道ゆく知り合いに手を上げて挨拶をしながら街を駆ける。
最近は冒険者の先輩たちが近くのモンスター討伐に行かないから、内部の配達ばかりだ。
そのおかげでぼくも街に慣れてきて、裏道も活用できるようになってきた。
一周目の配達が終わっても、まだ日が高い。
次の配達のためギルドに一度戻ったら、ルナさんが待っていた。
「良い所に帰って来てくれましたね、ソラさん。
武装して今すぐ正門に向かってください。そして工事を手伝ってきてください。あなたはその作業にだけ集中してください。他の指示よりそちらを優先してください」
すごい真剣な顔をしている。他の職員さんたちもあわただしくギルド内を走り回ったり、魔道具に向かって何かをしている。
「正門は少し前に直ったよ? 工事のバイトしたから覚えてるよ」
「……まだ、詳しく説明できないの。正門を修理するわけじゃないわ」
門を直さないなら、何を作るんだろう?
ぼくは身体が小さいから門を直すような緊急の時以外は工事現場に入らないように言われてるのに。ルナさんもそう言ったのに。
「だけど、これから大変なことが起きる。その備えとして大工仕事をお願いしているの。他の冒険者にはまだ内緒にしてね」
よく分からないけど、なんか大変そう。
あれ、ぼくも冒険者なんだけど……。まあいいや!
「行ってきます!」
配達伝票を机に投げて、入口に向かって走る。
「待って! 盾、盾忘れてる!
配達じゃないから装備は持って行って!」
「ごめんなさい!」
―――――
正門に着くと、門番さんが険しい顔をしていた。
「……君も来たんだね。
元々、ここの生まれでもないのに良い覚悟だ。だが、君はまだ小さい。
無理に命を散らす必要はない。工事の手伝いが終わったら、どこかに逃げても気にする人間はいないよ」
優しく僕の頭を撫でてくれる。今日は大人の様子がおかしい。
こういう時は、何かが起きる。村ではそうだった。
頭に乗せられた手をぼくが両手で掴む。
「門番さん、ダイジョブです! よく分からないけど、ぼくはここに居ます!
大変だったとしても、勇者は最後まで諦めません!」
「ふっ……。どうやら弱気になってしまっていたようだ。
終わったら、甘いものでもおごらせてくれ。だから、生きて帰って来るんだ。
冒険は帰るまでが仕事だよ。そして門番は、迎えるのが仕事だからね」
門番さんの顔から迷いが消えた。兄ちゃんたちがプロポーズする時もこうだった。
腹をくくった男の人は雰囲気がどこか変わる。
絶対、これから大変なことが起きる。多分、黒騎士より強い何かが来るんだ。
だけど、逃げたくない。ぼくが弱くたって、やれることがある。
覚えてないけど、黒騎士の時だってきっとそうだった。
―――――
門を潜ると、顔なじみになった大工さんたちがたくさんいた。
「ソラ! お前も来たのか!
丁度いい。丸太をひたすら運べ! 城壁の前にやぐらを組んでストッパーを作るぞ!
運ぶ建材が無くなったら、お前も登って組め!」
「はい!」
周りを見渡すと、サイズが揃えられていない材木が集められている。いつもとは違ってカンナ掛けすらされていないものや、細かい傷が付いていてどこかで使い古されたような木材もある。
どれを運ぶか迷っているうちに、街の中から追加の材木がどんどん運ばれてくる。本当に急ぎの仕事みたいだ。
まずはのこぎりで切られた大きな物から運ばなきゃ!
―――――
「通ります!」
建材を抱えられるだけ持って、跳んだり走ったりする。
大きな材木を運びきって、ぼく以外の人でも運びやすいものだけになった。
短めの木材を持ってやぐらの上にジャンプで飛び乗る。
着地して、棟梁さんに次の作業を聞く。
「ここを伸ばすんですか?」
「見張り台だ。ここと念のためもう一か所を高くするぞ!」
「はい!」
人では出せないくらい大きな声が街の方から聞こえる。
材木を置いて音のする方に振り返る。
「デストロイヤー警報! デストロイヤー警報!
機動要塞デストロイヤーがアクセルの街に接近中です!
冒険者の皆さんは、装備を整えて冒険者ギルドに集合してください!
住民の皆様は、直ちに避難してください! 繰り返します!」
やぐらの上で周りを見渡す。
遠くの森の中に動いている黒い点が見える。森を踏み潰し、緑を塗りつぶし、黒が広がる。緑一色のはずの森が所々の茶色へ荒らされていく。
大きく空いたはずの爆裂魔法の跡地すら押しつぶして、黒塊がこの街に近づいている。
「あっぶねえ! 建材落とすんじゃねぇ‼」
無理だ……。あんなの、大きすぎる……。
おっきくてワシャワシャしてて子供に人気ってマジですか⁉