恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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長らくお待たせしました。
前回の甘々な感じは、楽しんでいただけたようで何よりです。
そして前回で100話達成ありがとうございます。
甘々書いているこっちが恥ずかしいくらいですが、イチャイチャさせたい。甘くしたい。けれど、一転シリアス調です。そしてちょっと短め。

たぶん次で師族会議編は終わり、南海騒擾編に入ると思います。



師族会議編10

二月十五日

 

魔法に携わる者たち全てが恐れていた事態がやはり、否、ついに勃発した。

場所は魔法科大学正門前。反魔法師団体によって組織されたデモ隊が、魔法科大学構内へ押し入ろうとして警察ともみ合いになった。

国防上の機密が大量に存在する魔法科大学は、元々関係者以外の立ち入りを厳しく禁止しており、警察がデモ隊の侵入を阻止したのは政府の方針でもあった。

 

だが、その機密を隠蔽と曲解したデモ隊によって、遂に暴力行使と言う手段が取られた。

石を投げつけたり、徒党を組んで体当たりしたり、体当たりしてワザと転べば被害者アピール。そうなれば、あとはお決まりのコースだ。

食堂の大型ディスプレイには、1時間ほど前に発生したその事件が映し出されていた。

 

「逮捕者24名か。多いのか、これは?」

 

デモ隊の組織的な公務執行妨害に対して、一条君が首都圏の対応の相場が分からなかったのか、そう問いかけた。

 

「反戦デモが盛んだったころに比べればずっと少ないが、最近では多い方だな」

「でも、達也さん。石を投げていた人はもっと多くいた様に見えましたけれど」

 

すかさずほのかが達也との会話に割り込む。

昨日の一件は彼女にも堪えたとは思ったのだが、意外と今日の所は昨日までと変わらないように見える。

上手に切り替えられたのかどうかは分からないが、ほのかがそのような姿勢でいるのならば私も気にしないことにした。

 

「現行犯逮捕でなくても、路上カメラがあるからね。焦らなくても後からいくらでも逮捕できるから」

 

達也の答えを待たずしてエリカが答えてくれた。

この場合、身内に警察関係者がいるエリカが答えたとしても不思議ではない。

 

「ん?ありゃ、オメエの兄貴じゃないか?」

 

熱心にニュースをみていた西城君が画面を見ながらエリカに確認を求めた。釣られるように私も画面に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目の前が暗闇に染まる。

まるで画面が切り替わるような一瞬のことだ。

眩暈の類ではない。視界も暗いが暗いと認識できる空間がある。

私は先ほどまで食堂で座っていたはずだ。なのに今は立っている。

そして誰もいなければ、なにもない。ただ広大な闇だけが目の前にあった。

意識ははっきりしているのに、体は動かない。

 

先ほどまで温かい室内にいたはずなのに、ここはやけに指先を刺すように寒く、もの悲しい。

この場所を私は知っている。

知識としてと言うより、暗闇や高所あるいは生死といったより根源的な知覚だ。

 

『おや、お前が呼ばれずしてくるのは珍しい』

 

瞬き一つの間に眼前には白磁の貌、浮かぶ紅の唇が弧を描く。

自然と一歩下がり頭を下げ、ひざを折る。

私はこの方を知っている。

お目見えするのは二度目になるが、なぜこのような場でという感覚はすでにない。

私に授けられたもう一つの呼び名がそうさせる。

 

『ゆるりと語り合いたいところではあるが、()い子よ。そなたの知る剣が一つ折れるようだよ』

 

耳からではなく、頭に直接語り掛けられるような、艶のある声が響く。

大人のようで、少女のようで、無垢と純粋さとは別の少し楽しさが含まれたような、それでいて声一つで全身が大きなものを目の前にしたような圧倒されるものがある。

確かに自分はここにあるというのに自分と地面の境界、空気と自分との境界が分からなくなるような気がした。

指の先を力を込めて握りしめてもまるで感覚はなく、そうでありながら、血液が全身をめぐる音が聞こえるような静寂の中にいる。

私が私として認識している意識ですら、果たして正常なのかと疑問に思う。

 

私がここにいることすら本来有り得ない。

正式な手順も踏まず、なんの守りもない。

生身同然のまま、この場に至った。

だが、そうまでして呼ばれたからには訳があるはずだ。

剣が折れる。

単なる物が壊れるという事ではない。

おそらく誰か私の知る人の死の予兆を意味していた。

何故兄ではなく、私にと思うが口は動くことは無い。

 

『鏡が良かろう』

 

するりと白魚のごとき爪の先まで美しい手が私の頬を撫でる。

柔らかい手はまるで温度がないのに、慈しみに満ちている。

それは、(あたかも)も……。

 

 

 

 

 

「――魔法師絡みの案件だし、暴徒対策に駆り出されたんじゃない?」

「全体で何人くらい参加していたんだろう」

「警察も大手マスコミもデモ参加者の人数は発表しませんからね」

「テレビに映っていた範囲だと200人くらいだな」

「全体だと300から400人、500人を超えていた可能性もあるか」

 

エリカ、達也、美月、一条君。

どこかみんなの話す声がまだ遠くに感じる。

視界は明るく、目の前には食べかけのお昼ご飯の並んだトレーがある。

(こうべ)を垂れていたはずの私は、椅子に座っている。

錯覚だったと思えるような、白昼夢にしてはやけにリアルな、それでいて私の心ははっきりとあの情景を記憶している。

暖房の入った温かい室内にいるはずなのに、指先までまだ凍えるような冷たさを覚えている。

 

時間の感覚が麻痺したような、ほんの一瞬であり、まるで一日のように長さを感じた。

私は何時からここにいて、どのくらいみんなの話を聞いていなかったのかさえ分からない。

それほど長くない時間ではあるだろうが、時間の流れにはっきりとした自信が持てない。

 

「はあ!!なにが『言論の自由に対する侵害』よ。『集団行動の自由は集会の自由と同様に尊重されるべき』よ!不法侵入未遂と公務執行妨害だっての!!」

 

怒り心頭のエリカの声に、ようやく自分が食堂でニュースを見ていたことを思い出す。

テレビの画面は既に大学からの中継映像や暴動の映像とは切り替わっていて、どこかの大学の教授だとか弁護士だとかが持論を展開し、アナウンサーが魔法師に否定的な意見に同調している。

 

「……雅、大丈夫?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」

 

隣にいた雫が私に声をかけた。

 

「実家は大丈夫?」

「そうね。京都の魔法協会本部にも連日抗議団体の代表とかマスコミが詰めかけているそうよ。今のところ、他のところに飛び火するようなことは無いけれど、警備は増やしているそうだから、目立った被害は出ていないのは幸いかしら」

 

私一人で考えても、あの現象についての答えはでないだろうから、あとで兄か父に聞くしかないだろう。

雫の質問に考えを纏めるのは先送りにした。

最近の魔法師に対する排斥運動に関して実家にもコメントを求めに来たマスコミもいたらしいが、広報担当が断ったそうだ。

九重神宮は勤める者の多数が魔法師であることを隠しているわけではないので、事件や報道を受けて若干、観光客は減っているらしいのだが、怪しい動きをする人物は今の所ないそうだ。

 

「流石に九重神宮に手を出すような怖いもの知らずとは思いたくないけれど……」

「分からないわよ。黎明期や大戦前には、暴漢が本殿まで押し入ろうとしたそうだから」

 

吉田君が眉を顰めているが、あくまでそれは相手が一般的な常識が通じる場合だ。

魔法が属人的技術として公になったおよそ100年前や戦時前の情勢が不安定な頃には、スプレーを持った落書き犯や勤める者に向かって暴行を振るおうとした輩が出たそうなので、おそらく今回も情勢次第では、過激な犯人が出かねない。千里眼という力を持っている当主がいる以上、事件は未然に防げているが、心配なのは確かだ。

直接的に自分たちが害されたわけでもないのに、魔法師という存在だけで目の敵に思う人はどこにだっている。

じわり、じわりと人々の悪意と言うような見えないものが、私たちを取り巻いているということだけは嫌でも感じていた。

 

 

 

 

 

二月十六日

 

昨日起きた魔法科大学への不法侵入については、今日もまたニュースで取り上げられている。

テレビ上では魔法師に対して好意的な立場を取っている議員が冷静に反論して見せたものの、魔法の使用をより厳格化すべきと言う声は日に日に大きくなっていくばかりだ。

国策はどうあれ、反魔法師運動を煽る一部マスコミもあるが、報道の自由と言う名を盾に規制は厳しい。

 

「エリカ」

 

放課後、私は授業が終わると部活に向かおうとしていたエリカを呼び止めた。

 

「どうしたの」

「これ、持っていて」

 

私はエリカに厚手の和紙の封を差し出した。

表には墨で九重桜の家紋が描かれている。

エリカは首を傾げながら、封を受け取ると、中を確認した。

 

「御守り?木とか紙とかじゃなくて、板か何か入っている?」

 

渡したのは社務所で授与されている御守りより、一回り大きい白色の御守り袋だ。

普通であれば九重神宮という名称と家紋が縫い込まれているが、これは家紋と真っ赤な南天模様が織り込まれている。

 

「厄除けの御守りよ。エリカでもいいし、エリカが渡してあげたいと思った人でもいい。持っていてくれると嬉しいわ」

 

剣と聞いて、真っ先に思い浮かんだのがエリカだった。

剣と言うならば【太刀川】のような、あの方の剣である四楓院の名を持つ者であると思うべきなのだが、私にはそうは思えなかった。

兄や父に確認しても、呼ばれたのならば思うようにしてよいという事だったので、昨日一晩かけて準備したものだ。

 

「ありがとう。大切にするわ」

 

何かあるとはエリカも聞かなかった。

一見すると普通の御守りにしか見えないが、そうでないことはおそらく気が付いている。

気が付いていて何も聞かないでくれているところは有難い。

私も説明しようにも説明できない、したところで理解されないであろうことだ。

 

 

そうこう話している時に、上着のポケットに入れていた携帯端末が着信を告げるために震えた。

誰からだろうと取り出してみると、燈ちゃんからだった。

 

「私、部活行くわね」

「ええ。またね」

 

エリカに一言入れて、電話に出る。

 

『みやちゃん、今構わへんな』

「大丈夫よ」

 

電話越しだが、質問ではなく確認の言葉に切羽詰まっていることは電話越しに伝わってくる。

 

『二高の生徒が襲われた』

「えっ」

 

思わず声に出てしまい、廊下の少し先では部活に行こうとしていたエリカが足を止めている。

エリカは聞かない方が良いかと廊下の先を指さすが、私は首を横に振った。

 

『反魔法師団体とかいう馬鹿共が一年生の女子を取り囲んで、暴言浴びせたんやて。んで、一年と二年の男子が助けに行ったんやけど、向こうもコッチも怪我しとる。死にはしとらんが、マズイで』

「そうね」

 

この情勢下、たとえ正当防衛であったとしても魔法師が一般人に対して魔法を使っただけで問題になる。

 

『こっちの男子の方は一番重症で骨折多数と鼓膜破裂に内出血。あと脳震盪と鎖骨骨折が一人ずつや。なんか格闘技の経験者っぽいやつがおったらしい』

「相手は?」

『1年の女子のスパーク食らって不整脈が一人、あとは歯が欠けたとか大した怪我やあらへん。協会の方にも連絡は行っとる。自衛は認められるはずや』

 

おそらく二高の生徒も魔法を使うのはギリギリまで我慢はしたのだろう。

格闘家の拳も凶器になり得るのだから、相手にも相応の過失があると認められるだろう。

問題はこれを受けて更に反魔法師の声が強まることと、同時に魔法使用の規制が強化される事だろう。

最悪、自衛すら魔法を用いることを禁止されるという危険もある。

 

「そう。また状況が変わったら教えて頂戴」

『おん』

 

向こうもまだ落ち着かないだろうからと早めに話を切り上げた。

私のすぐ隣にはエリカが神妙な面持ちで立っていた。

 

「エリカ、悪いけれど部活は中止になりそうよ」

「何があったの?」

「二高の女子生徒が反魔法師団体に取り囲まれて、助けに入った二高の男子がずいぶんと酷い暴行を受けたから、その女子が魔法で応戦したそうよ」

「ついに、って感じね」

 

どうやらエリカも予想していたことのようで、苦虫を噛み潰したかのように隠しもせず舌打ちした。

 

「狙って女の子を取り囲むとか、最悪。正当防衛は成立するのよね」

「まだそのあたりは警察が調査しているみたい。これから生徒会室に向かうけど、残っている生徒はあまり荒立てないでおいて」

「OK。それとなく見ておくわ」

「ありがとう」

 

深雪たちの元にも情報は入っているだろう。

部活の中止も含め、検討しなければならないことが多い。

私はエリカと別れ、生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

二月十七日 日曜日

 

昨日の放課後は雅の予想通り部活は中止になった。

女子生徒を中心に不安そうな顔が見られ、まだ日が沈む前だというのにまるで真夜中に出歩くような警戒心で帰宅を急いでいた。

 

エリカとしては特別警戒を強めるわけでもなく、普段通りに帰宅した。ただ昨日はそうでもなかったが、なぜか今日は朝からなんとなくもやもやとした気持ちを抱えていた。

二高生が被害にあった事件に対する怒りと憤りだという事は分かっているが、今のエリカではどうしようもない。

精々、被害にあわないよう気を付けるくらいなもので、しばらくは部活なども時間が短縮されることが見込まれる。

 

日課となっている朝のロードワークをいつもより長めに終え、家の門をくぐると思わず顔を顰めた。

休日なのに朝から嫌な奴と顔を合わせることになってしまった。

 

遊びに行くのではない、仕事用のトレンチコートを着込んだ長兄とばったり会ってしまったのだ。

カレンダー上では日曜日という休日だが、刑事の仕事には曜日は関係ないので、特別おかしなものではない。

先日の魔法科大学への不法侵入もあって、魔法師の刑事は反魔法師団体対策の現場や捜査に引っ張りだこなのは確実だろう。

無言でエリカはその横をすり抜けようとした。

 

「エリカ」

 

まさか、ではなく予想通り呼び止められてしまう。

 

「なに?」

 

エリカは不機嫌だと表情で示しながら問う。

エリカにとって、千葉家の長兄である寿和は、父より苦手な相手である。

稽古で散々叩きのめされた記憶と、巫山戯た口調でエリカの心の奥底を的確に貫いてくるのだから、癇に障る。関わってくれるなと頼んだことも一度や二度ではない。

 

「なあ、稲垣見てないか?」

「稲垣さん?」

 

いつもならば嫌味の一つや二つ飛んできて、エリカの態度を咎めるものだが、それもしない様子はどこか切羽詰まっているものを感じさせる。

 

「最近は見ていないわね。いつから?」

 

思ってもみない問いかけにエリカは真面目に返答してしまった。

 

「昨日からだ」

「昨日……」

 

いい大人が一日姿を見せないだけで、その心配様は如何なのだろうかとエリカは眉を顰める。

 

「あの野郎、連絡なしに仕事を休みやがった」

「稲垣さんは一人暮らしよね。起き上がれないくらい体調が悪いとか?」

「家にもいなかった」

「家まで行ったんだ」

 

呆れた口調に、寿和は締まりがわるいように一つ咳付いた。

 

「コレ、貸してあげる」

 

エリカはトレーニングウエアの上着ポケットに入れていた御守りの紐の部分を掴んで差し出し、寿和の掌に落とした。

雅に言われて昨日から肌身離さず持ち歩いていたもので、今朝走りに出た時も持って出ていたものだ。

 

「御守りってどういう風の吹きまわしだ?…って、九重かよ」

 

訝しいものを見るように寿和は手元の御守りとエリカを交互に見た。

失礼な態度だと思うが、逆にエリカも寿和から御守りの一つでも渡されようものなら鳥肌が立つことだろう。

普段の態度からも柄ではないことは分かっている。

 

「そうよ。雅からもらったたぶん特別製。言っておくけど稲垣さんのために貸すだけだから、無くさないでよ」

 

貸すことすら癪ではあるが、なんとなく、エリカの勘がそうさせた。

ただの人探し、それもたった一日無断欠勤というだけのことだ。

 

「分かった。預かっとく。稲垣を見つけたら連絡入れるよう言ってくれ。連中にも伝えておいてくれ」

 

何となく気恥ずかしいのか、寿和は足早に出て行った。

それをみて、エリカも妙なむず痒さを感じながら家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

二月十八日 月曜日

 

三月末から四月にかけて春の演目が控えており、神楽の稽古は複数の演目が並行して行われている。

昨今の情勢から一般観覧を取り消すかと言う話も出ているが、反魔法師団体の圧力に屈したことになるという強硬的な姿勢の者もいれば、軍事利用以外の魔法の使用について喧伝する場であるため政治的な面からも要請が出ているようで、今のところは一般観覧もできるよう準備をしている。

観覧に招待した客の方から欠席を伝えられることも想定しているが、それは仕方のない事だろう。

 

今日は魔法を用いずに器楽と舞を合わせている。

相手役は【太刀川】の次郎さん。

九重神楽の舞手であり、1年生の3学期に大学の研究でも一緒だった相手だ。

今回の演目は東京と京都の両方で披露され、東京では次郎さん、京都では次兄が相手役になっている。演目上、舞手が詠唱することで魔法を補助する場面もあるため、難易度は高いものとなっている。

今のところは順調に曲の舞との合わせは進んでいる。

片足で音もなく地面をけり、音を立てずに着地したところで、突如ガラスが割れるような音に思わず舞を止める。

 

「雅ちゃん、どうした?」

 

楽師などの様子をみても私以外に音に反応した人もいない。

 

「すみません。何かが割れるような音がした気がして……」

「誰も魔法は使ってないから暴発ってことは無いだろうけど?」

 

私が曲の途中で足を止めたことに、次郎さんが心配そうに声を掛ける。

九重神楽は秘匿性が高いため、この稽古場は地下にある。

窓などはないが、鏡などガラスに似たものは設置されている。

しかし、なにも割れたような形跡もなければ、魔法が発動した気配もない。

 

「一度休憩がてら、少し調べてみましょう」

「すみません」

 

楽師の長がそう申し出てくれたおかげで一旦休憩となった。

調べてみた結果、特に何も異常はなかった。

だが、どこか胸騒ぎがして止まない。

 

 

そうしてそのまま21時を過ぎたころ、稽古は終了した。

 

「雅さん、今日は人を付けさせていただきます」

 

普段は稽古後に自動運転車で自宅まで送迎してもらっているが、今日は自家用車で送ると宮司から申し出があった。

 

「どうかなさったのですか」

「一高の女子生徒さんが反魔法師団体に取り囲まれたそうで、明日から土曜日まで休校が決まりました」

「そうなのですか」

「ええ。なんでも襲われたのは生徒会の方々だそうで、暴漢どもは雅さんのお相手さんが対処されたと聞いています。一高生には怪我人はいないそうですよ」

 

一瞬息が詰まった。

端末は稽古場には持ち込めないので、ここ数時間確認していない。

 

「怪我人はいないのですね」

「そのようです」

 

今日は生徒会で卒業生への贈答品を頼みに商店へ行くと言っていたので、おそらく深雪や水波ちゃんが狙われたのだろう。

それに達也が相手をしたのなら、深雪が怪我をしたことはないだろう。

深雪が危険にさらされたとなれば達也が黙ってはいない。

無事だとは聞きつつも、早く声が聞きたいと私の気持ちは焦れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば花畑の中にいた。

これは夢か?

夢にしてはやけにファンシーだなと思いつつ、花畑を抜けると石ころの道が続いている。

その道に沿って歩いていくと、花畑は終わり、石や岩の転がる河原に出た。

周りにはじーさん、ばーさんが多いが、まだ歩いたばかりの幼児や若いやつ、脂の乗ったおっさんなんかもいる。

ざくざくと石の河原を自然と歩いていけば、川の前でひとが並んでいる。

なんだか血を流したように赤く見えるのは、夕日だからだろうか。

川をじゃぶじゃぶ歩いて渡っているやつもいれば、船に乗って優雅に向こう岸に運ばれている奴もいる。

並んでいる奴らは普通の服だが、川を渡っていくやつはみんな白装束だ。

 

ああ、俺は死んだのかとそこでようやく気が付いた。

参ったな。

刑事である以上、危ない事件もいくつも担当してきたし、時にはテロリストとも戦った。

死ぬかもしれない仕事ではあったが、死ぬ気は更々なかった。

 

どうしたものか。

心残りがありすぎる。

辺りを見回してみるが、稲垣の姿はない。

結局あいつは死んだのか?生きているのか?優秀なくせに最期まで手間のかかる部下だった。

親父ともうちょっとは酒でも一緒に呑んでおけば良かったな。頑固なのは知っているが、エリカの母親のことといい、文句を言いたいことは山ほどあった。

早苗は泣くだろうな。エリカはどうだろう。

憎まれ口を叩いて位牌に灰でもぶつけられるかもしれない。

修次は、彼女とよろしくやっているようだから、そのままさっさと籍入れて跡継いでくれればいい。

優秀だから、あいつなら大丈夫だろう。

門人もあいつには世話になったやつが多し、慕うやつも多い。

それから―――。

結局、あの人には言えず仕舞いだったな。

仕事で数回会っただけの仲だ。

食事にはいったが、それも報告会のようなもので男女の色恋というものはない。

それに、まあでもあれだけの美人なら周りが放っておかないだろう。

俺のことは一度でも手を合わせてもらえれば十分だ。

 

そうこうしている内に順番がきて川の目の前にいた。

よぼよぼでシワシワのばーさんが船番をしている。

川辺に植えられた木にはスーツだったり、病院服だったり、産着だったり、様々な服がかけられている。

ここで身包み剥がされて、あっちへ行くのか。

 

なんだ、ばーさん?

お前、胸に何を入れている、って?

胸?

銃は吊るしていたが、死後の世界でその重みはない。

他に何かあるか?

てか、最後の時の姿で死後の世界もいるんだな。

スーツの胸ポケットと内ポケットを漁ると、なにやら内ポケットにスーツとは異なる布の手触りがあった。

引き出してみると白い御守り。

真ん中がナイフか何か刃物で切り裂かれている。

なんだっけ、これ?

 

「なんだい、あんた。まだあっちへ渡せないじゃないか。ほら、さっさと帰りな」

 

 

 






(・ω・)つ「あたかも~~~」を使って例文を作りなさい。

(・∀・)ノ「冷蔵庫に牛乳があたかもしれない」

( #゚д゚)=○)゚Д)グァグハッ


元ネタが分かる人は同世代かも

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