次の日……。
春凪謡太、橘香、エイミー・K・ライチャーの三人はワーシーン村を出発した。
「…………のはいいんだけどさ……。なんだっけ、昨日言ってなかったっけ? 明日になったら『風遣い(ウィンド)』が使えるようになってるから飛んで行こうとか」
「うぅ……」
「それが、何? まだ使えません? このお子様は自分の事すらも把握出来てないの?」
「うぅぅ…………!」
香はうなるだけで何も言わない……いや、言えない。
「まぁまぁ。そこまでにしてよ。ガス欠になるまで使い切るなんて久しぶりだったのよ」
「…………エイミーさんがそう言うなら止めますけど……つまり、あれですよね? 今日も歩きで行きましょう〜って事ですよね」
「えぇ。それしかないわね」
「ここから、あなた達の、アーリヤ支部? でしたっけ。そこまでどんくらいなんですか?」
「東に約300Kmほどよ」
「それなのに……それなのになんでっ! この小娘は午後二時までスヤスヤ寝てるんですかっ!」
「はぅっ!」
香の心に鋭いトゲが突き刺さった音がした。
「エイミーさんが、『香が起きればアーリヤ支部までひとっ飛びだから、寝かしてあげましょう』なんて言うからそのとおりにしてたら、まだ使えないって、そんなのただの役立たずじゃないですか!!」
「ちょっと待って!! それはエイミーにも責任があると思うの!! あと君の私に対する態度が酷くない!?」
「寝坊した上に使えねぇ小娘(ガキ)にはちょうどいいだろうよ」
「嘘だっ!! 昨日もこんなだった!」
……この言い争いをしてる間にも時間が無くなっているという事には気付かないのだった。
「とりあえず、今から歩いていける所には、寝泊まりできる場所はないからね。今日もここに泊まりましょう」
「分かりました……おい、橘。明日はどうなんだ?」
「う〜ん、微妙なとこだね。昨日今日の感じからすると、明後日には確実に使えるんだけど……」
「信用出来ねぇな」
「速攻で言い切ったね!」
「まぁ、明日は早起きする事ね、香」
「うぅ……分かったよぅ」
そして、三人はすぐさま引き返し、またまたワーシーン村に泊まることになった。
ーーー ーーー ーーー
次の日。朝八時。
三人は昨日と同じようにワーシーン村を出発した。今回はしっかりと午前8時に。
「さー行こー!」
「元気がいいことでございますねー」
「そんなんだから幼く見られてるんだと思うのだけど……」
昨日とは違い、順調に進んでいく三人。
「結局使えないんだな、『風遣い(ウィンド)』」
「空が飛べないだけです! 『風遣い(ウィンド)』自体は使えるのです!」
「中途半端だなぁ」
「君を置いて二人で飛んで行ってもいいのですよ」
「ごめんなさいまじごめんなさい道分からないんで置いてかないで下さいっ!!!」
手のひらの上でつむじ風をクルクルと巻き起こしながら脅す香に本気で謝る謡太。
「……それが『風遣い(ウィンド)』か?」
「ん? ああ、そうですよ。ほら、使えるでしょ?」
「分かったから根に持つんじゃねぇよ」
そんなことを話しながらとことこ歩いていると、
ガサガサ!
と、草むらが揺れた。
「「っ!」」
「……こりゃ、お約束の悪もんさんですかね……?」
香とエイミーは身構え、謡太は自然体のまま揺れた草むらをじっと見つめる。
そのまま五秒ほどしたら、
「オラァッ!!」
反対側の茂みから人が飛び出してきて、一番近くにいた謡太を羽交い締めにした。
「謡太!」
「『平和の門番(ゲートキーパー)』よ! 彼を離しなさい!」
香が謡太の身を案じ、エイミーが『平和の門番(ゲートキーパー)』のライセンスを見せながら叫ぶ。
「ギャハハハハハ!! 『平和の門番(ゲートキーパー)』なんかにビビってちゃあこんなんやってらんねぇよ!!」
音を立てていた草むらの方から男がもう一人出てくる。
「ほらほらボーヤァ。泣き叫んだっていいんだぜぇ?」
「………………」
羽交い締めにしている方の男が脅すも、謡太は黙って俯いている。
「へっ! 涙も出ねぇか」
「くっ。まだ全快じゃないけど、この程度ならーーー「ああ、いいよ、橘」ーーーへ?」
「こんなチンケな雑魚(モブ)キャラ程度……一人で充分」
「ハァ!?」
「舐めてんのかクソガキ!!」
「ピーピーうるせぇな。弱い犬ほどよく吠えるって言葉知らねぇのかよ」
「黙って聞いてりゃいい気になりやがってぇ!!」
「殺す! お前はすぐに殺す!」
二人のゴロツキが、持っていたナイフで謡太を刺し殺そうとする。
「黙ってねぇじゃんかよ……あぁ、もう、メンドくさいーーー【止まれ】」
「ーーーッ!?」
ぴたぁっ、と。
謡太が【命令】を発した瞬間、二人のゴロツキは動きを止める。
「な、なんだよ、これ!?」
一人が叫ぶ。
「俺を殺す……そういったな」
謡太がナイフを振りかぶった姿勢のまま動けない二人に近づく。
「や、やめてくれよぉ。あ、謝るからさぁ」
もう一人が命乞いをする。
「罪には罰だ。お前らは……」
一歩。また一歩。ゆっくりと、ザッザッ、と音を立てて歩いていく。
「……俺の気が済むまで殴り続ける!!」
「話がちげぇじゃねぇかよぉ!!」
ピタァッ、と。
今度は謡太がその拳を止める。
「………………」
「へ、へ?」
「……気が変わった。お前らは、【一発ずつ殴ったら帰ってよし】!!」
ボコォボコォォォォォォオン!!
人が人を殴ったとは思えない音がなった。
ーーー ーーー ーーー
ゴロツキがいなくなった後。
「謡太! 大丈夫!?」
「無茶をしないのーーー「【黙れ】、【動くな】」ーーー!?」
謡太は香とエイミーの動きを封じる。
「さて、ネタばらしの時間だぜ。あいつらに俺を襲わせたお二人さん?」
謎解きは次回!