では、第二話です!
人類が存在し、地球がある世界を離れた春凪謡太が向かう世界に名前は無い。他の世界を観測する技術が有ったならば自らの世界に名前を付けたのだろうが、この世界にはそのような技術が存在しないため、付ける必要も無いからだ。
その世界の文明は地球とあまり変わらない。違うのは、この世界では超能力が一般的な物だということだ。科学と変わらないほどに。この世界の住人は全員が何かしらの超能力を持っている。
と言っても、大多数の人々は些細な物だ。火花を散らしたり、水滴を出したり、静電気でピリッとさせたり。悪用しようにも出来ない程度だ。
そして一部の人間は強力な超能力を持っている。一つや二つの山々ならばあっという間に燃やし尽くすほどの炎を出したり、津波と見間違う様な量の水を出したり、空から雷を落としたり。
または、予知や千里眼、精神干渉系などの特別な超能力を持つ者もいる。
そういった者たちの超能力には名前が付けられ、それと比較して些細な超能力を持つ大多数の人々は『ノーネーム』と呼ばれている。
一番最初に名前が付けられた超能力、『姓名診断(ネーミング)』の持ち主である七夕早苗(たなばた さなえ)によって強力な超能力に名前が付けられ始めたのが十年前。
それと同時に二人目の『名前持ち(ネームド)』、レオニール・ハンバードの持つ『操縦数字(カウンター)』によって『名前持ち(ネームド)』の総数が千人だということが確認された。この千人という数は常に変わらず、『名前持ち(ネームド)』が死んだら新たなネームドが生まれる、または『ノーネーム』の超能力が強くなるということがこの十年間で確認された。
そして千人の『名前持ち(ネームド)』が集まり、平和維持の組織を作った。その組織の名前は、
『平和の門番(ゲートキーパー)』
アメリア帝国。その首都・アーリヤ。
高層ビルが建ち並ぶその街の中でも一際目立つ、城をふた回り小さくしたような古風の建物。
『平和の門番(ゲートキーパー)』のアーリヤ支部だった。
「いや〜疲れたのですよ。いくら『名前持ち(ネームド)』であるとは言え、この忙しさはおかしいのです」
その中の廊下を歩きながら愚痴を言っているのは、橘香(たちばな かおる)。『風遣い(ウィンド)』という名前の超能力を持つ、『平和の門番(ゲートキーパー)』のA級構成員だ。
「まぁまぁ。このアーリヤ支部には『名前持ち(ネームド)』は貴女を含めて五人しかいないんですから」
そう言って香をたしなめたのはエイミー・K(カーリー)・ライチャー。発火系統の超能力を持つ『ノーネーム』であり、アーリヤ支部に所属するB級構成員である。
香とエイミーが組んだペアは強力であり、正式な『コンビ』になってからは常に二人でいるほど仲がいい。
『平和の門番(ゲートキーパー)』の構成員はA級とB級に分かれている。『名前持ち(ネームド)』がA級構成員で、『ノーネーム』がB級構成員だ。
千人いる『名前持ち(ネームド)』は全員がA級構成員として『平和の門番(ゲートキーパー)』に所属しており、各国にある支部に数人ずつ配属される。
B級構成員は試験を受けて合格した者のうち、育成学校を卒業した者たちだ。主に事務仕事や『名前持ち(ネームド)』が関わる程でも無い規模のイザコザを解決している。
『名前持ち(ネームド)』との相性次第では『ノーネーム』でも強力な超能力を使う事ができ、『平和の門番(ゲートキーパー)』に所属すれば『ノーネーム』でも特権が与えられるため、『名前持ち(ネームド)』、『ノーネーム』問わず憧れの存在になっている。
本部から人格や超能力、チームワークなどの相性が最適だと認められたペアは『コンビ』に認定され、『ノーネーム』でも『名前持ち(ネームド)』と共に任務に行けたりなど便宜が図られる。
この『橘香』と『エイミー・K・ライチャー』もその『コンビ』の一組である。
二人が雑談をしながら向かっている先はアーリヤ支部の支部長室。アーリヤ支部の最高責任者であり、二人の上司である霧鉢雅(きりばち みやび)のいる場所だ。
香とエイミーはノックの後に扉を開け、敬礼をして報告する。
「A級橘香! ストリートで起こったトラック転倒事故を解決して参りました!」
「B級エイミー・K・ライチャー! 同じく解決して来ました!」
「ご苦労様です。後ほど、詳しい事を報告書に纏めて下さい」
支部長室の高級そうなイスに座りながら返事をした三十代の青年。霧鉢雅だ。
雅は顔に笑みを浮かべながら声をかける。
「一仕事終わって直後に申し訳ないのですが、もう一つ、お願いしても?」
疑問形にしようと、部下である二人に拒否権はない。それを分かっていながら返事を聞こうとする雅は、中々にいい性格をしていた。
「はい! 勿論です!(こ…このやろう。さっきの愚痴を聞いていたのですね…。油断してましたです)」
顔を少し引きつらせながら肯定の意を示す香を見て雅は本題に入る。
「実はね……僕の『空間掌握(ゲット)』に何かが反応したんだ」
「!! それは本当ですか?」
確認したのはエイミー。アーリヤ支部の五人の『名前持ち(ネームド)』の一人である雅の力は疑う余地も無いが、信じられないのだろう。
「ああ。本部の予知が有るから念のため探知してたんだけどね………僕も信じられないよ。まさか異世界が存在する(・・・・・・・・)なんてね」
「それでは、仕事というのは……」
「うん、反応があった場所に行って対処して来て欲しいんだ」
「……分かりました。場所は?」
「ここから東に三百キロ。デイトスの泉の上空三千メートルだ」
「とっ遠くないですか!? そこに今から!?」
「驚く程でも無いだろう、エイミーくん。普通ならともかく、香くんがいるんだから」
「……確かに大丈夫ですが。支部長、男女の隔てなく接するのは尊敬に値するのですが、女性にくん付けはどうかと思います」
「いいじゃないか、香くん。それに君の外見で女性は無いだろう。女の子、せいぜい少女だ」
ピキッとらいう音がしたのを、香の隣にいたエイミーは聞いた気がした。
「そうですか、分かりました支部長。それでは行ってきます、雅ちゃん(・・・・)」
グハッという声を聞かなかった事にして二人の少女は支部長室を後にする。
「…………的確にコンプレックスを突いてくるね」
自分の名前が見た目に反して女つぽい事を気にしている霧鉢雅の呟きは支部長室の空間に溶けていった。
いかがでしょう。
二話ですがアンケートです。『名前持ち(ネームド)』の名前と超能力名に悩んでおります。案がある方は感想か活動報告のコメントに書いて下さい!