勇者って職業じゃないんですか⁉   作:AKI久

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このすば世界では食べ物は動きます。作者が狂気に陥った訳じゃないです。
世界がハード超えてインサニティなんですか⁉


盗賊って勇者になれるんですか⁉

ギルドの裏、静かな路地で二人の女性に頭を下げる。

 

「ごめんなさい! また神様を名乗る不審者だと思ってました!」

 

まだ銀髪の先輩は固まったままだ。

 

ルナさんが目の前の二人の説明をしてくれた。

《盗賊》と《クルセイダー》の先輩冒険者らしい。この二人はステータスや信頼もある人で、今日はぼくに色々教えてくれる人だってルナさんが言ってた。

 

「……いきなり見知らぬ大人たちに話しかけられて驚かせてしまったのだろう。すまなかった。

だが、エリス教徒であるならそれを隠すべきではないぞ。それにああいったことは発言すべきではない。他の人からも嫌われてしまうからな。

一番まずいのは、ソラもアクシズ教徒に間違われてしまうことだ」

 

立派な鎧を着た金髪の女性がぼくの肩を叩いて顔を上げさせる。

どうして肩に羽を着けているんだろう? しかも片っぽだけ。それで飛べるのかな?

 

「ソラは自らをエリス様の先輩神と名乗る女にも注意するほど敬虔な信徒だと聞いている。ただでさえ頭のネジが外れたアクシズ教徒の中でも特級の相手にも臆さなかったそうだな。偉いぞ。

それなのに、あんなことを言わせてしまって本当に申し訳なかった。

こっちのクリスも悪気があった訳じゃないんだ。許してやってほしい」

 

「ぼくが悪いんです! クリス先輩、ごめんなさい!

農家さんが言ってた、アクシズ教への勧誘法みたいで勘違いしちゃいました!」

 

「あたしが……アクシズ教徒……」

 

農家さんは定期的に飲める洗剤と一緒に色々教えてくれた。

共通点を前面に出して相手の懐に潜りこむ、相手の行動を持ち出して理解者面をする。これがアクシズ教へ入信させる一番の定石じゃぞい。

 

村でやるとマザーに吊るされる。

ふざけているだけで、都会では本当にそんなことをやる人がいるとは思わなかった。

お医者様の言う通り、宗教は危ないのかもしれない。

 

「それとぼくはエリス教徒じゃないです。どうでもいいです」

 

「「えっ……」」

 

エリス様もアクア様もぼくたちを見守ってくれている。

ラッキーなことが起きるのはエリス様のおかげ。だから、孤児院がぼくを拾ってくれた。

畑の水が足りているのはアクア様のおかげ。だから、これまでご飯が食べられた。

どちらもいるからぼくたちは生きていける。なんでいちいちどっちの信徒かなんて気にするんだろう?

 

「……落ち込むなクリス。ほら、まだどうにかなる。少なくともアクシズ教徒ではない。

これからエリス様の良い所を教えれば、いつかきっと新たな信徒になってくれるさ。

それにまだ信仰に目覚めていないのに教会通いが習慣になっている。そう時間もかからないだろう」

 

「……うん、ありがとうダクネス。ちょっとショックが大きくて……。後でシュワシュワおごってね」

 

「ふっ、転んでもただでは起きん奴だ」

 

お互いに軽く笑い合っている。

 

農家さんの言ってた交渉技術だ! 弱みを見せて同情心に付け込むやつだ! これで昔は業績一位になったって言ってた!

 

「クリス先輩すごい! フットインザドア! アクシズ教徒みたい! 勧誘トップも夢じゃない!」

 

「やめてぇえええ! あたしをアクシズ教徒って言わないでえええ!」

 

―――――

 

「あたしへの誤解も解けたし、やることやっちゃおう。何だと思う?」

 

外に行くってルナさんが言ってた。やっぱり、討伐かな?

 

冒険者は街の外部でモンスターを討伐する。その遺骸は食用や道具の部品として活用される。つまり、討伐した後は街内部や外縁の解体場まで運ばなくてはならない。しかし、モンスターは巨体であることが多く、討伐で疲弊した者だけで運搬することが難しいこともある。加えて、戦闘の得意な者が毎回そのような作業に時間を費やしてしまえば、クエストは非効率的になってしまう。

 

この打開策としてギルドは討伐されたモンスターの配送サービスを提供している。報酬から規定の割合を代金として差し引きする代わりに、遺骸の運搬から解体、そして販売までを請け負う。

 

だが、この業務においてギルドは一つの問題を抱えている。運送を担う人員の確保だ。

遺骸を運ぶには、巨体を運べる力と信頼が求められる。馬といった輸送力を用いることもあるが、荷車に乗せる腕力や縄をくくり付ける手先の器用さが求められる。一定以上の冒険者であれば、ステータスは問題ない。だが、該当者にとってこういった仕事よりも討伐に赴く方が報酬が多い。

 

そして、信用問題もある。

運送中は外部の監視の目がない。幸い、冒険者カードにより討伐結果の水増しといったことは出来ない。だが、その運搬中に高価な部位をはぎ取ることも難しくない。冒険者には様々な背景を持つ者がいる。ギルド内で公示して、不確かな人材を雇い配送サービス自体への信頼を失墜させるわけにはいかない。

 

これらの条件を満たす人材は、引退した冒険者や一線を引いて後進の育成に努める者たちだ。だが、それほど多いわけでもない。そして、進んでこなすほどの魅力もない。

 

その点、ソラは条件を満たしている。

貴族の子供のようなステータスに、村からの推薦状。業務をこなす能力は足りており、損失が生じた場合の請求先もはっきりしている。この二週間、一度も遅れず早朝からギルドに関する配達業務をこなし続けた。大した報酬でもないのに物品に手を出すことなく達成し続けた。

 

そして、これはギルドからのソラへの温情と投資でもある。

配送業務に際して数多くのモンスターと冒険者と遭遇する。討伐されたモンスターを観察することで、危険も無くそれぞれの特徴を学ぶことができる。また、討伐した冒険者たちとの繋がりも軽視できない。幼い姿は彼ら彼女らの関心を引き、有力なアドバイスや世話を焼こうとするだろう。また、ひたむきな子供の姿に冒険者たちが我がふりを反省し品性を改めることもギルドは期待している。

 

「ジャイアントトード狩りですか? 慣れてるよ!」

 

今の時期だと繁殖期が近かったはず。2年前の今頃にハワードが食べられたから間違いない。

 

「そうだな。だが、ソラの今後に関わることを決めてしまおう」

 

死んだら終わりだもんね。

 

―――――

 

ダクネス先輩が冒険者カードを取り出すよう言ってきた。

 

「先ずは職業を決めてしまおう。ソラは勇者になりたいとのことだが、それは称号だ。

自分の得意なことやなりたい方向性で決めてしまうのが良いだろう」

 

「殴り飛ばすのが得意です! 村でもみんなでモンスターを倒したりしました!

まだ魔法を使えないけど、いつか使えるようになりたいです! 前線で戦うのが勇者っぽいと思います!」

 

「うんうん、いい夢だね。よっ、未来の勇者様!

だけど、いきなり両方をやるのは難しいからね。キミはまだ小っちゃいんだから経験を積んで行く方がきっと強くなれる。エリス様だってそう言うに違いない!

千里の道も一歩から、待てば海路の日和ありってやつだよ」

 

クリス先輩、頭いい! でも、どんな職業があるんだろう?

 

「だから、最初は基本職の盗賊になろう」

 

「クルセイダーへ繋がる戦士や僧侶でもいいと思うのだが……。

信仰が無い以上僧侶は無理だとしても、戦士や剣士でもいいのではないか? クリス、前衛を担うにはうってつけだろう。」

 

ダクネス先輩の言うとおりだ。そっちの方が勇者っぽい。

 

クリス先輩がダクネス先輩を引っ張って行っちゃった。

 

「まだ十にもなってない子を戦わせるわけにいかないでしょ。それに、小さい子をパーティに入れる訳ないよ。

まともな神経をしているなら断わるし、考えたりもしないよ。パーティで面倒を見るつもりか、実力がある子でもないと受け入れたりしないね。

だから、パーティの補助が出来る職業で、ちょっとずつソラのことを知ってもらうの。ギルドの方針ともずれてないし、悪くないでしょう?」

 

「……流石はクリスだ。ギルドからの依頼を買って出たのには考えがあったんだな。私は何も考えていなかったよ」

 

こっちに戻ってきた。

 

「なんか勇者が盗賊ってイメージ違う感じがします。人の物を盗むのは悪いことじゃないですか」

 

でも、義賊っていいかも……。ちょっと……かなりかっこいいかも。ご飯が足りない時に来てくれた絶対ファンになる。

いやでも、勇者の方がいいなぁ。

 

クリス先輩が人差し指を立てて振っている。

 

「犯罪者になる必要はないよ。

この職業は花形ではないけど、とっても便利なんだ。

敵の感知やダンジョンでの罠の探査、宝箱空けだって出来ちゃうんだから。

パーティに一人はいて欲しい人材なんだよ。絶対に食いっぱぐれないよー」

 

強いモンスターは絶対ダンジョンで待ち構えてるに決まってる。仲間を助けるのも勇者っぽい!

 

「盗賊すごい! 便利かっこいい!」

 

ダクネス先輩は鼻息荒く自分の職業を語り始めた。

 

「おいおい、クルセイダーもパーティに欠かせないぞ。

ソラには早いから今回は引き下がってやろう。だが、忘れてもらっては困る。

信仰と騎士の矜持を胸に仲間を守るんだ。パーティの誰よりも早く敵と接触出来る。

ああ、そうだ、最後まで仲間を庇い続けるから最も痛みに耐える必要がある。だが、それがいい……それこそが、この職業の最大のメリットだ……」

 

ダクネス先輩はとっても顔を赤くして語ってくれている。

きっと、痛いこともあったんだろうけど、それすら光栄に思ってるんだ。

 

「クルセイダーすごい! お話しの騎士さまっぽい! 騎士のかがみ!」

 

「いや~、それほどでも~」

 

「ダクネス! 子供に自分の趣味を押し付けない!

……ともかく、盗賊の上級職にはトリックスターっていうのがあるんだ。専門の戦闘職や魔法職には及ばないけど、どっちも出来る。盗賊スキルだって覚えたままだから、そこでの経験をそのまま活かせる。

ソラがイメージしているのって、万能で仲間たちと協力する感じなんじゃないかな? だったらこれが一番!」

 

ぼくの考えてたことを言い当てられた。

初対面なのにぼくに詳しい! ぼく博士だ!

 

「クリス先輩頭いい! お医者さまみたい!」

 

「えへへ~、じゃあ決定だね。

いい子だからスキルも教えてあげる。運送でも役に立つだろうから覚えて損はないよ。

もし、追加でシュワシュワ一杯をくれるなら、コツも教えてあげようかな~」

 

「おい、元々今日はその予定だろう。恩着せがましすぎはしないか」

 

「分かって無いな~ダクネス。これもレクチャーだよ。

冒険者はちゃっかりしないとね。負けたままで終わらず、何かを得ようと足掻かないと。

ソラも盗賊なら見極められるようになろうねー」

 

「先輩すごい! アクシ……農家さんみたい!」

 

「今なんて言おうとしたの! あたしはエリス教徒! 絶対に間違えないで!」

 

クリス先輩がぼくの両肩を掴んで顔を寄せて来る。

 

コックさんも言ってた、アクシズ教徒と呼ばれようがエリス様は許して下さる。だが、俺の拳は許すかな⁉

農家さんがボコボコにされていた。その後マザーに吊るされてた。痛そうだった。

 

「ごめんなさい!」

 

アルカンレティアではエリス教徒が同じ目にあうって宙吊りの農家さんが言ってた。

ぼくも本当に宗教には気をつけよう。

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