他人に歯磨きしてもらわないとレベル99になれない勇者です   作:きのこ大三元

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第15話「元四天王たち、なぜか勇者の担当候補になる」

第四の四天王、牙獣将との戦いを終え、俺たちはようやく王都へ戻った。

 

 研究者は捕虜。武人は敗北後に撤退。補佐官とは一時休戦し、牙獣将とは魔族用の牙ケアについて話し合った。これで四天王全員と接触したことになる。

 

 本来なら、ここから魔王城へ向かう準備を始めるところだ。

 

 なのに王城の会議室へ入った瞬間、俺は別の問題へ直面した。

 

「待っていたぞ、勇者」

 

 研究者がいた。

 

 王国の拘束具をつけたまま机へ座り、目の前には水晶板、記録用紙、歯ブラシの見本まで並べている。捕虜というより、研究室を会議室へ移した人に見えた。

 

「なんで普通に参加してるんですか」

「魔王軍の情報提供者として呼ばれた」

 

 研究者は胸を張る。

 

「そして、勇者の加護研究における第一人者として」

「後半は誰が認めたんです?」

「私だ」

「自称」

 

 魔法使いが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「その人、捕虜よね?」

「拘束されている。問題ない」

 

 戦士は気にしていない。

 

「拘束中でも口は動くわ」

「失礼な。研究に必要な発言しかしていない」

「昨日、歯ブラシの毛先だけで三時間話したでしょ」

「必要な発言だ」

 

 やっぱり面倒だった。

 

 王女様が会議を始めようとしたところで、今度は扉が開く。

 

「失礼する」

 

 黒い鎧に大槍。第二の四天王、武人だった。

 

 戦士が反射的に大剣へ手をかけるが、武人は構わず会議室へ入り、堂々と俺たちの前へ立った。

 

「休戦の使者として来た。魔王様へ至る道について伝えることがある」

 

 そこで俺を見る。

 

「それと、勇者の戦闘前儀式が改善されたか確認したい」

「後半が本音じゃないですか?」

「どちらも重要だ」

 

 重要ではない。

 

「奥歯への入りは改善したのか」

 

 武人が戦士へ聞く。

 

「改善した」

「所要時間は?」

「前回より七秒短い」

「悪くない」

 

 二人が真面目に話し始めた。

 

「敵同士の会話ですよね?」

 

 誰も答えてくれなかった。

 

 さらに扉が開く。

 

「皆様、時間どおりですね」

 

 今度は帳簿を抱えた補佐官だった。その後ろには、小型魔族たちが荷物を運んでいる。

 

「補佐官さんまで」

「魔王軍との一時交渉、四天王の健康状態、魔王城までの行程調整のため参りました」

 

 理由だけ聞けば一番まともだった。

 

 ただし、机へ置かれたものがおかしい。

 

 魔王軍式口腔管理案、魔族用長柄ブラシ試作一号、歯磨き粉残量管理表。そして最後に――勇者加護発動担当表・草案。

 

「待ってください」

「どうされました?」

「最後の紙、何ですか」

「勇者様の歯磨き担当表です」

 

 そのままだった。

 

 補佐官は当然のように紙を広げる。

 

「現在の主要担当者は、戦士様、僧侶様、魔法使い様の三名。緊急時には王女様、村娘、その他の同意を得た協力者でも発動実績があります」

「整理しなくていいです」

「長期戦では、担当者の疲労や負傷も考慮する必要があります」

 

 補佐官は眼鏡を押し上げた。

 

「交代要員は必要です」

 

 正論の形をした危険な言葉だった。

 

 僧侶が草案を覗き込む。

 

「確かに、誰かが怪我をした時の予備は必要かもしれません」

「僧侶さん?」

 

 戦士も腕を組む。

 

「前衛と担当を同時に担うと、状況によっては穴ができる」

「戦士さんまで?」

 

 魔法使いだけは、担当表を見るなり顔をしかめた。

 

「待ちなさい。まさか敵側まで担当に入れるつもり?」

「魔族です」

「そこはどうでもいい!」

 

 補佐官の訂正を切り捨て、魔法使いが候補欄を指さす。

 

「研究者は論外。武人は手つきが分からない。補佐官は管理だけでしょ。牙獣将に至っては、牙用ブラシしかまともに使ってないじゃない」

「私は理論上、最適な手順を組める」

 

 研究者が手を上げる。

 

「実践経験がないでしょ」

「だから実験が必要だ」

「必要ない!」

 

 武人も腕を組んだ。

 

「我は戦闘前儀式として認めた。必要なら担当することに異論はない」

「異論だらけよ!」

「力加減には自信がある」

「槍を振る力加減と歯ブラシは別!」

 

 補佐官は淡々と記録する。

 

「魔法使い様、反対意見。理由は技術不足と信頼性」

「書かないで!」

 

 会議室がどんどん違う方向へ進んでいく。

 

 王女様は止めようとしていたが、少し困ったように笑っていた。

 

「まだ牙獣将様が来ていないだけ、静かな方かもしれませんね」

 

 僧侶がそう言った直後、中庭から大きな音が響いた。

 

 どん。

 

 全員が窓を見る。

 

「人間ども! 試作品を持ってきたぞ!」

 

 牙獣将だった。

 

「来ましたね」

「言った直後に」

 

 俺と僧侶の声が重なる。

 

 牙獣将は会議室へ入るなり、補佐官へ長柄ブラシを突きつけた。

 

「長すぎる! 奥まで届くが、力が逃げる!」

「試作一号です。当然、調整は必要です」

「毛先も柔らかすぎる。我の牙なら、もう少し硬くてよい!」

「歯茎への負担を考慮しています」

 

 牙獣将は不満そうに牙を見せ、少しだけ声を落とした。

 

「……だが、痛みは減った」

 

 僧侶が微笑む。

 

「毎日使っているのですね」

「違う! 性能確認だ!」

「毎日?」

「性能確認だと言っている!」

 

 魔法使いがにやりと笑った。

 

「気に入ってるんじゃない」

「違う!」

 

 大声を出した拍子に、牙獣将が反射的に右顎へ手を当てる。

 

「まだ少し痛むのですね」

「もうほとんど治った!」

 

 僧侶に指摘され、牙獣将は目を逸らした。

 

 補佐官の羽根ペンが走る。

 

「長柄ブラシ使用継続。疼痛軽減。本人の満足度も高い」

「最後は書くな!」

 

 四天王が全員そろった。

 

 王国の会議室に。

 

 歯ブラシを持って。

 

 何だ、この状況。

 

 王女様が咳払いし、どうにか本題へ戻そうとする。

 

「皆様。本日は、魔王城へ向かうための情報共有が目的です」

「もちろん理解している」

 

 武人が頷く。

 

「同時に、勇者の儀式の完成度も確認する」

「後半を外してください」

 

 研究者も続いた。

 

「私は魔王城の防衛構造と、勇者の加護を同時に分析する」

「後半を外してください」

 

「私は行程、補給、休息、口腔ケアの担当交代を管理します」

「最後を外してください」

 

「我は魔族用ケアの実戦試験に来た!」

「それ、俺で試す話じゃないですよね?」

 

 牙獣将は腕を組む。

 

「人間の歯と魔族の牙を比較する必要がある」

「研究者みたいになってません?」

「一緒にするな!」

 

 目的が少しずつずれている。

 

 魔法使いは、俺と四天王を交互に見たあと、低い声で言った。

 

「ちょっと待って」

 

 嫌な予感がする。

 

「まさか全員、自分も勇者を磨けると思ってる?」

 

 研究者は即答した。

 

「当然だ」

「必要ならな」

 

 武人も否定しない。

 

 補佐官は帳簿を見る。

 

「緊急時の予備担当として検討中です」

「我は魔族式ケアの応用を試すだけだ」

 

 牙獣将も結局、候補から降りる気はないらしい。

 

 全員、否定しなかった。

 

 魔法使いのこめかみがぴくりと動く。

 

「無理」

 

「何がだ?」

 

 研究者が聞く。

 

「あんたたちに任せられないって言ってるの!」

 

「感情的な反対は、研究者として感心しない」

「私は研究者じゃなくて、仲間!」

 

 魔法使いは勢いのまま言い切った。

 

「勇者の魔力反応も、口の動きも、磨き残しやすい場所も、私たちの方が知ってる。急に来た元敵に任せられるわけないでしょ!」

 

 会議室が静かになる。

 

 俺も少し驚いた。

 

 そして本人も、自分が何を言ったのか気づいたらしい。顔がみるみる赤くなり、そっぽを向いた。

 

「戦力管理の話よ」

「はい」

「他の意味はないから」

「何も言ってません」

「その顔やめて」

 

 ツンデレだった。

 

 研究者は興味深そうに記録する。

 

「既存担当者に、新規担当者への対抗意識あり」

「その紙を燃やすわよ」

 

 杖の先に火が灯った。

 

「落ち着いてください」

 

 僧侶が二人の間へ入る。

 

「信頼関係は大切です。勇者様本人の同意なしに、担当者を増やすことはできません」

「その通りです」

 

 俺は強く頷いた。

 

 補佐官もそこは迷わない。

 

「当然です。同意は最優先項目です」

「じゃあ候補欄から四天王を外してください」

「候補欄ですので」

「候補にも入れないでください」

「緊急時を想定すると、完全除外は管理上――」

「敵ですよね?」

「元敵候補です」

 

 呼び方まで進化していた。

 

 戦士が大剣を壁へ立てかける。

 

「まず、こいつらは味方ではない」

「分かっている」

 

 武人が答えた。

 

「だが、魔王との戦いを避けるため、一時的に協力する可能性はある」

「その場合でも、勇者を任せるかは別だ」

「ならば、技術を示せばよい」

 

 武人は真面目だった。

 

「何の技術ですか」

「歯磨きだ」

 

 そこだけ聞くと、完全に会議の目的を見失う。

 

 研究者が水晶板をこちらへ動かした。

 

「公平に試験すべきだ。各候補者が模型で手順を実演し、速度、負担、精度を比較する」

「それなら勇者様本人を使わずに済みますね」

 

 僧侶が少し乗り気になった。

 

「僧侶さん?」

「安全性の確認は必要ですから」

 

 魔法使いも腕を組む。

 

「模型だけなら、まあ」

「魔法使いさんまで?」

 

 補佐官はすでに評価表を作り始めていた。

 

「所要時間、毛先の角度、歯茎への負担、奥歯への到達、声かけ、緊急時対応」

「声かけまで評価するんですか」

「安心感に影響します」

 

 正しい。

 

 正しいのが困る。

 

 王女様が侍女へ指示し、以前作られた勇者式口腔模型が運び込まれた。

 

「まだその名前なんですね」

「王国では定着し始めています」

「定着させないでください」

 

 模型を囲み、人間側と魔王軍側の担当者候補が並んだ。

 

 戦士、僧侶、魔法使い。研究者、武人、補佐官、牙獣将。王女様まで横から見学している。

 

 その光景を見た瞬間、何かがおかしいと気づいた。

 

 いや、前からおかしかったけど。

 

 多い。

 

 明らかに多い。

 

 最初に俺を磨いたのは王女様だけ。その後、戦士、僧侶、魔法使いが加わり、村娘にも頼んだ。

 

 そして今、元敵四人まで候補に入ろうとしている。

 

 味方と敵の区別を越えて、俺の歯を磨こうとする人間が増えている。

 

「勇者様?」

 

 僧侶が心配そうに顔を覗き込んだ。

 

「顔色が悪いですよ」

「気づいてしまいました」

「何に?」

「このままだと、歯磨き担当候補が増え続けます」

 

 全員が止まった。

 

 俺は指を折る。

 

「王女様、戦士さん、僧侶さん、魔法使いさん、村娘さん。そこに研究者、武人、補佐官、牙獣将」

 

 九人。

 

「多すぎません?」

 

 戦士は真顔だった。

 

「戦力維持には選択肢が多い方がいい」

「体調に合わせて担当を変えられますね」

 

 僧侶も肯定する。

 

「相手や状況別に選べるわ」

 

 魔法使いは少し不満そうながらも現実的だった。

 

「比較データが増える」

「儀式の完成度が上がる」

「負担を分散できます」

「人間と魔族の技術交流になる」

 

 研究者、武人、補佐官、牙獣将まで、それぞれ別方向から肯定してくる。

 

 王女様は嬉しそうに微笑んだ。

 

「皆様が勇者様を支えてくださるのは、喜ばしいことです」

「俺だけ危機感が違う」

 

 誰も分かってくれなかった。

 

 その後、模型を使った簡単な適性試験が始まった。

 

 研究者は開始前から理論を語りすぎた。

 

「歯列の形状、毛先の角度、魔力伝達を考慮すれば――」

「時間切れ」

 

 魔法使いに止められる。

 

 武人は力が強すぎて、模型の歯を一本外した。

 

「……加減が必要だな」

「当然です」

 

 補佐官は手順も声かけも正確だったが、途中で確認項目を見すぎて時間超過。

 

「次は所要時間を短縮します」

「普通に改善する気ですね」

 

 牙獣将は長柄ブラシで奥まで届かせたものの、人間用模型には長すぎた。

 

「人間の口は小さいな」

「あなたの牙が大きいんです」

 

 結果、四人とも今すぐ担当できる技術ではない。

 

 俺は心から安心した。

 

「じゃあ、候補から外れますね」

 

「いいや」

 

 研究者が即答した。

 

「改善の余地があるという結果だ」

「次回までに修正する」

「手順書を更新します」

「人間用と魔族用を分ければよい」

 

 全員、諦めていなかった。

 

 安心は数秒で消えた。

 

「次があると思わないで」

 

 魔法使いが四人を睨む。

 

「なぜ君が決める?」

 

 研究者が聞く。

 

「私が既存担当だからよ」

 

 言い切ったあと、また顔が赤くなる。

 

「戦力管理上の話だから」

「分かっています」

「笑わないで」

「笑ってません」

 

 少しだけ嬉しかったけど。

 

 会議の後半では、ようやく本題である魔王城への道筋が確認された。

 

 武人によれば、正門へ続く道には複数の防衛陣がある。補佐官は無用な戦闘を避けるための経路と時間を提示し、牙獣将は魔王直属の獣兵へ話を通すと約束した。研究者も捕虜の立場から、城内の魔導設備に関する情報を出している。

 

 四天王たちは完全な味方ではない。

 

 魔王軍を裏切ったわけでもない。

 

 それでも、勇者一行と魔王が話し合う機会を作ることには同意していた。

 

「魔王様が応じる保証はない」

 

 武人の声は、それまでより少し重かった。

 

「戦いになる可能性も高い」

「その時は戦います」

 

 俺は答える。

 

「でも、最初から殺すつもりでは行きません」

 

 補佐官が静かに頷く。

 

「その方針であれば、私たちも最低限の協力は可能です」

 

「ただし、魔王様に害をなせば容赦しない」

 

 牙獣将の目は鋭い。

 

「分かっています」

 

 研究者だけは、別の方向を見ていた。

 

「魔王と勇者の魔力反応を同時に記録できる機会など――」

「あなたは王都で留守番です」

 

 王女様が微笑んだ。

 

「なぜだ!」

「捕虜だからです」

 

 研究者が、この日初めて本気で落ち込んだ。

 

 会議が終わると、四天王たちはそれぞれの場所へ戻ることになった。武人は次の戦闘前儀式の確認を要求し、補佐官は更新した担当表を置いていく。牙獣将は長柄ブラシを持ち帰り、研究者は拘束されたまま兵士に連れていかれた。

 

 俺は、机に残された紙を見る。

 

 勇者加護発動担当表・草案。

 

 主要担当は戦士、僧侶、魔法使い。臨時担当が王女様と村娘。そして候補欄には、研究者、武人、補佐官、牙獣将。

 

「本当に書いてある」

 

 頭を抱える俺の横から、魔法使いが紙を奪った。

 

「候補欄は消す」

 

 線を引こうとしたところで、僧侶が止める。

 

「緊急時の情報としては、残してもよいのでは?」

「僧侶?」

「もちろん、同意と安全性の確認は必要ですが」

 

 戦士も頷いた。

 

「使える選択肢は把握しておくべきだ」

 

 魔法使いは二人を見たあと、俺を見る。

 

「勇者はどうしたいの?」

 

 急に聞かれた。

 

 少し考える。

 

「基本は、今の三人がいいです」

 

 戦士、僧侶、魔法使いを見る。

 

「慣れていますし、信頼していますから」

 

 三人の反応は、それぞれ違った。

 

 戦士は短く頷く。

 

「当然だ」

 

 僧侶は柔らかく笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 魔法使いは少し目を見開き、すぐ顔を逸らす。

 

「まあ……当然よね」

 

 少し嬉しそうだった。

 

「ただ、緊急時に他の人へ頼る可能性までは否定できません」

「そこは否定しなさいよ」

 

 魔法使いが即座に振り向く。

 

「死ぬかもしれない時は無理です」

「それは……そうだけど」

 

 戦士が担当表をたたんだ。

 

「なら、基本は私たち三人。候補は緊急時のみ」

「必ず勇者様本人の同意を確認しましょう」

 

 僧侶も続く。

 

 魔法使いは少し不満そうだったが、最後には頷いた。

 

「勝手に増やすのは禁止だから」

「俺もそうしてほしいです」

 

 ひとまず、担当者の無制限な増加は止められた。

 

 たぶん。

 

 ただ、机の上には研究者の新型ブラシ案、武人の短時間仕上げ訓練案、補佐官の担当表、牙獣将の魔族用長柄ブラシが残っている。

 

 全然止まっている気がしない。

 

 世界を救う旅は、いよいよ魔王城へ向かう。

 

 味方と元敵が交差し、人間と魔族の距離も少しずつ変わり始めた。それ自体は、たぶん良いことなのだと思う。

 

 ただし、俺の歯磨き担当候補まで交差する必要はない。

 

 歯磨き前はレベル5。歯磨き後はレベル99。

 

 最初は王女様一人だった担当も、今では仲間三人、臨時担当二人、元敵候補四人。

 

 合計九人。

 

 まだ魔王には会っていない。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 このまま進めば、魔王まで担当候補へ加わるのではないか。

 

 いや、さすがにない。

 

 魔王は最後の敵だ。

 

 歯磨きをする側ではない。

 

 そう信じたい。

 

「勇者」

 

 魔法使いが声をかける。

 

「魔王城へ行く前に、精密仕上げの確認をするわよ」

「今からですか?」

「元四天王に負ける気はないから」

 

 対抗意識を隠さなくなっていた。

 

 戦士も立ち上がる。

 

「急速仕上げも確認する」

 

 僧侶は治療ブラシを取り出した。

 

「疲労もありますから、最後は安定ケアですね」

 

 三人が俺を見る。

 

「全部やるんですか?」

「比較が必要よ」

 

 魔法使いが答えた。

 

 研究者と同じことを言い始めている。

 

 俺は王城の天井を見上げた。

 

 どこにいても逃げ場がない。

 

 元四天王が担当候補へ加わった結果、既存の三人まで対抗意識を強めている。

 

 終盤へ向かうほど、戦いは激しくなる。

 

 そしてたぶん、俺の歯磨き当番争いも激しくなる。

 

 世界を救う前に、俺の自由時間がなくなるかもしれない。

 




### 次回予告

補佐官
「口腔管理所を設置します」

牙獣将
「我の言葉を勝手に標語にするな!」

魔族兵
「でも、このブラシを使ってから牙が痛くないんです」

魔法使い
「魔族用の方が種類増えてない?」

勇者
「王国より歯磨き文化が進んでません?」

戦士
「戦争の準備はどうした」

魔族兵
「今日は口腔検査があります」

勇者
「戦争する暇なくなってる」

次回、第16話
「魔王軍にも歯磨き文化が広まり始める」
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