勇者って職業じゃないんですか⁉   作:AKI久

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血抜きまで考えて処理するんですか⁉

街に来て最初に会った門番さんに挨拶をする。

 

「この間の子じゃないか。お姉さんたちと外に行くのかい?」

 

「はい! 今日はジャイアントトードを倒します! 晩御飯はからあげです!」

 

「威勢がいいじゃないか。だけど、調子に乗ってはいけないよ。

冒険者のお姉さんたちの言うことを守るんだ。怪我しないように気を付けるんだよ」

 

「守衛殿、心配しなくていい。私やクリスがついている。ソラに危険が及ぶようなことにはならないさ」

 

「そうですか。だったら、たくさんカエルを頼みますよ。安くなれば母ちゃんも買ってくれますから。からあげもいいけど、あんかけが好きなんです。旬ですし、お願いしますよ」

 

手を振りながら門を潜って外に出る。

建物が一切ない平原。踏み固められた道以外は芝生が生えている。

 

―――――

 

門から少し離れ、周辺を確認する。

ところどころに巨大な蛙のようなモンスターが点々としている。

クリス先輩が手を広げた。

 

「ソラ、今日はクエストを受けて来たからジャイアントトードを5匹狩るよ」

 

いつの間にクエストを受けていたんだろう。

ルナさんが掲示板に近づかせてくれないから、どんなのかも知らない。

続けてダクネス先輩が詳しく説明してくれる。

 

「私たちは臨時のパーティだ。この人員で3日以内に5匹の討伐を果たせばいい。

ソラは今後配送をすると聞いている。それの実践にもなるだろう」

 

クエストって結構簡単なんだなぁ。そんなの一時間もかかる訳ない。二人が囮、もう一人が保険でカバーに入ればいい。

 

「ジャイアントトードは一般的なモンスターだから知っているだろうが確認しよう。

奴等は金属を嫌う。私ほど鎧を着こむ必要は無いが、胸当て程度でも構わないから装備しておくと向こうからやって来ることはないだろう。

だが、ソラはそんな軽装でいいのか?」

 

ダクネス先輩は騎士っぽい鎧を身に着けている。歩くたびに金属が擦れる音がしてる。

重くないのかな? やっぱり羽が気になる。物にぶつかっちゃいそう。

 

「お金もないしダイジョブです! いつもこんな感じで戦ってました!

クリス先輩こそ、ダイジョブですか? 短パンにサラシとマントだけですよ?」

 

サラシで寒くないのかな。服を着ればいいのに。

 

クリス先輩が短剣を取り出す。クルクル回して様々な持ち方を披露してくれる。

 

「あたしも大丈夫。盗賊には盗賊の戦い方があるからね」

 

一匹のカエルに向かってクリス先輩が歩き出す。後ろ手を振って背中を見せてくる。

 

「先ずはあたしがお手本を見せてあげるよ。

盗賊スキルの凄い所を見れば、ソラだって見直すこと間違いなしだね。

それに、スキルの使い方は誰かに教わらないと冒険者カードから取得できない。ちゃんと見ててよね」

 

そういえばそうだった。村に居た時みたいに練習しなくていいのは便利だなぁ。

 

「敵感知! まあ、他の人からはよく分かんないだろうけどね。

これで敵の位置や気が付かれているかが判別できるようになるよ。これがあれば、ソロでもパーティでも活躍できるからオススメのスキル!」

 

……もしかして、コックさんはこれを持っていたのかも。

誰もつまみ食いを成功させられなかった。兄ちゃんや姉ちゃんに意識を引いてもらっていても、包丁が飛んできた。

 

「次もとっても便利なスキルだよ。だけど、攻撃や大胆なことをするとバレちゃうから、使えばいいってものじゃない。タイミングと、使い方は考えてね。潜伏!」

 

クリス先輩の気配が薄くなった気がする。

 

そのまま足音を立てずに早足で一匹の蛙の背後に回り込んだ。

首元にナイフを突き立てて、左に斬り裂いた。蛙が気が付いて振り向こうとするも、反対側も同じようにする。蛙は動きを止め、ゆっくりと倒れていく。

しっかりと、倒れるのに巻き込まれないように離れて倒したことを確認している。

 

木を切り倒すみたいに両側を斬るといいんだ。あれなら血抜きも早くできるし、首もおとしやすそう。

上級者になると倒した後のことも考えて戦うんだ。ぼくにはまだ出来そうにないなぁ。背が届かないし。

 

―――――

 

こっちに戻ってきたクリス先輩は汚れた短剣を拭いながら話し始める。

 

「盗賊の戦い方、どうだった?」

 

「すごいです! 危なくないスマートなやり方でした!」

 

「うむ、騎士らしいとは言えないが、堅実な戦法だった。

クリスはダンジョンでもこういった方法で無駄な消耗を抑えてくれる。長丁場では消耗を抑えることも必要になる。ソラもこういった方法で仲間に貢献すると良いだろう」

 

やっぱり、経験者は違うなぁ。革職人さんより分かりやすい。あの人、基本的に使えるものはなんでも使えとしか言ってくれない。

ダクネス先輩はダンジョン攻略にも詳しいみたい。

 

「次はソラがやってみる? あたしの短剣も貸してあげるよ?」

 

腰から狩人さんから貰った短剣を取り出す。

 

「ダイジョブです! ぼくにはこれがあります!

村からアクセルまでこれでなんとかなりました!」

 

出立前に狩人さんが譲ってくれた。

導きの短剣、迷った時は月明かりがお前の道を照らすだろうと言ってた。

夜にはちょっと輝いている感じがして、隠れている時はひやひやした。

だけど、丈夫で切れ味だけはいい。コックさんの包丁には負けそうだけど。

 

「だったらお手並み拝見と行こうか。ソラの実力を見ていてあげる。

無理そうだったらダクネスと助けに入るから、心配しないでね。一発かまして来な!」

 

ぼくは余分な服や道具を外す。下着になってナイフと石を詰めた革袋だけを持つ。

 

「じゃあ荷物お願いします! 溶かされたら短剣を村にお願いします!」

 

「……えっ。なんで脱ぎ始めたの? これから戦うんだよ?」

 

一番近い蛙を見つけた。村に出たのより小さめだ。

 

「行ってきます!」

 

「おい、待て! クリス、ソラはスキルを習得したか⁉ いったん帰って来るんだ‼」

 

―――――

 

走りながら戦いの心得を思い出す。

 

お医者さまが言ってた、神への祈りだろうが恨みだろうが拳に籠めても大して結果は変わりません。ですが、その僅かな差が明暗を分けることもあります。要は、気持ちばかりで頭パッパラパーにならなければ良いのです。勝てれば何でも構いません。解剖対象が綺麗な方が好みですが、命が優先ですよ。

だから、蛙に食べられた人たちの顔を思い出す。

 

村長さんが言ってた、戦いなんてその前から結果が見えています。合理的な策を立てて、その通りにすればいいんです。だから、事前に相手のことを知りましょう。これが若くして村長に成り上がった私の秘訣ですよ。

ジャイアントトードの処理は村で何度もやって来た。だから、ダイジョブ。

 

蛙がこっちに気が付いて、長い舌が飛んでくる。

ぼくは脇を締め、腕を立てて顔の前で拳を構える。腹筋に力を込めて衝撃に備える。

 

予想通り、胸のあたりに舌が巻き付く。最高のパターンだ。

そのまま空中に持ち上げられる。

 

―――――

 

この時間は暇だなぁ。一応、運び人さんの言ってたことを思い出しておこう。

 

ジャイアントトードは地上で捕まえた獲物を一度空中に持ち上げる習性がある。これは余計な抵抗を封じるためだと考えられているんだ。動物は急激に視点が動くと固まる性質を持つものが多いからね。

舌の動きは初速が最も早く、持ち上げた後は力はそれ程込められていないみたいなんだ。獲物が蛙の真上に来ると、舌を引いて飲み込もうと口を開けて待ち構える傾向があるようだ。振りほどくならこのタイミングが最適だろうね。相手と自分の力がぶつかり合って隙間を作りやすいんだ。こういった行動は、対象が小さい程頻繁に観察できた。これは村での子供たちの協力してもらった検証から導き出されたんだ。

だから、ソラからもマザーにもあれは有用な研究だと伝えてくれないかな。地面が恋しくてたまらないし、手の感覚だってなくなっている。もう蛙に捕まえられた気持ちは十分に体感出来たと思う。そもそも、ジャイアントトードはこんなに長くは捕えたりせず、飲み込んで消化してしまう。お願いだ。足りないなら粘液の考察も聞かせてあげよう。だから、早くお願いだ。

 

空中で地上の蛙と視線が合う。地面に向かって強く引き寄せられる。

ぼくは全力で腕を広げて、巻き付いていた舌を引きちぎる。

導きの短剣を構え、引き寄せられる勢いのまま蛙の口に落ちる。

口を切り裂き、背骨で止められる。それでも蛙が飲み込もうとしてくる。

ぼくはがま口の中で革袋を振り回して暴れる。

 

蛙の動きが止まり、ゆっくりと倒れていく。

口の中にいるせいで、バランスが取りづらい。切り裂いた痕を手で開いて潰されないようにする。これを忘れた時は、かなり苦しかった。

 

身体に衝撃が伝わってきた。外からドシンと音がする。

蛙の口を開けて外に出る。身体はべちょべちょで気持ち悪いけど、痛い所はない。

今回は完璧に出来た! やっぱり誰かが見ていてくれると安心して出来る。

 

まだ安心したら駄目だ。

木こりさんが言ってた、人間もモンスターも殺しても中々死にません。二、三度殺さないと本当に殺められたか分かりません。決して、一度殺した程度で安堵してはいけません。

いつも寡黙なのに詳しく説明してくれたからよく覚えてる。

もう一度蛙に短剣を突き立てる。反応も無いからダイジョブ。

 

先輩たちの所に走って戻らなきゃ。蛙を倒した後って滑りやすいんだよなぁ

 

―――――

 

粘液で滑りながら先輩に評価を聞いてみる。ちょっと楽しい。

芝生でネトネトも落ちて一石二鳥!

 

「先輩! どうでしたか!」

 

「……ベトベトだな……蛙の口の中って……どんな感じなんだ……。

圧迫感とか、匂いとか……。とにかく詳しく聞かせてくれ!」

 

「絶っっ対駄目‼ 危ないから止めなさい‼」

 

あれ? クリス先輩には不評みたいだ。

このやり方なら効率よく確実に処分できるんだけどなぁ。やっぱり血抜きがやりづらいのがダメなのかなぁ。早く先輩みたいな技量を身に着けたいな。

 

「第一、なんで下着になったの⁉ 危ないでしょ‼」

 

「洗濯が面倒だからです!

今日の洗濯当番はぼくだからアクア先輩みたいに一気にできません!」

 

先輩はすごい。桶の中に手を突っ込んでグルグルするだけで綺麗になる。

 

「……言われてみればそうだな。私は洗濯を人に任せることが多いから気が付かなかった。

その口実を使わせてもらおう」

 

ダクネス先輩はうなずいてくれた。都会だとそうなんだ。

たしかに、クリス先輩も心配になるよね。敵相手にわざわざ防御力を下げるような人なんていない。だから、驚いちゃったんだろうな。

 

「……だったら、どうして舌をよけなかったの⁉ ソラのステータスなら出来るでしょ‼

それにさっさと引きちぎれば良かったでしょ‼ わざわざ口の中に入らなくたっていいでしょ‼」

 

……あぁ、舌がはじけ飛んで食べられないからかぁ。

あの部分は美味しくないらしいから子供は食べさせてもらえなかった。塩や果物で調整したり、切り方を色々工夫していたけど子供にはダメって言われた。大人たちで取り合うのに分けてくれなかった。都会だったら、そんな部位でもお金になるのかも。

 

そういう細かい所に気を配れるなんて、クリス先輩はやりくり上手!

 

「急所を狙えるからです! これが村での必勝法です! 子供でも簡単にできます!」

 

「ソラの故郷には中々見どころのある人がいるのだな。……ちなみに、他にはどういったものがある? 出来れば口より奥、消化されそうな時のものとかを聞きたいのだが」

 

「違うでしょダクネス‼ 今後はあたしみたいな戦い方をすること‼

えぇっと……そう! ソラは運搬をするんだからヌメヌメだと持って行きづらいでしょ‼

この後持っていくのが大変になっちゃったでしょ‼」

 

「そっかぁ……。忘れてました! ピンチの時以外は止めます!

先輩みたいなスマートなやり方で頑張ります!」

 

「……そうだな。ピンチの時だけだぞ。

ピンチの時は仕方ないからな……。うむ、そういう時は仕方ない。

本当にピンチの時は私も仕方なく使わせてもらおう! 躊躇うのが一番不味いからな!」

 

蛙ってダクネス先輩を飲み込めるの? 鎧を着てるから必要ないんじゃないかな。

……そっか、鎧がない時も想定しているんだ! やっぱり先輩はすごい! 木こりさんみたい!




カエルはこの世界では一般的な食糧です。
フランスや昔の新宿区でカエル漁がされてたんですか⁉
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