他人に歯磨きしてもらわないとレベル99になれない勇者です   作:きのこ大三元

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第6.5話「魔法使い、磨き残しを許さない」

 魔法使いは、俺の歯磨き条件を聞いた時、かなり嫌そうな顔をした。

 

 歯磨き前はレベル5。歯磨き後はレベル99。他人に歯を磨いてもらわないと加護が発動しない。膝枕状態だと追加バフ。

 

 初対面の相手に説明するたび、俺の心を削ってきたその条件は、魔法理論に詳しい彼女の心も容赦なく削ったらしい。

 

「歯磨きでレベル99? そんな魔力式、聞いたことないんだけど」

 

 それが、魔法使いの第一声だった。

 

 ただ、魔法使いは現象を無視しなかった。納得はしていない。かなり不満そうだった。けれど、実際に加護が発動するなら解析する。戦力として必要なら手順を把握する。そう言って、彼女は勇者パーティの歯磨き担当ローテーションに巻き込まれた。

 

 そして、今日。

 

 俺は王城の一室で、魔法使いによる精密仕上げの再確認を受けることになっていた。

 

「先に言っておくけど」

 

 魔法使いは、紺色のローブの袖を少し捲りながら言った。

 

「べ、別にあんたのためじゃないから」

「はい」

「勇者がレベル5のままだと困るだけ。戦士が前で守っても、僧侶が回復しても、肝心のあんたがレベル5のままじゃ作戦が崩れるでしょ」

「はい」

「だから、これは戦力維持。魔力分析。あと磨き残し確認」

「最後だけちょっと私情が入ってません?」

「入ってない」

 

 即答だった。

 

 嘘だと思う。

 

 部屋には、戦士と僧侶もいた。戦士は壁際で腕を組み、完全に実戦訓練を見る顔をしている。僧侶は小さな卓の横に立ち、白い布と携帯用コップ、そして自分の柔らかい治療ブラシを念のため準備していた。

 

 卓の中央には、勇者用歯磨きセット。

 

 白い歯ブラシ。

 神界製の歯磨き粉。

 携帯用コップ。

 折り畳まれた説明書。

 

 その隣に、魔法使いが持ち込んだ魔力感応式の精密ブラシが置かれている。

 

 黒に近い紺色の柄。表面に刻まれた銀色の魔法陣。淡い青色の細い毛先。光の角度によって、毛先の先端だけがわずかに光る。歯ブラシというより、魔導具の点検器具に見えた。

 

「やっぱり、それ、人の歯に使うものには見えないんですが」

「普通は魔導具の細部清掃に使うものよ」

「普通は」

「でも毛先は柔らかいし、魔力反応を見るには向いてる。歯茎に当てすぎなければ問題ないわ」

 

 僧侶が静かに口を挟む。

 

「歯茎を傷つけない範囲でお願いしますね」

「分かってるわよ。そんな雑なことしない」

 

 魔法使いは少しだけむっとした顔をした。

 

 戦士がぼそりと言う。

 

「細かいからな、お前は」

「戦士に言われたくない。あなたの急速仕上げ、絶対雑でしょ」

「雑じゃない。早いだけだ」

「その言い方をする人はだいたい雑なのよ」

 

 早速、担当者同士で揉め始めた。

 

 僧侶がにこにこしながら間に入る。

 

「戦士様は急速仕上げ、私は安定ケア、魔法使い様は精密仕上げ。役割が違うだけです」

「その分類、聞くたびに俺の尊厳が削れるんですが」

「勇者様の安全のためです」

 

 僧侶は優しかった。

 

 優しいが、やはり逃げ道はない。

 

「勇者、座って」

 

 魔法使いが椅子を指さす。

 

 俺は観念して座った。背中を椅子に預け、少しだけ肩の力を抜く。僧侶に何度も言われたおかげで、歯磨き前の姿勢だけは少し慣れてしまった。

 

 慣れたくなかった。

 

「今日は、第6話の時より細かく見るわ。前歯の表面、犬歯の横、奥歯の外側、前歯の裏側、奥歯の内側、噛み合わせの溝。あと歯茎の境目」

「項目が多い」

「磨き残しを許さないって言ったでしょ」

「言われてません」

「今言った」

 

 魔法使いは精密ブラシを手に取り、神界製の歯磨き粉をほんの少しだけ毛先に乗せた。泡立ちすぎると魔力反応が見えづらいらしい。僧侶の治療ブラシの時より量は少なく、王女様の標準歯ブラシの時より明らかに控えめだった。

 

「口を開けて」

「……お願いします」

「その言い方、やめて」

「え?」

「なんか、こっちが変なことしてるみたいになるでしょ」

「実際、初対面に近い相手に歯を磨かれるのはかなり変です」

「うるさい。必要だからやるの」

 

 魔法使いは顔を赤くしながら、精密ブラシを近づけた。

 

 毛先が、前歯に触れる。

 

 淡い青い光が、小さく揺れた。

 

「反応あり。前歯表面、弱反応」

 

 シャコ、シャコ。

 

 細い毛先が、前歯の表面を小さくなぞる。

 

 僧侶の治療ブラシは、柔らかく包むような感覚だった。王女様の標準歯ブラシは、ぎこちないけれど真面目で、一生懸命さが伝わってきた。魔法使いの精密ブラシは、そのどちらとも違う。

 

 狙いが細かい。

 

 ひとつひとつの動きが小さい。歯の表面全体をざっと磨くのではなく、決めた場所を、決めた角度で、決めた回数だけなぞっていく。毛先が当たるたび、青い光がほんの少し揺れ、魔法使いの目がそれを逃さず追う。

 

「動かないで」

「……はい」

「舌はまだ動かさなくていい。今は前歯の表面」

「口を開けてるだけなのに指示が細かい」

「細かくしないとデータが取れないの」

 

 シャコ、シャコ。

 

 音は小さい。

 

 だが、静かな部屋では妙にはっきり聞こえる。

 

 戦士も僧侶も見ている。いや、直接口の中を覗いているわけではない。だが、同じ部屋にいる。歯磨きされている事実は消えない。

 

 恥ずかしい。

 

 しかも、魔法使いが近い。

 

 普段は強気で、すぐツンとした顔をするくせに、今は耳まで赤くしながら真剣に歯ブラシを動かしている。

 

 ツンデレなのに、歯磨きだけやたら丁寧。

 

 その落差に、俺の方が振り回される。

 

「次、犬歯の横」

 

 魔法使いの指先が角度を変える。

 

 毛先が犬歯の横へ触れた瞬間、青い光が少しだけ強くなった。

 

「ここ、少し反応が上がるわね」

「……そうなんですか」

「喋らなくていい。動く」

「はい」

「あと、そこで舌が逃げようとしてる」

「見ないでください」

「見ないと磨けないでしょ」

 

 正論だった。

 

 魔法使いの正論は、戦士より細かいところから刺してくる。

 

「勇者がレベル99になる条件に歯磨きが関わってるなら、磨き残しはリスクよ。発動が不安定になったら困る。だから、どこを磨けば反応が安定するのか見る必要がある」

 

 魔法使いはそう説明しながら、犬歯の横を細かく磨いた。

 

 シャコシャコ。

 

 前歯より少しだけ音が近い。

 

 毛先が歯と歯の間をなぞる。くすぐったい。けれど、避けようとするとすぐ指摘される。逃げられない。動けない。魔法使いの目が、歯ブラシの動きと魔力反応を同時に見ている。

 

「そこ、力入ってる」

「……入りますよ」

「抜いて」

「簡単に言いますね」

「簡単じゃなくても抜いて。磨きにくい」

 

 厳しい。

 

 だが、乱暴ではない。

 

 指示は多い。注意も多い。けれど、毛先の動き自体はかなり丁寧だった。歯茎に強く当てないように角度を調整し、俺が少し動くとすぐ止まり、落ち着くとまた細かく動かす。

 

 ツンデレなのに。

 

 やっぱり、歯磨きだけやたら丁寧だった。

 

「次、奥歯の外側。少し口を開けて」

「……はい」

「開けすぎ。顎疲れるでしょ」

「どっちですか」

「ちょうどいいところ」

「それが難しいんです」

「慣れなさい」

 

 無茶を言われている気がする。

 

 だが、魔法使いは本当にちょうどいい角度を探していた。顎に負担がかかりすぎず、毛先が奥歯の外側へ届く角度。僧侶が見ていたら「良い調整です」と言いそうな細かさだった。

 

 奥歯の外側に、精密ブラシが触れる。

 

 シャコシャコ。

 

 毛先が歯の凹凸に沿って動く。

 

「ここ、反応強い」

「……どこですか」

「奥歯の外側と歯茎の境目。ケアされてるって認識が強いのかも」

「その分析、今聞かされると恥ずかしいんですが」

「聞かせてるんじゃなくて記録してるの」

「口に出てます」

「……うるさい」

 

 魔法使いは少しだけ顔を赤くして、手元に視線を戻した。

 

 戦士が壁際で呟く。

 

「精密仕上げは時間がかかるな」

「黙ってて。急速仕上げと違って、こっちは磨き残しを潰してるの」

「実戦前に毎回それをやる時間はない」

「だから用途を分けるって話でしょ。通常戦闘前は短縮版、余裕がある時は精密版。バフ切れが怖いなら、最初から手順を決めておけばいい」

 

 魔法使いは歯ブラシを動かしながら、戦士へ返した。

 

 器用だった。

 

 俺の奥歯を磨きながら、戦士と戦術会話をしている。

 

 その内容が俺の歯磨き手順なので、まったく安心できない。

 

 僧侶が微笑む。

 

「戦士様の急速仕上げ、私の安定ケア、魔法使い様の精密仕上げ。ローテーションの中でも、状況によって使い分けられそうですね」

「担当者会議を俺の口でしないでください」

 

 口を開けたまま言ったせいで、少し変な声になった。

 

 魔法使いがすぐに反応する。

 

「喋らない。奥歯の位置がずれる」

「すみません」

「謝らなくていいから動かない」

 

 完全に磨き残し警察だった。

 

 次は、前歯の裏側。

 

 魔法使いがそう言った瞬間、俺の体が少し強張った。

 

 前歯の裏側は、何度磨かれても慣れない。舌が反射的に動く。歯ブラシを避けようとする。自分でも分かっているのに、なかなか止められない。

 

 魔法使いは、それを見逃さなかった。

 

「ほら、舌」

「……すみません」

「謝らなくていいけど、動くと分かりづらい」

「魔力反応が、ですか」

「それも。あと磨き残し」

「やっぱりそこなんですね」

 

 魔法使いは、ほんの少しだけ視線を逸らした。

 

「べ、別にあんたの口の中を見たいわけじゃないから。発動条件を確認してるだけだから」

「はい」

「あと、磨き残しがあると気になるだけ」

「はい」

「何よ」

「いえ、ありがとうございます」

「お礼を言うところじゃない」

 

 魔法使いは照れたように顔をしかめ、精密ブラシを前歯の裏側へ入れた。

 

 シャコ、シャコ。

 

 音が近い。

 

 細い毛先が、前歯の裏側を小さくなぞる。歯の表側よりも、ずっとくすぐったい。舌が動こうとするたび、魔法使いの指先が止まる。無理に追わない。乱暴にはしない。ただ、逃がしもしない。

 

 待つ。

 

 角度を変える。

 

 また磨く。

 

 細かい。

 

 本当に細かい。

 

「そこ、力を抜いて」

「……はい」

「まだ少し入ってる」

「どこまで見えてるんですか」

「毛先の反応で分かる。舌が押し返すと、魔力の揺れ方が変わるのよ」

「そんなところまで」

「だから精密ブラシなの」

 

 魔法使いは少し得意げだった。

 

 その表情が、妙に可愛かった。

 

 いや、今の状況でそう思うのは危険だ。口を開けたまま、魔法使いに前歯の裏側を磨かれている。しかも相手はツンデレで、耳まで赤いのに手元だけは異様に丁寧。

 

 落差がひどい。

 

 俺の精神に悪い。

 

「何か変なこと考えてない?」

「考えてません」

「反応が乱れた」

「魔力反応で内心を読まないでください」

「読んでない。乱れたのは加護の立ち上がり」

「なおさら恥ずかしいです」

 

 戦士が、少し呆れたように言う。

 

「お前たち、戦闘前に毎回それをやる気か」

「毎回じゃないわよ。精密仕上げは余裕がある時だけ」

 

 魔法使いは即答した。

 

「でも、最低限の磨き残し確認は必要。特に奥歯の内側と噛み合わせの溝。そこを雑にすると、反応が不安定になる可能性がある」

 

 俺は嫌な単語を聞いた。

 

 奥歯の内側。

 

 そこは、僧侶の時も大変だった場所だ。

 

「次、奥歯の内側」

 

 魔法使いが宣告する。

 

「少し大きく開けて。舌は下げる。顎は固めない。肩に力を入れない」

「注文が多い」

「必要な注文よ」

 

 精密ブラシの毛先が、奥歯の内側へ入る。

 

 くすぐったい。

 

 かなりくすぐったい。

 

 前歯の裏側よりも逃げ場が少ない。舌が近い。顎も疲れる。けれど魔法使いは容赦なく、いや、正確には容赦はあるのだが、確認をやめない。

 

 シャコシャコ。

 

 奥歯の内側で、小さな音が続く。

 

 毛先は細く、柔らかい。だが、狙いは鋭い。噛み合わせの溝、歯と歯の間、歯茎に近い境目。普通の歯ブラシでは流してしまいそうな場所を、魔法使いは順番に拾っていく。

 

「ここ、磨き残しやすい」

「……自分でも分かってます」

「分かってるなら普段からちゃんと磨きなさいよ」

「自分で磨いても加護は出ないんです」

「虫歯予防にはなるんでしょ」

「なります」

「じゃあやりなさい」

「はい」

 

 当たり前のことを叱られた。

 

 戦士には実戦で叱られる。

 

 僧侶には体調管理で優しく逃げ道を塞がれる。

 

 魔法使いには磨き残しで詰められる。

 

 パーティが完成するほど、俺の生活管理が厳しくなっていく。

 

「勇者」

「……はい」

「力、少し抜けてきた」

「言わないでください」

「良いことなんでしょ。僧侶が言ってた」

「良いことなのが嫌なんです」

「変なの」

 

 魔法使いはそう言いながら、手元の動きを止めなかった。

 

 だんだん、本当に力が抜けてきた。

 

 悔しい。

 

 魔法使いの指示は細かいし、口調はきついし、いちいち磨き残しを指摘される。なのに、動き自体は丁寧で、狙いが正確で、雑な不安がない。

 

 任せられる。

 

 そう思ってしまう。

 

 それがまた恥ずかしい。

 

「最後、噛み合わせの溝」

 

 魔法使いはそう言って、奥歯の表面を軽くなぞった。

 

 シャコ、シャコ。

 

 細かい音が短く続く。

 

 毛先の青い光が、さっきよりも少し強く揺れた。

 

「反応、安定。出力の立ち上がりも悪くない。精密仕上げとしては成功ね」

 

 魔法使いは、そこでようやく歯ブラシを離した。

 

「はい、終わり。口をすすいで。泡が残ってると反応が見えにくい」

 

 俺は携帯用コップを受け取り、水で口をすすいだ。

 

 歯の表面が滑らかだった。前歯の裏側も、奥歯の内側も、噛み合わせの溝まで妙にすっきりしている。僧侶の時とは違う安心感がある。包まれるというより、隅々まで確認されて、もう大丈夫だと言われたような感覚だった。

 

 その直後、胸の奥で光が弾けた。

 

 手足が軽くなる。視界が澄む。部屋の音が、急にはっきりと聞こえ始める。

 

 レベル99。

 

 魔法使いの精密仕上げでも、勇者の加護は問題なく発動した。

 

 しかも、立ち上がりが滑らかだった。

 

 強い力が一気に体を押し上げるのではなく、細い線が一本ずつつながっていくように、静かに満ちていく。僧侶の安定ケアとはまた違う。魔法使いの精密仕上げは、力の流れが整えられている感じがした。

 

「反応確認。出力上昇。魔力流量、安定。前回より立ち上がりが少し綺麗ね」

 

 魔法使いが杖の先端に浮かんだ青い光を見ながら言う。

 

「やっぱり、磨く順番と部位で発動の質が変わる。前歯だけでも発動はするけど、奥歯の内側と噛み合わせの溝まで入れた方が、魔力の流れが揃いやすい」

 

 僧侶が感心したように頷く。

 

「では、落ち着いて準備できる時は、魔法使い様の精密仕上げが向いていそうですね」

「時間はかかるけどね。急ぎなら戦士、疲労がある時は僧侶、精度が必要なら私。そういう分け方でいいと思う」

 

 戦士が頷く。

 

「実戦前に毎回そこまでやる時間はない。だが、強敵前なら必要かもしれないな」

「そういうこと。別にあんたのために丁寧にしたわけじゃないから」

 

 魔法使いは、俺を見ずに言った。

 

「勇者の出力が安定しないと、こっちの作戦も組めない。磨き残しで加護が不安定になるなんて、後衛としては許せないだけ」

「ありがとうございます」

「だから、お礼を言うところじゃないってば」

 

 魔法使いは顔を赤くしたまま、精密ブラシを白い布で丁寧に拭いた。

 

 その手つきが、最後まで丁寧だった。

 

 ツンデレなのに。

 

 磨き残しには本気。

 

 そこが、彼女らしいのだと思う。

 

「それでは、今日の記録をまとめますね」

 

 僧侶が手帳を開く。

 

「戦士様、急速仕上げ。僧侶、安定ケア。魔法使い様、精密仕上げ。勇者様の状態や戦闘前の時間に応じて、担当者を切り替える形で運用」

 

 戦士が頷く。

 

「急ぎなら私だ」

 

 僧侶が微笑む。

 

「疲労や顎の負担がある時は、私が見ます」

 

 魔法使いがそっぽを向く。

 

「磨き残しが気になる時は、私が見るわ。……別に、見たいわけじゃないけど」

 

 俺は、三人を見た。

 

 前衛。

 

 回復。

 

 魔法支援。

 

 そして、歯磨き担当ローテーション。

 

 普通の勇者パーティとは、何かが決定的に違う。

 

 けれど、なぜだろう。

 

 少しだけ、安心してしまった。

 

 俺はレベル5だ。

 

 でも、誰かに頼ればレベル99になれる。

 

 戦士が前で守ってくれる。

 

 僧侶が体調を見てくれる。

 

 魔法使いが磨き残しまで確認してくれる。

 

 頼れる。

 

 頼れるのに、恥ずかしい。

 

 恥ずかしいのに、頼もしい。

 

 このパーティ、だいぶおかしい。

 

 でも、たぶん強い。

 

「勇者」

 

 魔法使いが言った。

 

「はい」

「次の精密仕上げまでに、自分でも奥歯の内側ちゃんと磨いておきなさいよ」

「加護は出ないのに?」

「虫歯予防にはなるんでしょ」

「なります」

「じゃあやりなさい」

 

 また、当たり前のことで叱られた。

 

 こうして、魔法使いによる初めての精密仕上げは無事に終わった。

 

 結果は、加護発動成功。

 

 魔力流量、安定。

 

 磨き残し、なし。

 

 勇者の羞恥心、かなり大きめ。

 

 そして魔法使いの照れ隠し、かなり分かりやすめ。

 

 なお、本人は最後まで認めなかった。

 

 別に、俺のためじゃないらしい。




次回予告
 
戦士
「次の戦闘まで時間がない。私が最速で仕上げる」
 
僧侶
「勇者様の顎への負担も考えてくださいね」
 
魔法使い
「磨き残しがあったら加護が不安定になるかもしれないでしょ」
 
勇者
「担当者会議を俺の口でしないでください」
 
次回、第7話
「戦闘前歯磨き、当番制になる」
 
勇者パーティ、なぜか歯磨きローテーションで揉め始める。
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