「ギルドの配達です! 納品アイテムの確認をお願いします!」
ほぼ毎日ギルドから配達するようになって、顔なじみの人が増えた。
「今日もお疲れ様。走って疲れただろう。ところてんスライムをあげようか」
「ありがとうございます!」
「緊急! 緊急!
全冒険者の皆さんは直ちに武装して正門に集合してください!
冒険者サトウ・カズマさん一行は大至急でお願いします! 繰り返します!」
遠く離れたギルドの建物から大きな放送が流れる。
拡声魔道具のおかげで、ここでも緊急放送が聞こえた。
「ごめんなさい! ところてんスライムは要らないです!」
「いいんだよ。気を付けて頑張ってきな」
―――――
ギルドに置かせてもらっていた武器を取りに行って、正門に向かう。
門の向こうから閃光と振動が伝わってくる。転ばないように足を止めて、建物に手をつく。
再び走りだして、門を潜る。
そこでは、大量の冒険者が歓声を上げていた。
「頭のおかしい紅魔の子がやりやがった!」
「名前と頭だけがおかしかったんだな!」
「見直したぜ! 頭のおかしい子!」
さっきのは爆裂先輩がやったのか。何か分からないけど、ぼくが来る前に終わったっぽい?
キャベツがこの間来たから、レタスでも来てたのかな?
「フフフフッ、面白い」
平原に出来た大きな穴から高笑いが聞こえてくる。地面を金属が叩くような音や鎧が擦れるような音もする。
殺気がする。コックさんからつまみ食いしようとした時と同じで、ヒリヒリする。
急いで短剣を鞘から抜いて、片腕に着けた小盾を前に構える。
穴の中から黒鎧に身を包む、首だけがない騎士が現れた。この間の魔王軍幹部のデュラハンだ。だけど、今日は騎馬も居ないし、鎧にも傷が付いている。それなのに、笑っている。
「面白いぞ! 本当に配下を全滅させられるとは思わなかった!」
ぼくの手が震えて盾の留め金がカチカチ音を立てる。
導きの短剣がブレて、ぼくの顔が写される。酷く怯えて、まだ戦ってもいないのに、冷や汗をかいている。
黒騎士は片手で大剣を握り、もう片方には兜を抱えている。
「よし! では約束通り、この俺自ら貴様らの相手をしてやろう」
……立派な鎧姿が、衛兵さんの顔を思い出させる。
騎士を辞めたことを語るときは、いつも悔しそうで、だけどその選択を誇らしげにしていた。
このデュラハンは魔王軍幹部だ。騎士道から外れて、人質を取るような外道戦法を選ぶようになった可哀想な人だ。それでも、約束を守る心が残っている!
空いた片手で自分の顔を叩く。絵本を思い出す。
あの人はぼくが止める! アンデッドだって、見捨てないのが勇者だ!
―――――
「直ぐにこの街の切り札がやって来る。ビビることわねぇ」
セドル先輩の声だ。何か策があるんだ!
「ああ! 魔王軍の幹部だろうが関係ねえ!」
ヘインズ先輩も何か分かっているんだ。
「一度にかかれば死角が出来る。お前ら、やっちまうぞ!」
ガリル先輩の声で、黒騎士の周りを先輩たちが囲む。
大きなハンマーや斧、長剣を持った近接戦が得意そうな先輩たちだ。
ぼくはその後に続いて、デュラハンの左手、兜を抱えた側に回り込む。
「余程、先に死にたいらしいな」
黒騎士は自分の首を空へと投げ上げた。
戦うときは片手は塞がったままにならないのか……。盾を構えて突撃して兜を奪うつもりだったのに。
でも、ぼくにはやれることがあるはず。
吟遊詩人さんが言ってた、恐怖はいつか狂気に変わる。だから、考えることを止めてはいけない。
ここには先輩たちがいる。ぼくよりも大きな武器を持っている。だったら、その陰に隠れて相手に一撃を与えればいいんだ。
一番目立ちそうな人、仮面をつけたガリル先輩の背後にまわって身体を小さくしながら潜伏スキルを発動する。
「やめろぉおお! 行くなっー!」
カズマ先輩の焦った声を振り切って先輩たちが動き始めた。
―――――
黒騎士を挟むように二人が斬りかかる。
奴の背後から、僅かに先に振るわれたハンマーをステップで回避される。
正面から迫る大剣をスウェイバックで躱される。
畳みかけるように続いた斧と長剣の挟み撃ちも、避けられてしまった。
ガリル先輩の影から跳び出して、お腹めがけて体当たりをする。
体勢を崩して、短剣を突き刺してやる。
届く前に、膝で迎撃され、更に蹴り飛ばされた。
地面に転がりながら、口から色んなものが出る。
すぐに立ち上がって、ナイフを構える。もう一度突進する。
「終わりだ」
正面の黒騎士が、両手で剣を握っている。そのまま横に一振りした。
お腹に違和感がある。触ってみると生暖かい。中身がちょっと出てる。
口が生ぬるくなって、息が上手くできない。
黒騎士が投げていた兜をキャッチした。
「次は誰だ」
ぼくは、なにもできずに死んじゃうんだ。
―――――
黒騎士が正門の方へと遠ざかっていく。
ダメだ。このままだと、街の人たちが殺されちゃう。
腕を動かそうとしても、いつもみたいにはできない。
大きな金属音がした。
「よくも、よくもみんなを!」
「よせ! ダクネス! お前の剣じゃ無理だ!」
クルセイダーでも敵わないような相手だったんだ。それは無理だよね。
相手との力量差を考えなかったぼくが悪い。
「守ることを生業とする者として、どうしても譲れないものがある!」
ダクネス先輩は、やっぱりすごいや。
ぼくにはなにもできそうにない。がんばって。