勇者って職業じゃないんですか⁉   作:AKI久

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勇者って言うだけで笑顔に出来るんですか⁉

緑と黒の変わった格好のお兄ちゃんがお姉ちゃんの背中をさすっている。

お姉ちゃんは口を半開きのまま、どこかを見ている。

 

「こいつはアクア。まあ、信仰心が高すぎてこうなったんだ。気にしないでやってくれ」

 

そういうのもあるんだ。宗教には本当に気をつけないと。

お医者様の言いつけを早速破ってしまう所だった。

 

……人を無駄に傷つけるのは、勇者じゃない。

このお姉ちゃんがアクア様を名乗っても気にしないようにしよう。

 

「俺の名前は佐藤和真。冒険者登録をしに来たんだ。

遠い所から来たんだが、途中で金をすられちまってな。

こいつにも、悪気があった訳じゃないんだ。許してやってくれ」

 

街への移動は大変だし、そういうこともあるんだ。村から走って来て良かった。

何日間も一人で寂しかったけど、モンスターに襲われる以外のトラブルには会わなかった。

もし、お金を取られてしまっていたら、村に帰るしかなくなるところだった。

また何年もお手伝いをして、お金を貯めなきゃならなくなっちゃう。

 

「大変なことがあったのに、めげなくてえらい‼」

 

お兄ちゃん、カズマ先輩は引きつった顔でぼくから目を背けた。

きっとお金が取られた以外にも色々あったんだろう。だから二人とも見たことがないような服装なんだろうな。

 

「だったら、なおさら気にせずに使ってよ。

ぼくはソラ。ぼくも冒険者になるために村から出て来たんだ。

よろしくね、カズマ先輩! 勇者様と同じ名前だし、すごそうだね!」

 

青いお姉ちゃん、アクア先輩の手を握ってカウンターに向けて引っ張っていく。

天井を眺めたまま抵抗なくぼくのなすがままになってくれている。

顔を受付の方に向けたまま、後ろに声をかける。

 

「カズマ先輩、早く冒険者登録しようよ~」

 

「……えっ、俺たち同期じゃないの」

 

さっきまで列が出来ていたのに、誰も並んでいない。

直ぐに終わらせて、クエストだ!

 

「……もしかして児童労働が当然のハードな世界?」

 

カズマ先輩が駆け足でぼくの横に並んでくる。

 

少し跳び上がって、カウンターに三千エリスを置く。

受付台の縁に手をかけてつま先立ちになって、受付のお姉ちゃんに声をかける。

おっぱいでほとんど顔が見えない。村長さんみたいだ。

 

「三人の冒険者登録お願いします!」

 

「……そういうことで、お願いします……。

いつか絶対返すんで、そんな目で見ないで下さい……。

だからって露骨に目を逸らさないで……ほんと、お願いします……」

 

カズマ先輩もあげたから気にしなくていいのに。

受付のお姉ちゃんの眉が下がったのが見える。……忘れてた!

 

「そうだ、マザーからの紹介状です。どうぞ!」

 

―――――

 

受付嬢ルナはソラが提示した手紙を確認する。

エリス教の聖職者が持つ印で封蝋されており、偽造は難しい。少なくとも、目の前の子供には出来ないだろう。

手紙をペーパーナイフで開けると、クエスト依頼書と一枚の手紙が入っていた。

 

ルナの仕事柄、依頼書に先に目を通す。

ギルドに対してこれを持った子供の面倒を最低限見て欲しい旨、そしてアクセルの街でやっていけそうに無ければ直ぐにでも送り返すように書かれている。

依頼金はアクセルのエリス教会経由で払うとある。

 

こういった依頼は、ないわけではない。

貴族や騎士の子弟が実戦を積むためにギルドに所属することは珍しくはない。偽名を用いて世を忍んで登録し、子供を世間慣れさせる家もある。

だが、親心は何時如何なる時代でも変わらない。保護者はギルド側に多少の金銭を払い、身の丈に見合わないクエストへの挑戦を止めるといった補助を依頼する。

ギルドは収入増加や将来強力と成り得る人材に目星をつけられる。

何を置いても、魔王への備えとして有力な戦力を少しでも多く揃えることはベルゼルグ王国の国是。それを超えて、人類文明の第一目標だ。

こういった事情から問題はない。エリス教が身元を保証するのであれば、身分は関係ない。

 

だが、ルナの目の前の子供はあまりにも幼すぎる。

袖や丈も大きい服を着用している。薄汚れたマントは内側で折って長さを調整しているようだが若干床に引きずっていた。動いている最中は問題にならなかったのだろうが、立ち止まれば意味を成さない。

一方、肩口に揃えられた金髪と青い瞳が貴族の証のようにも見える。そのアンバランスさがこの子供の素性を分からなくしている。

 

成人年齢の14歳には決して見えない。その手前とも思えない。

冒険者ギルドの入会規定には年齢制限はないが、社会通念上まだ親元にいる頃だろう。

 

眉をしかめたルナは、続けてもう一枚の同封された書類に目を通す。

そこには簡潔に目の前の少女についてのプロフィールがまとめられている。

 

高貴な者に多い金髪碧眼ではあるが、そういった後ろ盾は無くただの孤児であること。

正確な数値は測っていないが能力値が高いと推測されること。

まだ性分化していないのか、どちらかは見た目では分からない。手紙には面倒を避けるため女として扱う必要は無いとある。

そして、ソラが上手くいけば、今後も増えるであろう孤児の進路としてアクセルに送り込む予定があることが書かれている。

 

断る理由はない。だが、その場で認めていい案件かの判断は一介の受付嬢を超えている。

彼女が出来ることといえば、受付の処理だけだ。一先ず、自らの仕事をこなすことにする。

プロトコルとは前後するが、三枚の用紙と筆記用具をエトランゼたちへ差し出す。

 

「は……はあ……。

先に申請書に身長、体重、年齢、それと身体的特徴等の記入をお願いします。

その間にこちらも準備を進めておきます。あちらのテーブルでどうぞ」

 

ルナは一度上司へ指示を仰ぐため、先に申請書を渡した。

 

―――――

 

受付のお姉ちゃんが冒険者の説明をしてくれた。

レベルアップの仕組み、冒険者は何でも屋、それにスキルポイントのことまで確認してくれた。

ぼくでも知っているような当たり前のことだ。そんなのより、早くステータスを知りたい。

 

「はい、申請書に不備はなさそうですね。

ではこちらのカードに手を触れてください。それであなた方のステータスが分かります。それに応じた職業を選んでくださいね」

 

机の上にお姉ちゃんが三枚の小さなカードをそれぞれの目の前に置いてくれた。

新品で、汚れも染みもない冒険者カードだ!

 

村では衛兵さんや狩人さん、コックさんに何度も見せてもらった。

どれもが古びていて、こんな風に綺麗じゃなかった。

それはそれで古強者感があっていいよね……。

 

カズマ先輩も身体を振るわせてワクワクしてる。

なのに、アクア先輩は一切揺れていない。クールだなぁ。

 

「じゃあ、じゃあ俺から!」

 

カズマ先輩が満面の笑みでカードを掴む。

カード上に各能力値の数値や申請書に書いた内容が記載されていく。

受付のお姉ちゃんが横からのぞき込む。

 

「……はい、おつかれさまです。サトウカズマさん。

ええっと……筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性のどれもが普通ですね。

知力はそこそこ高いですね。ああ、幸運が非常に高いです。

これは……《冒険者》のクラス……にしかなれそうにありませんね。

あまり運は冒険者には必要ないので、商売人とかになることをお勧めしますが……」

 

ぼくも反対から見てみる。

 

「すごい! こんなにラッキーな人、見たことない!

くじ引き負けなしの村長さんの何倍もある! くじ引き強そう!」

 

それなのにカズマ先輩はどこかがっかりしている感じがする。

自分で思っていたより運のステータスが低かったのかな?

 

「えっ、ええっと、その……冒険者ってのでお願いします……」

 

「……その、レベルを上げてステータスが上昇すれば転職できますよ!

それに……あの……《冒険者》はどんなスキルも習得できますから!」

 

武器も魔法も何でも覚えられる!

色んな方法で戦うなんて狩人さんみたいだ!

 

「強い! 最強じゃないですか! ぼくもそれがいい!」

 

「そ、そうだよな。俺の冒険はこれからなんだ。

最弱職から昇り詰めるのも王道だよな!

じゃあ、ソラの番だぜ」

 

カズマ先輩が机の前を譲ってくれる。

なんだか、走っていた時よりも胸がバクバクしてる。

さっきのを見て、特別ななにかが光ったり鳴ったりしないって分かってる。

だけど、なんだか緊張してしまう。

 

迷うな、死ぬぞ。足を止めれば、時間がお前を飲み込む。

芸術家さんが言ってた。

 

大股で足を机に進める。

思い切って腕を振りかぶり、カードを机から抜き取る。

 

どうなっているか知りたいけど、知りたくない。

カズマ先輩みたいに想像より弱いとがっかりしちゃいそう。

 

受付のお姉ちゃんが苦笑いでぼくを見ている。

 

「あの……ステータスを見せてね。

それに気持ちは分かるけど、冒険者カードは大事なものだから大切にしようね」

 

「……はい、ごめんなさい」

 

頭を下げ、両手で持ってカードを受付のお姉ちゃんに差し出す。

 

「大丈夫ですよ、ソラさん。

9歳なのに、大体のステータスが大人を超えています!

平均より知力と幸運は少し低いけど、勉強やエリス様への信仰で伸ばせるから頑張ろうね。

いきなり上級職にはなれないけど、きっと直ぐになれるから今は下積みをして力を蓄えようね」

 

ギルドに居た人たちがぼくを褒める声が聞こえる。

その歓声が他の冒険者、そして職員の視線をさらに集めていく。

なんだか照れくさくて、どこかに向ける訳じゃないけど手を振る。

 

「将来の夢は何かあるかな?」

 

そんなの決まってる。胸を張って答える。

 

「勇者!」

 

一瞬ギルド内が静かになる。そして、大きな笑い声で満たされる。

笑われる理由が分からなくて、首を振って周りを見渡す。

みんなが笑顔なら、いっか。

 

「……それは職業じゃないかな。

みんなを守る《クルセイダー》、攻撃力最高の《ソードマスター》、色々できる《トリックスター》だったり色々あるからゆっくり決めようね」

 

そうなんだ。

ステータスを見ただけでそんなに思いつくなんてすごい!

 

「お姉ちゃん物知り!」

 

ところで、勇者サトウって何の職業だったんだろう?

受付のおねえちゃんが笑って頭を撫でてくれた。

 

「では、最後の方も触れてみて下さい」

 

―――――

 

アクアは呼びかけにも反応せず、未だ呆然としている。

信心深そうな子供に存在を否定され、善意から施しを受けてしまったせいだろう。しかも、本物の神様だとは一切信じられていない。

神様どころか、詐欺師。そして売り子を勧められちまった。

ゲームによっては神は信者からの拒絶が弱点のものもある。

……流石に気の毒になってきた。長所があったら褒めてやろう。そうでなくても優しくしてやろう。

 

周囲の観客もアクアのステータスが気になるようで、こちらへと野次を飛ばしている。

こういうのはとっとと済ませるに限る。

 

「ほらアクア、さっさと済ませちまおうぜ」

 

俺の声にも反応したのか、アクアは虚空を見つめたまま、机の上の冒険者カードへと指を伸ばす。

僅かに触れるかどうかといった程度でだらりと腕が垂れていく。

 

「……アクアさんですね。ありがとうございます。

はっ⁉ はあああぁ⁉ 何ですかこのステータス⁉」

 

受付さんがカードを握りしめ、叫び声を上げながら食い入るように表面を確認していく。

ソラが覗こうと背後に回り込んでピョンピョン跳ねている。

 

「知力が平均より低いのと、幸運が最低レベルなこと以外、全部のステータスが王都の冒険者の平均を大幅に超えていますよ‼

特に魔力‼ こんな数値はギルドのデータにも無いですよ‼」

 

その声を受け施設内のざわめきが増す。

チート能力の代わりとしても、十分やれそうじゃないか。

勢いで選んじゃったけど、悪くなかったかもな。

 

「アクア先輩すごい!」

 

この子供、何でも肯定するな。まあ、転生もののお約束みたいなもんか。

……いや、まあアクアが強ければ魔王討伐だって直ぐに終わらせられる。気に食わないが、このこと自体は何も悪くない。腐っても女神か。

 

「えっ、えっ、そう?

なになに私って凄いってこと?

いやー、まあ私なら当然っていうか、そりゃあねえ?」

 

「すごい! 新人じゃないみたい!」

 

我に返ったアクアが調子に乗り始める。子供がまた褒めている。

それらに受付さんも呼応して興奮気味にまくし立てる。

 

「高い知力を求められる職業以外なら何にでもなれますよ⁉

《クルセイダー》や《ソードマスター》はもちろん、それどころか僧侶の上級職である《アークプリースト》など……。最初からほとんどの上級職になれちゃいますよ‼」

 

あれ、俺と待遇がめちゃくちゃ違う。

上級職って何だよ。名前からして強そうだけど、俺には言ってくれなかったんですけど。

俺のだけ漢字なんですけど。

 

「ふぅん、女神って職業が無いのが残念だけど……。やっぱり、アークプリーストかしら」

 

アクアが顎に手を当てて決め顔を作っている。子供がまたキャッキャッと褒めている。

 

「あらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなし、前線に立っても戦える万能職です‼

悪魔相手には最適な職業です‼ この時点で魔王軍幹部相手も出来る水準です‼

アクア様は現時点でアルカンレティアの大司教よりも優れていらっしゃるかも‼」

 

「本物の女神様みたい!」

 

俺たちを担当していた受付さん以外のスタッフも集まり始め、アクアの前に横一列に並んだ。

 

「冒険者ギルドへようこそアクア様。職員一同、今後のご活躍を期待しています!」

 

職員の礼に合わせてギルド内の歓声が最高潮に達する。

荒くれ者みたいな奴や魔法使いっぽい女の人も囃し立てている。

 

……あれ、こういうのって俺のイベントじゃないの? 俺、転生者だよ?

転生者が一番地味っておかしくね? しかも、二回もイベント取られたよね?

 

俺の異世界生活……こんなはずじゃなかった……。

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