すずめの戸締まり 〜幼なじみと閉じ師 の旅~   作:陽HARU

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 神戸の夜と、観覧車の頂上で

 

 

愛媛を後にした三人は、ヒッチハイクで二ノ宮ルミさんのミニバンに同乗させてもらい、神戸へと向かった。

車内は意外と賑やかだった。すずめは草太の椅子を膝に抱き直し、蓮は二人の様子を静かに見守っていた。

草太の声が低く響く。「すずめ、君は本当に危なっかしいな。蓮、いつもこうなのか?」

 

蓮は苦笑しながら答えた。「昔からだよ。環さんにも『すずめのことよろしく』って言われ続けてる。草太さんこそ、閉じ師の使命で一人で旅してたなんて……大変だったろうな」

 

すずめは窓の外の景色を眺めながら、小さく呟いた。

「二人とも、ありがとう。草太さんは使命のために、蓮は私のために……一緒にいてくれて、心強いよ」

 

神戸に着き、ルミさんが経営するスナック「はぁばぁ」に世話になることになった。

ルミさんは双子の子供たちを育てながら明るく店を切り盛りする女性で、すずめたちを温かく迎えてくれた。子供たちは草太の動く椅子を見て大喜びし、「ロボットの椅子! 動くのすごい!」と笑い転げた。

 

すずめは照れながら説明した。「この椅子は……大事な椅子で、幼なじみの蓮も一緒に旅してるの。ちょっと事情があって……」

 

ルミさんは察しの良い笑顔で頷いた。「まあ、細かいことは聞かないわ。今日はゆっくり休みなさい。明日も何かあったら力になるから」

 

その夜、店が閉まった後のカウンターで、三人は少しだけ本音を交わした。

草太の椅子を膝に乗せたすずめは、グラスに注がれたジュースを一口飲んでから言った。

「草太さん、教師になりたいって言ってたよね。閉じ師の仕事と両立できるのかな……」

 

草太の声は静かで、少し寂しげだった。「俺の家は代々閉じ師だ。ミミズを封じるのが使命。でも、いつか普通の生活もしてみたいと思ってる。すずめ、君は? 看護師を目指してるって聞いたけど」

 

すずめは頷き、隣に座る蓮に視線を移した。

「母さんが看護師だったから……私も同じ道に進みたい。でも、今はダイジンを追って、草太さんを元に戻すのが先。蓮はいつも私のそばにいてくれて、学校でも家でも支えてくれる。幼なじみとして……いや、それ以上かも」

 

蓮の胸が少し高鳴った。椅子になった草太の存在が、すずめの中で特別な位置を占め始めていることに気づきながらも、複雑な気持ちを押し隠した。

「俺はただ、お前の戸締まりをしたいだけだよ。危なっかしいすずめを、放っておけないんだ」

 

翌日、廃遊園地で再び異変が起きた。

ダイジンの気配を追って入った遊園地で、突然ミミズが現れ、観覧車が不思議な力で動き始めた。すずめは観覧車に乗り、戸締まりに挑もうとするが、過去の記憶——幼い自分が母を探して泣いている夢——がフラッシュバックし、足がすくむ。

 

「すずめ! しっかりしろ!」

 

草太の椅子から鋭い声が飛んだ。

蓮はすずめの手を強く握り、支えながら叫んだ。「すずめ、俺がいる! 草太さんもいる! 一人じゃないぞ!」

 

観覧車が頂上に達した瞬間、夜風が冷たく吹き抜ける中、すずめは汗だくで扉を閉めにかかった。過去の賑わっていた遊園地の笑い声や足音が、風のように耳に届く。

草太の声が優しく、けれど力強く導いた。「ゆっくりでいい。君ならできる。閉じ師の技を、俺が教える」

 

すずめは必死に鍵をかけ、ミミズの気配を封じた。観覧車が止まり、静けさが戻った後、彼女は膝をついて息を荒げた。

蓮はすずめを抱き起こし、草太の椅子をそっと横に置いた。

 

夜の遊園地の頂上で、すずめは二人に向かって小さく本音を零した。

「草太さん、綺麗で使命感が強くて……憧れる。でも、蓮はいつも温かくて、幼なじみとして私の全部を知ってる。二人とも、違う意味で大事だよ。怖かったけど、声が聞こえて頑張れた」

 

草太の声が少し柔らかくなった。「すずめ、ありがとう。俺は閉じ師として旅を続ける身だ。でも、君と出会えてよかった」

 

蓮はすずめの肩を抱きながら、心の中で思った。

草太さんのような強い使命感には敵わないかもしれない。でも、俺はすずめの日常を守りたい。幼なじみとして、そしてこれからはもっと近くで。

 

ルミさん宅に戻り、三人は疲れ果てて眠りについた。

神戸の夜は優しく、三人の旅を静かに見守っていた。

 

 

 

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