モンスターの配送のお仕事のおかげで、お金にちょっとだけ余裕が出来てきた。
しかも、待機するだけでお金がもらえる時間まで出来ちゃった。
なにもしていないのにお金が貰えるなんて、運び人さんの実験みたい!
ちょっと前まで食費や馬小屋代を払ったらちょっとしか余裕がなくなっていたのに、今は貯金だって出来ちゃう。腕に付ける盾だって買えちゃった!
あれ、でもこれ使ったことないな。潜伏のおかげで使う機会もないかも。まあ、いつか活躍してくれることもあるでしょ!
ルナさんから、冬が近いからそれに向けて貯金するように言われている。一応、マザーのおかげで、冬だけはおてつだいをする代わりにエリス教会に泊めてもらえるようになっている。だけど、絶対に貯金をするようにきつく言われている。
ルナさんやギルドの人から、冬は初心者が街の外に出ると危ない、クエストも高難易度のものばかりになって戦うなんて馬鹿げているものになるって何度も何度も言われてる。せめて、上級職がいるパーティにでも入れてもらえなければ止めておくように言われている。
退屈だから、無意味に敵感知や潜伏を発動してみる。
使えば使うほど熟練度があがるってクリス先輩が言ってた。お仕事に向けて余力を残さなきゃいけないけど、蛙ばかりであんまり必要ない。まだ実績が少ないから街の側のしかさせてもらえない。乗馬スキルも教えてもらったけど、使うチャンスがない。
遠くから大きな音が聞こえて、地面が揺れた気がする。最近こんなことが起きるようになったって門番さんが言ってた。なんでも、強力な魔法使いが原因の可能性が高いらしい。そんな魔法が使えるなんてすごい!
蛙と言えば、パーティによって討伐の仕方が結構違う。
脳天に矢が刺さっていたり、魔法で凍らされていたり、首と身体が離れていたり。
そういう配送物を見ると運び人さんの言ってたことを思い出す。
事例はいくつあってもいい。だから、それぞれを記録して比較するのが大切なんだ。例えば、ジャイアントトードは比較的大きな獲物は直接丸のみにする傾向があるんだ。教えてあげたから、マザーに内緒で宙吊りから降ろしてくれ。お願いだ。
改めてぼくも観察してみたけど、分かんない。文字を書くのも苦手。こういうのはお医者さまみたいに頭が良くないと難しいと思う。
「おぉ~い、次のジャイアントトードの回収が入ったぞ」
「はい! ぼくが行きます!」
席から立ち上がって依頼書をもらう。走りながら内容を読み込む。
……出る門、逆だ!
―――――
ギルドから渡されていた魔道具でモンスター搬送サービスを呼び出す。
アクアとめぐみんが食われている間に、俺が剣でジャイアントトードを二匹倒した。
途中、アクアが効きづらいと分かっているのに打撃を打ち込んだり、めぐみんがダウンしてしまうトラブルがあったが、何とか乗り切った。
同居人の金髪の子供が近づいてくる。
「あれ、ソラじゃん。どうした? お前もクエストか?」
「カズマ先輩おはようございます!
ぼくは配送サービスです。討伐したパーティか確認をしなきゃいけないので冒険者カードを見せてもらってもいいですか? それとサインお願いします」
カードを取り出して、代わりに書類にサインをする。
前に頼んだ時はガチムチのおっさんだったけど、子供でもできるのか。馬とか運ぶのに必要そうなものは見当たらない。……さては、急いでいて忘れたな。
こいつはこういうおっちょこちょいな所がある。洗濯物を取り込み忘れたりもする。
「おお! この二日間で三匹も倒したんですね!
戦ったことがないって言ってたのに、すごいです!
最初は怖くて中々できないですよ! えらい!」
ソラが飛び跳ねながら褒めて来る。
「お腹を綺麗に斬りましたね!
これならお肉も取りやすいし、血抜きもしやすい。解体業者さんにも喜ばれますよ!
買取も満額出るでしょうし、ぼくも運びやすいです!
こういう上手なのは、中々ないですよ!」
やはり、最初っから蛙は大変なんだろう。
俺たちにはちょっとハードルが高すぎたのかもしれない。だが、やり遂げて見せた。
胸の中に、たしかな達成感が湧いてくる。
「そっか~、俺たち結構頑張ったからな~。
期限が三日の所、一日余らせて終わらせちゃったんだぜ。
いや~、そうそう、ジャイアントトードは金属を身に着けていると、あんま近づいてこないんだぜ。ソラも蛙に気を付けてバイト頑張れよ!」
「はい!」
「ソ~ラ~、どうして私たちのことを無視するの⁉
私は⁉ こんなヌッメヌメの私には何もないの⁉」
……子供に粘液まみれのアクアを見せていいのだろうか。喋らなければ、こいつの見た目はそれこそ女神みたいに整っている。流石に不味いのではないだろうか。主に少年の色々に。
「囮になるときは下着になるといいですよ。洗濯の手間が減ります。
後で食べられるときのコツ教えましょうか?」
容赦ない!
普段はなんでも、すごい! とか、えらい! みたいな反応だろ⁉
……ヌメヌメの姿を見て、ついにアクアへの愛想が尽きたのか。考えてみれば、初対面は女神を名乗る不審者。そして今では自分を女神と思い込んでいる残念な女ということになっている。……もしかしなくとも、神を冒涜するような光景なんじゃないか。
逆に、なんでソラは俺たちと同居してるんだ⁉ 中世なら殺されてるぞ⁉ ファンタジー中世万歳!
「うわ~あぁあん‼ 変なアドバイスまでしてきた~‼
もっと褒めて‼ 私をチヤホヤして‼ ほら早く‼」
「大変な囮役ができてえらい! 生き残れてえらい!
メイスンは骨だけになったのに、アクア先輩は元気でえらい!」
知らない人が消化されちゃってるじゃん!
ジャイアントトードって結構危険じゃねえか!
……そういえば情報収集で、この時期は子供や農夫が飲み込まれると聞いた。新人を脅かすための冗談じゃなかったのかよ‼ 怖っ‼
「そうよ、そうよ! そういうのがいいの! 女神たる私は蛙なんかに負けないの!」
生臭女神……とは言うまい。口に出したらまた泣き出して面倒になりそうだ。
ソラの雑な褒め言葉でアクアの機嫌も直った。夕方も近いし、さっさと撤退するのが吉だな。
ソラへ書類を返す。
「蛙の中って臭いけど、いい感じにぬくいんですよ。貴方も覚えておくと何かの役に立つかもしれません」
「初めまして! ソラって言います!」
「我が名は……魔力を使いすぎて動けないので後で名乗らせて下さい……。
爆裂魔法を唱えたので……勘弁してください……」
「爆裂魔法すごい!
さっき待合所も揺れましたよ! 門番さんも噂してましたよ!
あれが爆裂魔法のせいだったんですね! 強そう!」
「ふっふっふ、我が爆裂魔法はどれだけ離れていても響き渡る。ネタ魔法だの言われていますが、偉大さが分かったでしょう。さあ、カズマたちに良さをアピールしてあげてください」
「お仕事があるのでできません! 蛙が腐っちゃいます!
爆裂魔法は見たことないです! 揺れることしか知りません!」
爆裂魔法より蛙が優先されためぐみんは、心なしか落ち込んでいるように見える。粘液まみれのままうつぶせになっているから、本当のところは分からない。だが、微動だにせず黙ってしまったあたり、相当堪えたんだろう。
……おぶって運んでやるか。
―――――
ソラが蛙二匹を仰向けにする。そのままそれぞれの上あごを掴んだ。
「おいおい、流石にそれは無理があるんじゃないか。馬車とか、せめて荷台とかは無いのかよ。前の人はちゃんとそういうの使っていたぞ」
「蛙の皮は丈夫なのでダイジョブです! 革職人さんも言ってました!」
……こいつは会話が通じない時がある。誰がどう考えたって小さな子供が、自分の何倍も大きな物体を運べるわけがない。その絵面は、子供がぬいぐるみを引きずるようなものだ。あれは中身が綿だからできる。
「カズマ先輩たちも気を付けて帰って下さいね! 洗剤はぼくの使っていいですよ!」
そういうと、ソラが土埃に包まれる。生じた風で視界が奪われる。
目を開けられるようになった頃には、ソラは遠く離れた位置まで駆けていた。
蛙二匹は地面に引きづられない程度に浮いていて、手足がバタバタとしている。正しく、さっき思い浮かべていたような光景が現実になってしまった。
ガチムチのおっさんより子供の方が腕力あるのかよ‼
異世界怖っ‼
そんなパワーがあるなら戦えよ‼ バイトなんてしてんじゃねえよ‼
もしかして、アクアが上級職縛りをかけなきゃソラがパーティに加わってたんじゃねえかな……。あとで募集書を訂正させよう。