想像していた以上に、長くかかってしましました。
放送室占拠の一件は生徒会に一任されることになり、土曜日に同盟側と生徒会側で公開討論会を行うことになった。
生徒会側の討論者は会長一人で行うそうだ。準備期間も少なく下手に複数の討論者を出して、主義主張が食い違うよりは彼女一人で討論した方が矛盾なくできると自信をのぞかせていた。
おそらく、同盟側は差別撤廃だと大義名分を掲げているが理詰めの論破では彼女には敵わないだろう。伊達に七草と一高生徒会長を名乗っているわけではない。
同盟側が感情的になって暴動や感情論にならなければ、勝算は十分だとしていた。
それに会長を論破できるほどの意見ならば、これからの学校運営に生かしていけばいいと前向きにとらえていた。想像していた以上に強かな人だ。
それにしても、今朝から嫌な雰囲気が漂っている。学校にいる精霊たちもどこか落ち着かない。
生徒に感化されてかと思ったが、そうでもなさそうだ。
これは一悶着以上の事が起きるだろうと内心ため息をついた。
校内では二科生の差別撤廃を掲げる有志同盟(以下、同盟)が、討論会に参加する様呼びかけていた。どこか一昔前の新興宗教か学生運動の再現のようだと祈子さんは呆れていた。
少々行き過ぎた同盟参加への勧誘もあるようで、風紀委員会からもあまり行き過ぎた勧誘は注意し、行動を注視するようにと言われている。
歴史は繰り返す。
形を変え、方法を変え、見方を変え、味方を変え、正義を変え、真実を変え、世界を変える。
そうやって争い事は常に歴史を動かしてきた。
百聞は一見にしかず。
経験に学んだはずの愚者の言葉も、賢者の教えも、歴史を知らない雛鳥には文字の上での話だ。
分かっていても、そこに付け込む闇はいくらでもある。
伯父からの話によると怪しいと睨んでいた3年生、
一高内部はあれだけ選民意識や差別意識があり、劣等感や優越感に溺れている。高校生らしく不安定な心理状態はまさに格好の餌食だったのだろう。
しかも、そのリーダーはまさしく非合法活動も行うような立派なテロリストだと判明した。
攻め入ってきた場合、容赦は必要ないと言うことだ。
実家からは指令こそ下らなかったものの、【大黒天】が動くだろうと言われている。
家の者が動くこともないが、彼が動くのならば表にせよ裏にせよ、かなりの大事になるはずだ。
そして臨時の公開討論会の土曜日を迎えた。
参加自体は強制ではないが、注目度は高く、講堂には在校生の約半数の300人ほどの生徒が集まっていた。
風紀委員も同盟側が万が一、暴力的手段を取ることに備え、それぞれ配置についている。
私、達也、深雪、渡辺先輩はステージ袖で待機し、警戒に当たっている。
私は普段は汎用型だけで対処しているが、念のために特化型も携帯することにした。
ブレザーの下の専用ホルスターに装備し、待機モードにしておく。
討論会自体は多少緊迫した雰囲気ではあったが、まだ理性的な話し合いが行われている。
案の定、烏合の衆であった同盟側は七草会長に論破されていた。
ブルームとウィード。
禁止されているにもかかわらず、公然と使われるその蔑称。
会長は退任時の総会で二科生が生徒会に所属できないという規則を改定し、意識の克服を行いたいと締めくくった。
最後は討論ではなく演説になったが、会場からはその会長の心意気に対し、惜しみない拍手が送られていた。同盟側はもはや太刀打ちはできないだろう。
安心したのもつかの間、校内の精霊が敵の存在を知らせた。
「達也」
「ああ」
達也も同じく“見た”ようで、警戒レベルを引き上げた。
「お兄様…」
「大丈夫だよ。深雪」
深雪が心配そうに私たちを見ていた。
敵襲の可能性は知らせてあるとはいえ、争い事を好む子ではない。相手は卑劣な手段も辞さない相手でもあり、学友が巻き込まれる可能性も高い。
深雪は強く、優しい子だ。だからこそ、彼女の手を汚したくはない。
「雅、どういうことだ」
渡辺先輩と服部先輩が私たちの雰囲気を察知し、険しい表情を浮かべた。
会場は未だ熱が冷めやらないままであり、これでは格好の餌食となるだろう。
「来ますよ」
「なに?!」
爆発音が聞こえると同時に講堂全体が揺れた。
それを知っていたかのように動き出した生徒たちはすぐさま待機していた風紀委員が捕える。
捕えたのもつかの間、講堂二階部分のガラスが割られ、催涙弾のようなものが投げ込まれた。
着地した弾は煙をまき散らそうとしていたが、服部先輩がそれを収束させ、ガスごとまとめて建物の外に追いやった
催涙弾に合せて突入してきたガスマスク部隊は渡辺先輩の魔法により無力化された。
二人とも鮮やかな手つきだった。
「雅、分かっていたのか」
「それより、ここだけではありませんよ」
問う渡辺先輩を横目に精霊と視覚同調を行い、敵の位置を把握する
「最初の爆発は実技棟ですね。数はおよそ50人ほどですが、全員武装したテロリストです。
既に生徒たちも応戦しています」
精霊を通じてリアルタイムに多角的な情報がもたらされる。
工作員らしき男たちは散弾銃やロケットランチャーまで持ち出している。
生徒たちは物陰に身を隠したり、複数で対峙することでテロリストの相手をしていた。
殆どの生徒がここにいるので、襲撃は少人数でも行けると踏んだのだろう。
「知覚系魔法か。それで、敵の目的は?」
「今の所不明です。一番人が多く集まっているのは……中庭です。
万が一、拉致の可能性も否めませんし、武装集団ですから情けは無用です」
「分かった」
渡辺先輩は各委員にすぐさま指示を送っていた。
「委員長、俺は爆発のあった実技棟に向かいます」
「達也君」
「お兄様、お供します」
深雪と達也も鎮圧に向かうようだ。
達也の魔法戦闘力は言うまでもないが、深雪もその魔法力と実践力応用力は同年代を凌駕する。
「そちらは任せた。私も現場に向かう。雅は引き続き、情報収集と連絡を頼む」
「分かりました。皆さんご武運を」
「大丈夫です。お兄様がいてくださりますから」
「それもそうね」
達也がいる限り、深雪は絶対の安全だ。彼が深雪に向けられる害悪を見逃すわけがない。
無論、それは私も変わりない。
鎮圧に向かった三人を見送りながらCADを起動し、精霊を新たに放った。
爆発で混乱した会場は中条梓の魔法により鎮静化され、不安な表情の生徒が多いものの、目立った混乱はない。
入り口には風紀委員が警戒に当たり、部活連の幹部などが二階をカバーしている。
心理的に不安定な生徒たちのフォローは生徒会や教職員を中心に行われている。
「実習棟近くのカフェ、店員を人質に取ろうとしています。
正面から一人、裏口から一人、店内を窺っています」
「了解。山下君が一番近くにいますね。向かってください」
「正門前、追加人員が来ます。数は8人。パワーライフル、ロケットランチャー、手りゅう弾も所持しています。撤退補助要員、遠距離支援部隊と思われます」
「そちらは十文字会頭が向かわれました」
一点、その会場で緊迫した場所がある。
雅と市原鈴音のいるエリアだ。
雅は立ったまま、焦点の定まらない視線を彷徨わせている。
一見混乱しているのかに見えるが、その口調は冷静かつ安定している。
まるでここではないどこかを、集中して、一つの取りこぼしもなく見ているかのようだ。
雅から発せられる情報はまるで俯瞰でこの学校全体を見ているかのように的確な情報だった。
「了解です。中庭で負傷者5名。
一人は脳震盪かなにかで気を失っています。他、骨折と切り傷のある生徒もいます」
「安宿先生、生徒の受け入れをお願いします」
「部活動エリア。敵接近中」
「森崎君が向かっています」
「問題ありません。部活中だったようで生徒に、無力化されています」
鈴音は講堂にあった端末を利用し、情報を整理し、風紀委員を始め各所に連絡を回す。
「実技棟には…あまり人がいない?図書館に侵入者ありです。古典部の2人が応戦しています」
初めてとは思えない、息の合ったやり取りだった。
それを横目で見ていた、あずさはあまりに正確な情報と実戦のような緊迫した雰囲気に無意識に鳥肌が立っていた。
雅が精霊を使い情報収集をしていると、ポケットにしまっていた個人端末が震えた。
「はい」
『部室は無事だよ。それより、奴さんは特別閲覧室だね。どうやら学生がキーを奪取したらしい』
着信は交戦中の行橋からのようだ。
「目的は機密資料ですね」
『正解。今、司波君達が向かったみたいだ』
「分かりました。取りこぼしの無いようお願いします」
『勿論さ。きっちりお灸をすえておくよ』
通話を終わると、雅は視線を動かさずに先ほどの通話の内容を伝えた
「市原先輩、敵の狙いは本校の機密資料の様です。既に深雪たち3名が向かっています」
「敵残存兵力はどの程度ですか?」
鈴音も情報を整理しながら、舌を巻いていた。
テロリストの行動に加え、現場に当っている教職員や風紀委員の情報をリアルタイムで正確に把握している。
しかもこれだけの範囲に対し、連続して魔法を使用しているのに全く疲れた様子さえ見せない。
そして何より誰よりもこの中で、実戦を知っているかのように落ち着いていた。
争いの雰囲気にのまれることもなく、冷静に戦況を見つめていた。
七草のマルチスコープも遠距離知覚魔法として有名であり、かなりの高精度を誇るがこれほどまで離れた位置のものを同時かつ、多角的に把握できるかは分からない。
「戦況はこちらの有利です。すでに侵入者の半数が拘束されています。
数の利はこちらにありますので、交戦地域も間もなく鎮圧されるでしょう。
陽動班は撤退を始める様子も見られます」
「撤退する人員は風紀委員と保安部に、先生方は生徒の救護と安全の確保をお願いします」
今連絡に使用しているのは、今年度初めて導入されたばかりの無線連絡端末。
生徒会と教職員、風紀委員が一同に連絡を取れるようにシステム化された端末だ。
情報の混乱を避けるため、通常は学校長を中心に対策本部が組まれるが、今回は生徒会が主体となって事に当たっている。
保安室にも監視カメラは設置されている。
しかし、その警備員も鎮圧にあたっており、尚且つ教員も武装したテロリストから生徒を守るために駆り出されている。
加えて、高性能のカメラ以上に的確に情報を取捨選択し、把握しているのは雅だ。
事実上、生徒会に指揮権を委任された形となっている。
「一部撤退を開始しました。裏口からも生徒1名、逃走中」
「裏口の方は沢木君と辰巳君が向かっています。撤退した人員には十文字君が向かっています」
「敵の8割が捕縛完了。残りの1割が撤退を開始、1割が未だ交戦中です。
交戦場所は…図書館、裏口、正門です。応援は必要なさそうです」
「分かりました。
先生方からテロリストを完全に拘束し、警察の到着を待つようにとの連絡です」
戦闘が始まってすぐさま、警察にも連絡が回っている。
テロリストとあって、特殊部隊も来ているのも雅は“見て”いた。
「言うまでもありませんが、敵の武器ならびにCAD、アンティナイトを全て外したうえで行ってください。負傷した生徒の救助も始まっています。それと正門の方は既に十文字先輩が鎮圧を終えられました」
「流石ですね」
十文字克人は十師族の一角、十文字家の次期当主である。
鉄壁の二つ名は伊達ではなく、文字通り攻守で生徒を護り、敵を次々となぎ倒していった。
恐れをなし、逃走を図ろうとしていたテロリストたちは逃走用車両ごと転がされていた。
「裏門と図書館での戦闘も終結しました。
壬生先輩が負傷しているようですが…腕の骨折だけの様です」
「わかりました。彼女も含め、色々と事情を聴く必要があるようですね」
警察の特殊部隊が一高に到着し、テロリストを次々と拘束していくのを精霊を通して雅は確認していた。相当数の警察部隊が出てきており、生徒たちの協力もあってすぐさまお縄となっていた。
達也と深雪も無事な様で、胸をなで下ろし、雅は精霊とのリンクを切った。
取りこぼしなく、侵入してきたテロリストは一人残らず警察に連行された。
ただ、関与していたであろう一校の生徒はひとまず処分は保留となっている。
魔法を学び、これからのこの国に貢献するであろう魔法師が反魔法団体に協力したとあっては良い醜聞だ。
講堂にいた生徒たちは簡単に事情を聴かれた後、下校を許可された。
ただ不安な生徒が多いようで、カウンセラーの先生がカウンセリングに当っているそうだ。
エリカとの戦いで負傷した壬生先輩の話を聞くことになった。
壬生先輩がなぜ犯罪組織に手を貸すことになったのか。
いくら部活の主将がリーダーの手下だとしても、アンティナイトを渡されたり、手引きをした時点で不審に思わなかったのか。
疑問は残るものの、壬生先輩が魔法だけが評価の全てではないと思い込むようになった原因は渡辺先輩にあったそうだ。
入学時、試合を申し込んだが二科生だからという理由で手酷く断られたと悔しそうに語っていた。
しかしそれも、壬生先輩の思い違いだった。渡辺先輩が断ったのは、壬生先輩の方が技量が上であり、自分では相手にならないという理由だった。
認知のズレが発生している。
壬生先輩に漂うものを良く見てみると、不自然なオーラの歪みがあった。
元々壬生先輩を取り巻くものを不自然に歪めている。
これは誰かに魔法を掛けられていた可能性がある
達也も記憶の相違からマインドコントロールの可能性を示唆した。
そして達也は決めた。
深雪の平穏を脅かしかねないテロリストは根絶やしにすると。
そして、カウンセラーの小野先生が保健室の扉の前で聞き耳を立てていた。
気配を消すのが達者のようだが、保健室の扉一枚程度なら彼には見通せて当然だ。
彼女はなぜか敵のアジトの位置を知っていた。
その理由は追々ということで、彼女の話によると敵は郊外の廃工場へと拠点を移したそうだ。
殲滅部隊に加わったのは、十文字会頭に私と達也、深雪にエリカと西城君。
そして、桐原先輩を加えた計7名だ。これには少し、意外だった。
同じ剣技を磨く者にとって、壬生先輩の行動は桐原先輩にとって許せなかったはずだ。
しかもそれが、テロリストによって洗脳された結果だと知って静かに怒りを燃やしていた。
敵の残存数はそれほど多くもなく、7人で事足りるだろう。
エリカも西城君も文字通り暴れる気満々だった。
十文字会頭が用意した車を使用し、郊外にある廃工場まで向かっていた。
車両内部は緊迫した雰囲気だった。予め放っておいた精霊を呼び出し、建物周辺と内部の状況を把握する。
「工場周囲にも内部にも爆弾などトラップはありません。敵兵力は武装した人間が50人です。
一番人が多いのは正面から入って1階の中央、裏口から内部へ通じる廊下にも20人員は割かれています。予備兵として10人、2階に待機しています」
「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」
「了解です。レオは退路の確保を。エリカはレオのアシストと逃げ出した敵を仕留めてくれ」
捕まえなくていいのかと聞くエリカに安全確実に処分しろと達也は言った。
エリカは恐れてはいない。
彼女の実力はまだ実際には見ていないが、おそらく人を殺せるだけの技術と覚悟がある。
そうでなければ、自分からついてこようなどとは言わないだろう。
十文字先輩と桐原先輩は裏口から、残りの私たちは正面突破となった。
「向こうもようやく気が付いたようです。
ですが、新たに動く気配がありませんので、正面から迎え撃つつもりの様です」
「なら、作戦通りに行こう」
正面から車で鉄柵に突撃し、工場の敷地に入る。
エリカたちはそのまま車の周囲で待機、会頭と先輩は裏口へ、私たちは正面へと向かった。
電力供給もない、昔ながらの鉄製の扉を開く。
既に敵は銃を持ち、こちらを出迎えた。
「やあ、待っていたよ」
「お前がブランシュのリーダーか」
少々演技掛ったように自己紹介したのは司甲の兄、
彼は深雪と達也、私の事も知っており、達也のキャストジャミングに興味を持っていた。
壬生先輩を使って達也に接触してきたり、司甲に達也を襲わせたのも彼の指図らしい。
達也が一応、形式にのっとり投降勧告をするが、自分の優位を疑っていなかった。
「司波達也、我らが同胞になれ!」
光の信号が達也に浴びせられる。
一瞬グラついたように達也は見えたが、それも単なる演技だった。
司一が放った魔法は邪眼に見せかけた光波振動系魔法で、単なる催眠術の域を出ない姑息なものだ。これで壬生先輩もマインドコントロールを受けたのだろう。
魔法を見破られた司一は薄っぺらい化けの皮が外れ、工作員たちに攻撃を命じた。
しかし、銃は発射されることなく、部品の形態にバラバラにされた。
自身の知らない圧倒的な魔法に恐れをなした司一は真っ先に逃げ出した。
「お兄様、追ってください」
「ここは私達で十分よ」
「分かった」
達也は敵の工作員の真ん中を堂々と歩き、司一を追って行った
「このっ」
工作員の一人が達也に向かってコンバットナイフを取り出した瞬間、私は彼を打ち抜いた
「があっ・・・ぁ・・・あ・・・・」
高圧電流を浴びた敵は倒れ、無様な悲鳴を上げた。
「ほどほどにな。お前たちが手を汚す相手じゃない」
達也はこの程度の相手に私たちが遅れを取るとは思っていないので、余裕を持ち司一の後を追った
「このくそアマ」
残された敵が愚かにも隠し持ってきた拳銃を取り出そうとしていたので、もう一発、見せしめに電流を浴びせる。
全身が雷に打たれたように痙攣して男は倒れた。相手にはもはや恐怖しか映っていない。
「お姉様、ここは私にやらせてください」
「深雪。貴方が手を汚す相手ではないわ」
「お姉様とお兄様に刃を向けたことを後悔させなければなりません」
「そう」
私は一歩下がった。
深雪の怒気にあてられたかのように室内の気温が下がる。
振動系冷却魔法『ニブルへイム』
液体窒素さえ作り出すと言う高等魔法だが、深雪にとっては何の造作もない魔法の一つだ。
敵は足元から凍りつき、恐怖のまま氷像となった。
魔法を終了させると、私は深雪を抱きしめた。深雪も冷静になったのか私にしがみ付いた
「お姉様、私…」
人を殺してしまった重圧に深雪は震えていた。
「大丈夫よ、深雪。貴方は誰も殺していないわ」
「えっ…」
彼らはまだ生きている
簡単に言えば、極端に体温の下がった仮死状態だ。
表面は凍りつき、凍傷は免れないだろうが、死んではいない
「動き出すこともないでしょうし、エリカたちと合流しましょう。
達也と会頭も合流してリーダーも捕えたわ」
振るえの止まった深雪の肩を抱いて、私たちは建物の外へと歩き出した。
後日談
事後処理は十文字先輩が引き受けてくださった。
西城君とエリカは出番もなく、不満げな様子を漏らしていた。
壬生先輩をはじめとした協力していた一高生徒の多くが洗脳下にあったため事実上の御咎めなしとなった。
彼女と司先輩も洗脳の影響が判明するまで入院となったらしい。
その間、桐原先輩は熱心に見舞いに行っていたとエリカから聞いた。
あの一件以降、壬生先輩とエリカは仲良くなり、サーヤと呼ぶまでの仲となったらしい。
そして退院の日、私、深雪、達也で病院までお見舞いに行った。
既にエリカと桐原先輩は到着しており、和やかに談笑していた。
「退院おめでとうございます」
「ありがとうございます」
深雪が壬生先輩に花束を渡した。
最後に会った時から随分と壬生先輩も晴れた顔つきをしており、安心した。
達也は壬生先輩の父に話があると呼ばれ、二人で席を外した。私は彼の顔に見覚えがあった。
壬生勇三
内閣府情報管理局(通称、内情)に属する人だ。
内情はウチにも関わりが深い部署でもあるが、そこは兄たちの仕事の範囲だ。
聞き耳を立てるのはマナー違反でもあるし、しばらく雑談をしていると、達也が戻ってきた。
少々達也の纏っている霊子がざわめいていた気がしたが、何か彼を動揺させる言葉でもあったのだろうか。
「お父さんとなんの話だったの?」
「昔、俺がお世話になった人が御父上の知り合いだったそうです。世間は狭いですね」
「へー、やっぱりサーヤと達也君って深~い縁があったんだね。
ねえ、サーヤ、どうして達也君から桐原先輩に乗り換えちゃったの?
サーヤって達也君の事、好きだったんでしょう?」
「なっ、エリちゃん」
「ルックスだけなら達也君の方が上だけど、どうして?
やっぱり顔に似合わず、桐原先輩のまめな所?」
壬生先輩は真っ赤にさせて、貰った花を抱きしめていた。
男は顔じゃないよと真面目な風に語るエリカに桐原先輩は青筋を浮かべて泣かすぞと言っていた。
「お姉様…」
深雪が心配そうに私の腕を抱きしめた。大丈夫よと言う代わりに深雪に笑いかけた。
「たぶん・・・私、司波君に恋をしていたんだと思う」
「えっ」
「なにっ」
エリカと桐原先輩もまさか本当だったとは露知らず、驚きの声をあげた。
「私が憧れていた揺らぐ事の無い強さを持っていたから。
けれど憧れるだけで、私がどれだけ走っても、司波君には追いつけない。
桐原君なら…喧嘩しながらでも同じ速さで歩いていけると思った。だからかな」
壬生先輩の言葉に桐原先輩は照れくさそうに頭をかいた。
「へー、ごちそうさま。ねえねえ、桐原先輩はサーヤのこと何時から好きだったの?」
甘酸っぱい告白にエリカも流石に満足したようで、次の狙いを桐原先輩に切り替えていた。
「五月蠅い女だな。お前には関係ないだろ」
「そうだぞ、エリカ何時からだなんて関係ない。
大切なのは桐原先輩が壬生先輩に本気で惚れていると言うことだ。
詳しくはプライベートなことも含むだろうから話せないが、ブランシュのリーダーを前にしたときの桐原先輩の勇姿には男として敵わないと思ったよ」
達也も悪乗りが嫌いではない。
昔、散々兄たちの言葉遊びや悪戯につき合わされたおかげか、茶化したり、冗談を言ったりすることもある。
エリカは目を輝かせ、桐原先輩は自分の言葉を思い出したのか顔を赤くしていた。
「へー。達也君、後でその話詳しく聞かせてね」
「司波、てめー絶対に喋るなよ」
「しゃべりませんよ」
「えー、いいじゃない。」
「千葉、この野郎」
「きゃ~」
病院のロビーで騒ぐ二人を余所目に達也は微笑み、私の背を軽く叩いた。
心配することはない、そう言いたいのだろう
そろそろ時間もあり、私たちは3人を残して病院を後にした。
「お兄様、お姉様」
顔を曇らせていた深雪も、今は笑顔で私たちの手を取った。
「深雪はお二人が音の速さで天に駆け昇ろうと、星々の高みに昇ろうと、ついていきます」
深雪の言葉に達也は苦笑いを浮かべた。
「どちらかといえば、置いて行かれるのは俺の方だと思うのだがな。
だが今は高みを目指すより、地を固める方が先だ」
今日は土曜日なので、本来は学校がある。
達也は実習があるようで、これをサボると日曜日に学校に出て補講となるそうだ。
A組だと今日は一般科目が残っているが、深雪と私ならそれほど困ることもないだろう。
深雪は少しだけ、俯いて自信がなさそうに聞いた。
「お兄様、学校はお辛くないですか。お兄様は本来、高校に通われるまでもない実力をお持ちです。それでも侮りを受けてまで、学校に通われているのはやはり私のために無理を「それは違うよ」
達也は深雪の言葉を遮って、真っ直ぐした瞳で言葉を続けた。
「俺は学校に嫌々通っているわけではないよ。
俺はこの日常が今しかない、掛け替えのないものだと知っている。
俺は雅と深雪と、普通の学生をできるのが楽しいんだ」
「私も二人と同じ学校にしてよかったわ」
兄二人も二高に通っていたし、本来なら私もそこに入学するはずだった。
直前で進路を変えたのは、深雪たちからの申し出と、家からの後押しがあったからだ。
家の名を知らない友と出会い、星めぐりと共にありなさいとそう言ってくれたのだ。
平穏な日常が何より心地いいと感じさせてくれた。
この二人は私にとって、掛け替えのない世界だった。
司波達也の軍用ネームがなぜ【大黒竜也】か。
達也→たつや→竜也→りゅうや、なんだろうなとはなのだろうとは思っていましたが、
司波→シヴァ神=大黒天→だいこく→大黒→おおぐろ となったことに調べてようやく気が付きました。
なので、雅の実家からは縁起を込めて【大黒天】と呼ばれています。
佐島さんも言葉遊びの好きな人なのでしょうか。
さて、間を挟んでいよいよ九校戦です。
次の更新がいつになるかな・・・・