魔法少女さやかffマギカ 作:まどマギ中毒
「鹿目まどか…あなたと敵対するつもりはない。」
「私もそのつもりはないよ。けど、どうしてキュウベぇを襲ったの?」
拮抗状態。
それが、最も適当な言葉だったと思う。どちらかが筋繊維の一本でも動かせば、もう片方が動く。一挙手一投足、全ての行動に反応して双方が動かない。
けれど、それが崩れた。
文字通り絵柄の違う薔薇が咲き、世界は次第に侵食される。
「…ッ!こんな時に。」
絵本の中のようで、毒々しい色をした世界。絵柄違いに見えた世界は、さやかたちを飲み込んで、自らの方が自然であるかのように主張する。
「さやかちゃん、今のうちに逃げるよ。」
「あぁ、ちょっと!」
腕に白い生物を抱えたさやかの腕を引っ張ってまどかは走る。そしてすぐに世界は歪み、先ほどの薄暗い工事現場に帰ってきた。
「なに、なんなの!?なにが起こってるの!?」
走ったからなのか、それとも緊張の糸が解けたからなのか。呼吸が荒くなる。
「もう大丈夫だよ、落ち着いて。」
まどかは不可思議な衣装を着たままで、さやかの汗が滲んだ背中をさする。呼吸は次第に落ち着いて、辺りの景色も鮮明になってきた。
まどかは白い生物に手をかざし、その手から放たれた光が白い生物の傷を瞬く間に癒してしまう。
「まどか、どういうことなの?ほんとうに、なにが起こってるの?」
「さっきのは魔女の使い魔。でも心配しないで、ここまで来れば襲ってこないと思うから。」
魔女?使い魔?
本当になんの話をしているんだ?
言葉を認識することはできても、理解することはできない。
『それについては、僕から説明するよ。』
頭の中に、またあの中性的な声が流れ込んでくる。けれど、その声がどこからやってきたものなのか、理屈でなく感覚として理解した。
『さっきは助けてくれてありがとう。僕の名前はキュウベぇ。』
「キュウベぇ…?」
淡く白い光を放つ白い生物。その赤い瞳から目を離せなくなる。
『美樹さやか、僕、君にお願いがあって来たんだ。』
「…お願い?なんで私の名前を知ってるの?」
『僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ。』
……ジリリリリリリリリリリリリリ!
眩い光がカーテンの隙間から入り込み、朝の開かぬ瞼を照らす。
「うぇ…もうあさぁ?…」
寝癖まみれの頭を布団に押し付けて、眠りの余韻に浸りたい。
きっと、昨日の夜の興奮が祟ったのだろう。ずっと考えっぱなしでうまく寝付けなかった。
『おはよう、さやか。』
ベッドにちょこんと座る白い影。(ちょっとかわいい)
美樹さやかは知ってしまったのだ。裏の世界、魔法少女の世界について。
「キュウベぇに選ばれた以上、あなたにとっても他人事じゃないものね。ある程度の説明は必要かと思って。」
左右に重力無視の縦トルネードを携えた大人な雰囲気のお姉さま。巴マミの家に招待され、ケーキとお茶を振舞われる。
「魔法少女?あ、いや、それ以前にまどかの言ってた先輩ってこの人なの?」
「そうだよ。言ったでしょ。そういうのじゃないって。」
なぁんだ、なら安心。とはならない。まどかがこんなメルヘンでファンタジーな世界に足を踏み入れているなんて知らなかった。
すごい力で誰かを救う。正義の味方みたいでかっこいいと思ってしまう。
マミさんは菜の花色の宝石を取り出して、それを机の上に置く。それに気がついたまどかも同調して、桃色の宝石を取り出した。
「なに?これ?」
「これがソウルジェム。キュウベエに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔力の源でもあり、魔法少女である証でもあるの。」
「契約って?」
床に座っていたキュウベぇが、ピコンと机の上に座り、赤い瞳でさやかを見つめる。
『僕は、君たちの願い事を何でも一つ叶えてあげる。』
「え、本当?」
『ああ、本当さ。なんだって構わない。どんな奇跡でも起こしてあげられるよ。』
どんな奇跡でも…例えば…
「金銀財宝とか、不老不死とか、満漢全席とか!」
ちょっと前にTVで見た満漢全席なる中国のフルコース。何日もかけてたくさんのご馳走をいただく夢のようなものなんだとか。
満州族が云々とか漢民族が云々とか、そんなことも言っていたがあんまり覚えてない。
「最後のはちょっと…」
素材の見た目そのままな料理は、まどかには少し刺激が強すぎたのだろう。
少し引かれてしまっているように感じる。いやしかし、ポジティブに考えれば惹かれているのかもしれない。
どんな奇跡でも…か。
『でも、それと引換に出来上がるのがソウルジェム。この石を手にした者は、魔女と戦う使命を課されるんだ。』
さやかたちの会話をスルーして、キュウベぇは話を続ける。
その後の話を要約すると、魔女とは、人々の生活を脅かす敵ということらしい。結界に隠れて、こそこそ人を襲っているんだとか。
「そこで提案なのだけど、美樹さん、しばらく私たちの魔女退治に付き合ってみない。」
「えっ!?」
「魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみればいいわ。その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えて見るべきだと思うの。」
「おはよう。」
「おはようございます。」
仁美とまどか、いつも通りの通学路。
頭の上に乗ってくるキュウベぇ。重みは感じないがなんだか変な感じがする。
(学校までついてきてよかったの?)
『どうして?』
(言ったでしょ?うちのクラスにあの転校生がいるって。)
『むしろ学校に行った方が安全だと思うな。マミもまどかもいるし。』
うーん。本当に大丈夫なのだろうか?パッと銃を出されてパンとやられたら死んじゃいそうだけど。
『ご心配なく。鹿目さんはちゃんと強いのよ?』
突然脳に流れ込むマミさんの声。辺りをキョロキョロしてもマミさんの姿は見えない。
『この程度の距離なら、テレパシーの圏内だよ。』
『おはようございます。マミさん。』
『おはよう、鹿目さん。』
すごい…ほんとうにテレパシーで会話してる。でも、仁美に聞こえてる様子はない。なんで魔法少女じゃない私にも聞こえるんだろう?
『今はまだ僕が中継してるだけ。でも、内緒話には便利でしょ?』
まどかと目が合い、微笑みで見つめられる。
『すごいでしょ?さやかちゃん。』
「おふたりともさっきからどうしたんです。仕切りに目配せしてますけど。」
この後、また仁美の脳内で百合の花が咲いたことは言うまでもない。
朝の騒々しさの残る廊下で、あの転校生とばったり出会う。
昨日のような鋭い視線は感じないが、それでもこちらを警戒しているのには変わらない。
そして再び、昨日の会話を思い出す。
「あの転校生も、えっと、その、魔法少女なの?まどかたちと同じ。」
「そうね。間違いないわ。かなり強い力を持っているみたい。」
私たちを襲ってきた魔法少女…魔女とは違うのだろうか?
「魔女を倒せばそれなりの見返りがあるの。だから時と場合によっては、手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね。」
競争…。協力して魔女を倒す、みたいな世界ではなく利害関係で動くシビアな世界なのだとマミさんは言う。
「つまりあいつは、キュウベぇが私に声かけるって最初から目星を付けてて、それで朝からあんなに絡んできてたってわけ?」
「うん…多分。ごめんね、さやかちゃん。私も先週キュウベぇ契約したばっかりで、さやかちゃんも魔法少女になれるって気がつかなくて…」
「まどかは悪くないって。悪いのは襲ってきた方なんだからさ。」
キンコーンカーンコーン
早乙女先生の英語が終わり、休み時間に入ると転校生は絶妙な角度で首を傾けさやかたちを見る。
ただ、さやかはその顔のどこかに、悪意以外のなにかを感じてしまう。
『さやかちゃん。こんなことを言うのは変だってわかってるんだけどね。なんて言うか…ほむらちゃんと仲良くできないかな?』
それを感じ取ったのはさやかだけではないらしい。まどかも、ほむらの奥底に抱えるなにかに勘付いた。
『鹿目さん。そうやって他の魔法少女と仲良くしようとすることは、すごく危険なことなのよ。あまり考えたくはないけれど、裏切って突然襲いかかってくる子もいる。』
『マミの言う通りだ。特に暁美ほむらは危険すぎる。極めつけのイレギュラーと言ってもいい。無闇矢鱈に仲良くなろうとするのはおすすめできないな。』
極めつけのイレギュラー…。キュウベぇと契約を結ばずに魔法少女になったと言う彼女の正体は一体なんなのか。なぜ襲いかかって来たのか。それなのにどうしてあんな優しさが混じる顔をするのか。
その疑問が頭を巡る。
…ただ、それが良くなかったのだろう。授業に関係のないことに支配されたさやかの頭脳は、授業という授業を全くインプットできていなかった。
教師が、そんな様子のさやかを指名しないはずがなく…
「全く…次の時間までには覚えておくように。」
大恥をかくことになってしまった。