ソラが受付のお姉さんに呼ばれていった。
俺たちはとりあえず酒場の席に座って今後のことを話していたら、ダクネスのパーティ入りが半ば確定みたいな雰囲気になってしまった。
「同じ前衛職ならソラの方がいい。
俺とアクアは同じ馬小屋で暮らしてるんだし、どんな人間かは分かってる。こんなおかしな奴よりそっちの方がいいだろう」
「ふみゅ!」
例えステータスが高くとも、一々変な声を出す奴はお断りだ。そういうのはゲームでなら構わないが、現実では話が違う。ちょっと見た目がストライクなお姉さんだからって、おかしな奴をパーティに入れる訳にはいかない。
「ソラは上級職にはなってないが、ステータスだってそれなりにありそうだ。蛙二匹を一人で運べるんだから、力だって高そうだろ。今の俺たちに加わってくれればバランスも良くなる」
「やはり私の目に狂いは無かった! 容赦なく私をこき下ろしてくれる!」
「……あのう、言いずらいんだけど、無理だと思うよ」
「どうしてクリス? この女神たる私や爆裂魔法しか使えないけどアークウィザードのめぐみんだっているのよ? こんな上級職だらけのパーティ、アクセルには他にいないと思うの」
「……その、小さな子供を盾にするようなことはギルドが止めるかなあって……」
はうっ!
頭を抱え、耳を塞いで顔を伏せる。
そうだった。いつの間にかこの異世界生活で倫理観が薄れてしまっていたが、ここはゲームや漫画の世界じゃない。そんなことをさせたら鬼畜と思われちまう。ギルドでかわいがっているソラにそんな思いをさせようとしたら職員が止める。
……ヌメヌメした服の洗濯を任せるのは大丈夫だよな? 合法だよな?
「それに……その、キミたちの素行が……」
「カズマが問題って訳ね! 包容力のあるこのアクア様が居ればギルドだって許してくれるわ!」
あいつ、自分のことは棚に上げやがって。
気持ちよく酔った時は寝ているソラを起こして長々と話してくるくせに、一丁前に保護者気取りか。
「……あの、いきなり女神を名乗る人は……それにギルドの酒場に借金が……」
「はう!」
アクアも耳を塞いでクリスから顔を逸らした。
おい、なんか嫌な言葉が聞こえたぞ。
今度はめぐみんが無駄にかっこつけたポーズを取りながら口を開いた。
「つまり、カズマとアクアが原因だと言いたいと。
強力な前衛は詠唱のための時間稼ぎとして私も所望しています。
大丈夫、私は妹も居ますし子供の面倒を見慣れています。ソラは将来的に魔法を覚えたいともカズマたちから聞いています。
この紅魔族の随一の知力をもってすれば、全てを改善出来ます!」
「……えぇっと、騒音問題が……。めぐみん、そろそろ本気で逮捕するか協議されてるらしいよ。
……どうしても爆裂魔法を撃ちたいなら、もう少し街から離れた場所でした方がいいんじゃないかな」
「はう!」
ヤバイ! 社会的に本当に不味い!
このままじゃ、パーティメンバーから前科者が出ちまう!
「ほう、カズマ以外にも中々見込みがあるかもしれないな。やはり私をパーティに加えるべきだ! どんなことでもクルセイダーたる私が受け止めて見せよう!」
不味い!
この変態を断れない流れになってきた。というか、ギルドから俺たちってそういう風に見られてるの⁉
心当たりは……これでも転生してから頑張ってるんだぞ⁉
「緊急クエスト! 緊急クエスト!
冒険者の皆さんは至急正門に集まってください! 繰り返します!」
何か分からんが、しめた‼
「おいおい、一体なんなんだ! 俺たちの大事なこれからを話しているって時に。だが、助けに応えるのも冒険者の義務! とりあえず走るぞ!」
椅子から立ち上がって正門へ向かって走る。
「いい機会だ、私の実力を見てから決めても遅くないだろう」
俺の横を並走してくるクルセイダー。ついてくるなよ。しつこいなこの変態。
―――――
街中は人通りがなく、窓や扉が締め切られていた。
冒険者以外の人影は見当たらず、普段の活気が嘘のようだ。
正門を駆け抜けて他の冒険者たちが集まっている所に近づく。
「なあ、ところで緊急クエストってなんだ? 名前からしてヤバそうな感じだが」
「恐らくキャベツだろう。そろそろ収穫期だしな」
この変態は頭まで回っているのか。……いや、こんな世界だから何かトンデモ生物の可能性もあるな。
「キャベツ? モンスターか何かの名前か?」
「緑の丸いやつです。噛むとシャキシャキの美味しい野菜です」
「そんなことは分かっとる! どうして畑で刈り取るのが緊急クエストなんだ? 呼び出して農家の手伝いでもさせようってか⁉」
「あー……カズマは知らないんでしょうけどね、この世界のキャベツは飛ぶの。
美味しく育つと海を渡り、大陸を渡り、人知れない所で朽ち果てていくの。だから、その前に捕まえて、美味しく食べてあげようってことよ!」
野菜のくせに、畑にすらいないのかよ!
「皆さん、緊急の呼び出し失礼しました。
今年もキャベツの収穫です! 今年は出来がよく、一玉一万エリスです!
では皆さん。出来るだけ多くのキャベツを捕まえてここに納めてください!」
冒険者たちは雄たけびを上げている。武器を掲げ、ガチャガチャと鎧が擦れる音がする。
熱気が上がり、よく分からないが俺のテンションも上がってきた。
「ウワーッ! キャベツだぁあああああ‼」
そんな中、ソラがいつも見る受付のお姉さんの横で頭を抱えて蹲っている。
―――――
アクアがソラに駆け寄って、抱き上げてこっちに戻ってきた。
「ねぇ、どうしてソラはキャベツを怖がっているの? 野菜嫌い? 私が食べてあげようか?」
アクアに頭や背中を撫でられているソラが小さく口を開く。
「あ、あいつらは毎年村を破壊していくんです……」
思ってたのと違う!
そんな悲しき過去……みたいな雰囲気じゃないだろ。冒険者のみんなはやる気マンマンだ。それに、キャベツだぞ! 日本ならスーパーで並べられてる野菜だぞ!
ソラは俯いたままポツポツと話し続ける。
「村のみんなで毎年あいつらの群れから村を守ろうとするんです。でも、あいつらが通り過ぎる頃には村の建物のほとんどが壊され、地下に隠れていた人は大体生き埋めになります。どれだけ強い人でも、コックさん以外のみんなはズタボロにされます」
魔王軍に村が焼かれたみたいになってる!
……キャベツだよな? 本当にキャベツだよな?
「過ぎ去った後は、みんな一か月は屋根の無い中で眠ることになります。
冬までに何とか建物を再建しないとみんな凍死します。
そして、片づけきれないキャベツを狙ってモンスターが来たり、片付けきれなかったものが腐って匂いがきついんです。
キャベツ……あいつらは……悪魔です……」
キャベツって何だよ‼
緑の丸いシャキシャキした野菜ってめぐみんが言ってただろ! イナゴか!
……俺はキャベツ相手に命を賭けにゃならんのか。……日本に帰りたい。
「大丈夫だ。アクセルは丈夫な防壁に包まれている。建物が壊されるようなことはない。
人口が多いからキャベツは直ぐに片づけられる。それどころか、例年足りないくらいだ」
ダクネスが優しくソラの頭を撫でる。同じ金髪同士で、姉妹のようにも見える。
……中身がまともだったらなぁ……。
ソラが顔を上げる。
「すごい! ならやっちゃいましょう!」
立ち直り早! ……みんなの仇とかそういうのではないのね。
―――――
遠くの空から緑色の帯のようなものが近づいてくる。目を凝らして観察すると小さな点のようにも見える。
「キャベツに直撃すると怪我を負いかねない。私が注意を引いてくる!」
ダクネスが走ってキャベツの大群へ向かう。敵のヘイトを集めるスキル、デコイを使ったのかダクネスめがけてキャベツの群れが方向を変える。
「あの騎士様、身を挺して囮を買うつもりよ!」
他の冒険者に好意的に解釈されてる!
「俺も彼女を見習わなくては……だが、レベルが足りない!
あんな大群に挑んだら、命がいくつあっても足りないぞ!
……くっ、見ていることしかできないのか! 頑張ってくれ、騎士様!」
絶対に違います。あの変態の趣味です。というか、大丈夫なのか?
ダクネスにキャベツがぶつかり、鈍い音が響く。段々と鎧が剝がされてその下に着ている服が見えてくる。それでもキャベツたちは衝突していく。服まではだけ、煽情的な格好になっていく。
「騎士は守るもののために、一歩も引かない‼
もっとだ! もっと私を打ち据えてみせろ!」
「あれが、クルセイダー……。かっこいい……」
不味い! ソラがいつもと違う反応をしてる! 健全な子供のなにかがおかしくなる!
訂正は……駄目だ、流石にキラキラした目で見ている子供の夢は壊せない。
「我が爆裂魔法の前では、如何なるものも塵に同じ」
まためんどくさい奴が‼
―――――
「あれほどの大群を前にして、爆裂魔法を放たないことがあろうか。いや、ない」
強大な魔力がめぐみんの杖に集まっていく。その余波で大気が揺れている。
「エクスプロージョン‼」
キャベツの大群の中心で、大爆発が生じる。
群れの近くにいた冒険者は飛ばされ、ダクネスは嬌声を上げながら空を舞っている。
魔法が収まり視界が晴れた頃、キャベツの群れは分断されていた。
「すごい! 爆裂先輩! 爆裂先輩はすごいんだ!」
「ふっ、爆裂先輩……。いい響きです。ですが、名前で呼んで欲しいのですが」
「名前知りません! 誰ですか!」
「ふふふ、今は疲れているので紅魔族式の名乗りは後にさせてください。
ほら、キャベツを倒しに行きなさい。村での恨みもあるのでしょう。報酬で生活も楽になりますよ」
「はい! 爆裂先輩の安全を確保してから行きます!」
ソラが言うなり、めぐみんを掴んで投げ飛ばした。
キャベツを保管するプールに着水し、水しぶきを上げる。
なんでだ⁉
―――――
ソラがこちらに寄って来る。ちょっと怖い。
「アクア先輩! ぼくを投げてください!」
「ソラ、プールに飛び込むのは楽しいことだけど、今は我慢しなさい!
一万エリスが飛んでるのよ! 頑張ればシュワシュワだって飲み放題よ!」
「村での戦法です!
子供たちは盾で円陣を組んで投げてもらいます。それで空戦に対応するんです!
芸術家さんみたいに斬撃を飛ばしたり、マザーみたいに空を蹴って動けないので!」
怖えよ! なんでそんな村が負けるんだよ!
……俺は隠れて集めよう。そんな村が負ける相手に戦える気がしない。
「しかたないわねぇ~、支援魔法もかけてあげるから頑張るのよ!」
アクアが次々に魔法をかけ、ソラと両手をつなぐ。そのままクルクル回り始め、遠心力でソラの足が浮き始める。更に勢いをつけて、独楽のように回転する二人。
「だりゃぁああああ! これは金メダル間違いなしね!」
ソラはキャベツの群れに飛んで行った。
空中でいくつもの緑を打ち落とし、倒れたダクネスの側へ着地した。
少しすると、今度は俺たちの横に大きな音を立てて恍惚としたダクネスが落ちてきた。
……ソラがこっちに手を振りながら、片手でキャベツを処理してる。
どこらへんが受けたのか気になるので、ここすきや感想をもらえると助かります。
この後からちょっとシリアスも入るって、本気ですか⁉