他人に歯磨きしてもらわないとレベル99になれない勇者です   作:きのこ大三元

18 / 19
第13話「第三の四天王、口腔ケアですねと即理解する」

今回は、第三の四天王登場回です。

 

第一の四天王は研究者。第二の四天王は武人。そして次に現れたのは、魔王軍の管理役を務める補佐官でした。

 

彼女は勇者の条件を聞いた瞬間、他の敵よりも早く理解します。

 

「つまり、口腔ケアが必要ということですね」

 

敵なのに妙に手際よく状況を整理する第三の四天王。さらに彼女の口から、魔王軍にも歯や牙の悩みがあることが語られます。

 

本文

 

 第二の四天王、武人との戦いを終え、俺たちは王都へ戻る途中だった。

 

 研究者は、俺の条件を研究対象にした。武人は、歯磨きで得た力を認めないと言った。

 

 そして二人とも、俺の歯磨きに妙な関心を残して去っていった。

 

 魔王軍の四天王は、本来もっと恐ろしい存在のはずだ。実際、研究者はレベル82、武人はレベル88。歯磨き前の俺なら、近づくだけで終わる相手である。

 

 ただし、方向性がおかしい。

 

 研究者は「磨かせろ」と言い、武人は歯磨きを「戦闘前儀式」と呼んだ。

 

 どちらも敵だったはずなのに、俺の歯磨き担当や手順へ影響を残している。

 

「勇者、ぼうっとするな」

 

 街道を歩きながら、戦士が言った。

 

「敵はまだ二人残っている。次も来るかもしれない」

「はい」

 

 戦士は前回の戦い以来、急速仕上げの時間をさらに縮めようとしていた。武人に「奥歯への入りが粗い」と言われたのが癪だったらしい。

 

 敵に指摘された歯磨き技術を改善する前衛へ、どう反応すればいいのか分からない。

 

 僧侶は口腔ケア記録を確認する。

 

「発動状態は安定しています。ただ、敵前での歯磨きが続いていますから、精神的な疲労には注意しましょう」

 

 魔法使いも、俺の背中の箱を見た。

 

「歯磨きセットの管理もね。次は歯ブラシや歯磨き粉を狙われるかもしれない」

「敵に歯ブラシを狙われる勇者」

 

 言葉にすると、やはり終わっている。

 

 その時、前方の街道に一台の荷馬車が見えた。

 

 黒い布で覆われ、車輪には魔王軍の紋章。戦闘用というより補給用で、荷台には箱や袋が整然と積まれている。

 

「構えろ」

 

 戦士が前へ出る。

 

「魔力反応は一つ。四天王級ね」

 

 魔法使いが杖を構え、僧侶は俺の前へ結界を張った。

 

 俺はまだ磨いていない。

 

 レベル5。

 

 当然、前へ出てはいけない。

 

 荷馬車の横から、一人の女性が現れた。

 

 黒と紫の軍服。長い髪を後ろでまとめ、片手には分厚い帳簿、もう片方には羽根ペン。眼鏡の奥の目は鋭いが、研究者や武人のような殺気は薄い。

 

 ただし、圧はあった。

 

 机の上の書類を、一瞬で片付けそうな圧だった。

 

 視界の隅に文字が浮かぶ。

 

 魔王軍四天王。

 補佐官。

 レベル79。

 

 三人目の四天王。

 

 研究者や武人より低いとはいえ、歯磨き前の俺には十分すぎる相手だった。

 

 補佐官は帳簿を閉じ、静かに一礼する。

 

「勇者一行ですね。お待ちしておりました」

 

 敵なのに丁寧だった。

 

「魔王軍四天王か」

「はい。第三の四天王と呼ばれております」

 

 補佐官は、補給、兵站、傷病者、勤務表、魔王の予定、四天王間の連絡、問題児の処理まで自分の担当だと説明した。

 

「仕事量が多い」

 

 魔法使いが呟く。

 

「大変そうですね」

「大変です」

 

 僧侶の言葉に即答した。

 

「第一は研究へ没頭し、第二は武に偏り、第四は牙の手入れを怠る。魔王様は威厳を保とうとして予定を詰めすぎる。管理する側の苦労も考えていただきたいものです」

 

 情報量が多い。

 

「牙の手入れ?」

 

 俺が聞くと、補佐官は帳簿を開いた。

 

「魔族には牙を持つ者が多くいます。人間とは形状や食生活が違いますが、汚れ、欠け、痛み、歯茎の炎症に相当する問題はあります」

 

「魔王軍にも、歯や牙の悩みがあるの?」

「あります。むしろ多いです」

 

 魔法使いの問いへ、補佐官は迷わず答えた。

 

「兵士は戦闘訓練や魔力強化には熱心ですが、日々の口腔管理を軽視します」

「それは良くありませんね」

「ええ。良くありません」

 

 僧侶と補佐官が、早くも同じ方向を向き始めた。

 

 嫌な予感がする。

 

 補佐官は俺を見た。

 

「そして、あなたが歯磨き勇者様ですね」

「魔王軍でも正式な呼び方なんですか」

「報告書には、そう記載されています」

 

 正式だった。

 

「歯磨き前はレベル5、歯磨き後はレベル99。効果時間は約30分。他者による歯磨きで加護が発動し、担当者によって質に差がある。戦士は急速、僧侶は安定、魔法使いは精密。村娘の獣毛ブラシでも発動済み」

「報告書が詳しすぎます」

 

 補佐官は頷いた。

 

「つまり、口腔ケアが必要ということですね」

 

 理解が早かった。

 

 あまりにも早い。

 

 王女様も僧侶も魔法使いも、最初は困惑した。戦士は怒り、研究者は興奮し、武人は否定した。

 

 だが補佐官は、一言で整理した。

 

 口腔ケア。

 

「敵なのに早いな」

 

 戦士が呟く。

 

「とても整理が上手な方ですね」

 

 僧侶は感心している。

 

「敵よ。感心しないで」

 

 魔法使いが止めた。

 

 補佐官は構わず続ける。

 

「加護発動、体調管理、歯ブラシの保管、歯磨き粉の残量、担当者の交代、所要時間、効果時間。管理項目が多すぎますね」

「敵ですよね?」

「敵です」

「なぜ管理の心配を?」

「管理されていないものを見ると、落ち着きません」

 

 研究者とは違う方向で、面倒な人だった。

 

「本来は、ここで勇者一行を足止めする予定でした」

 

 戦士の大剣に力が入る。

 

「ですが、予定を変更します」

 

 補佐官は荷馬車の後ろを示した。

 

 そこには、小型魔族や魔族兵たちが座っている。頬を押さえた者、牙を気にする者、食糧袋を前に困った顔をする者。

 

 戦う様子はない。

 

「虫歯、牙の欠け、歯茎の腫れ、口内の痛み。戦闘不能ではありませんが、士気と食事に影響しています」

 

 僧侶の表情が真剣になる。

 

「放置してはいけません」

「ええ。ですが、魔王軍には口腔ケアへの理解が足りません。強い牙を持つ者ほど、手入れは不要だと思い込みます」

 

「魔王軍も大変ね」

「大変です」

 

 また即答だった。

 

 戦士は大剣を構えたまま、困惑している。

 

「これは戦闘前の会話か。それとも歯の相談か」

「両方です」

 

 補佐官は真面目だった。

 

「私は敵ですが、管理役として歯や牙の問題を放置できません。さらに、勇者様の加護が口腔ケアに関係するなら、人間側の知見を得る価値があります」

 

「つまり?」

 

 魔法使いが警戒しながら聞く。

 

「一時休戦を提案します」

 

 山道に沈黙が落ちた。

 

「そんな理由でか?」

「士気管理上、深刻です」

 

 補佐官は腰の短剣と魔導具を地面へ置いた。

 

「罠を疑うのは当然です。必要なら、私を拘束してください」

 

 話が早すぎる。

 

 俺は完全に置いていかれていた。

 

「怪我や痛みのある方を、見捨てることはできません」

 

 僧侶が言った。

 

「警戒は必要ですが、苦しんでいる相手を利用して戦うのは違います」

 

 魔法使いは補佐官を睨む。

 

「変な魔力反応があれば、すぐ止めるわ」

 

 戦士も大剣を下ろした。

 

「私が見張る」

 

「承知しています」

 

 補佐官は一礼した。

 

 こうして敵軍の街道で、口腔ケア相談が始まった。

 

 もう何も分からない。

 

 魔王軍兵士の状態は、想像以上に悪かった。

 

 硬い干し肉で牙の根元を痛めた者。甘い魔力菓子のあとに歯が痛み始めた者。牙の間に骨片が挟まった者。

 

 僧侶は痛みを和らげながら状態を確認し、魔法使いは炎症に近い魔力の乱れを調べた。戦士は補佐官を見張り、俺は魔王軍の帳簿を見せられている。

 

 魔王軍口腔問題一覧。

 

 そんな項目があった。

 

「最近作りましたが、報告が少ないのです。牙の痛みを恥と考え、隠す者が多いので」

「人間側にも、似た人はいそうですね」

 

 補佐官は頷いた。

 

「強さを誇る者ほど、不調を隠します。結果、戦闘中に集中を欠き、負傷します」

 

「分かる」

 

 戦士が反応した。

 

 敵の管理論に共感しないでほしい。

 

「特に第四の四天王は、立派な牙を持ちながら手入れを面倒がります」

 

「次の相手ね」

 

 魔法使いが小声で言う。

 

「そういう言い方をしないでください」

 

 僧侶は、牙持ちの魔族へ優しく声をかけた。

 

「痛みは我慢しすぎないでください。毎日のケアも大切です」

 

「人間に歯の世話を言われるとは……」

「歯磨き勇者の仲間ですから」

 

 僧侶が自然に答えた。

 

「その肩書き、味方側でも普通に使うんですね」

「諦めなさい」

 

 魔法使いは肩をすくめた。

 

 補佐官は、人間用の歯ブラシを確認している。

 

「人間用は小回りが利きますが、魔族の牙には短いですね」

 

 俺は予備の獣毛ブラシを取り出した。

 

「これなら、牙の隙間にも使いやすいかもしれません」

「見せてください」

 

 補佐官は毛先、柄、硬さを素早く調べる。

 

「悪くありません。長柄にすれば、牙の根元にも使えそうです」

 

「毛先は少し硬め。でも、歯茎を傷つけない調整が必要ね」

 

 魔法使いが乗った。

 

「口内への負担も確認した方がよいですね」

 

 僧侶も乗った。

 

「長柄型、硬さ調整、負担軽減」

 

 補佐官が記録する。

 

 なぜ敵味方で、歯ブラシ開発会議が始まっているのか。

 

「これは何の時間だ」

 

 戦士が代わりに言ってくれた。

 

 補佐官は保存食も確認した。

 

 硬い干し肉。粘り気のある魔力菓子。保存性は高いが、歯や牙へ負担がかかりやすい。

 

 僧侶は食後の歯磨きを勧め、魔法使いは菓子の残りやすさを指摘し、戦士は遠征中でも続けられる短時間の手入れを提案した。

 

 俺は黙っていた。

 

 三人の方が、すでに詳しいからである。

 

「人間側の口腔ケアは、想定以上に実用的ですね」

「人間側というより、勇者周辺だけ変に発展してる気もするけど」

 

 魔法使いの言葉に、補佐官は俺を見る。

 

「あなたの加護は魔王軍にとって脅威です。しかし、歯や牙のケアという点では、有用な文化を広げる可能性があります」

「褒められているんですか?」

「一部は」

 

 補佐官は淡々と結論を出す。

 

「魔王軍にも、歯磨き文化を導入する価値があります」

 

 ついに言った。

 

 王国式歯磨き講習会の次は、魔王軍式歯磨き文化らしい。

 

 俺の勇者伝説は、本当にどこへ向かっているのか。

 

「あの……牙の根元を磨く時は、どれくらい力を入れるんだ?」

 

 魔族兵が手を上げる。

 

「痛くない程度に、優しくです」

 

 僧侶が答える。

 

「戦闘前にも磨いた方がいいのか?」

 

「痛みがあるなら確認しておけ。戦場で気にする暇はない」

 

 戦士が答える。

 

「牙の間に残るなら、細い専用ブラシも必要ね」

 

 魔法使いが補足する。

 

 完全に講習会だった。

 

 王国式歯磨き講習会に続き、魔王軍臨時歯磨き相談会まで始まっている。

 

 俺は空を見上げた。

 

 異世界の空は、今日も綺麗だった。

 

 その下で、敵味方が歯と牙の手入れを話し合っている。

 

 世界は広い。

 

 広すぎる。

 

 相談が一段落すると、補佐官が帳簿を閉じた。

 

「本来の任務に戻りましょう」

「本来の任務?」

 

 嫌な予感がした。

 

「私は四天王です。勇者一行を足止めする任務があります」

 

 戦士が再び大剣を構える。

 

「戦うのか」

「形式上は。ただし、兵士は治療直後です。私一人で完全に止めるのも非効率です」

 

「では、何を?」

 

「確認です」

 

 補佐官は俺を見る。

 

「勇者様が本当にレベル99になるか、この目で確認します。それで本日の任務報告は成立します」

 

「結局、発動確認ですか」

「管理資料には正確な記録が必要です」

 

 研究者と違い、言い方は真面目だった。

 

 真面目だからこそ困る。

 

「なら私が磨く。短く済ませる」

 

 戦士が言う。

 

「勇者様には疲れがあります。安定ケアがよいでしょう」

 

 僧侶が反対する。

 

「魔力反応も確認したい。精密仕上げでもいいわ」

 

 魔法使いも加わった。

 

 担当者会議が始まりかける。

 

「失礼。状況を整理します」

 

 補佐官が手を上げた。

 

 敵なのに司会を始めた。

 

「戦士様は短時間発動、僧侶様は精神安定、魔法使い様は魔力調整に適しています。現在の勇者様には精神的疲労があり、即時戦闘の必要性は低い。よって僧侶様が担当し、魔法使い様が魔力を確認、戦士様が周囲を警戒するのが適切です」

 

 全員が黙った。

 

 正しい。

 

 敵なのに、判断が正しすぎる。

 

「とても的確です」

「敵なのに整理が早い」

「採用だ」

 

「採用しないでください」

 

 俺の意見は通らなかった。

 

「では、短めの安定ケアにしますね」

 

 僧侶が治療ブラシを取り出す。

 

「観察します」

 

 補佐官も帳簿を開いた。

 

「しないでください」

「報告書に必要です」

 

 俺は観念して口を開けた。

 

 僧侶の短い安定ケアが始まる。詳しい手順は省かれたが、柔らかな手つきで緊張が少しずつ抜けていった。

 

「勇者様、力を抜いてください」

「敵が見ています」

「だからこそ、落ち着きましょう」

 

 魔法使いは魔力反応を確認し、戦士は周囲を警戒する。補佐官は真剣に記録していた。

 

「精神疲労時でも安定……」

「書かないでください」

「喋るな。磨きにくい」

 

 全方向から正論が飛んでくる。

 

 短い歯磨きが終わり、口をすすいだ。

 

 胸の奥で光が弾ける。

 

 体へ静かに力が満ちた。

 

 レベル99。

 

「確認しました。報告通りです」

 

 補佐官は帳簿へ記録する。

 

 魔族兵たちがざわめいた。

 

「本当に強くなった」

「口腔ケアで?」

「人間側、恐ろしいな」

 

「普通の方はレベル99になりません。ただし、歯磨きは健康のために大切です」

 

 僧侶が即座に補足する。

 

 魔族兵たちは真剣に頷いた。

 

 王国でも見た光景だった。

 

「本日の確認は以上です」

 

 補佐官が帳簿を閉じる。

 

「戦わないのか」

「目的は達成しました。治療直後の兵士を戦わせるのも、管理上よろしくありません」

 

 合理的だった。

 

 敵なのに合理的すぎる。

 

「一時休戦への協力、感謝します」

 

 補佐官は深く一礼した。

 

「痛みのある方々を治療できて良かったです」

「次に敵として来たら、容赦しないわよ」

「承知しています」

「村や街道を襲うなら斬る」

「その時は任務として対応します」

 

 補佐官は最後に俺を見る。

 

「勇者様は魔王軍にとって脅威です。しかし同時に、歯や牙のケアに関する転機になるかもしれません」

 

 褒められているのか、敵視されているのか分からない。

 

「第四の四天王は牙を誇りとする者です。人間の口腔ケアを軽視するでしょう」

「次の敵ですね」

「はい。そして、牙の根元に問題を抱えています」

 

 味方の健康情報を言ってよいのか。

 

「自覚させるには、負ける程度の衝撃が必要でしょう」

 

「管理役、怖い」

「敵に回すと面倒だな」

 

 魔法使いと戦士が呟く。

 

 補佐官は、俺へ一枚の紙を渡した。

 

 魔王軍式口腔管理案・草稿。

 

 もう作っていた。

 

「王国式歯磨き心得と比較し、改善点があれば次回お聞かせください」

「次回があるんですか」

「四天王ですので、いずれまた」

 

 当然のように答える。

 

「それまでに、魔族用長柄ブラシの試作品も用意します」

 

 俺は草稿を持ったまま固まった。

 

 魔王軍にも、歯磨き文化が広がり始めている。

 

 そのきっかけが俺。

 

 歯磨き勇者。

 

 もう完全には否定できない。

 

 補給部隊が去ったあと、俺たちはしばらく街道に立っていた。

 

「戦闘にならずに済んだのは良かった」

「治療できたのも良かったです」

 

 戦士と僧侶が言う。

 

 魔法使いは、補佐官の草稿を覗き込んでいた。

 

「長柄ブラシ、牙の裏側へ届かせるなら角度を変えた方がいいわね」

「また乗ってます」

「乗ってない。気になるだけ」

 

「次の四天王は牙持ちか」

「悩みがあるなら、話し合う余地もあるかもしれません」

「でも敵よ。最初は戦闘になると思う」

 

 三人が次の対応を話し始める。

 

 俺は手元の草稿を見た。

 

 王国式歯磨き心得。魔王軍式口腔管理案。村の獣毛ブラシ。勇者用歯磨きセット。

 

 気づけば、俺の周囲には歯磨きに関するものが増えすぎている。

 

 世界を救う旅は、まだ続いている。魔王軍との戦いも、これから本格化する。

 

 だが同時に、歯磨き文化も人間側から魔王軍側へ広がり始めていた。

 

 第三の四天王は、俺の異常な条件を一瞬で理解した。

 

 つまり、口腔ケアが必要ということですね。

 

 その一言で、勇者としての異常性が、ただの管理項目へ変換された。

 

 理解が早い敵は怖い。

 

 でも、魔王軍にも歯や牙の悩みがあり、それをきっかけに話し合えるなら。

 

 いつか、戦うだけではない終わり方もあるのかもしれない。

 

「勇者、ぼうっとしてるところ悪いけど」

 

 魔法使いが言った。

 

「長柄ブラシの試作品が来たら、あんたで使い心地を確認する流れになるかもね」

「なりません」

 

「牙用なら、お前の歯には合わないだろう」

「そういう問題ですか」

 

「負担がない範囲なら、参考にはなるかもしれませんね」

「僧侶さんまで」

 

 俺は空を見上げた。

 

 異世界の空は、今日も綺麗だった。

 

 その下で、魔王軍式口腔管理案の草稿が俺の手にある。

 

 世界から虫歯が少し減る未来が、わずかに見えた気がした。

 

 ただし、その中心に俺がいることだけは、やはり納得できなかった。




次回予告
 
第四の四天王
「人間の歯磨きなど、我ら魔族の牙には不要だ!」
 
勇者
「また否定から入るタイプだ」
 
魔法使い
「でも、牙の根元の魔力反応が乱れてる」
 
僧侶
「痛みを我慢しているのかもしれません」
 
戦士
「敵だ。まず構えろ」
 
第四の四天王
「痛くなどない! 少し噛み合わせが気になるだけだ!」
 
勇者
「それ、たぶん痛いやつです」
 
次回、第14話
「第四の四天王、牙の悩みを抱えていた」
 
魔王軍の牙問題、ついに本格化。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。