皆様大変お待たせいたしました。感想、評価、ありがとうございます。
お返事できず、申し訳ない限りです。
ちょこちょこ返していけるように頑張ります。
今月は佐島先生の新刊が2冊もあって、筆が乗りました。
だがしかし、多機能フォームを起動して、編集頑張ったのに、保存できておらず、1000字近く消えてました。泣きたい。
相変わらず筆は遅いですが今年の内にさくっと3年生に入りたいなー(´・ω・)
深雪たちを襲撃した犯人は単なる暴徒ではなく、組織化された者たちの可能性が高いため、今後過激な行動に出かねないとして学校は土曜日まで休校、つまり実質的には日曜日まで休みとなった。
外出禁止とまではいかないが、自粛を求められている。
この時期に一週間近く休みが取れるのは有難いことだが、学校からの課題は当然出されている。
しかもテストが近いため、そちらの勉強も並行して行わなければならないので、休みとは言い難い。
とはいえ、長期休暇ではないのに六日も休みとなれば、神楽の合わせをするからと実家から声が掛かった。
合わせとは言ってはいるものの身近で暴力的な事件が起きており、なおかつ二高の学生ではあるが被害が出ているので、一旦実家に身を寄せろという事なのだろう。事実、母がわざわざ東京まで迎えに来ていた。
京都までの道中は特に問題もなく、実家の部屋に荷物を置くとすぐに呼ばれ、荷解きもそこそこに座敷に通される。
来客用ではない、どちらかといえば私的な使用の多い部屋では、両親が隣り合って座っていた。
兄たちの姿はない。
この時間であれば、お勤めに出ているから不思議なことではない。
問題は父が宮ではなく、わざわざ時間を割いているということだ。
大したことでなければ祖父母に伝言を頼むか、もしくはお勤めを終えた夜でも問題はないはずだ。
父と向かい合うようにして座ると、普段ならば神楽の進捗や学校での様子を挟み本題に入るのだが、挨拶もそこそこに表情を曇らせた父が口を開いた。
「今朝、お前に持たせた守りの力が働いた」
背中に冷水を浴びせられたようだった。
咄嗟に言葉が出てこないほど、私は困惑と焦燥に駆られた。
「エリカは、無事なのですか」
なんとか言葉にしたものの、指先から血の気が引き、喉がひりひりと焼け付くようだった。
あの御守りは九重の御守りの中でも特別なものだ。
自身の身に向けられた術式を防御する、または直接体にかけられた術を反転するものであり、九重の秘術の一つでもある。
日本神話ではかつて
その守りの力が働いたという事は、持っていた者に危険が及んだことに他ならない。
「彼女は無事だ。アレを持っていたのは千葉の長男のようだ」
千葉家の長男というと、魔法師であり、刑事をしている人だったはずだ。
あまりエリカとは仲が良いとは聞かない、というよりエリカが反発している印象だったが、御守りと一目見てわかるものを渡すだなんて、なにか心変わりでもあったのだろうか。
「敵の手からは逃れたようだが、まだ彼岸に足を掛けている状態だ」
どうやら術は無事に機能したようだが、容体は安心できないようだ。
高度な術式だけあって想子の消費量は桁違いだ。
たとえ命が無事でも、魔法師として以前と同じように働くことは難しいかもしれない。
「
父が仰々しく
普段ならば俗世に関わると本山が煩いと達也に積極的に協力することはないが、父の話によるとどうやら四葉のスポンサーから話がつけてあるらしい。
深雪たちの無事は昨日の内に直接電話を掛けて確認はしているが、達也が既に敵を捕捉していたことは初耳だった。
鎌倉の潜伏地には、千葉刑事の部下が先に単身乗り込んでいて、千葉刑事が探しに行ったところで返り討ちに合い、命からがら逃げ出したようだ。
「情勢はあまりよくない」
「今晩にでも決着がつくのではないのですか」
父は溜息の混じった声で、眉間のしわを深くしている。
千里眼を持つ父にはこの先の大筋が見えているはずだが、まだ大きな事件が起きるのだろうか。
「USNAの星が秘密裏に来日している。顧傑はUSNAの高官の手が伸びていた者だ。関係を隠匿したいあちらとしては、死体を残すわけにはいかないだろう」
十師族が顧傑の捜索に協力しているのは、師族会議を襲撃したテロリストを日の目に晒すことで、魔法師が受ける批判を緩和させようとしているためだ。
だが、仮にUSNAの妨害により首謀者の死体がなければ、犯人死亡のままテロ事件は収束したことになる。
十師族の、ひいては魔法師の面目も潰され、しかも外交上の問題もあり、仮にUSNAの妨害が明らかだとしても公表するわけにはいかない。
結果、一般にはテロの脅威は残ったままと認識され、少なからず日本の魔法師にとっては逆風になるだろう。
「時間の経過である程度、魔法師に対する反発は収まるだろう。だが、好ましくない方に世論が傾いていることは確かだ。今年一年、達也はその問題と否応なしに付き合わなければならない」
第三次世界大戦以降、二十年世界群発戦争を受け、世界各国ではその後も大なり小なり軍事的衝突は起きている。
日本も未だ大亜連合とは停戦中であり、終戦も講和もしていない。横浜事変の講和も単発的な講和であり、国家間の完全な講和は実現していない。
仮に魔法に対する敵対感、排除感から世界情勢の悪化に繋がり、世界規模の戦争となれば、魔法の軍事的有用性が証明された今となっては、魔法師の実戦投入は今後進んでいくことが見込まれる。
軍属以外であっても最悪、協力と言う名の徴兵もあり得ない話ではない。
まして達也は非公式ではあるが日本の戦略級魔法師だ。軍事的緊張が高まるという事は、達也の身の置き方も変わってくる。
そしてそれは四楓院としてこの地を守護する名を持つ私も同じことだ。
「あれが、最後だったと分かっているな」
ここまで話をされれば、私は父に呼ばれた理由にも気付く。
「承知しています」
6歳の時に一度、沖縄で一度、そして今回。
私に次はない。
「お前をまだ彼の方の元へと遣わすつもりはないが、心得ておくように」
苦渋を押し殺すように、父はそう言った。
二月二十四日 日曜日
翌日から学校が再開されるとあり、私と次兄は京都から東京へと戻っていた。
テロ事件は幕引きとはなったが、兄は念のために同行してくれている。
もっとも、それは単なる方便で本当の目的は深雪とデートでもするつもりなのだろう。
荷物は別に宅配で送っているため、手荷物はさほどなく、自宅に寄ることなくそのまま九重寺を訪ねた。
「やあ、二人とも。悠君は久しぶりだね」
「新年の挨拶以来ですね」
「君が忙しいことは重々承知だよ」
この屋敷では茶室以外にはあまりない畳の座敷に案内されると、門人たちが茶を淹れて静かに下がっていく。
ある程度、弟子が遠ざかったのを確認して、伯父は茶を口に含んだ。
「例の一件の顛末は君たちに改めて説明する必要はないだろうから、僕からは説明は省かせてもらうよ」
「構いません。ご尽力いただき、感謝いたします」
兄は礼を述べた。
父と兄の話によると、今回の一件では顧傑はUSNAのスターズのナンバーツーに殺され、海の藻屑となったそうだ。
船ごと叩き切ると言う随分と大胆な手口だが、あちらの言い分では海上で船舶の衝突が避けられなかったためとのことだ。
高位の魔法師が秘密裏に入国していたことは問題ではあるが、姿を直接確認したわけではないため、外交ルートから非を責めることも難しいようだ。
顧傑が逃亡の際に何人か手にかけて傀儡として利用したため、少なからず犠牲者は出ているが、事件性を鑑みてその死も大きくは公表されることもないだろう。
「それとお客さんだよ」
伯父の視線が次の間に向けられる。
襖で仕切られた隣の部屋に人がいることは分かっていたが、伯父が結界でも敷いていたのか気配は読み取りにくかった。
質素なつくりの襖が静かに開かれた。
「響子さんでしたか」
「あら、私がいることくらい分かっていたでしょう。悠君が京都から出てきているって聞いてね」
兄はしおらしく「どうでしょうか?」と曖昧に笑ってはいるが、私でも人がいることに気が付けたことに兄が分からないはずがない。
控えていたのが響子さんであることは、伯父の結界があったとしても見通していたはずだ。
今日の彼女はグレーのジャケットに黒いスカートとかなりフォーマルな装いだ。
連絡先は知っているが対面で相談すること、もしくは連絡することがあるのだろう。
軍服ではないので少なくとも仕事ではないし、そもそもここに軍服姿で立ち入ることは憚られる。
響子さんはそんな兄の態度も特に気に留めず、笑顔を浮かべながら空気だけは張りつめている。
重要な話であることは状況からみてとれる。
「では、ごゆっくり。雅君はこちらへ」
「分かりました。響子さん、あとでまた」
用事があるのは兄に対してなので、部外者は退散する。
私は伯父に続いて、部屋を後にした。
藤林響子は風間の伝手で九重八雲にコンタクトを取り、悠と接見していた。
彼個人の連絡先も知っており、祖父に頼めば九重本家と連絡を取る事も出来たであろうが、自分が会うには立場が悪い。
藤林家の娘として会うことも、藤林中尉としても会うことができない。
前者は悠には既に婚約者がいる立場であり、女性と二人きりで会わせるには相応の理由が必要だ。
後者は言うまでもない。俗世とは遠い神職である彼に軍人が会うとなれば、下手に耳聡い者に勘繰られても困る。
そういうわけで、藤林響子個人として会うためには、九重寺という場所以外に適した場所は考え付かなかった。
「悠君を前に探り合いは無用というより、虚栄よね」
「思考が透けているわけではないですよ」
久し振りに会ったと言うのに粗雑な物言いに挨拶もおざなりになってしまったのは、自身の焦りか緊張によるものだろう。
数年前は光
従弟の九島光宣も身内の眼から見ても絶世の美少年ではあることは確かだがが、悠と光宣では纏う雰囲気はまるで違う。
家としての歴史の長さを感じさせるのか、神職として勤めているからなのか。ただ対面しているだけなのに、なにか大きなものを相手にしているような言い知れぬ感覚がある。
特に室内に二人きりと言う状況は、指先から心臓、はたまた心の奥底まで見透かされているような気がしてならない。
誇大妄想だと理性が叱咤するが、口の渇きに嫌でも自覚させられる。
「彼に何が起きたのか知りたいの」
背筋を正し、宵闇のように黒い瞳を見据えた。
声は震えていなかったように思う。
彼が誰とは言わなかった。
それでも伝わると確信していた。
「
「死亡した稲垣刑事にかけられた術については聞いたわ。達也君もまだ不確定要素が多いとは言っていたけれど、恐ろしい術であることは確かだわ」
顧傑の作り出した傀儡の魔法師と対峙した達也の仮説では、生者を殺すことで死者には余剰となる生命エネルギーを糧に傀儡となった者は魔法を行使していたという。
先立って顧傑の潜伏先を突き止めた稲垣刑事はこの術式によって傀儡となり、一条家の長男の手によって完全な死体となりその最期を迎えた。
まるで物として魔法師の命を消費するような振舞いには憤りを感じるが、既に敵は海の中だ。
「でも千葉刑事は生き延びることができた。彼の病室には九重の紋の御守りがあったわ」
単なる偶然ではない。
九重が彼に何かをしたことは確かだ。
御守り自体は千葉寿和の妹であり、達也のクラスメイトであるエリカから渡された物であり、元をたどれば雅の私物だ。
九重が何らかの形で彼にそれが手に渡ることを見越して、雅に持たせていた、と考えることが自然だろう。
どんな目的があっての事なのか、彼を九重が必要としているのか、強力な傀儡の術から逃れる術があるのか、彼の瞬き一つ、指先の動き見逃さないように気を張り詰めていた。
障子戸に雲間を抜けた光が差し込む。
会話と会話の余白が、やけに長く感じる。
「響子さん、意地を張るのはもう十分ではないですか」
返ってきたのは予想もしない言葉だった。
一瞬息が止まるほど心をかき乱された。
「質問の答えにはなっていないけれど?」
ポーカーフェイスは得意ではあったが、随分ときつい口調になってしまい、声も少し上擦っている。
威厳も威勢もなにもあったものではない。
無意識に膝の上で重ねた指を強く握っていた。
その指先も温度はないような感覚だった。
「聞きたいのはそもそも彼に何が起きたかではないでしょう」
彼は質問の回答を誤魔化しているのではない。
この質問をすることは無意味だと拒絶しているのでもない。
悠はまるで慈しむように優雅に笑みを口元に浮かべていた。
「許しがほしいのですか、それとも誰かにその感情の名前を告げてほしいのですか」
春先を思わせる穏やかな声なのに、その言葉は鋭く心を抉りぬいた。
「忘れるわけではありません。彼が生きた日々の掛け替えのない記憶が貴女にはあって、彼のいない日々を貴女は歩む。その隣に別の誰かがいることは、後ろめたいことですか」
かつて、愛した人がいた。
今でも愛している人がいる。
それでもその思いを告げる相手は既にこの世にいない。
戦場となった沖縄の地で、彼はその人生を終えた。
婚約者の死が、藤林を魔法師として軍に身を置かせる理由の一つとなったことは確かだった。
自身の才能と軍の仕事の内容は適正があったと思う。
軍の仕事の中で千葉寿和は都合の良い警察とのパイプだった。
横浜事変の前から協力し、その折に何度か食事をした。
ただその後は私的な連絡もなく、浮ついた言葉のやり取りもない。
たった数度、縁があっただけ。
それでも彼が死の淵に立っていたと聞いた時には冷静ではいられなかった。
だからこうして悠にも問い詰めている。
問い詰めて、諭された。
何を分かったような口を、と乱暴に言ってしまいたいのに否定できなかった。
「彼はしばらく療養が必要なようですから、時間は十分ありますよ」
その感情の名前など、陳腐な言葉にしてしまいたくはないという自分がいる。
それでも胸を締め付けて止まないこの痛みは、偽ることができない確かなものだった。
兄が響子さんとの話し合いを終えて、九重寺から司波家へと向かう。
達也から事件の顛末を二、三確認すると兄は達也への労いを一言かけ、深雪をデートに連れ出していった。
昨晩約束していたそうで、深雪はAラインのワンピースにベージュのロングコートの装いで、少し化粧もしていた。可愛いと言うより、大人っぽいデザインで、上品にまとめられている。
兄との年齢差が気になるのか、少しでも大人っぽい格好をして兄に釣り合うようにと思っているところが可愛らしい。
達也はエスコートされる深雪をみて、少しだけ眉間に力が入っていた。
私は稽古続きで休息が必要なのと、課題で心配なところがあったので、達也と一緒に勉強会をしていた。
水波ちゃんは買い物をしてくると言って気を利かせてくれたのか、司波家には私と達也しかいない。
「達也は魔法大学に進学の予定なのよね」
「今のところはな」
勉強がひと段落したところで、達也が淹れてくれた珈琲を飲みながら休憩することになった。
私のは豆乳と蜂蜜を入れたソイラテだ。
甘さと温かさに体がじんわりと温かくなる。
「親父は今度こそ仕事に集中しろと言いそうだが、叔母上の許可も出ている」
「そっか。来年からはまた遠距離になるね」
私は魔法大学に進学せず、実家の九重神宮で神職としてお勤めの予定だ。
今も末席としてお勤めはしているが、神楽の中には正式な神職としてある程度修行を終えた者でなければ舞う事が許されていないものがあるため、数年は修行の身だろう。
父の見通しでは、達也が私を選ばなければ3年後の桜は見ることができないと言われているので、あるいはということもある。
達也と深雪には大学進学をせずに実家に戻ることは伝えてはいるが、それ以外のことは告げるつもりはない。
義務感や責任感、あるいは憐憫のようなもので、達也を縛り付けたくはなかった。
達也が私を大切にしてくれていることは理解している。
それでも、告げてしまえば彼は優しさから私の手を手放すことはしないだろう。
そんなものは欲しくない。
彼と歩むのに、そんな重石のような感情は必要ない。
これは私の意地であり、エゴだという事も分かっている。
分かっていてなお、私は彼が本当に私を選んでくれることを信じていたかった。
信じていたいのに、全てを打ち明けられない。
もどかしさと弱さを押し込むように、甘い液体を喉の奥に流し込む。
「深雪も進学?」
「迷っていたようだ」
「兄は高校卒業でも大学卒業でもどちらで構わないと言っていたわよ」
魔法師は学生結婚自体、それほど珍しくはない。
早くに次世代を求められる風潮から、産休、育休後の復学のための制度も整えられている。
しかし、それは一般的な魔法師の話である。
四葉家も九重家も一般的とは縁遠い家である。
深雪ならば華道や茶道、立ち振る舞いなどは問題ないだろうが、何事にも流派があり、親戚関係、季節行事、神事のことも合わせて覚えることは多岐にわたる。
私と達也の婚姻より、次期当主である兄と深雪の結婚の方が重要視されるのは当然の事なので、少なくとも結婚は私と達也より先のことになるだろう。
「達也は深雪と一緒の大学に行きたいでしょう」
「流石にそろそろ離れなければならないことは分かっているさ」
達也の苦笑いにやや陰りが見えた気がした。
「何か気になることがあるの?」
私としては何気ない質問だった。
「―――雅も事件の顛末は聞いているだろう」
達也の言葉に私は首を縦に振る。
「海上に逃げた顧傑をUSNAのベンジャミン・カノープスは分子ディバイダーで船ごと切断しようとしていた。俺は術式解体でそれを止めようとしたところで、師匠に制止された」
「死体は出てこなかったのよね」
恐らく沈没した船や顧傑、その他傀儡となった者の死体は捜索されているだろうが、発見できたという話は聞かない。
「なぜ止めたのか、師匠に問いかけた。結論から言えば、あの場面で術式解散を使う事で、深雪や雅を危険にさらす可能性を理解できていなかった」
「私たちに危険?」
今回の事件と私たちの身の安全に何か関りがあるのだろうか。
それは反魔法師的な風潮が強くなり、実際暴力事件が発生したため、身の安全は魔法師全体に言えることだ。
四葉と九重という名前があっても、見境のない敵というのはどこにでもいる。
「アンジー・シリウス、リーナと対峙したときの俺はまだ無名の魔法師だ。雅の婚約者といっても、それほど危険視はされていなかった。だが、今の俺は四葉家の次期当主候補の一人だ。師匠は俺が四葉の名前の重さが理解できていないと言った。その俺が分子ディバイダーを『分解』していれば、USNAの覇権を脅かす存在として米軍は俺を敵と認定しただろう」
元々リーナは大亜連合の軍港を地図上から消すほどの威力を持つ、日本の非公式の戦略級魔法師の暗殺とパラサイトの追跡のために来日していた。
その頃はまだ達也も深雪も四葉とは無関係であるように、情報操作がされていた。
しかし、四葉家との関係が明らかになった今、達也は以前のように自由に動くことが難しくなった。
何をするにしても四葉家次期当主候補として、色眼鏡で見られるだけではなく、ただでさえ情報が少なく、かつ強力な力を持つ四葉家とあって動向には少なからず注目が集まる。
あの場で顧傑を捕縛したとしても、米軍からの監視は強化され、戦略級魔法師ということが明るみになるかもしれない。
「そうなれば、深雪や雅にも危険が及ぶ。俺は師匠に指摘されるまで、その危険を予知できていなかった」
スターズのナンバーツーが乗船しているだなんて、誰も思わない、なんて気休めなことは言えない。
達也が相手にしなければいけないのは、目に見える敵だけではない。
「不甲斐ないな」
「達也は役目を全うしようとしただけでしょう」
「ああ。だが、目先の結果ばかり見てしまっていた」
少しずつ、身動きが取れないように絡め捕られている。
そんな気がした。
四葉家から自由になるため、彼はこれまで血反吐を吐き、心配になるほどの努力を重ねてきた。
全ては深雪のためというが、その深雪が九重に嫁ぎ彼の手から離れるとなれば、彼は四葉に義理を果たす理由はない。
それでも何かと理由を付けて、彼を自由にはさせないだろう。
「脅威は去った。事件だけみれば、これ以上の被害は防がれたわ」
こんな時、深雪ならばなんと言葉を掛けただろうか。
「お疲れ様。ありがとう」
ありきたりな言葉に、達也は少しだけ頬を緩めた。
上京してきた妹と吉祥寺君と東京観光をしていた一条君は、デート中の深雪ちゃんを見かけて、絶望しました。