魔王軍幹部の襲撃の後、街はボロボロになっていた。
よく分からないけど、大量の水が降ってきたとか、それでいつの間にか戦いが終わったらしい。その場にぼくもいたはずなのに、どうしてそうなったのか分からない。
だけど、その戦いのせいであんなに立派だった正門は完全に壊れてしまっている。無くなってから分かったけど、爆裂先輩の爆裂魔法の音や衝撃を抑えてくれていたみたい。最近は、街中にいても確実に爆裂魔法に気が付ける。余波で洗濯物が飛ばされるのが嫌だ。
あんな大変なことがあったけど、キャベツの群れが通った後の村よりは被害が少ない。
やっぱり、都会はスケールが違う!
ぼくも黒騎士の足止めを頑張ったらしい。ダクネス先輩がぼくの短剣を返してくれながら教えてくれた。なんでも、ぼくは限界まで踏ん張って、心を抉るような罵声をし続けていたとか。
「さしもの魔王軍幹部ですら足を止め、反論せずには居られなかった。
相手の心に寄り添い微に入り細を穿つつも、強引にねじ伏せるような暴論だった。
横で聞いていた私にすらこう……くるものがあった。ソラにはそういう才能があるかもしれないな。そういったものは大切にした方が良い。そう、決して恥じるようなものではないからな!」
正直、ダクネス先輩が負けた所までしか覚えていない。
きっと、死にかけたせいだ。
……だけど、悪口を浴びせるのって勇者っぽくない。これからは気をつけよう。
ぼくは死んじゃったみたいで、アクア先輩が蘇生してくれたとか。先輩すごい!
蘇生はマザーでも滅多に成功しないのに、全ての冒険者をよみがえらせちゃった!
やっぱり、自分を女神って思いこんじゃう実力は備えてるんだよなぁ。今度シュワシュワでもお供えした方がいいかな?
……あれ、死んだならぼくはエリス様か本物のアクア様に会えたんじゃないのかな?
革職人さんが言ってた、使えるものはなんでも使え。臨死体験は金になる。特に神の容貌の情報は売れる。蘇生されるときは覚えておけ。
なんでぼくは覚えていないんだろう? 女神様の顔なんて、いくらぼくでも忘れるわけないだろうけどなぁ? 実は死んでいなかった?
蘇生なんて滅多に出来るものでもないし、実は瀕死だっただけだったりして。
―――――
あの黒騎士が冬の前に来たせいで、ギルドは大騒ぎだ。
冒険者たちはその報奨金や達成感から騒いでいる。最近はいつも酒場でたむろしている先輩ばっかりだ。先輩たちから色々な話を聞けるから嬉しい。ゴブリンや初心者殺しの危険性や、サキュバスには優しくすると良いことがあると教えてもらえた。
それと冬も近いから、初心者は外に出ない方がいいって色んな先輩が言ってた。冬に外へ出るようなモンスターは、強いから出られるんだって。街でもそこは同じなんだね。
どこでも冬は本当に大変なんだね。村だと墓穴を掘るのを後回しにできるくらいしかいいことはなかった。
その一方で、街の人やギルドは困っている。
あれだけ立派な城門が壊されてしまったから、配達先の人々は不安がっていることが多い。
それに、門周辺の家や施設も使えなくなっている。門番さんが待機室がなくなって寒い寒いと文句を言っていた。屋外で焚火に当たると鎧の金属部分が熱くなって本当に大変って言ってた。
ギルドは門の修復を冒険者にも手伝って欲しいみたいだ。
昔、村を立て直せないまま冬を迎えた時は大変だった。寒さや食料もそうだけど、雪精が特に厄介だった。
雪精は小さくてふわふわ浮いているモンスターだ。みんなで集会所で寝ていても、隙間から勝手に入ってきてしまった。側にいるだけで寒くなる。退治、というか潰すこと自体は子供でもできるけどやり過ぎるととても強いモンスター、冬将軍が来てしまう。
寝返りやらで雪精を潰しすぎてしまったのか、一度に冬将軍たちが戦列を組んで襲ってきて大変だった。何とか撃退できたけど、コックさん以外の大人はみんなボロボロだった。寒さで遺体が腐らないから後片付けは後回しにできた。
雪精を倒すと半日春が早くやってくる、そんな噂の通りその冬はいつもより早く明けてくれた。
予想より早かったから、墓穴や弔いが間に合わなくて遺体がアンデッドなっちゃった。弱いけど知り合いの顔だったから、辛かった。殴った時の感触が違うせいで、本当に死んじゃったんだって伝わってきた。
正門が壊れたままだと、きっとあの冬みたいになっちゃう。それどころか、アクセルの街には人が多いからもっと多くの冬将軍が来ちゃう。子供も多いし、遊び感覚で雪精を潰す人も出るかもしれない。あの感触、やわらかいのにプチっとして気持ちいいし。
それよりも単純に室内が寒くなるのが嫌だ。部屋に入ってきてほしくない。
門の修理は、カズマ先輩が昔やっていた土木工事の時給を二倍に設定されてクエストボードに貼り付けられている。時給について先輩たちからよく愚痴られたから覚えちゃった。
だけど、人の集まりが悪いんだって。まあ、あんな激戦があったんだから休みたいよね。
これでも集まらないなら、もっと上げなきゃならなくなって困るってルナさんが言ってた。
ぼくは魔王軍幹部みたいな強い敵が次来た時に戦えるように新しい装備を買いたい。
あの戦いのおかげで冬越しの貯金と教会に住ませてもらえる実績も積めたけど、もっと頑張らなくちゃ。
あまりにも修理が進まなければ、僕も参加していいんだって!
柵や門を直すのは村で慣れてるから稼げそう!
―――――
寒さで手がかじかむ。担いでいた丸太を取り落としそうになってしまう。
「小僧! 後ろを通るときは声出せ! あぶねえだろ!」
棟梁さんの声で丸太を強くつかみ直す。
運んでばっかりで作業中にボーっとしちゃってた。怪我ならいいけど、作ったものまで壊れちゃいかねないから気をつけなきゃ。
そっちに向かって頭を下げる。
「はい! ごめんなさい!」
「うおっ! 材木を振り回すな! いちいち頭を下げるな!」
頭を上げると、その勢いで丸太が風を切る。
「はい!」
棟梁さんは少しだけ腰が引けている。どうしたんだろう?
……落としそうになった時にぶつかりかけたのかな?
「返事だけはいいな!
お前のおかげで重いものは大方運び終わった。次は足場組みだ。教えてやるから、しっかり覚えろよ。身体が小せえんだから、高い所も大丈夫だろ」
「はい! 投げられたり、吊るされるのは慣れてます!」
「……そっかぁ。
荷運び以外にも、色々覚えような。
出来ることが増えりゃあ、冒険者じゃなくても食っていけるようになるぞ」
棟梁さんはいつも大声だけど優しい。ご飯もおごってくれる。
でも、大工が勇者にはなれないんじゃないかな? 盗賊でもなれるから、無理じゃないのかも?