魔法少女さやかffマギカ 作:まどマギ中毒
「美樹さやか。あなたは自分の人生が尊いと思う?家族や友達を大切にしてる?」
「へ?」
踵を返した体調不良を訴える転校生、暁美ほむら。彼女の付き添いに呼ばれた"保健係"、美樹さやか。
その道すがら、ほんの少しの雑談を交えた後、さやかはそんな電波な質問をされた。
「えっと…まあ、大切だよ。」
その質問の意図はわからなくても、その問い自体には答えられる。お父さんやお母さん、いつも一緒にいる友達たち…それと…いや、あいつも友達だし。
「本当に?」
「ホントホント。」
「そう。もしそれが本当なら、無理をしてでも誰かのためになろうだなんて思わないことね。さもなければ、全てを失うことになる。」
この転校生、大丈夫なのだろうか。さやかの中にそんな気の抜けた感想が湧いてくる。
至って真面目な表情で言われるから、なんとか笑うところまではいかないが、それでも『なんか変わってる』と思ってしまう。
「あなたは、これまで通りの美樹さやかでいればいい。焦る必要なんてないのだから。」
「へえ〜なんか、ちょっと変わった感じの子なんだね。」
いつも通りの3人で来たファミレス。飲み物を頼み、事の顛末を話したさやか。さやかの迫真の演技を聞いた鹿目まどかは、いつも通りのほほんとしている。
「ちょっとどころじゃないよ。文武両道、才色兼備のクールビューティーかと思ったら、私に対してだけは電波なサイコさん!?キャラ濃すぎってレベルじゃないよ。」
「あぁ…さやかさんだけに見せる裏の顔…きっとこれは、禁断の恋の始まり…それは許されざることですのよ!」
「ちょっと!?仁美!?」
花も恥じらう乙女、志筑仁美。きっと彼女の頭の中は百合の花が咲き乱れていていることだろう。
「でも、さやかちゃんは暁美さんとは本当に今日初めてだったの?退院したばっかりだって言うから病院のどこかですれ違ってたのかも。」
「いや…そうだとしても、それだけでこの扱いはどうなの。」
記憶の奥を弄ってみてもあんなクールビューティーはどこにもいない。
「また明日、本人に確認してみてはどうでしょう?案外、不器用なだけで仲良くなりたいだけなのかも知れませんよ。」
「まあ、それがいいかな。ちょっと話しただけで決めつけちゃうのもあれだしね。」
性格が悪いって感じでもなかったし、頭も良さようだった。仲良くなれば勉強教えてもらえるかも。
それに、いきなり"ほむら"と呼んで、なんて言って来たりもした。文武両道、才色兼備だけど実はコミュ症で人とどう接すればいいかわからない。
くぅーそこが萌えなのか!きっとあの電波発言も転校前に必死で考えて来たものに違いない。
なら、それに応えてあげるのが礼儀ってもんでしょ!
「あら、もうこんな時間。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」
「今日はお茶?日本舞踊?」
「ピアノのお稽古です。もうすぐ受験だっていうのにいつまで続けさせられるのか。」
いやはや、ブルジョアジーは違うなぁ。毎日のように習い事を入れている友人に、大いなる尊敬とほんの少しの同情が入り混じる。
「まどか、今日は行けそう?」
「ごめんね。今日も先輩にお呼ばれしちゃって。」
最近…というかここ1週間ぐらいまどかの付き合いが良くない。先輩とやらに毎日お呼ばれしてるらしく、今週はまだ一回もCDショップに行けていない。
悪い人に騙されているのではなかろうか?大丈夫なのか?最近妙に自信ありげだし、綺麗な"指輪"までつけちゃってるし。
…はっ!
先輩…お呼ばれ…指輪…赤色のリボン…突然自信を持てるようになる。
まどか、つまり、そういうことなのか…
「さ、さやかちゃん?どうしたの?急にニヤニヤして。」
「いやいや、なんでもないよ〜。ささ、まどか、先輩にお呼ばれしてるでしょ?待たせちゃダメだって。」
戸惑うまどかを押して店を出る。
まどかも隅に置けないなぁ。まったく。
手芸部と園芸部を掛け持ちしているらしいから、そのどちらかの先輩だろう。
家庭的な男子。なるほどなるほど、まどかのお父さんに通ずるところがある。
「それじゃあ、頑張ってね。」
「頑張るって…あ!そういうのじゃないよ!」
その反応…当たりだな。
「うんうん、大丈夫。私はわかってますから。」
「本当に違うって!」
「はいはい。それじゃあ、また明日。」
まどかは唇をムッと尖らせて、少し不満そうにしている。
「それじゃ、またね。」
手を振って走っていく。あの焦りようから考えるに結構時間ギリギリだったのだろう。そう考えると、時間をとらせてしまって申し訳なく思えてきた。
まどかが見えなくなってから、ただの独りで帰路に着く。夕焼け空はまだ見えないが、日はだいぶ傾いている。いつも通りは賑やかな景色も、どこか他人事みたいに思えてしまう。
ああ、そうだ。あいつにCD買って行ってあげないと行けないんだった。
この前渡した時は喜んでもらえたし、次も喜んでもらえるようにいいやつを探さないと。
…まどかは一歩先に行っちゃったんだ。私だって。
『たすけて』
少年なのか少女なのか、はたまた別の何かなのか。可愛らしくも苦しさ紛れる声が頭の中に流れ込む。
『僕を、助けて。』
「えっ、なに?なんなの?」
理屈はわからない。ただその声に導かれるようにさやかは走る。橋を超え、CDショップを通り抜け、再開発地区に入り込む。
建設中で鉄筋が剥き出しの建築物の中に、一匹の白い生物が倒れ込んでいた。
「私を読んだのはあんた…なの?猫…たぬき?」
白く無機質な体毛と、ふさふさのしっぽ。耳には金色のリングが付いている。だが、その白い体毛は、赤く滲んで砂埃で薄汚れてしまっていた。
さやかはそれにそっと近づいて、その手で触れてみる。滑らかな手触りはどこかぬいぐるみのようで、野生動物とは思えない。
「…ッ!?」
鎖が重力に従って落ち、空中で擦れ合う。薄暗い建物の中で、響き渡る金属音。その音を辿って視線を動かすと、そこには少し派手な制服?のような服装をした少女が立っていた。
黒髪ロングのクールビューティー、そのシルエットは、暗くともそれが誰であるかを判らせる。
「転校生…?」
「そいつから離れて。」
右手には拳銃、左手には小さな円形の盾。さらに、少しゴス系統の服装。
漂う硝煙の臭いが、その銃の真贋を言い訳の余地がないほどに表している。
なんなんだ、これは。動物虐待?銃刀法違反?
はち切れるような空気が、さやかの喉元にナイフを突きつけているよう。鼓動は早まり、呼吸を飲み込み、瞳はただ凶器を追う。
「さやかちゃん!こっち!」
とても人間のものではない力で首元を掴まれ、視界が後退する。
「まどか!?」
白いフリルのスカート、ピンク色の衣装。木の枝のような弓。私服というには幻想的であり、コスプレというには実体感がありすぎた。
「説明はあと。でも、もう大丈夫だよ。」
自信に満ち溢れ、なんでもできてしまいそうなその顔は、どこか硬い決意に満ち溢れてもいる。
昔、日曜日の朝TVで見た正義の味方。どんな逆境にも仲間と共に乗り越える希望。
その姿はまるで、魔法少女であったのだ。