誤字・脱字の多い作者です。
お手柔らかにお願いします。
入学式編1
桜舞い散る春麗らかな季節。
朝夕の寒さは続くものの、昼間の暖かさは春の到来を感じさせていた。
天候にも恵まれ、入学式の門出には相応しい様相となっていた。
学内に入ると準備に来ている在校生が何人か見られたが、新入生はまだほとんどいない様子だった。
「納得いきません」
見目愛らしい少女が私たちの目の前で不満げに口を開いた。
老若男女振り返るほどの美少女が、その
私と隣の彼はまたかと思ったが口には出さない。
幸いなことにまだ人気もほとんどないため、この場にいても目立つことはないだろう。
「なぜお兄様が補欠で、お姉様が新入生総代ではないのですか」
見目麗しい少女の名前は深雪。今年度の首席入学者で、私が妹のように可愛がっている子だ。
「私の場合、理論は達也にも貴方にも及ばなかったのよ。実技の結果も貴方以上に総代に相応しい人はいないわ」
「どこから入試結果を手に入れたかと思ったら、雅か」
ため息交じりに隣の彼、達也が私に言った。
結果を手に入れたことを批難されていると言うより、若干の呆れも入っている。
本来であれば希望した本人には入学後、入試結果の成績の開示が行われる。入学案内の段階では一科生か二科生か分かるだけだが、私はちょっとした伝手で入試結果を事前に手に入れることができたのだ。
「お兄様の結果に納得できなかった可愛い妹のためですから。案外、在校生にも結果が出回るくらいだから結果の横流しは黙認されていると思うわよ」
「結果の件は分かったとしても、ここではペーパーテストより、魔法実技の成績が優先される。補欠とはいえ、良く一高に合格できたものだ」
不満な様子が一切ない兄に、深雪はますます語気を強めた
「そんな覇気のないことでどうしますか。お兄様とお姉様以上に相応しい方はいません。それに本来の実力を持ってすればお姉様もお兄様も「「深雪」」
慌てて、達也と言葉を遮る。
それ以上は言ってはいけない事だ。
「それは言っても仕方がないことなんだ。俺はここの評価方法に文句を付けるつもりはない」
「ですが…」
深雪は肩を落とした。深雪だって理解はしている。ただ、どうしても納得できないだけだ。
単一の物差しでは達也は測りきれない実力を保持している。それが正しく評価されないことが私も、深雪も歯がゆくて仕方がない。
「ほら、そんな悲しそうな顔をしないで。深雪はどんな表情でも可愛らしいけれど、せっかくの入学の日よ。笑顔の方が嬉しいわ」
俯いていた深雪の白い頬に触れる。少しだけ、機嫌を直したようで頬を赤らめた。
だが、まだ納得いかない様子で達也を見上げている。困った子だなと私も苦笑いを浮かべて達也を見上げた。
「それに、俺たちは楽しみなんだ。可愛い妹の晴れ姿をダメ兄貴に見せてくれないか」
達也があと一押しにと、深雪の肩を撫でた。
「そんな!お兄様はダメ兄貴なんかではありません!」
「それは、同感ね。達也は自分のことを卑下し過ぎよ」
その点に関しては否定する私たちに、少し困ったように達也は苦笑いした。その理由が分かっているだけに、私も苦笑いにしか返せなかった。
こうしていても、議論は尽きない。ならばここは深雪を遅れないように送り出すことが先決だろう。
「貴方の晴れ姿、私たちは楽しみにしているわ」
ぽん、と深雪の背中を押して先を促す。少しくらいの我儘は聞いてやりたいが、今回ばかりは無理だった。
「はい。我儘を言って、申し訳ありませんでした。それでは行ってまいります」
私たちに期待されてか、深雪は嬉しそうに丁寧に一礼して入学式会場へと向かって行った。私たちは彼女が建物に入るまで見送っていた。
「相変わらず、なだめ方が上手いな」
「達也には及ばないけれどね」
昔が嘘のように、今では達也のことも敬愛してくれている。
しかし、今日みたいなことも時々起るのは嬉しい誤算と言うか贅沢な悩みだ。
「雅には敵わないよ」
「勝ち負けを競うものでもないわよね」
「それもそうだな」
くすくすと笑いあい、まだ2時間以上ある時間をつぶすために私達も歩き出した。
建物をあらかた見て回り、位置を把握する。高校と言うより、どちらかと言えば規模も施設も大学に近い。二人で話をしながら、歩いてみたがそれでも時間はまだ十二分にある。ちなみに、カフェテリアも今日は混雑を避けるために開いていない。
「どうする?」
「それなら、少し見てほしいものがあるんだがいいか?」
「システム関係?」
「ああ。近頃、三課にハッキングが増えてきて防壁の見直しを行っているんだ」
近くにあったベンチに座り、達也が端末を操作する。
「分かったわ。けど、達也の監修なら難しいかも」
「いつも紙切れのように突破するだろう」
「それなりに労力は使っているんですからね」
スクリーン型の端末を受け取り、ファイルを開く。この学校では仮想型の端末は禁止されている。未熟な魔法師にとって仮想型は有害だという説が根強いからだ。元々、読書にはスクリーン型の方が便利ではあるし、もっと言えば私は紙媒体の本が好きでもある。
構成されたプログラムを上から下へと見ていく。
ハッキング対策だけあってそのプログラムの工程も多ければ、システムも複雑だ。上から下までじっくりと見た後、少し息をつく。流石に情報量が多かった。
「システム上の欠陥はないわね。ただ、複数で取りかかった場合は危険な個所がいくつかあったわ」
座っていた距離を詰め、問題のあった箇所を呼び出す。
「ここと、ここ…それから迎撃用のクラッキングシステムのここもかな」
「ここが弱いのか?」
達也が真剣な表情で端末のシステムを見つめている。
「一人のハッカーでは無理かもしれないけれど、複数のハッカーや軍レベルの攻撃を受けるとマズイわね」
「なるほど」
達也に端末を返す。私が指摘したことをすぐさま、端末に記録していた。
「目立ったところはそのくらいかしら」
「端末でこの体たらくじゃあ見直しが大幅に必要だな」
やれやれと達也は肩を落とした。
そう言ったとしても、今回の難易度もかなり高かった。
電気、電子、電波、電磁力、放射線
そう言う類の感受性の強い私は、機械関係にもそれなりに強い。
時々このように、システムのチェックを引き受けている。
「また修正版をテストしますね」
「助かるよ」
あまり人気のない場所にあるベンチとはいえ、会社絡みのこの話をして大丈夫なのか。
通り過ぎる人も寄ってこない。
それもそのはずだ。
私が人除けの術を敷いている。かなり意識しなければここに来ることはないだろう。
風景の一つとして意識に入れないことにするだけの魔法だ。排除とか警告を含めていない術式ならば感知されにくく、まず意識に上りにくい。
更に念には念を重ね、遮音壁も同時展開している。
よほど感知系や空間認知能力に優れた魔法師ではければ、気づかれることはないだろう。
「そろそろ行くか?」
「そうね」
術を解除して腕時計を確認すると、式まであと20分少々だ。
私のこの腕時計は入学祝に両親から贈られたものだ。この時代にアナログの腕時計?という人もいる。
端末と電子マネーのカードさえあれば今時は買い物も通学も基本的に困ることはない。
しかし、いくら便利になったとはいえアナログのものを愛用する人もいる。合う、合わないがあるのが機械の世界だ。
達也曰く、誰にでも合うようにするのが技術者の腕の見せ所でもあるらしい。
閑話休題
私達も講堂へと向かうことにした。
講堂への道を歩いていると幾分か、にぎやかな声が聞えて来た。
新入生やその父兄が続々と来場しているのだろう。
入学できたことに晴れ晴れとした顔、二科生であり少し悲しそうな顔、緊張している顔。様々な表情を見せている新入生たちが遠くから見て取れた。
一高の入学定員は1学年200人。
一科生4クラス、二科生4クラスの計8クラス×3学年で構成される。
全校生徒はおよそ600人だが、その人数に対して校舎などの施設規模は非常に大きい。
魔法師は各年齢の人口に対して1000人に一人と言われている。さらに、魔法に関する事故や魔法の使い過ぎなどにより、成人後も魔法を使える者はさらにその10分の1程度と言われている。
日本は人口当たりの魔法師割合が高く、国威を掛けて魔法師の育成が行われている。
特に一高は入試難度が最高レベルの名門と言われており、入学した時点で魔法師の卵とは言え、相応の実力があってここにいるのだ。
達也が不意に足を止めた。
「新入生ですね。間もなく式が始まりますよ」
「すみません。今、行きます」
先輩の登場に私と達也は小さく頭を下げた。
その時、彼女の手首にはめられたブレスレット型のCADが目に付いた。
学校内でCADを携帯できる生徒は原則風紀委員か生徒会の役員だけである。
普通の生徒は授業や部活動で使用する時以外はCADを学校に預け、放課後に引き取るという校則になっている
達也も顔には出ていないが警戒しているのが分かった。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は生徒会長の七草真由美です。七草と書いて“さえぐさ”と読みます。よろしくね」
気さくに自己紹介をしてくれた先輩はどうやら生徒会長らしい。なるほど。彼女が七草家の長女、七草真由美さんか。持ち前の美貌と可憐な様子から【妖精姫】とも呼ばれる人物だ。
九校戦での活躍は名高いし、十師族に相応しい技量の持ち主だと聞いている。七草とは家の関係でつながりはあるが、直接会うことは初めてだ。
「俺は、いえ…自分は司波達也です」
「九重雅です」
私達以外にも新入生はいる。では、なぜ私たちに声をかけてきたのか。
一科生の女子と二科生の男子が一緒にいることが奇妙に思われたのか。
あるいは彼女も既に入試成績を知っているかどちらかだろう。
「貴方たちが司波君に九重さんね。司波君は魔法理論で平均点70点台のところを満点。九重さんは魔法式の展開速度で入試歴代一位の記録を出したんでしょう」
どうやら成績は知られているようだが、顔までは知っていなかった様子を窺わせた。初対面の人物に警戒心を抱かせない演技だろう。
生徒会長なら顔写真入りの生徒名簿くらい閲覧可能なはずだ。
つまり、入試成績と顔を知っていたことに加えて、二科生と一科生が並んで歩いている、ということで私たちが目に留まったのだろう。
魔法力は国際ライセンスに基づき、魔法を発動する速度と魔法式の規模と対象物の事象を書き換える強度で定義される。私は速度だけで言えば、深雪よりも上だったわけだ。
しかし、あの雑音の多い機械で歴代一位とは結果を見たときには驚いた。
実際、試験で速度に関してだけ再テストを命じられた。通常、二回行われる速度テストが機械を二度変え私だけ五回も行われて試験官の頭を悩ませたのは記憶に新しい。機械の性能が上がればもっと速い速度だって出せるだろう。
だが、私以上に驚きの結果は達也が出している。
「自分の結果はあくまでペーパーテストの結果、情報システム上のことです」
基本的に魔法実技が出来なければ理論もできないと言われる。それだけ達也の結果は実技結果とかけ離れて異常だったということだ。
私も結果を見た瞬間、驚いたものだ。
深雪も私も低い点数ではないし、実際理論の部門では次席と三席だ。しかし、達也の成績は私達の点数を平均で10点近く上回っていたのだ。
「そんなことはないわ。私が同じ試験を受けたとしても満点が取れるとは思わないわ。これでも理論も結構得意なんだけれどね。それに、九重さんも学校のあの機械であのスピードは驚異的だわ」
「恐れ入ります」
会長もあの機械と言っていることだから、多少不満が見えた気がした。
その後、小柄で可愛らしい先輩が会長を呼びに来て、私たちも会場へと向かった。
入学式会場に到着し、入り口で奇妙な光景を目にした。
「見事に分かれているわね」
「ああ」
どこに座ってもいいはずだが、前半分が一科生、後ろ半分が二科生に綺麗に分かれている。
入学前から明確に線引きがされているのが見て分かる。
まさか前側に座っていた二科生に一科生が譲るようになんて言ってないと良いが、流石にそこまでエリート思想に染まってはいないだろう。
「それじゃあ、ここで」
「どこに座っても構わないのでしょう?」
流石に達也に前に座ろうとは言わない。私が後ろ側に行けばいい話だ。
「入学早々、目立つのは得策ではないだろう。
それに、俺のかわりに前でしっかりと深雪を見ていてくれないか?」
そうは言っても、達也や私の目ならこの程度の距離の差に関係なくよく見えるだろう。あくまで建前だ。
「そう言うことにしておきます。でも、深雪の小言は確実だからね」
「フォローしてくれないのか?」
「さあ、どうでしょうか」
冗談めかして言うと、彼は少し苦笑いしながらまいったなという表情を浮かべていた。私が少しだけ魔法を使えば、二科生に紛れ込むことぐらい容易いだろう。しかし、ここは魔法科高校。
先ほどと違い優秀な魔法師もこの場にはいることだから、安易に使うべきではないとは分かっている。
「それじゃあ、また」
軽く微笑んで達也は後方へと向かった。
私も空いている席を探しに前側へと向かった。
以前からハーメルンで劣等生の小説を読んでいたので、こちらでも投稿させていただきました。
サイトとこちらで若干修正しているところもあります。
未熟者ですが、どうぞお付き合いください。