最近は少しだけ街近くのモンスター運送サービスを利用する人が減っているみたい。今日は待合所じゃなくて、ギルドで待たされている。もし、ぼくが行けるところでの依頼がないようであれば、今日は街中の配送をすることになっている。
ルナさんが言ってた、強力なモンスターが移動してきたりするとそれより弱いモンスターは隠れてしまうの。だから、この付近にそういったモンスターがいるのかもしれないね。何か変わったものを見つけたら報告してね。
このままだと、ぼくのお仕事がなくなっちゃう!
だけど、お仕事以外で街の外には一人で行かないように言われてる。出来ることが思いつかない。暇なままボーっとしていると、大きな声がする。酒場の方からだ。
アクア先輩が頭にコップを乗せ、そこから植物を生やしている。その周りにはたくさんの人だかりができていて、騒いでいる。
すごい! どうやってるんだろう! なんで頭に乗っける意味があるんだろう?
どうせやることもないから、近くに行ってみよう。待機用の椅子の上に退席時の札を立てる。その横に、ギルドの側にいると付け足す。
これでダイジョブ!
―――――
アクア先輩の前で大道芸を見せてもらう。
扇から水が出たり、つぼみだった花が突然咲いたりしてすごかった!
だけど、花だけは仕掛けが分かった。あれは内職で作ってたやつだ。
ぼくも一緒に作っていたけど、アクア先輩の方が上手だった。その中でも最高のものはアクア先輩が名前を書いて納品していなかった。茎にアクアって書いてあったから分かった。
だけど、それをどうやってつぼみにしたんだろう?
突然、肩が叩かれる。振り返ると、クリス先輩とダクネス先輩が居た。
「おはようソラ。これからオススメの盗賊スキル教えてあげるけど、来る?
もしかしたら、さっきの宴会芸よりすごいかもね」
「行きます!」
―――――
先にダクネス先輩とギルドの裏の人通りの少ない所に行く。
クリス先輩は別の人にも同時に教えるつもりらしい。面倒見がいい!
待っている間に色々ジャイアントトードのことについて聞かれた。なんで蛙なんかにそんな心配してるんだろう? クルセイダーのダクネス先輩なら簡単に倒せるだろうけど。
「おっ、カズマ先輩! おはようございます!
今日は工事じゃないんですか? 蛙狩りですか?」
「俺たちも冒険者だからな。スキルを覚えてステップアップしようと思ってな。
……蛙は勘弁してやってくれ。アクアとめぐみんのトラウマになっちまってる。頭からぱっくり食べられて粘液まみれになったからな」
「ヌメヌメで滑るのも楽しいのに……」
「まあまあ、そんなことより盗賊を教えていくよ。この間ソラに教えなかった、別のオススメスキルもあるんだから!」
「すごい! まだあるんだ! 盗賊便利!」
―――――
そこからクリス先輩はダクネス先輩を敵に見立てて敵感知や潜伏の実演をしてくれた。ぼくはもう習得したスキルだけど、カズマ先輩に教えるためだ。先輩のスキルはかなり洗練されているのか、目の前にいるはずなのにちょっと見失っちゃった。
「それで、次が今日最後のスキル。ソラにもまだ教えていないスキルだよ。あたし一押しのスキル、窃盗だよ」
「なんか勇者っぽくない……」
「これは相手の持ち物を何でも一つ、ランダムで奪い取るスキルだよ。成功確率はステータスの幸運に左右されるよ。強敵相手に武器を奪ったり、大事にしている物だけをかっさらって逃げたり、色々と使い勝手のいいスキルなんだよ」
幸運が必要なんだ……。ぼくには使えそうにない。
教えてもらえるのは嬉しいけど、スキルポイントがもったいないかな。
「確かに、色々と使い道がありそうだな。
ランダム性があるのが気になるが、上手くいけば相手を一発で無力化できるかもしれない。俺は幸運が高いらしいから、覚えておくと便利そうだな」
「じゃあ、キミに使ってみるからね。 いくよ! スティールっ!」
クリス先輩が片手を突き出して、ほんのり光る。いつの間にか、その手の中に小さな袋を持っていた。
「あっ! 俺の財布!」
泥棒だ!
酒場のお姉さんが言ってた、やられたら倍にして返せるチャンスよ。叩きのめして相手から全て奪ってあげなさい。二度と歯向かえないように、身ぐるみも尊厳もはぎ取りなさい。ソラも大きくなったら、何度も収穫できるように加減を覚えるといいわ。
……クリス先輩をボコボコにはしたくないなぁ。都会では何本までなら骨を折ってもいいのかな。
「当たりだね! こんな感じで使うってわけ。
ただ返してあげるんじゃつまらないから、あたしと勝負しない?
キミ、早速窃盗スキルを覚えて試してみなよ。あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。キミの財布だろうが、この四十万エリスは下らない魔法のダガーでも文句は言わないよ。掛け金はキミの財布!
どう? ……勝負を受ける覚悟はある?」
「アウトロー! すごいアウトローっぽい!」
「……ふっ。その勝負、乗った! 何盗られても泣くんじゃねぇぞ!」
「カズマ先輩も博打打ち! すごい冒険者っぽい!」
そういえば村長さんが言ってた、負けてもその倍額を賭け続ければいつかは勝てる。これが合理的でクレバーな人間なのですよ。だから、今日だけは内緒でご飯を分けてください……。
カズマ先輩が負けたら、蛙のからあげを分けてあげよう。
美味しいから元気になってくれる!
―――――
カズマ先輩が冒険者カードでスキルを習得する。
クリス先輩と向き合って、片手を突き出した。
「あたしはノリのいい人って好きだよ! さぁ、何をつかみ取れるかな?
財布は敢闘賞。当たりはあたしの得物。そして、残念賞は多めに拾っておいたこの石だよ!」
「きったねえ⁉ そんなのありかよっ!」
「クリス先輩が言ってた、使える手段は何でも使えって。すごい!
こういうことだったんだ。そこらへんの石でカズマ先輩のお財布を取る気だ!」
「冒険者なんてやってると甘い話なんて無いって分かるからね。先輩からの愛のムチだよ。ソラもよーく覚えておくこと!
これもお得な授業料だよ。どんなスキルも万能じゃない。対策を立てられるとどうにもならなくなっちゃうこともある。だから、パーティを組んで仲間と一緒にクエストに挑むんだよ。ソロは絶対駄目!」
「……弱肉強食ってわけか。いい先輩だぜ、クリス! よし、やってやる!
俺は昔から運だけはいいんだ! スティールッ!」
カズマ先輩が叫ぶと同時に手が光る。
―――――
カズマ先輩が拳を開く。白い布を盗んだみたいだ。
……ハズレだ。お財布とハンカチを交換なんて悲しすぎる。
ぼくのからあげと掃除当番の押し付けを交換させてくる姉ちゃんみたいなレートだ。
「ヒャッハァー! 当たりも当たり! 大当たりだあああああ‼」
……カズマ先輩も壊れちゃった。
毎日工事現場で働いて、夜は馬小屋で内職を頑張っていた。その成果が……ハンカチ……。そういえば、突然夜に叫んだりもしていた。
……しばらくはご飯をおごってあげよう。美味しいものがあれば元気になれる。
カズマ先輩は布を振り回し始めた。クリス先輩は涙目で股を抑えている。
「いやあああ‼ ぱ、ぱんつ返してぇええええ‼」
「なんという……鬼畜の所業……私の目に狂いはなかった‼」
ぱんつなんだ。そうか!
「すごい! もうスキルを使いこなしてる!
身ぐるみと尊厳を奪うってこういうことなんだ!」
―――――
ギルドのアクアたちの元へ戻る。
今の俺の心は満たされている。ボーイッシュ系銀髪美少女のぱんつを手にした挙句、懐も潤った。しかも、一連のやり取りをキラキラとした目で見て来る後輩もいる。冒険者っぽいことまで出来た。どうせだから、アクアたちにも俺の武勇伝を聞かせてやろう。
涙目のクリスの様子にアクアが興味を抱く。俺が口を開くより先に、ついてきたダクネスが説明を始めた。
「クリスは、カズマにぱんつをはぎ取られたうえに、あり金全てをむしり取られて落ち込んでいるだけだ」
「おい! あんたなに口走ってんだ! 間違ってはないけど、ちょっと待って!」
アクアとめぐみんの目が冷ややかに俺を見ている。
俺に対して男性冒険者の笑顔と女性たちの軽蔑する視線が刺さる。
「すごかったです! 教えてもらいたてスキルをクリス先輩に対して使いこなしてました!
それでぱんつをとって、振り回してました! あれ、なんですぐにぱんつって分かったんだろう? 白い布切れみたいなのに?
とりあえず、戦うときはぱんつを履かないほうがいいって教わりました!」
子供のキャッキャとした声でギルド内の視線が更に俺に集まる。
男性陣もドン引きした表情になり、受付のお姉さんたちがこそこそ内緒話を始めている。
「ソラ! 今はそういうの要らない! 要らないから!」
「授業料を返すからぱんつ返してって言ったら、カズマが……ぱんつ返して欲しければ自分で値段をつけろって……」
「お願いだから待って! 俺が説明するから!
女性冒険者たちの目がヤバイから、ほんと待ってって!」
「それで俺を満足させられなかったら、ぱんつは家宝として祀られるって……」
「冒険者は転んでもただでは起きない。カズマ先輩はクリス先輩の教えを忠実に守ってました! ぼくも見習います! ぱんつを奪うだけで全部が手に入ります!」
「や、止めろぉ‼ 今お前が口を開くと俺の評判が落ちるんだよ‼」
「カ……カズマ、あんた……」
「アクア‼ お前までそんな目で俺を見るな‼ 見ないでくださいお願いします‼」
ダクネスが俺とアクアたちの間に立ちはだかる。
「恩人のぱんつを剝ぎ取ったうえ、公衆の面前でその事実を晒上げるとは、真の鬼畜だ許せない!
ぜひとも私を貴方のパーティに入れて欲しい!」
「要らない」
目の前の変態から短い喘ぎ声が上がる。断られて、喜んでる。
この女は見た目以外は駄目な奴だ。これ以上おかしな奴をパーティに加える訳に行かない。
後ろからひそひそ話が聞こえてくる。
「クリス先輩、こんな感じで良かったんですか?」
「うんうん、やられても相手に一矢報いるのが冒険者! しっかり覚えておくんだよ。
でも、ぱんつは奪っちゃ駄目だからね。人として駄目だから、真似したら怒るからね」
「……ダメかぁ。ぼくも3分で何十万エリスを稼ぎたかったです……」
振り向くと、クリスが舌をペロっと出していた。
あの野郎……今度はギルドの中でぱんつ晒してやろうか。