冒険者たちの歓声が正門前を包む。
「やったか!」
「俺、これが終わったら結婚するんだ!」
「今なにか……いや、まさかな。宴の始まりだ!」
アクア先輩が近くに来て回復魔法をかけてくれた。背中の痛みがすぐに和らいでいく。
「これで怪我は無くなったわね。
ねえ、なんでソラは空を飛んでたの? 名前にかけた洒落のつもりかしら?」
「分かんないです!」
「はっ……!
胴上げなら、あの結界を破った私が最初じゃないかしら。ただ突っ立ってただけのソラとダクネスより、私の方が頑張ったんですけど⁉」
「アクア先輩、えらい! すごい!」
倒したはずの機動要塞デストロイヤーから拡声魔道具を使ったみたいな大きな声がする。
「被害甚大につき、自爆機能を作動します。乗組員は直ちに避難を開始してください」
そっちを見ると、蜘蛛の目の部分が赤く点滅していた。
「うっそ‼ 倒したら終わりじゃないの⁉」
アクア先輩の反応からして、なにかマズイことが起きてるのかな。
爆発ならそんなに焦らなくていいのに。毎日爆裂先輩がやってるし、勝手に壊れてくれるなら放っておけばいいんじゃないかな。
「自爆機能を作動します。
自爆機能を作動します。
自爆機能を作動します」
機動要塞が同じ言葉を繰り返す。
―――――
冒険者たちは一斉に街の中へと逃げ込む。
「街まで巻き込まれちまう!」
「無理だ!」
「いいから逃げろ!」
先輩たちは一目散に街の中へと走っていく。確かに、街の側で爆裂魔法以上の爆発が起きたら大変だ。城壁が吹き飛ばされるだけでも、街中へがれきが飛んでいっちゃう。
ぼくにできることは何かないのか!
周りを見渡すと、カズマ先輩だけは爆裂先輩を負ぶったままダクネス先輩の元へと走っているのが見える。一言二言かわすなり、ダクネス先輩はデストロイヤーをよじ登り始めた。
「見ろ! ダクネスさんが突撃してるぞ!
街を守るために爆発する前にぶっ壊すつもりなんだ!」
「かぎ爪持って来い! 俺たちも行くぞ!」
「職業なんざ関係ねえ! 俺たち大工がぶっ壊してやる!」
すごい……。
先輩は背中だけでみんなを動かし始めた。突撃したところで自爆が止められるのかも分からないのに。
村長さんが言ってた、熱に浮かされる時こそスマートに行きましょう。一番熱い時こそ、そのエネルギーを正しく導くのです。それこそが私が若くして成功した秘訣なのですよ。
だったら、頭の悪いぼくが考えるのはムダだ。
近くにいたアクア先輩の手を捕まえる。
「先輩! ぼくを投げてください!」
答えを聞く前に、勢いをつけるためアクア先輩の周りをぐるぐる走り始める。
「ソラ! 遊んでる場合じゃないわ!
犬みたいに走るのを止めて! 後でいくらでも付き合ってあげるから逃げるわよ!」
―――――
「思いっきり暴れてきなさい!」
アクア先輩が補助魔法をかけて、ぼくをデストロイヤーへと投げ飛ばしてくれた。
キャベツの時もそうだったけど、先輩は投げるのが上手だ。下手だと顔から地面に投げられる。あれは痛かった。
しっかり着地できるように風が痛くても目を見開く。
まだ猶予があるからやることを整理する。
ぼくの装備は小盾と導きの短剣。スキルは潜伏と敵感知だけ。
ぼくが機動要塞を止められなくてもいい。先輩たちも走って来ているんだから、それまでに甲板をできるだけ壊せばいい。それで止める方法は先輩たちに任せる。
デストロイヤーの上に、金属みたいに光る二足歩行の巨人がわらわらと出てき始めた。多分、昔運び人さんが言っていたゴーレムだと思う。
運び人さんの教えてくれたことを思い返す。
ゴーレムは古代文明が組み上げた、有機的なモンスターとは少し異なるものなんだ。一部の部品を壊すだけで、連鎖的に不備が生じることもある。だけど興味深いことに、機械的な存在なのに生物と同じような特徴があるんだ。だから、専門外だけど少し調べたことがあるんだよ。
関節や可動部は有機生命体と同じく装甲が薄いんだ。これは恐らく人間の鎧と同じく動きを阻害しないためだろうね。だから、戦うときはそういう箇所を狙うといいだろう。
人間相手と同じで何の役にも立たないって⁉ ……もしかして、これでは下ろしてもらえない感じかい?
機動要塞から出てきたってことは、警備員みたいなものなんだと思う。邪魔だな。
先輩たちが登って来るから、出来るだけ甲板の端から離さないといけない。それなりに片付けないと駄目そう。要塞攻略は先輩たちがなんとかしてくれるだろうし、ぼくはこっちの始末に集中したほうが良さそう。だって、ただの金属だし。
このコースだと、初撃は与えられなさそうだなぁ。片手につけた盾を構える。
衝突の瞬間、甲板めがけて思いっきり盾をぶつける。耳が壊れそうなくらいの金属音を立て、頑丈な甲板をへこませる。和らげきれなかった着地の衝撃を活用して跳ね上がり、一体目のゴーレムの首に組み付く。
宿屋のおかみさんが言ってた、接近戦の基本を忘れるんじゃないよ。相手より早く急所を潰せ。掴んだもん勝ちだ。男相手もおんなじだよ。
ゴーレムの首筋、装甲の薄い部分にナイフを差し込む。思ったより固くないかも。
命一杯、息を吸い込む。
「こーんにーちわー‼」
叫んだ途端、ゴーレムが一斉にぼくの方を向いた。敵感知スキルでゴーレムたちがぼくへ敵意を持っていることが分かる。空からだと気付かなかったけど、武器を持っているものやサイズが少し小さめのものもある。どれもぼくよりは大きい。やりやすそう。
刺していたナイフを抜き取り、空いた片手でゴーレムの頭部を抜いて投げつける。
その陰に隠れて二体目を狙う。
―――――
ゴーレムは部位によっては固かった。
首みたいな関節部ならぼくの力でも片手で引きちぎれる。多分、他の部分は傷をつけるか押さえないと引っこ抜けなさそう。
革職人さんが言ってた、使えるものはなんでも使え。同士討ちは最高だぞ。
同じ固さ同士なら傷つけあえるよね。抜いたパーツを別のゴーレムに投げつけたら、壊れてくれた。
感知機能は多分音と視界。
着地には反応したけど、その後叫ぶまではぼくの居場所に気が付いていないのがいた。つまり、動きや音の大きさでも注意をコントロールできる。登って来る先輩たちよりぼくがうるさければ、安全は確保できると思う。
それと、ヘビみたいに熱で判断はしてなさそう。だから敵の身体に隠れて潜伏スキルを使えば、簡単に誤魔化せそう。
どこからか続々とゴーレムたちが増えてくる。これなら的が増えて相打ちさせやすそう。
大きく息を吸って、全力で叫ぶ。
「先輩たち‼ ぼくが注意を引きます‼ 急いで登って来てください‼」
これで先輩たちにも何をするか伝わったと思う。
スキルが、ゴーレムたちの敵対心がぼくに集まったことを教えてくれる。
―――――
股や脇を切りつける。倒す必要はない。
敵感知スキルのおかげで、背後の敵もなんとなくわかる。おかげで、どの攻撃を紙一重で避ければ効率的か分かった。流石、クリス先輩のオススメしてくれたスキルだ!
蛙運びでは役に立たなかったけど、戦闘では便利だね!
ゴーレムは遅いし、大ぶりな攻撃ばっかり。殴り掛かってきた腕を駆けて首を落としたり、股を潜り抜けて動けなくしやすい。
一度、わざと直撃を受け流してみたけど、意味が無かった。数を減らせないし、ぼくの足が止まるだけだった。それでいて、敵の数体しか足止めできない。しかも、手がヒリヒリした。
運び人さんに教えてあげられるようなことはないかな。ただの大きくて力のあるモンスターと変わらない。
あっ⁉
……受け止めたせいで盾の修理費が増えちゃったかも。やるときは素手で受け止めよう。
他にも、試しに貫手をしたら手がベタベタした。血じゃないけど、なんか臭い液体が内側にあるみたい。気持ち悪い。手刀にはそっちだけ使おう。短剣との二刀流ってなんかかっこいいかも。
それにしても、何度斬っても導きの短剣の切れ味は変わらない。ゴーレムから奪った武器より処理しやすいし、もしかしたらすごい武器なのかも。後で狩人さんの好きなガシャガシャする武器でも送ろう。
あれ、ゴーレムって賞金出るのかな? そもそもぼく、クエスト受けてなくない? ゴーレムの部品は食べられなさそうだし、売った時の値段なんて分かんないや。
……一杯倒したら、報奨金とかでないかな? 頑張ったで賞みたいな。
倒した残骸で視界を切り、その瞬間に潜伏スキルを発動する。
隠れたまま残骸の一部を反対へと投げるとその音に反応してゴーレムたちが背中を向けて来る。一体の首を落として、残った胴体を蹴飛ばして他へぶつける。その踏み込みで次の首に移っていく。
時々、大きなパーツを甲板中央に居るゴーレムにぶつけて先輩たちから注意を逸らす。最初は叫んでゴーレムたちの注目を集めてたけど、喉が痛くなっちゃった。
そうしてゴーレムを倒していると、どんどん先輩冒険者たちも甲板に来てくれた。
登るのに使ったかぎ爪をひっかけてゴーレムの体勢を崩したり、魔法で機動要塞の表面に穴をあけたりしていた。
すごい! ぼくだけだとただ壊すしか出来なかった!
ああやって解体しやすくしたり、ダンジョンを攻略していくんだ!
要塞の上にいたゴーレムをほとんど倒し終わった頃、離れた位置のダクネス先輩の叫び声が聞こえた。
「まだ終わっていない。私の強敵をかぎつける嗅覚が、かぐわしい香りを嗅ぎ分けている。まだ終わっていないぞ!」
急いで貫手を放ち、目の前のゴーレムを終わらせる。
……べとべとを装甲になすりつける。短剣でやれば良かった。
突然、足場にしていた機動要塞が震え始め、じわじわと熱を持ち始めた。先輩の言う通り、何か悪いことが起きるのかもしれない。早く避難した方が良さそう。
……どうしよう。ぼく、かぎ爪とか持ってない。
急にぼくの首筋が掴まれて、足が浮かされる。
敵感知に反応がなかったから油断してしまっていた。
まだ戦いは終わってない。短剣をぼくの首の後ろに向けて振る。
「よう、命知らず」
その声を聞いて、刃を止める。
浮かされたまま方向が変えられていく。
ニワトリみたいな髪型に、上半身は二本のサスペンダーだけ。こんな格好は都会でもこの先輩しかいない。
「機織り先輩? どうしたんですか?」
そのまま振り回されて、景色が巡る。山になった残骸や先輩たち、それに遠くの街が回っていく。
「うわぁあああ、なんですか⁉」
「ハッハッハ、お前の輝きに賭けるぜ!」
突然、身体が軽くなる。
甲板の上にいた先輩たちが小さくなっていく。
「機織りせんぱぁぁぁぃいいいい‼」
落ちるぼくに向けて先輩は、引きつりながらも笑顔で親指を立てていた。
先輩のとさかがどんどん小さくなり、デストロイヤーの巨体に阻まれて姿も見えなくなっていく。
デストロイヤーから離れた場所に叩きつけられる。地面を何度も跳ねて、何かにぶつかりさらに一跳ねして止まった。