設定のミスがあったら申し訳ないです。
アニメ1期が10年以上前ってマジですか⁉
山を越す程の鋼鉄の蜘蛛が大地を踏み荒らす。
このままでは、アクセルの街を踏みつぶし、これまでの通り道と同じ荒野へと変貌してしまう。
巨蜘蛛の侵攻ルートの先に、街を背に一人が立っている。
剣を大地に突き刺し、背筋を伸ばして揺るぎもしない。
騎士の矜持を胸に、仲間を信じている。
きっと、勇者と呼ばれる人はそんな人だ。
覚悟を抱いて、誰かよりも先に出る勇気を持った人だけがなれるんだ。
ぼくは、弱い。
今も何もできずに膝が笑っている。
ここに居ても、巨大な化け物の足が止まるまで何もできない。
その後だって、何ができるか分からない。
だけど、この光景から目だけは逸らしたくない。
どんな終わり方だったとしても、聖騎士の覚悟を覚えていたい。
もしぼくが死んじゃっても、女神様にちゃんと伝えたいんだ。
―――――
門番さんに許してもらって、大きな門を潜る。
「ギルドへの道は覚えたね。頑張んなよ」
道が地面じゃない。
モンスターが周りに居ない。
色々な匂いがまざってる。
並んでいる家々が見たことがないくらい大きい。
村の集会所よりも、何倍も大きい。なんで無駄に大きいんだろう?
そこら中に人がたくさんいる。
耳が長い人や鼻が高い人、髭を生やしているのにちっちゃな人までいる。
意外と仮面を着けているような人は見当たらない。
「驚いただろう。冒険者の街アクセルへようこそ!
だけど、ここは人の出入りが激しいからね。止まっていちゃあ、いけないよ」
マザーが言ってた、どんな時でも感謝と謝罪は欠かすんじゃない。忘れるともらいが少なくなる。
門番さんに一度頭を下げる。
「ごめんなさい! ありがとう! バイバイ!」
そのまま、教えてもらった道順に従って走る。
とにかく走りづらい。
道は石造りで滑らないし、速く走れる。
だけど、多くの人を避けなきゃいけないし、地べたに布を広げてよく分からないものが売られていたりする。芝生なら気にせず踏めるのに。
人と人の間を抜けたその先に、ひときわ大きな建物が見えてきた。
高い物見台がついて、頑丈そうな建造物。門番さんが言っていた通りだ。
足を止める。弾んだ息を整える。
中から人の賑わいが聞こえる。
宿屋のおかみさんが言ってた、見た目十割。男も女も騙せちゃうのよ。
若いころは貴族令嬢のふりだって余裕で出来たんだから。
髪や服に着いた土埃を払っていく。
この数日、走ってこの街まで来たせいで叩けば叩くだけ埃が出てくる。
おかみさんの言葉を忘れていたら、砂遊びの後と勘違いされちゃうところだった。
ここが冒険者ギルド。
ここから、ぼくの勇者への道が始まるんだ!
大きな木製の扉を開く。
―――――
天井は高く、全面が石で建物が作られている。
一部は食堂になっているようで、大きな木製のテーブルがいくつも並んでいる。
ところどころの机に様々な装備をしている人達が座っている。
上半身裸で肩当てから紐を縦に二本垂らし、頭に一筋の馬のたてがみみたいなのを乗せている筋骨隆々の男が、座ったまま声をかけてくる。
「命知らずめ、ガキの癖に地獄の入口に来やがったな。
ここは遊び場じゃねえ。貴族の遊びなら、他所へ行きな」
すごい……。木こりさんみたいな筋肉だ。
なんで上だけ服を着ていないんだろう。それぞれの乳首を紐で隠す意味はなんだろう。
それなら完全に脱いで丸太を担げばいいのに。
違う、怯んでいる場合じゃない。
ぼくは冒険者になるんだ。それで勇者になるんだ!
「初めまして、こんにちは! ソラって言います! 冒険者になりに来ました!
先輩、よろしくお願いします!」
姿勢を正して、頭を深く下げる。
酒場のお姉さんが言ってた、とりあえず相手には先輩と付けなさい。ハキハキ話すといいわ。大体それで面倒を見てもらえる。年下だろうがそう呼んでおけば目をかけてくれる。
お兄ちゃん、お姉ちゃんでもいいけど、あなたには早いわ。失敗すると痛い目見るわ。
よく分かんないけど、言いつけを守っておこう。
目の前の男性が豪快に笑う。
いいな……なんか冒険者っぽい。ぼくもこんなマッスルになりたいな。
「お前みたいなガキが?
親は何て言っていたんだ。大人になるまでは許可が必要だ。帰んな」
「先輩、ダイジョブです! 親は居ません!
マザーも現実を知って来いって村から送り出してくれました!」
「……そうか。あそこで登録して来い。
無理はするんじゃないぞ。精々頑張んな、命知らずめ」
先輩が拳から親指だけを立て、カウンターを指し示す。
いくつか並んでいる取引口に1列だけ人が多く並んでいる。
すごく時間がかかりそう。
「先輩、ありがとうございます!」
もう一度頭を下げ、列へ向かって足を動かす。
突然、女性の大きな声がギルドの中に響く。
そちらを向けば、食堂の方からだった。
「そこのプリースト! 宗派を言いなさい!」
座ったままのプリーストみたいな老人の前に、青髪の女性が立ちはだかっている。
仮面を付けたお医者さまが言ってた、宗教に口を出してはいけません。
色々めんど……高尚な考えがあり、何が相手の逆鱗に触れるか分かりません。
宗教での争いは、血を見るだけでは済みません。
この村は問題ありませんが、厄介なアクシズ教徒も居ます。だから、黙っておきなさい。
特にアクシズ教徒には気をつけなさい。いいですね? 本当にいいですね?
都会だと本当にこういう喧嘩があるんだ。
村だとマザーが黙らせるから知らなかった。
「私はアクア。アクシズ教団の御神体、女神アクアとは、この私よ!
汝、もし私の信者なら! ……お金を貸してくれると助かります。
二千エリスでいいんです……」
絶対にダメだ!
勇者は見て見ぬふりをしない! ぼくは女性の方へと足を進める。
―――――
「コラ! 神様の名前を騙っちゃダメでしょ! マザーに縛り上げられちゃうよ!」
青髪に青い瞳。それに羽衣まで身に着けている。
農家さんが言ってた女神アクア様の見た目と同じだ。
お姉ちゃんは小刻みに震えている。
口を何度も開いては閉じてを繰り返して、固まってしまっている。
……もしかして、本当に生活に困って仕方なくやってしまったんじゃないかな。
キャベツが通った後は、屋根どころか食料も無くなってみんなが辛い思いをした。
この人も良くないことをしたけど、相手のことを踏みにじるのもダメだ。ぼくが謝らないと。
「ごめんなさい!
相手の事情も考えずに押し付けるのはいけないことだって、農家さんが言ってた。
でも、神様の名前を名乗るのはダメ!」
お財布を懐から取り出す。
その中から二千エリス、いやそれじゃ足りない。
膝に怪我を負った衛兵さんが言ってた、誠意とは金額。
お金を上乗せして、三千エリスを取り出して差し出す。
「……辛いことがあったのかもしれないけど、ダイジョブ。
追加のお金で美味しい物でも食べてね。それで、前を向こう」
青いお姉ちゃんの顔まで青くなっていく。
自然と目線が下がって、ぼくと目が合う。
お姉ちゃんの瞳に涙が浮かび始めている。
「ほら、これは村のお手伝いで貯めたんだ。
余裕はないけど、ぼくよりも辛そうだから使って」
優しく微笑みかける。
頑張って集めたお金だって、目の前の人が笑えるなら使っちゃっていい。
勇者は泣いている人を見捨てないもん。
「都会だから、きっとお仕事だっていっぱいあるよ。
お姉ちゃんに合うのだって必ず見つかるよ。
綺麗なお姉ちゃんなんだから、売り子とか似合いそうだよ?」
女性の震える手がゆっくりと三千エリスへと近づいてくる。
「私は……あれ? 私は……女神? 女神って何だっけ?
寄付を貰って……。あれ?
こんな子供に神であることを否定されちゃったんですけど?
あはは、なんで私こんな所にいるんだろう?
日本担当のエリートなのに、どうして? アハハ……」
……狩人さんが言ってた。
夢から醒められない人間もいる。自力で起きるか、介錯してやるしかない。
もうこのお姉ちゃんは辛い出来事に耐えられなくなってしまったのかもしれない。
ぼくに夢を終わらせられるか分からないけど、助けになってあげたい。
ぼくから手を伸ばして、お姉ちゃんの手のひらを掴む。
ガタガタとした震えを止めるために何回か握ってみる。
少し落ち着いてくれたみたいで、少しずつ力が抜けて指が伸び始めた。
そこへ三千エリスを優しく乗せようとする。
「受け取れるかー‼」
茶髪のお兄ちゃんが女性を叩く。