つ。
三つ。
壁や床の中に隠されていた紫黒い結晶が、黒い根を突き破って飛び出した。
根の動きが止まる。
力を失った先端が、バンへ届く直前で石床へ落ちた。
さらに四つ。
五つ。
離れた場所に埋め込まれていた結晶が、次々とバンの周囲へ引き寄せられる。
バンはクレシューズを振るった。
聖棍の四つの節が空中で複雑に交差し、飛んできた結晶だけを正確に打ち砕く。
連続した破裂音。
紫色の光が広間へ散る。
力の供給を失った黒い根が、一斉に萎んで床へ崩れ落ちた。
「隠し方が雑なんだよ」
バンは倒れた根を踏み越える。
乱獲で、複数の敵から広く力を奪う。
獲物狩りで、離れた場所に隠された核を正確に盗む。
右腕を使えなくても、魔力は扱える。
クレシューズがあれば、その精度と攻撃範囲も大きく広がる。
技の感覚は、確実に戻り始めていた。
だが、同時に分かったこともある。
子供たちから奪った力。
根から引き抜いた結晶。
そのすべてが、さらに地下へ繋がっていた。
今のは末端にすぎない。
枝。
指。
獲物を捕らえるために伸ばされた触手。
本体は、もっと深い。
もっと大きい。
そして、これまで戦ってきた子供たちとは比較にならない力を持っている。
バンは円形石板の向こうへ目を向けた。
そこには、地下へ続く石段があった。
先ほどまでは黒い根に覆われ、完全に隠されていた場所。
根が萎んだことで、古びた階段が姿を現している。
両側の壁には、月を模した銀色の装飾が並んでいた。
光は弱い。
だが、まだ消えてはいない。
『……行くな……』
声が響く。
先ほどよりも、わずかにはっきりしていた。
バンは階段の前で足を止める。
「その先にいるんだろ」
『……封印が……保たない……』
「だから行くんだよ」
『……目覚めれば……止められない……』
「止められるかどうかは、見てから決める」
銀色の光が揺れた。
声の主は、それ以上何も言わなかった。
バンは赤いコートの内側へ左手を入れる。
古本屋で買った、ぼろぼろの小さな日記。
巨大な蠍。
黒い根。
紫色の子供たち。
月と星。
光の鎖。
日記へ描かれていたものは、ここまでほとんど正しかった。
だが、まだ分からないことがある。
アンタレスがなぜ封じられたのか。
どれほどの力を持っているのか。
誰が封印を作ったのか。
そして。
今も封印を守り続けている、この声の正体。
「お前、名前は?」
バンが尋ねる。
返事はなかった。
代わりに、壁へ刻まれた銀色の文字がわずかに明滅する。
答えられないのか。
記憶が残っていないのか。
それとも、名前を告げるだけの力さえ失われているのか。
「ま、いいか」
バンは日記を懐へ戻した。
「名前は後で聞く」
『……後……』
「ああ」
バンは聖棍クレシューズを左肩へ乗せる。
「全部終わった後だ」
そして、地下へ続く階段を降り始めた。
◇
階段は長かった。
地上から差し込んでいた陽の光は、すぐに届かなくなった。
代わりに、壁へ刻まれた銀色の文字が、弱い光で足元を照らしている。
下へ進むほど空気が冷たくなる。
砂漠の地下とは思えない冷気。
だが、それは氷や水が作る冷たさではなかった。
周囲から生命そのものが抜け落ちているような、空虚な冷たさだった。
黒い根は石壁の中を走り、すべて地下へ向かって伸びている。
内側の紫色の脈が光るたび、下から鼓動が返ってきた。
――ドクン!
――ドクン!
先ほどよりも近い。
巨大な心臓が、石壁一枚を隔てた場所で脈打っているような響きだった。
「近づいてんな」
階段の途中。
壁の窪みに、何かが落ちていた。
古びた剣。
朽ちた盾。
乾いた衣服。
砂と埃に埋もれた、人間の骨。
昔、ここへ入った者たちのものだろう。
調査団か。
封印を守ろうとした者か。
あるいは、アンタレスを倒そうとした戦士か。
骨の近くには、小さな革袋が落ちている。
バンは足を止め、クレシューズの先端で袋を引き寄せた。
中には黒く変色した硬貨と、触れれば崩れそうな紙片が入っている。
食料や酒は残っていなかった。
「飯も酒もなしか」
バンは革袋を元の場所へ戻した。
「そりゃ、帰れねぇわけだ」
冗談めいた言葉。
だが、その目は骨から離れなかった。
ここまで来た者たちは戻れなかった。
古本屋の日記を書いた者も。
荷物だけを残して消えた調査団も。
おそらく、この先にいるものを見た。
巨大な蠍。
アンタレスを。
バンは再び階段を降り始めた。
やがて、壁の銀色の光が途切れる。
代わりに、階段の下から紫黒い光が漏れてきた。
最後の段。
その先には、巨大な地下空間が広がっていた。
バンは足を止める。
「……でけぇな」
都市の一画すら収まりそうな、広大な空洞。
天井から垂れ下がる黒い根。
地面を埋め尽くす太い根。
壁へ突き刺さる紫黒い結晶。
そのすべての中心。
巨大な影が鎮座していた。
蠍。
だが、ただの蠍ではない。
黒と暗紫色の甲殻。
人間など容易く挟み潰せそうな巨大なハサミ。
長く湾曲し、天井近くまで伸びる尾。
その先端には、紫黒い光をまとった鋭い毒針。
甲殻の隙間からは、植物の根に似た黒い器官が何本も伸びている。
背中や肩にあたる部分には、巨大な結晶が突き出していた。
そして、その身体には、何本もの銀色の鎖が巻きついている。
ハサミ。
脚。
尾。
胴体。
鎖は地下空間の壁と床へ固定され、巨大な蠍を押さえつけていた。
だが、その半分近くが黒く変色している。
何本かは、すでに千切れていた。
アンタレス。
日記へ描かれていた姿よりも、遥かに大きい。
その足元には、無数の子供たちが漂っている。
人間の頭ほどの小型個体。
黒い殻を持つ大型個体。
さらに、地上で見たものより何倍も巨大な個体。
紫色の群れが、アンタレスを守るように地下空間を埋め尽くしていた。
巨大な蠍の眼が開く。
紫黒い瞳が、階段の上に立つバンを捉えた。
重い視線。
見られているだけで、身体の内側から力を吸い取られそうな圧力。
バンの左手が、クレシューズを強く握った。
アンタレスの巨大なハサミが、わずかに動く。
銀色の鎖が軋んだ。
尾がゆっくりと持ち上がる。
天井近くまで伸びた毒針が、バンへ向けられた。
「お前がアンタレスか」
返事はない。
代わりに、周囲を漂っていた子供たちが一斉に身体を震わせた。
紫色の群れが波のように持ち上がる。
アンタレスの眼が細く歪んだ。
獲物を見つけた。
そう言っているようだった。
バンはクレシューズを左手で回す。
四つの節と鎖が、乾いた音を立てた。
「悪いな」
口元がゆっくりと上がる。
「お前の子供に、少し力を借りた」
乱獲で奪った力は、まだバンの身体へ残っている。
左腕へ。
両脚へ。
煉獄で鍛え抜かれた肉体へ。
紫色の群れが、一斉にバンへ襲いかかった。
バンは聖棍クレシューズを構える。
「返してほしけりゃ、取りに来いよ」
地下空間を埋め尽くすアンタレスの子供たちが、赤い旅人へ殺到した。
今回は、バンの《強奪》を使った「乱獲《クレイジーハント》」と「獲物狩り《フォックスハント》」を描きました。
乱獲では複数のアンタレスの子供から広く身体能力を奪い、獲物狩りでは離れた場所に隠された黒い根の核を正確に盗み取っています。