他人に歯磨きしてもらわないとレベル99になれない勇者です   作:きのこ大三元

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第5話「僧侶、これは治療ですと言い張る」

 王城の広間で、俺はまた説明をすることになった。

 

 昨日は王女様と兵士たちに、自分の勇者の加護について説明した。今日は、新しく勇者パーティに加わる予定の人に説明しなければならない。

 

 勇者の加護。

 歯磨き前はレベル5。

 歯磨き後はレベル99。

 他人に歯を磨いてもらわないと発動しない。

 膝枕状態だと追加バフ。

 

 何度説明しても、慣れる気がしない。むしろ、説明するたびに心が少しずつ削れている気がする。

 

「おい、勇者。顔が死んでるぞ」

 

 隣に立っていた赤い鎧の戦士が、腕を組んだまま言った。

 

「昨日、レベル5で死にかけたので」

「それは自業自得だ。私が来なかったら、角兎に胸を貫かれていたぞ」

「本当にすみません」

「謝るなら、次から勝手に出るな。歯磨き前は後ろにいろ」

「はい」

 

 戦士は容赦がない。ただ、言っていることは全部正しい。

 

 レベル72の前衛担当。

 赤い鎧。

 幅広の大剣。

 気が強く、実戦優先で、言葉はきついが判断は早い。

 

 昨日、草原で俺を助けたこの戦士は、王国の勇者パーティ募集に応じて来た1人だった。到着早々、レベル5の勇者を拾うことになったせいで、俺に対する評価はだいぶ低い。

 

 いや、低いというより、正しく見られている。

 

 歯磨き後の俺は強い。だが、歯磨き前の俺は弱い。その事実を、戦士は誰よりはっきり口にする。

 

「本日、勇者様の回復支援を担当する僧侶が到着します」

 

 王女様が広間の中央でそう告げた。

 

 昨日と同じ赤い絨毯。高い天井。両脇に並ぶ兵士たち。壁際には神官たちが控え、広間の奥には勇者用歯磨きセットを置いた小さな卓まで用意されている。

 

 その卓を見ないようにしていたのに、どうしても視界に入る。

 

 白い歯ブラシ。

 神界製の歯磨き粉。

 携帯用コップ。

 折り畳まれた説明書。

 

 俺の神器だ。

 

 認めたくないが、神器だ。

 

「勇者様」

 

 広間の扉が開き、柔らかな声が響いた。

 

 入ってきたのは、白と淡い金色を基調にした法衣の女性だった。

 

 年齢は俺より少し上に見える。落ち着いた目元。ゆるくまとめられた薄茶色の髪。胸元には治癒の神を示す小さな聖印が下がっている。手には細い杖を持ち、腰の小袋には包帯や小瓶が丁寧に収められていた。

 

 視界の隅に、文字が浮かぶ。

 

 僧侶。

 レベル68。

 

 高い。

 

 戦士のレベル72よりは少し低いが、それでも十分すぎるほど高い。昨日のレベル6の角兎に苦戦した俺から見れば、完全に別世界の人だ。

 

 僧侶は王女様に一礼し、それから俺に向き直った。

 

「お初にお目にかかります、勇者様。回復と支援を担当する僧侶として、王国より招かれました」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。勇者様のお体と、戦闘中の負傷管理は私ができる限り支えます」

 

 優しい。

 

 声が優しい。

 

 昨日の戦士が「レベル5で前に出るな!」と真正面から怒鳴るタイプなら、この僧侶は怪我をする前に毛布をかけてくれそうなタイプだった。

 

 お姉さん枠。

 

 そんな言葉が、元の世界の知識から頭に浮かぶ。

 

「ただ」

 

 僧侶は、俺の顔を見て少し眉を下げた。

 

「勇者様、少しお疲れのようですね。昨日の戦闘と、今朝の騒動の影響でしょうか」

「今朝の騒動」

「レベル5の状態で戦場跡へ向かわれたと聞いております」

「もう広まってるんですね」

「医療担当として、危険行動の情報は共有されました」

 

 優しい声で刺された。

 

 戦士が横で頷く。

 

「当然だ。あれは共有案件だ」

「共有案件……」

 

 勇者パーティ加入初日から、俺の失敗が共有されている。

 

 つらい。

 

「まず確認させてください」

 

 僧侶は、腰の小袋から小さな札を取り出し、淡い光を俺へ向けた。

 

 体の周りを、温かい光がゆっくり回る。

 

「大きな外傷はありませんが、右手首と肩に軽い疲労があります。昨日の剣の使用と、今朝の戦闘で力が入りすぎたのでしょう。あとは、精神的な疲労も少し強いようですね」

「精神的な疲労は、たぶん勇者の加護の説明が原因です」

「なるほど」

 

 僧侶は静かに頷いた。

 

「それでは、勇者様の加護条件について、改めて説明を受けてもよろしいでしょうか」

 

 来た。

 

 避けては通れない時間だ。

 

 俺は深く息を吸った。

 

「俺の勇者の加護は、常時発動ではありません。歯磨き前はレベル5です。ですが、他人に歯を磨いてもらうと、約30分だけレベル99になります」

 

 僧侶は真剣に聞いている。戦士は腕を組んだまま黙っている。王女様は、昨日の説明を思い出したのか、少しだけ表情を引き締めている。

 

「自分で磨いても、普通に歯はきれいになりますが、勇者の加護は発動しません。他人に磨いてもらうことで、相手に任せる感覚や、ケアされる安心感が発動条件になるそうです」

 

 ここまで言った時、僧侶の目が少しだけ揺れた。

 

 困惑。

 

 当然だ。

 

 初対面の勇者から、いきなりこんな説明を受ければ誰でも困惑する。

 

「それと、膝枕状態で歯磨きを受けると、精神安定、加護出力上昇、効果時間延長の追加効果があるそうです」

 

 僧侶が固まった。

 

 戦士が額に手を当てた。

 

 王女様は、昨日より少しだけ慣れた顔で目を伏せた。

 

 俺はもう、壁になりたい。

 

 僧侶は数秒黙った後、ゆっくりと口を開いた。

 

「つまり」

「はい」

「勇者様は、戦闘前に他者による口腔ケアを受ける必要があるのですね」

 

 口腔ケア。

 

 言い方が、かなり医療寄りになった。

 

「はい。言い方はだいぶ真面目ですが、そうです」

「そして、その口腔ケアによって勇者様の加護が発動し、戦闘能力が一時的に上昇する」

「はい」

「膝枕状態では、精神安定を伴う追加支援効果がある」

「はい」

 

 僧侶は少しだけ頬を赤くしながらも、真剣な顔で頷いた。

 

「分かりました」

「分かったんですか?」

「完全に納得したわけではありません。ですが、医療と支援の観点から考えれば、勇者様に必要な処置であることは理解できます」

 

 処置。

 

 今度は処置になった。

 

「これは治療です」

 

 僧侶は、静かにそう言った。

 

 広間が少しだけ沈黙する。

 

「治療……?」

「はい。勇者様の加護を発動させるための口腔ケアです。戦闘前の身体調整であり、精神安定を含む支援行為です。恥ずかしがる必要はありません」

 

 恥ずかしがる必要はありません。

 

 言葉は優しい。

 

 ただ、その内容が歯磨きなので、普通に恥ずかしい。

 

「僧侶さん」

「はい」

「恥ずかしいものは、恥ずかしいです」

「それはそうですね」

「そこは認めるんですね」

「勇者様のお気持ちを否定するつもりはありません」

 

 優しい。

 

 優しいが、逃げ道はない。

 

 戦士が、横から口を挟んだ。

 

「治療だろうが儀式だろうが、要は戦闘前に磨く必要があるってことだろ」

「はい」

「なら、問題は誰が、どのタイミングで、どれくらいの時間で仕上げるかだ」

 

 実戦優先の戦士らしい言い方だった。

 

 僧侶は少し考え込む。

 

「戦闘直前に慌てて行うより、勇者様の呼吸と状態を見ながら、落ち着いて行う方がよいと思います。口の中を傷つけてしまえば、本末転倒ですから」

「丁寧すぎて遅くなると、効果時間が削れる」

「そこは訓練が必要ですね」

 

 2人が真面目に話し始めた。

 

 俺の歯磨きについて。

 

 戦士は戦術として。

 

 僧侶は治療として。

 

 王女様は国の支援体制として。

 

 みんな真面目だ。

 

 真面目なのがつらい。

 

「勇者様」

 

 僧侶が俺を見る。

 

「はい」

「よろしければ、一度、私にも確認させていただけますか?」

「確認」

「はい。勇者様の加護が、私の口腔ケアでも問題なく発動するか。今後、戦闘中に王女様や特定の方が不在の場合でも対応できるよう、事前確認は必要です」

 

 言っていることは正しい。

 

 かなり正しい。

 

 昨日の戦闘。

 

 今朝の失敗。

 

 戦士の説教。

 

 そこまで踏まえれば、歯磨き担当者を複数用意するのは当然だ。

 

 当然なのだが。

 

「今、ですか?」

「今です」

「ここで?」

「ここで行う場合は、皆様に後ろを向いていただきます」

 

 逃げ道がない。

 

 俺が黙っていると、戦士がじろりと睨んできた。

 

「おい、勇者」

「はい」

「レベル5で前に出ないために必要なんだろ」

「はい」

「なら頼め」

 

 昨日、女神様に言われた。

 

 誰かに頼ることも勇気だと。

 

 昨日、戦士にも言われた。

 

 レベル5で前に出るなと。

 

 そして今、僧侶が言っている。

 

 これは治療です、と。

 

 全部、正しい。

 

 正しいのがつらい。

 

「……お願いします」

 

 俺は小さく言った。

 

「俺の歯を、磨いてください」

 

 言った瞬間、広間の空気が少しだけ変わった。

 

 王女様は真面目な顔で頷き、兵士たちは一斉に後ろを向いた。神官たちも視線を下げ、戦士は「よし」とだけ言って腕を組む。

 

 僧侶は、優しく微笑んだ。

 

「はい。お任せください」

 

 お任せください。

 

 その言葉が、妙に安心できた。

 

 僧侶は小さな卓へ近づき、勇者用歯磨きセットの箱を開けた。白い歯ブラシ、神界製の歯磨き粉、携帯用コップを順番に確認する。

 

 その上で、僧侶は腰の小袋から、もう1本の歯ブラシを取り出した。

 

 白い柄の先に、淡い金色の毛先が揃っている。王国の標準歯ブラシよりも少し細く、毛は柔らかそうだった。神界製の歯ブラシが神器らしい清潔感を持っているなら、こちらは治療院の道具らしい優しさを感じる。

 

「これは?」

「神殿の治療院で使う、歯茎を傷つけにくい柔らかめのブラシです。勇者様の加護が発動する条件は、神界製の歯磨き粉と、他者による口腔ケアなのでしょう?」

「たぶん、そうです」

「でしたら、今日は勇者様の顎や歯茎に負担が少ない道具で確認します」

 

 言い方が完全に医療だった。

 

 歯磨きなのに。

 

 いや、歯磨きだからこそなのかもしれない。

 

 僧侶は神界製の歯磨き粉を少量だけ取り、柔らかい毛先に丁寧に乗せた。それから水差しで毛先を軽く濡らし、携帯用コップと白い布を手元に置く。

 

 動作は王女様よりも落ち着いていて、女神様ほど神秘的ではない。だが、包帯や薬瓶を扱う時と同じ、医療用の道具を扱うような丁寧さがあった。

 

「勇者様、椅子にお座りください」

「はい」

「首や肩に力が入っていると、顎も疲れやすくなります。背中を椅子に預けて、肩の力を少し抜いてください」

「歯磨き前に姿勢の指導が入るんですね」

「口腔ケアですから」

 

 出た。

 

 口腔ケア。

 

 僧侶は、柔らかい治療ブラシを手にして、俺の正面に立った。

 

「痛みや苦しさがあれば、手を上げてください。無理に続ける必要はありません」

「分かりました」

「それでは、口を開けてください」

 

 優しい声だった。

 

 女神様とも王女様とも違う。

 

 神秘ではなく、責任感でもなく、治療としての優しさがあった。

 

 俺は、そっと口を開けた。

 

 僧侶の歯ブラシの毛先が、前歯に触れる。

 

 シャコ、シャコ。

 

 静かな広間に、小さな音が響いた。

 

 王女様の時よりも、音が落ち着いている気がした。力加減が柔らかい。歯の表面を強くこするのではなく、細い毛先をそっと当てて、少しずつ汚れを浮かせるような動きだった。

 

「強さは大丈夫ですか?」

「……大丈夫です」

「では、少しずつ奥へ進めますね」

 

 僧侶の手つきは丁寧だった。

 

 前歯の表面。犬歯の横。奥歯の外側。歯ブラシの毛先が順番に移動し、そのたびに僧侶は俺の呼吸や顎の力を確認する。

 

 早くはない。

 

 だが、不安にならない。

 

 むしろ、少しずつ体の力が抜けていく。

 

「勇者様、舌に少し力が入っています」

「……言わないでください」

「大丈夫です。自然な反応ですから」

「その言い方、逆に恥ずかしいです」

「では、恥ずかしくないように、治療として進めますね」

「それで恥ずかしさが消えるかは別問題です」

 

 僧侶は少しだけ笑った。

 

 歯ブラシは止まらない。

 

 毛先が前歯の裏側へ入り、細かく動く。シャコシャコという小さな音が口の中から広間へ抜け、背後で後ろを向いている兵士たちの気配まで妙にはっきり感じる。

 

 恥ずかしい。

 

 でも、安心する。

 

 僧侶の手には、こちらを急がせる感じがない。戦場へ向かう前なのに、治療室の中にいるような落ち着きがあった。

 

「奥歯の内側を磨きます。少しだけ大きく開けてください」

「……はい」

「無理に開けすぎなくて大丈夫です。顎が疲れてしまいますから」

 

 優しい。

 

 優しすぎる。

 

 女神様は神様として丁寧だった。

 

 王女様は責任感で一生懸命だった。

 

 僧侶は、最初からこちらを患者として見ている。

 

 それが安心できるのに、同時にものすごく恥ずかしい。

 

 俺は勇者だ。

 

 世界を救うために召喚された勇者だ。

 

 なのに今、レベル68の僧侶に歯を磨かれながら、肩の力を抜くように促されている。

 

 状況だけ並べると、どう考えてもおかしい。

 

 だが、僧侶は一切笑わない。

 

 毛先が奥歯の溝を小さく掃く。歯茎の近くを通る。舌が逃げかけると、無理に追わず、呼吸が落ち着くまで少し待つ。

 

「勇者様」

「……はい」

「だいぶ力が抜けてきました」

「言わないでください」

「良いことです」

「良いことなのが嫌なんです」

 

 戦士が横でぼそっと呟いた。

 

「昨日も似たようなこと言ってなかったか」

「聞かないでください」

 

 広間の空気が少しだけ緩んだ。

 

 僧侶は、最後に前歯の表面を軽く整えるように磨き、歯ブラシを離した。

 

「はい。終わりました。口をすすいでください」

 

 俺は携帯用コップを受け取り、水で口をすすいだ。

 

 歯の表面が滑らかになっている。口の中がすっきりしている。肩と首の力も、さっきより抜けていた。

 

 そして、次の瞬間。

 

 胸の奥で光が弾けた。

 

 手足が軽くなる。視界が澄む。広間にいる兵士たちの呼吸、神官たちの衣擦れ、窓の外を通る風の音まで、急にはっきり聞こえ始める。

 

 レベル99。

 

 僧侶の歯磨きでも、勇者の加護は問題なく発動した。

 

「発動しました」

 

 俺がそう言うと、僧侶はほっとしたように息を吐いた。

 

「よかったです。勇者様の加護が、私の口腔ケアでも発動することを確認できました」

「口腔ケアでレベル99になるんですね、俺」

「はい。治療効果は十分です」

「治療効果って言い切られると、もう否定しづらいですね」

 

 戦士が俺を見る。

 

「これで、戦闘前に王女がいなくても対応できるな」

「そうですね」

「僧侶の方が落ち着いて磨けそうだしな」

「それを本人の前で言います?」

「事実だろ」

 

 僧侶は困ったように笑った。

 

「王女様は王女様として、勇者様を支えるお立場があります。私は回復担当として、勇者様の状態を整える役目です。役割が違うだけです」

 

 お姉さんだった。

 

 完全にお姉さんだった。

 

 戦士の実戦優先の正論とは別方向で、逃げ場をなくしてくる。

 

「それでは、今後の方針ですが」

 

 王女様が話を戻す。

 

「勇者様の戦闘前支援については、戦士様と僧侶様を中心に運用を確認していきます。さらに、魔法支援担当の者も本日中に到着予定です」

「魔法支援担当」

 

 俺は嫌な予感を覚えた。

 

「はい。魔法使いです」

 

 王女様は頷く。

 

「攻撃魔法、結界、魔力分析を得意とする方です。勇者様の加護についても、理論面から確認してくださる予定です」

 

 理論面。

 

 今度は理論面で歯磨き条件を確認されるらしい。

 

 治療として受け入れられた次は、魔法理論として分析される。

 

 俺の勇者生活は、どんどん逃げ道がなくなっている。

 

「勇者様」

 

 僧侶が優しく言った。

 

「不安なお気持ちは分かります。ですが、頼れる方が増えるのは良いことです」

「そうですね」

「戦士様が前で守り、私が回復とケアを行い、魔法使い様が後方から支援する。勇者様は、必要な時に加護を発動して戦う。それが一番安全だと思います」

 

 その言葉は、かなりありがたかった。

 

 レベル5の俺を守る人がいる。

 

 怪我を治してくれる人がいる。

 

 そして、戦うべき時にレベル99になれるよう支えてくれる人がいる。

 

 勇者なのに守られる側でもある。

 

 それが少し情けなくて、でも少し安心した。

 

「ありがとうございます」

 

 俺が言うと、僧侶は柔らかく微笑んだ。

 

「どういたしまして。勇者様の体調管理は、これから私もお手伝いします」

 

 体調管理。

 

 口腔ケア。

 

 治療。

 

 単語だけなら、とても健全だ。

 

 内容は、戦闘前に他人に歯を磨いてもらうことだが。

 

 戦士が肩をすくめる。

 

「とにかく、これで少しはマシになったな。勇者がレベル5のまま突っ込む危険は減った」

「そこは本当に気をつけます」

「次にやったら、今度こそ引きずって帰る」

「はい」

 

 俺は素直に頷いた。

 

 昨日の草原で、レベル5の自分がどれだけ危険かは理解した。

 

 戦士がいる。

 

 僧侶がいる。

 

 王女様も、王国も支えてくれる。

 

 それなら、俺もちゃんと頼らなければならない。

 

 恥ずかしくても。

 

 治療と言われても。

 

 口腔ケアと言い換えられても。

 

 必要なら、ちゃんと言わなければならない。

 

 俺の歯を、磨いてください、と。

 

 こうして、勇者パーティに2人目の仲間が加わった。

 

 レベル68の僧侶。

 

 回復担当。

 世話焼き担当。

 お姉さん枠。

 

 そして、俺の歯磨き条件を「治療です」と言い張る、逃げ道のない優しさを持った人だった。

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