強欲の旅人は神の恩恵を受けない   作:ルクエリシオン

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第46話 オアシスを背に

夜明け前。

 

リオードの空は、まだ群青色に沈んでいた。

 

東の砂丘だけが薄く白み、街の建物は長い影のように静まり返っている。

 

昼間は商人の声と荷車の音で満ちている大通りにも、今は人影が少ない。

 

聞こえるのは、オアシスから引かれた水路の音。

 

遠くで鳴く荷獣。

 

出発の準備を始めた隊商が、木箱を積み直す小さな物音だけだった。

 

宿の食堂では、三人が最後の朝食を取っていた。

 

昨夜、ザルドが作った羊肉と豆の煮込み。

 

一晩置いたことで肉と豆へ香辛料の味が馴染み、昨日よりも濃くなっている。

 

平たいパンを千切り、煮汁へ浸す。

 

湯気と共に立ち上る肉の香りが、まだ冷たい朝の空気を押し退けていた。

 

「朝から重くねぇか?」

 

そう言いながら、バンは二杯目を器へよそっていた。

 

「食ってから言うな」

 

ザルドが答える。

 

「うまいから食ってんだよ」

 

「なら黙って食え」

 

バンはパンを煮込みへ沈め、口へ放り込む。

 

正面に座るアルフィアは、小さく切ったパンと煮込みを静かに食べていた。

 

昨夜の霧酒はすでに荷物の中だ。

 

瓶の中身は、約束どおり半分ほど残されている。

 

アルフィアが保管しているため、バンが勝手に飲むこともできない。

 

「なあ」

 

「駄目だ」

 

「まだ何も言ってねぇぞ」

 

「酒なら駄目だ」

 

「朝から飲むとは言ってねぇよ」

 

「では何だ」

 

「瓶、オレが持ってもいいだろ」

 

「駄目だ」

 

「結局同じじゃねぇか」

 

アルフィアは返事をせず、器へ視線を戻した。

 

バンがザルドを見る。

 

「信用されてねぇな」

 

「昨日の夜、残りを飲もうとしていただろう」

 

「眺めてただけだ」

 

「栓へ手を掛けていた」

 

「開けるか確認しただけだ」

 

「開くに決まっている」

 

「確かめねぇと分かんねぇだろ」

 

「分かる」

 

ザルドは煮込みの残りを木製の容器へ移した。

 

容器の口へ布を被せ、さらに革紐で縛る。

 

昼までなら問題なく持つだろう。

 

「これは昼に食う」

 

「また同じか?」

 

「嫌なら保存食を食え」

 

「煮込みでいい」

 

「なら文句を言うな」

 

朝食を終える頃には、東の空が橙色へ変わり始めていた。

 

宿の主人が奥から現れ、三人の机へ冷たい水を置く。

 

「今日、出るんだったな」

 

「ああ」

 

ザルドが答えた。

 

「オラリオまで?」

 

「そのつもりだ」

 

「長い旅になる。街道は使えるが、途中から荒れた道も増えるぞ」

 

「何かあったのか?」

 

「大きな話じゃない。砂嵐で道標が埋まったり、野盗が出たり、その程度だ」

 

「十分面倒じゃねぇか」

 

バンは水を飲みながら言った。

 

宿の主人は笑う。

 

「あんたたちなら、野盗の方が運が悪いだろうよ」

 

「違いねぇな」

 

「お前は武器を使うな」

 

アルフィアが即座に釘を刺した。

 

「分かってるよ」

 

「本当に?」

 

「クレシューズは背負ってるだけだ」

 

「《強奪》も必要以上に使うな」

 

「何でだよ」

 

「街道ごと何かを奪いかねない」

 

「そんな雑な使い方しねぇよ」

 

「お前ならやる」

 

宿の主人は三人のやり取りを眺め、それ以上は何も聞かなかった。

 

ただ、食堂を出る前に、小さな包みを差し出した。

 

「道中で食え」

 

中には、硬く焼いた平たいパンと、薄く切った干し肉が入っていた。

 

「いいのか?」

 

「何日も泊まってもらったからな。それに、あの子供たちが朝から宿の前をうろついてる」

 

「子供?」

 

「見送りたいらしい」

 

バンは少しだけ目を丸くした。

 

「大げさだな」

 

「助けられた方は、そう思ってないんだろうさ」

 

バンは包みを受け取り、軽く持ち上げた。

 

「ありがとな」

 

「ああ。また来い」

 

「生きてりゃな」

 

「縁起でもないことを言うな」

 

アルフィアの声が飛ぶ。

 

「分かってるって」

 

三人は宿を出た。

 

 

       ◇

 

 

リオードの朝市は、ようやく目を覚まし始めたところだった。

 

天幕を広げる商人。

 

香辛料の箱を並べる若者。

 

井戸水を汲み、店先へ撒く女。

 

昨日まで見慣れていた光景が、今日は少し違って見える。

 

バンの背には、新しい旅用の背負い袋。

 

片側には、布で包まれたクレシューズ。

 

反対側には、木箱と布で固定された名もない結晶。

 

二つの間には厚い仕切りがあり、歩いてもぶつかることはない。

 

修繕された赤いコートの裾が、朝の風に揺れていた。

 

「重くないか?」

 

ザルドが尋ねる。

 

「全然」

 

「強がるな」

 

「この程度で強がるかよ」

 

バンは軽く肩を上下させる。

 

中身が動く音はしない。

 

昨日、何度も調整しただけはあった。

 

腰の革帯が重さを支え、肩へ負担が集中しない。

 

「走るなよ」

 

アルフィアが言う。

 

「走らねぇよ」

 

「飛ぶな」

 

「飛ばねぇよ」

 

「戦うな」

 

「それは状況によるだろ」

 

「戦うなら素手でやれ」

 

「結局戦っていいのかよ」

 

「クレシューズを使うなと言っている」

 

「分かってる」

 

大通りの先。

 

街門の近くに、獣人の少年たちが立っていた。

 

昨日、干し果物を渡してくれた子供たちだ。

 

少年はバンの姿を見つけると、すぐに手を振った。

 

「兄ちゃん!」

 

「朝から元気だな」

 

「本当に行くんだな」

 

「ああ」

 

「今日?」

 

「今からだ」

 

少年たちは、背負い袋を見上げる。

 

「それ、武器?」

 

「半分はな」

 

「もう半分は?」

 

「面倒な石」

 

「宝石?」

 

「たぶん、違ぇな」

 

「売らないの?」

 

「売るなと言われてる」

 

バンがアルフィアを指す。

 

子供たちは彼女の方を見て、すぐにバンへ視線を戻した。

 

「……売らない方がいいと思う」

 

「だろ?」

 

「怖いから」

 

「聞こえている」

 

アルフィアが言った。

 

少年たちの背筋が同時に伸びる。

 

ザルドが喉の奥で笑った。

 

「ほら」

 

少年が、小さな布袋を差し出した。

 

昨日とは別の包みだった。

 

「またか?」

 

「母ちゃんが、これも持ってけって」

 

「何が入ってる?」

 

「塩と香草。肉焼く時に使うと、うまいって」

 

バンは包みを受け取り、ザルドへ渡した。

 

「料理人用だな」

 

「預かろう」

 

ザルドは匂いを確かめる。

 

「悪くない。砂漠を抜けた後でも使える」

 

「母ちゃんに言っとく」

 

「礼もな」

 

「うん」

 

別の少女がアルフィアを見上げる。

 

「お姉ちゃんも行くの?」

 

「そうだ」

 

「兄ちゃんが怪我しないように見ててね」

 

数秒。

 

アルフィアは答えなかった。

 

バンが横で笑いを堪える。

 

「聞いたか?」

 

「黙れ」

 

「頼まれたぞ」

 

「お前が勝手なことをしなければ済む」

 

少女は真剣な顔で頷いた。

 

「兄ちゃん、言うこと聞いてね」

 

「何でオレだけ怒られてんだよ」

 

「怪我したから」

 

「治ったぞ」

 

「またするから」

 

バンは言葉を失った。

 

ザルドが肩を揺らす。

 

「子供にも見抜かれているな」

 

「うるせぇよ」

 

街門の前。

 

門番が三人へ手を上げる。

 

「道中、気をつけろ」

 

「そっちもな」

 

バンが答える。

 

門を抜ける。

 

白い街壁の外には、乾いた街道が伸びていた。

 

朝日に照らされた砂丘。

 

遠くに続く隊商の列。

 

荷獣の足跡。

 

風に削られた道標。

 

三人はしばらく歩き、街から少し離れたところで足を止めた。

 

バンが振り返る。

 

リオードの街壁。

 

その向こうから覗く建物の屋根。

 

オアシスの木々。

 

市場から上がる煙。

 

街門の近くでは、子供たちがまだ手を振っている。

 

「何だ?」

 

アルフィアが尋ねる。

 

「別に」

 

「忘れ物か?」

 

「ねぇよ」

 

「酒か?」

 

「それは持ってる」

 

「私がな」

 

「分かってるって」

 

バンは片手を上げ、子供たちへ振り返した。

 

声は届かない。

 

それでも、向こうの手がさらに大きく動いた。

 

「行こうぜ」

 

三人は再び街道へ向き直った。

 

リオードが、少しずつ遠ざかっていく。

 

 

       ◇

 

 

午前の街道は、まだ歩きやすかった。

 

砂は朝の冷気を残し、風も弱い。

 

街道沿いには、一定の間隔で石を積んだ道標が立っている。

 

行き交う隊商も多い。

 

リオードへ向かう者。

 

別の都市へ進む者。

 

短い挨拶だけを交わし、互いに道を譲る。

 

バンは普段より、僅かに歩幅を抑えていた。

 

背負い袋の中身を気にしているのだろう。

 

段差を越える時も。

 

砂が深い場所を歩く時も。

 

足元を確かめてから進んでいる。

 

「随分慎重だな」

 

ザルドが言った。

 

「悪いか?」

 

「いや」

 

「笑ってんじゃねぇよ」

 

「笑っていない」

 

「口元が上がってんぞ」

 

「お前でも荷物を大切に扱えるのだと思ってな」

 

「クレシューズだからな」

 

バンは肩越しに背負い袋を見る。

 

「そこらの荷物と一緒にすんな」

 

「結晶も入っている」

 

アルフィアが言う。

 

「そっちは落とさねぇためだよ」

 

「扱いに差をつけるな」

 

「相棒と石じゃ違うだろ」

 

「その石の方が、今は周囲へ害を及ぼす可能性が高い」

 

「分かってるって」

 

「本当に分かっているなら、昨日素手で触ろうとはしない」

 

「またその話かよ」

 

「一生言うと言った」

 

昼が近づくにつれ、日差しが強くなった。

 

三人は大きな岩陰を見つけ、そこで休憩を取る。

 

ザルドが宿の主人から受け取った包みを開いた。

 

硬いパン。

 

干し肉。

 

子供たちにもらった干し果物。

 

昨日買った棗椰子の菓子。

 

「菓子も出すのか?」

 

バンが尋ねる。

 

「一つだけだ」

 

ザルドが答える。

 

「誰が食う?」

 

「三つに分ける」

 

「小さくなるだろ」

 

「保存食だ」

 

アルフィアが言った。

 

「じゃあ、お前はいらねぇな」

 

「なぜそうなる」

 

「昨日、保存性を評価してただけって言ってただろ」

 

「食料として食べる」

 

「好きなんだろ?」

 

「雑音だ」

 

ザルドは菓子を三等分し、それぞれへ渡した。

 

アルフィアは何も言わず、受け取る。

 

バンはにやつきながら自分の分を口へ入れた。

 

「甘ぇな」

 

「水を飲め」

 

ザルドが言う。

 

「酒は?」

 

「夜だ」

 

アルフィアが答える。

 

「夜なら飲んでいいのか?」

 

「少量だけだ」

 

「話が分かるじゃねぇか」

 

「残りを飲み干したら、二度と返さない」

 

「半分残すよ」

 

「瓶の半分ではない。今残っている量の半分だ」

 

「どんどん少なくなってねぇ?」

 

「当然だ」

 

休憩を終え、再び歩き始める。

 

午後になると、街道を行く隊商の数は減った。

 

砂丘の高さも少しずつ低くなり、遠くに乾いた岩場が見え始める。

 

リオード周辺の柔らかな砂地から、砂と石の混ざる荒れた土地へ。

 

カイオス砂漠の端が近づいていた。

 

「今日中に砂漠を抜けられるか?」

 

バンが尋ねる。

 

「完全には無理だ」

 

ザルドが答える。

 

「夕方までに、砂の浅い場所へは出られる」

 

「野営は?」

 

「岩場の近くを探す」

 

「魔物は出るか?」

 

「地上の小型種くらいだ」

 

「食える?」

 

「ものによる」

 

「そこかよ」

 

「食えないものを倒しても仕方がない」

 

「襲われたら倒すだろ」

 

「食えるなら食う」

 

「悪食だな」

 

「お前に言われたくない」

 

大きな戦いは起きなかった。

 

遠くに小型の爬虫類型モンスターが姿を見せたが、三人の気配を察するとすぐに逃げた。

 

空を飛ぶ鳥型の魔物も、上空を旋回しただけで降りてこない。

 

ザルドとアルフィアから漏れる圧だけで、近づくことを諦めたのだろう。

 

「楽でいいな」

 

バンが言う。

 

「お前が余計なものを呼び寄せなければな」

 

「オレ、そんな体質じゃねぇぞ」

 

「ベヒーモスを見つけた」

 

「寝てたからだろ」

 

「アンタレスも見つけた」

 

「日記に書いてあったからな」

 

「十分だ」

 

「偶然だって」

 

「二度続けば疑う」

 

バンは反論しようとした。

 

だが、二人の視線を受け、諦めたように肩を竦めた。

 

 

       ◇

 

 

夕暮れ。

 

三人は、砂漠の端にある岩場へ辿り着いた。

 

周囲には低い岩山が連なり、その隙間に風を避けられる窪地がある。

 

地面にはまだ砂が積もっているが、足を取られるほど深くない。

 

少し離れた場所には、枯れた低木。

 

焚き火に使える枝も集められそうだった。

 

「ここにする」

 

ザルドが言った。

 

バンは背負い袋をゆっくりと下ろす。

 

平らな岩のそばへ置き、胸と腰の帯を外した。

 

「中身は?」

 

アルフィアが尋ねる。

 

「音はしなかった」

 

「確認する」

 

「開けるのか?」

 

「袋の外からだ」

 

アルフィアはクレシューズ側へ手を当てる。

 

次に、結晶側。

 

魔力は流さない。

 

包みの位置と、内部の温度だけを確かめる。

 

「動いていない」

 

「結晶は?」

 

「変化なし」

 

「なら大丈夫だな」

 

「今夜も勝手に開けるな」

 

「分かってるよ」

 

ザルドが焚き火の準備を始める。

 

バンは低木の枝を拾い集めた。

 

アルフィアは周囲を見回し、風の流れと足跡を確認している。

 

人の足跡はない。

 

小動物らしき痕跡がいくつか。

 

危険な魔物の気配もなかった。

 

日が沈む。

 

砂丘の向こうへ太陽が消えると、空は一気に暗くなった。

 

昼の熱が抜け、風が冷たくなる。

 

焚き火の上では、朝の煮込みが小鍋で温め直されていた。

 

水を少し加え。

 

子供たちからもらった塩と香草を足す。

 

昨日とは違う香りが立ち上る。

 

「いい匂いだな」

 

「まだ食うな」

 

「見てるだけだ」

 

「匙を持っている」

 

「味見用だ」

 

「置け」

 

バンは仕方なく匙を戻した。

 

アルフィアが、荷物から霧酒の小瓶を取り出す。

 

バンの目がすぐに向く。

 

「お」

 

「少しだけだ」

 

「分かってる」

 

アルフィアは、小さな杯へごく僅かに注いだ。

 

瓶はすぐに栓をされる。

 

「少なくねぇ?」

 

「十分だ」

 

「ザルドの分は?」

 

「俺は今日は飲まん」

 

「何でだよ」

 

「見張りだ」

 

「オレも見張れるぞ」

 

「飲む前から信用がない」

 

「ひでぇな」

 

バンは杯へ数滴の水を落とした。

 

透明な酒が、乳白色へ変わる。

 

焚き火の光を受け、白い霧のように揺れた。

 

「最後のリオードだな」

 

「瓶にはまだ残っている」

 

アルフィアが言う。

 

「そういう意味じゃねぇよ」

 

バンは杯を軽く持ち上げる。

 

「街で飲むのと、外で飲むのじゃ違うだろ」

 

一口。

 

香草の鋭い香り。

 

喉を焼く熱。

 

冷え始めた身体の内側へ、火が落ちていく。

 

「うまい」

 

「一気に飲むな」

 

「飲んでねぇよ」

 

「杯が空だ」

 

「少なかったからな」

 

「追加はない」

 

「分かってるって」

 

ザルドが煮込みを三つの器へ分けた。

 

旅の最初の夕食。

 

特別な料理ではない。

 

昨日の残り。

 

硬いパン。

 

干し果物。

 

それでも、焚き火の前で食べる煮込みは、宿で食べた時とは違う味がした。

 

「香草、合うな」

 

バンが言う。

 

「あの子供の家で使っている配合だろう」

 

ザルドが答える。

 

「リオードの味か」

 

「ああ」

 

アルフィアが煮込みを口へ運ぶ。

 

「悪くない」

 

「そればっかだな」

 

「不味くないのだから十分だ」

 

「うまいでいいだろ」

 

「雑音だ」

 

食事を終えた後。

 

ザルドが最初の見張りを引き受けた。

 

アルフィアは岩壁へ背を預け、目を閉じる。

 

バンは背負い袋の隣へ座っていた。

 

夜空には、無数の星。

 

リオードの灯りは、もう見えない。

 

街の喧騒も。

 

市場の匂いも。

 

夜市の音楽も届かない。

 

あるのは、風と焚き火の音だけ。

 

バンは背負い袋へ手を置く。

 

「一日目は無事だったな」

 

「武器へ話しかけるな」

 

目を閉じたまま、アルフィアが言った。

 

「起きてんのかよ」

 

「お前がうるさい」

 

「小声だろ」

 

「雑音は大きさではない」

 

「便利な言葉だな」

 

バンは笑い、袋から手を離した。

 

その時。

 

布と革の奥から。

 

ちり、と。

 

小さな金属音が鳴った。

 

ザルドが焚き火の向こうから視線を向ける。

 

アルフィアも目を開く。

 

「今、動かしたか?」

 

「手を置いただけだ」

 

「開けるな」

 

「分かってるよ」

 

バンは背負い袋を見下ろす。

 

「元気そうじゃねぇか」

 

「偶然だ」

 

アルフィアが言う。

 

「そうかもな」

 

バンは否定しなかった。

 

ただ、僅かに口元を上げる。

 

「オラリオまで、もう少し付き合えよ」

 

返事はなかった。

 

焚き火が小さく弾ける。

 

砂漠の夜風が、修繕された赤いコートの裾を揺らした。

 

背後には、オアシス交易都市リオード。

 

前には、遠い迷宮都市オラリオ。

 

傷ついた相棒と。

 

名もない結晶と。

 

暴食の戦士と、静寂の魔女。

 

三人の旅は、再び動き始めた。




今回は、リオードを出発し、砂漠の端で最初の野営を迎える回でした。

特に、子供たちから受け取った塩と香草によって、旅先でもリオードの味が残る場面がお気に入りです。
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