強欲の旅人は神の恩恵を受けない   作:ルクエリシオン

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第73話 聖棍クレシューズ

修復が終わったあとも、バンはすぐには工房を出られなかった。

 

ヘファイストスが許さなかったからだ。

 

「もう直ったんだろ?」

 

「見た目だけで判断しないで」

 

「振りゃ分かる」

 

「工房の中で振らないで」

 

「軽くならいいだろ」

 

「駄目よ」

 

バンは作業台の前に立ち、修復されたクレシューズを握っている。

 

傷は完全に消えていた。

 

アンタレスとの戦いで歪んだ接続部も。

 

細かな亀裂が走っていた四つの節も。

 

黒紫色の力に侵されかけた内部の流れも。

 

すべてが、本来の形へ戻っている。

 

しかし、まったく以前と同じではない。

 

握った時に返ってくる感触が、僅かに違っていた。

 

重さは変わっていない。

 

表面の硬さも。

 

柄の太さも。

 

手へ馴染む位置も同じ。

 

それでも。

 

クレシューズの奥に、以前にはなかった静かな流れが存在している。

 

バンが力を込めれば、その流れが四つの節へ均等に巡り。

 

力を抜けば、暴れずに中央へ戻ってくる。

 

「前より大人しくなったな」

 

「武器を子供のように言うな」

 

アルフィアが冷たく言った。

 

「暴れねぇって意味だぞ」

 

「お前の扱いが雑だっただけではないのか」

 

「雑じゃねぇよ」

 

「地面へ叩きつけ、敵へ投げ、引きずり、無理に伸ばしていた」

 

「武器ってのは使うもんだろ」

 

「限度がある」

 

「お前に言われたくねぇな」

 

「何だと?」

 

「魔法で全部吹き飛ばす奴が、武器の扱い語んのか?」

 

「福――」

 

「工房で魔法を使わないで!」

 

ヘファイストスの声が飛ぶ。

 

アルフィアは口を閉じ。

 

バンは小さく笑った。

 

作業台の横では、ザルドが角芯を包み直している。

 

性質を抜き取られた箇所は、掌ほどの範囲だけ浅く抉れていた。

 

黒かった表面の一部が白い灰へ変わり。

 

今は金属製の受け皿へ集められている。

 

角芯の大部分は残った。

 

巨獣の圧も。

 

素材としての価値も。

 

完全には失われていない。

 

「残った角芯は、また保管庫へ戻す」

 

ザルドが言う。

 

「もうクレシューズには使わねぇのか?」

 

「今回の修復に必要な量は得た」

 

「また壊れたら?」

 

「その時に考える」

 

ヘファイストスが答えた。

 

「同じ方法が、何度でも使えるとは限らないわ」

 

「何でだ?」

 

「クレシューズは、すでに角芯の性質を自分の一部として取り込んでいる。次も同じものを与えれば、均衡を崩す可能性がある」

 

「食いすぎると腹壊すみてぇなもんか」

 

「例えが雑だけれど、近いわね」

 

「なら分かりやすいだろ」

 

「武器を食いしん坊扱いするな」

 

ザルドが低く言う。

 

「お前が言うと説得力あるな」

 

「どういう意味だ」

 

「そのままだろ」

 

「殴るぞ」

 

「工房で暴れないで!」

 

ヘファイストスが額へ手を当てる。

 

少し離れた場所では、ゼウスが金属箱を覗き込もうとしていた。

 

「その箱へ近づかないで」

 

「まだ何もしておらんぞ」

 

「今からしようとしていたでしょう」

 

「中がどうなったか気になっただけじゃ」

 

「私が確認するわ」

 

「儂にも見せてくれてもよかろう」

 

「駄目よ」

 

「なぜじゃ!」

 

「触るから」

 

「触らん!」

 

「顔が触ると言っているわ」

 

「最近、皆して顔で判断しすぎではないか!?」

 

バンが笑う。

 

「日頃の行いだな、じじい」

 

「お主にだけは言われたくない!」

 

ヘファイストスは騒ぐ二人を無視し、金属箱の封印を一つずつ確認した。

 

アンタレスの結晶は。

 

すでに、元の姿を失っていた。

 

修復の最中。

 

均衡を保つ性質をクレシューズへ渡したことで、結晶の内部構造は崩れている。

 

銀色の力は、最後まで残った黒紫色を包み込み。

 

暴走させることなく、その流れを内側へ沈めた。

 

色を失った結晶には、無数の亀裂が走り。

 

最後には。

 

透明な灰となって、箱の底へ積もっていた。

 

「完全に崩れているわ」

 

ヘファイストスが言う。

 

「黒紫色の力は?」

 

アルフィアが尋ねる。

 

「残っていない。銀色の力も、独立した形では確認できないわ」

 

「全部、クレシューズへ入ったのか?」

 

バンが聞く。

 

「いいえ」

 

「じゃあ、どこ行った?」

 

「必要な性質だけがクレシューズへ渡り、残りは互いを打ち消しながら消えた」

 

「消えた?」

 

「正確には、危険な形を維持できなくなったのよ」

 

ヘファイストスは箱の底に積もった灰を見る。

 

「均衡を失えば、黒紫色は暴走するはずだった。でも、銀色は最後まで役目を果たした」

 

「黒紫色を押さえ込んだ」

 

ザルドが言う。

 

「押さえ込んだというより、一緒に崩れたのかもしれないわね」

 

「仲良く心中したみてぇだな」

 

バンが言った。

 

「随分と乱暴な表現ね」

 

「でも、間違ってねぇだろ」

 

「完全には否定しないわ」

 

アルフィアは箱の中を見つめたまま、短く息を吐いた。

 

「これで、アンタレスの残滓は消えた」

 

「ああ」

 

バンも灰へ視線を向ける。

 

砂漠の遺跡。

 

月の女神。

 

巨大なサソリ。

 

結晶の奥で蠢いていた禍々しい力。

 

旅の間、何度もクレシューズへ反応し。

 

危険を残し続けたもの。

 

それはもうない。

 

残ったのは。

 

傷を塞ぎ。

 

新しい力を受け入れ。

 

自分自身であり続けるための均衡だけだった。

 

「灰はどうする?」

 

「しばらく保管するわ」

 

ヘファイストスが答える。

 

「本当に力が残っていないか、時間を置いて確認する必要がある」

 

「危険がなけりゃ捨てんのか?」

 

「研究用に少し残すでしょうね」

 

「食えんのか?」

 

「なぜ食べようとするの」

 

「灰なら調味料に――」

 

「ならないわ!」

 

「冗談だよ」

 

「お前の場合は冗談に聞こえない」

 

アルフィアが言った。

 

「オレは何でも食うザルドとは違ぇぞ」

 

「俺も灰は食わん」

 

「基準そこかよ」

 

ザルドは真顔だった。

 

ヘファイストスは、これ以上話を広げないようにクレシューズへ視線を戻す。

 

「次は、内部の確認よ」

 

「まだあるのか?」

 

「当然でしょう」

 

彼女は作業台に並べた魔石器具を動かした。

 

クレシューズの四つの節の下へ。

 

それぞれ一つずつ、小さな透明の魔石を置く。

 

「軽く力を流して」

 

「振るなって言っただろ」

 

「振らずに流すの」

 

「器用な注文すんな」

 

「できるでしょう」

 

バンは中央の節を握る。

 

ほんの僅かに。

 

クレシューズへ力を通す。

 

四つの魔石が、一斉に光った。

 

中央から。

 

外側へ。

 

同じ強さで。

 

同じ速さで。

 

一本の流れが巡る。

 

以前のような途切れはない。

 

傷の前で行き場を失うことも。

 

別の道を探して揺らぐこともない。

 

四つの節をつなぎ。

 

最後に中央へ戻る。

 

「流れは安定しているわ」

 

ヘファイストスが言った。

 

「角芯の性質も、一か所へ偏っていない」

 

「銀色の均衡は?」

 

「全体へ薄く広がっている。異なる性質をつなぐ役目を果たしているわ」

 

「黒紫色は」

 

アルフィアが尋ねる。

 

ヘファイストスは器具を確認し。

 

「独立した力としては残っていない」

 

「本当か?」

 

「ええ。ただし、その影響が完全にないとは言えないわ」

 

「どういう意味だ?」

 

バンが聞く。

 

「クレシューズが新しい性質を受け入れる時、黒紫色の力が構造を変えるきっかけになった可能性がある」

 

「危険なのか?」

 

「今のところは違う」

 

ヘファイストスは中央の節へ目を向ける。

 

「黒紫色は、何かを別の形へ変えようとする力だった。でも、銀色の均衡とクレシューズ自身の流れに取り込まれたことで、暴走する性質は失っている」

 

「じゃあ、何が残った?」

 

「変化を拒まず、必要な形へ適応する性質」

 

「適応?」

 

「この世界の魔力や素材へ、以前より馴染みやすくなったということよ」

 

「強くなったのか?」

 

「その言い方は正確ではないわ」

 

ヘファイストスは、すぐに否定した。

 

「攻撃力が大きく上がったわけではない。新しい技が使えるようになったわけでもない」

 

「じゃあ、何が変わった?」

 

「壊れにくくなった」

 

彼女は、クレシューズの接続部を指す。

 

「衝撃を一か所へ受けず、四つの節へ分散できる。以前より強い負荷へ耐えられるでしょう」

 

次に、中央の節を指した。

 

「そして、異なる力を受けても内部の流れが乱れにくい」

 

「魔力をぶつけられても平気ってことか?」

 

「平気とは言っていないわ。でも、今回のように未知の力へ触れた時、以前より壊れにくく、馴染もうとする」

 

「この世界で使いやすくなった」

 

ザルドが言う。

 

「そうね」

 

ヘファイストスは頷いた。

 

「元の構造を残したまま、この世界で生きられる形へ変わった」

 

「生きられる、ねぇ」

 

バンはクレシューズを持ち上げる。

 

「やっぱ生きてんじゃねぇか」

 

「だから、生命があるとは言っていないわ」

 

「細けぇな」

 

「鍛冶師は細部を見るものよ」

 

バンはクレシューズを軽く傾けた。

 

鎖が滑らかに動く。

 

以前より強くも。

 

重くもない。

 

だが。

 

力を入れた時の返りが、僅かに早い。

 

四つの節が。

 

バンの意思へ迷わず応えている。

 

「伸ばしていいか?」

 

「ここでは駄目」

 

「外なら?」

 

「検査が終わってからよ」

 

「今、終わったんじゃねぇのか?」

 

「まだ、保持状態を確認する」

 

「何すんだ?」

 

「一度、手を離して」

 

バンは不満そうにしながらも、クレシューズを作業台へ置いた。

 

握られていた時より。

 

内部の流れは弱くなる。

 

だが。

 

完全には止まらなかった。

 

小さく。

 

静かに。

 

四つの節を巡り続ける。

 

「直った後も、戻ろうとする流れが残っているわ」

 

「また壊れても、自分で直んのか?」

 

「そこまで単純ではない」

 

ヘファイストスは首を横へ振る。

 

「小さな歪みや、内部の流れの乱れなら、自分で整える可能性はある」

 

「大きく壊れたら?」

 

「失ったものを補わなければ戻れない。今回と同じよ」

 

「勝手に何度でも生えてくるわけじゃねぇか」

 

「神器を植物のように言わないで」

 

「分かりやすいだろ」

 

「分かりやすければ何を言ってもいいわけではないわ」

 

アルフィアが作業台へ近づく。

 

クレシューズへ手は触れず。

 

その周囲に残る力を静かに確かめる。

 

「雑音はない」

 

「褒めてんのか?」

 

「異常がないと言っただけだ」

 

「お前にしちゃ十分だな」

 

「調子に乗るな」

 

ザルドも、クレシューズを見下ろす。

 

「これで、アンタレスとの戦いで負った損傷は消えた」

 

「ああ」

 

「次は、同じ壊し方をするな」

 

「敵に言ってくれ」

 

「使い手の責任だ」

 

「無茶言うな」

 

「無茶をするのはお前だ」

 

「それは否定しねぇ」

 

「否定しろ」

 

ゼウスが杖をつきながら、ようやく術式の内側へ入ってくる。

 

「それにしても、見事なものじゃのう」

 

クレシューズを覗き込み。

 

興味深そうに目を細める。

 

「異世界の神器と、この世界の巨獣の素材。そして、名もなき結晶の力が一つになったか」

 

「一つになったわけじゃない」

 

ヘファイストスが訂正する。

 

「クレシューズが、必要な性質だけを自分の中へ受け入れたのよ」

 

「似たようなものではないか」

 

「全然違うわ」

 

「鍛冶神は細かいのう」

 

「さっきも聞いたぞ、それ」

 

バンが笑う。

 

ゼウスはクレシューズを見たまま、少しだけ表情を改めた。

 

「バン」

 

「何だ?」

 

「よかったのう」

 

それだけだった。

 

大神らしい大げさな言葉も。

 

騒がしい冗談もない。

 

バンは一瞬だけ目を細め。

 

「ああ」

 

短く答えた。

 

ヘファイストスが、最後にクレシューズをもう一度確認する。

 

節。

 

鎖。

 

接続部。

 

内部の流れ。

 

すべてに異常はない。

 

「持っていっていいわ」

 

「やっとか」

 

「ただし、今日は全力で使わないこと」

 

「何でだ?」

 

「修復直後なのよ。新しい性質が完全に馴染むまで、少し時間を置きなさい」

 

「どれくらい?」

 

「最低でも一日」

 

「長ぇな」

 

「一日も待てないの?」

 

「試してぇだろ、普通」

 

「普通の使い手は、修復した武器をその日のうちに壊そうとしないわ」

 

「壊さねぇよ」

 

「説得力がない」

 

「オレを何だと思ってんだ?」

 

「神器を壊して持ち込んだ男」

 

「それはアンタレスのせいだろ」

 

「使っていたのはあなたよ」

 

「細けぇな」

 

「何度言わせるの」

 

バンはクレシューズを布で包まず、そのまま肩へ担いだ。

 

傷ついていた時とは違い。

 

もう隠す必要はない。

 

鋭く尖った四つの節。

 

伸びる鎖。

 

ダブズが作った本来の形。

 

そこに。

 

この世界で得た二つの性質が、静かに息づいている。

 

「報酬は?」

 

バンが尋ねた。

 

「何の?」

 

「修復の」

 

「あなたが払う側でしょう」

 

「金取んのか?」

 

「当たり前よ」

 

「じじいに請求しろ」

 

「なぜ儂じゃ!?」

 

「連れてきたのお前だろ」

 

「依頼したのはお主じゃ!」

 

「角芯くれたのもお前だ」

 

「それとこれとは別じゃ!」

 

「安心しなさい」

 

ヘファイストスが割って入る。

 

「今回の費用は、ゼウスから受け取ることになっているわ」

 

「聞いておらんぞ!?」

 

「最初に約束したでしょう」

 

「鑑定だけではなかったか!?」

 

「修復まで進んだのだから、費用が増えるのは当然よ」

 

「いくらじゃ?」

 

「あとで請求書を送るわ」

 

「今教えてくれ!」

 

「逃げるでしょう」

 

「逃げん!」

 

「顔が逃げると言っているわ」

 

「また顔か!」

 

バンが声を上げて笑った。

 

ザルドは額へ手を当て。

 

アルフィアは露骨に顔をしかめる。

 

「雑音だ」

 

「今日くらいいいだろ」

 

「よくない」

 

「相棒が戻ったんだぞ」

 

「だから何だ」

 

「酒飲む理由には十分だ」

 

「飲むのか?」

 

ザルドが尋ねた。

 

「ああ。飯も食う」

 

「なら、俺が作る」

 

「今日はオレが作るぞ」

 

「修復したばかりの神器を持って厨房へ入るな」

 

「使わねぇよ」

 

「お前なら肉を切ろうとする」

 

「さすがにクレシューズで料理はしねぇ」

 

「本当か?」

 

「多分」

 

「駄目だ」

 

「じゃあ一緒に作るか」

 

「最初からそのつもりだ」

 

アルフィアが背を向ける。

 

「私は帰る」

 

「飯いらねぇのか?」

 

「いらない」

 

「メーテリアに持ってくぞ」

 

アルフィアの足が止まる。

 

「……何を作る」

 

「まだ決めてねぇ」

 

「決めてから呼べ」

 

「食う気じゃねぇか」

 

「メーテリアの分を確認するだけだ」

 

「へいへい」

 

「その返事をやめろ」

 

工房の扉が開く。

 

外から、夕方の光が差し込んだ。

 

赤く焼けた空。

 

遠くで鳴る槌の音。

 

職人たちの声。

 

生きた都市の喧騒。

 

バンは一度だけ立ち止まり。

 

肩へ担いだクレシューズへ手を添えた。

 

力を流してはいない。

 

それでも。

 

四つの節の奥から。

 

微かな感触が返ってくる。

 

「暴れられる場所、どっかにねぇのか?」

 

バンが振り返らずに尋ねた。

 

「一日待ちなさいと言ったでしょう!」

 

ヘファイストスの声が飛ぶ。

 

「明日の話だよ」

 

「明日でも、街中は駄目よ」

 

「外まで行くの面倒だな」

 

「なら我慢しなさい」

 

ゼウスが杖を鳴らす。

 

「それなら、ちょうどよい場所があるぞ」

 

「じじい」

 

ザルドの声が低くなる。

 

「余計なことを言うな」

 

「なぜじゃ? この街には、冒険者がいくら暴れても困らぬ場所があるではないか」

 

バンが振り返る。

 

「どこだ?」

 

ゼウスは得意げに笑い。

 

工房の外。

 

都市中央にそびえる塔の方向を、杖で示した。

 

「この街には、世界で唯一のダンジョンがある」

 

「ダンジョン?」

 

バンは、遠くに見えるバベルへ目を向ける。

 

オラリオへ入った日から。

 

何度も目にしていた巨大な塔。

 

その真下。

 

大地の奥深くへ。

 

モンスターを生み続ける、生きた迷宮が広がっている。

 

「どんな場所だ?」

 

「下へ行くほど強いモンスターが出る」

 

「素材も取れるのか?」

 

「魔石、牙、爪、皮、鉱石。珍しいものなら、ドロップアイテムもある」

 

ゼウスが説明するたび。

 

バンの目が僅かに輝いていく。

 

「肉は?」

 

「食えるものもあるじゃろうな」

 

「酒は?」

 

「ダンジョンで酒を探すな」

 

ザルドが呆れた声を出す。

 

「持ってきゃいいだろ」

 

「遊びに行く場所ではない」

 

「見てみねぇと分かんねぇだろ」

 

「待て、バン」

 

「今日は行かねぇよ」

 

バンはクレシューズを肩へ担ぎ直す。

 

「一日待てって言われたからな」

 

ヘファイストスが目を細める。

 

「その言い方、明日なら勝手に行くつもりね?」

 

「さあな」

 

「バン」

 

アルフィアの声が低くなる。

 

「余計なことを考えるな」

 

「まだ何も考えてねぇぞ」

 

「顔が考えている」

 

「お前まで言うのかよ」

 

バンは笑い。

 

工房を出た。

 

その肩には。

 

傷一つなく再生した。

 

巨人族の名工ダブズが作った神器。

 

聖棍クレシューズ。

 

壊れても。

 

持ち主と共にある限り。

 

本来の姿へ戻ろうとする相棒。

 

そして今。

 

その相棒は。

 

異世界で得た力を受け入れ。

 

新しい大地で戦うための準備を終えていた。

 

バンは夕暮れの街を歩きながら。

 

中央にそびえる塔を見上げる。

 

「ダンジョン、ねぇ」

 

口元が。

 

楽しそうに吊り上がった。




第11部の最終話となる今回は、再生した聖棍クレシューズの状態と、修復によって得た変化を確認しました。

クレシューズは大幅に強化されたのではなく、ベヒーモスの角芯による衝撃への耐性と、アンタレスの結晶による均衡・適応性を取り込み、この世界で以前より壊れにくい形へ変化しています。

傷ついた相棒の再生を終えたバンの関心は、オラリオの地下に広がる世界唯一のダンジョンへ向かいます。
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