恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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新刊読みました。
水波ちゃん(´゚д゚`)

甘い話が書きたい。
そしてあまり話が進まない、思い浮かばない・・・




動乱の序章編4

四月十日 水曜日

 

今年度の新入部員勧誘週間、通称:新歓は例年と負けず劣らずにぎやかなものであったが、幸いにして大きなもめ事は起こっていない。

毎年ちょっと熱が上がって校則違反になるような勧誘をしているのはごく一部で、今のところ滑り出しは順調だった。

 

昨年度は取り締まる側の風紀委員と部活連執行部でトラブルがあった関係で、今年は部活連執行部、生徒会、風紀委員会の三役で見回りのエリアと時間を区切っている。

流石に人がいるような場面になれば配置は流動的にはなるが、手柄争い、縄張り争いになるようなことは少ないと見込んでいる。

 

「第二小体育館は闘技場って呼ばれていて、剣術部や剣道部、古式魔法クラブやマーシャル・マジック・アーツ部が主に使用しているところね」

 

深雪から頼まれて詩奈ちゃんに部活紹介の傍ら、度を越えた勧誘がないか見回りを行っている。

今日の見回りは室内の運動部を中心に行い、合わせて各部活動の部長たちへの詩奈ちゃんの挨拶回りも兼ねている。

新入生総代というより、十師族ということで詩奈ちゃんのことは顔か名前くらいは知っている生徒も多いと思うが、夏には九高戦も控えているので顔つなぎをしておくとその後がスムーズだと考えたのだろう。

 

「たしか矢車君は剣術部に入部希望なのよね」

「その予定だと聞いています。……あの、雅先輩には入学早々お世話になったようで、大変申し訳ありません」

 

詩奈ちゃんは再度恐縮そうに頭を下げた。

入学して早々、詩奈ちゃんの幼馴染(兼ボディーガード)の矢車君は魔法の不適切な使用で達也に取り押さえられた。

一応詩奈ちゃんを心配してのこととして詩奈ちゃんがきちんと責任を持って矢車君を監督するということで、お咎めなしにはなっている。詩奈ちゃんが責任をかぶる必要はなかったのだろうが、護衛を外された矢車君の暴走に近い形だったのだろう。

 

「その話はもう大丈夫よ。矢車君はよほど詩奈ちゃんが大切みたいね」

「そんな。三郎君はただの幼馴染ですよ」

 

照れるわけでもなく、詩奈ちゃんは首を横に振った。同い年の男女で幼馴染、それもボディガードと女主人となればその手の噂話には辟易しているのだろう。

私も火のないところに煙を絶たせる趣味はない。

 

「矢車君は無事部活動が決まりそうだけれど、生徒会役員も部活動に所属することは可能よ」

 

委員会の掛け持ちはできないが、部活動と生徒会や委員会活動は掛け持ちが可能である。

生徒会の仕事がある今でも水波ちゃんは山岳部に時々顔を出しているし、香澄ちゃんも見回りと称して茶道部にお茶とお菓子を楽しんでいるらしい。ほのかも生徒会の仕事と調整しながら、SSボート・バイアスロン部の活動を行っている。

 

「生徒会の仕事もあるから慣れるまでは大変だと思うけれど、考えてみてね」

「わかりました」

 

社交辞令のつもりだったが、詩奈ちゃんは純粋に勧誘されていると思ったのか、素直に頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館入口で見学者用の履物に替えて、一礼して中に入ると、ちょうど入り口付近から全体を監督していた十三束君がいた。

 

「十三束君、今大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 

組み手と組み手の間の解説時間だったので、問題なかったようだ。

 

「詩奈ちゃん。顔合わせの時にもいたと思うけれど、こちら部活連執行部副会頭でマーシャル・マジック・アーツ部の部長の十三束君。近接戦闘の名手よ」

「九重さんにそう言ってもらうとなんか照れるね。魔工科三年の十三束鋼です」

「初めまして、三矢詩奈です」

 

柔和な表情ののちに武道家らしいピリッとした一礼に、詩奈ちゃんは少し面食らいながらも、同じく自己紹介をした。

十三束君は物腰柔らかいけれど、部活や競技の場面になるとキリッと男前な雰囲気で可愛い顔立ちにそのギャップが良いってエイミィが以前惚気ていた。

マーシャル・マジック・アーツ部は男子部員しかいないが、女子生徒も見学に来ているのは、つまりはそういう目的の人もいるということなのだろう。

 

「この後は剣術部と剣道部だけれど、時間通りで問題なさそうね」

「そうだね。さすがにウチの部活が時間オーバーするのは格好がつかないからね」

 

模擬試合と新入生向けに近接戦闘の解説が主に行われており、この後会場を使う予定の剣術部と剣道部も体育館の隅の方で準備をしているところだった。

 

「引き続き剣道部と剣術部もよろしくね」

「ああ。今年は問題ないといいけど」

 

私が入学した当時は剣道部と剣術部の関係はあまりよろしいと言えたものではなかった。

剣術部は魔法を使わない剣道に魔法師のくせに半端者と揶揄し、剣道部は純粋に剣技を磨き、小手先ばかりの魔法に頼る剣術部とは違うと反発をしていた。

一部、そういう動きを助長していた先輩もいたが、今は退学の身だ。

去年までの在校生に剣道部、剣術部のカップルがいたお陰か両部活動の関係は、同じ時間帯に合同で新歓を行うくらいには良好になっている。

 

「そういうのをフラグって言うんでしょう。じゃあ、またミーティングで」

「三矢さんも見回りご苦労様」

「はい、頑張ります」

 

その場は十三束君に任せて、第二体育館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

その後もスケジュールに沿って見回りと部活動の紹介を詩奈ちゃんにしていった。

文化系、理論系の部活動は比較的穏やかだが、運動部は魔法の使用の有無にかかわらずどこもにぎやかだ。

校内全体に精霊を飛ばせ、騒動がおきないか緩く監視しているため、お祭り騒ぎの混乱と問題は早めに駆け付けられたが、人の顔を見るなり顔を引きつらせるのはどうかと思う。

威を借るキツネになるつもりはないが、騒ぎが早く片付いたことは僥倖と思うべきだろう。

 

「今日新歓をしている部活動はほぼ紹介したと思うけれど、どこか見て回りたいところはある?」

 

新歓として許可されている時間はあと少しとなっている。予定の所は見回りを終わったので、このまま生徒会室に戻っても問題はないだろう。

 

「あの、よろしければ図書・古典部にもお邪魔していいですか」

「---そうね。せっかく興味を持ってもらえたなら、紹介させてもらうわね」

 

詩奈ちゃんは遠慮がちに私が部長を務める図書・古典部の見学を希望した。公平性の観点から見回りルートには含めなかったが、私もどこかで部に顔を出しておきたかったので提案は丁度よいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書・古典部の新歓は年によって開催場所が異なる。

部室は貴重な書物や研究結果を保管する目的もあるため、部外者は立ち入り禁止だ。

私が1年生の時は屋外でマリー先輩と祈子さんが大々的な古典魔法の再現実験を行い、去年は野外演習場近くで精霊魔法に関する簡単詠唱講座だった。

今年は室内の実験室を借りて歴代の研究の展示と研究を応用した参加型の実験を行っている。

 

「太刀川君」

「お疲れ様です。見回りは終わりですか」

「そうね。様子を見に来たのと、三矢さんが見学を希望してくれたから」

「お邪魔します」

 

詩奈ちゃんは控えめにはにかんだ。

 

「いくつか試しても問題ないかしら」

「はい。今は人が少ないのでどうぞ」

 

実験室といっても分厚い金属で囲まれた地下室というわけではなく、数人が囲める大き目の実験用テーブルと水道設備がいくつか設けられたものであり、魔法科高校独自の設備があるというわけではない。一般教養の化学につかわれるほか、一部簡易な魔法薬学の実験にも使われる。

 

「これが迷路ですか?」

 

机の上には一辺30cmの強化プラスチックの箱が置かれている。

 

「ええ。去年行った刻印魔法の応用で、ちょっとした想子コントロールの訓練にもなるものね。詩奈ちゃんもやってみる?」

 

外からは全く見えない黒い強化プラスチックの箱で覆われた中には、細い金属板をつなげた立体迷路が組まれている。

簡単なものだと一本道を移動魔法をかけた球を転がしていくだけなのだが、難しいものは複雑に道が入り組んでいたり、複数の魔法を使用しなければならなかったり、トラップが仕掛けられていたりと、バリエーションに富んでいる。

初心者向けには移動距離やルートのヒントが書かれたカンペがあるが、視覚系魔法の併用は禁止されていない。

 

箱内部にはセンサーが取り付けられていて、正しい道を通れば青、分岐は黄色、誤った道を通れば赤く光るよう外付けのランプでわかるようになっている。

球はできるだけ真球に近いものが用意されているが、木材や鉄、ガラス、はたまた陶器まで用意されていて自由に選択できる。

共通するのはどれも梵字が彫り込まれた小さいながらに法機であると言う点だ。

 

いくつか空いている場所を借りようとしたところで、調整用の工具を片手に、2年の村田君が朗らかな笑顔をして近づいてきた。

 

「おお!!九重先輩、良いところに」

「村田君、連絡はなかったから特に問題はなかったと思うけれど、大丈夫?」

「無論問題ありませんが、思ったより上級生の先輩方が見学に来ていて冷やかしなのか、興味本位かわからないですけど、途中人数が多くなって上級生は一人一回しかできないように調整しました」

 

既に新歓の終了時間が近いため見学者はまばらだが、それなりの人数が来ていたらしい。

今回は参加型の実験なので、口伝に2、3年生も遊び半分に来ていたようだ。

 

部活動や委員会活動は必須ではなく、学内の活動には所属していなくても外部の習い事やクラブ等に所属している生徒もいる。全くどこにも所属していない生徒は1割に満たない。

中学校まではごく一部の学校でしか魔法を使用した競技がないため、高校から魔法関連の部活動を始める生徒は少なくない。

部活や委員会の掛け持ちは許可されているが、上級生が見に来たということは、さぼりなのか、偵察なのかわからないが、全く人がいないよりある程度人数がいる方が1年生も入りやすいので、村田君の対処のような形でよいだろう。

 

「1年生を優先にしてもらえれば、上級生は特に気にしなくていいと思うわ」

「わかりました。それで、新作ができましたので、テストをお願いします」

 

村田君は私の前に他のものと同じサイズの30㎝四方の黒塗りの立方体を置いた。外側からは内部の構造は全く見えない。

 

「難易度ルナティックです。ちなみに作った僕もできません」

 

親指を立てる村田君に他の部員がつかみかかろうとしていた。

 

「まさか!!あれはボツにしたはずだろ!」

「なぜあれが!?」

「やめろ、村田!!」

「村田君、それは封印指定よ!!」

 

他の部員が騒いでいるが、凝り性の村田君とは言えそんな危ないものを作ったのだろうか。

迷路を覆う箱が強化プラスチックなのは、魔法が暴発したときに備えてだが、基本的に使う魔法は移動と停止のみであり、金属板に刻まれた魔法もそれほど大きな出力にならないよう記述されている。

箱と机の固定もしっかり行ったので、暴発して箱や金属板が飛んで怪我ををするリスクは低い。

それでも私に見せられないものと言われると、怖いもの見たさで気にはなるが、知ってしまったら対応せざるを得ないことも分かっている。

 

「申し訳ないけれど、それは後でね。詩奈ちゃんに部の紹介終わったら、また来るわ」

「いえ、私のことはお構いなく。せっかくですので、雅先輩のお手本を見せていただけたらと思います」

 

部員の手前気を使ってくれたのかもしれないが、さすがにいきなり触れたことのない古式魔法に挑戦するのは荷が重いだろう。

しかも今は部員が集結した手前、注目されながらというのも気恥ずかしさもあるかもしれない。

 

「・・・そうね。お手本になるかわからないけれど村田君、見せてもらっていいかしら」

「喜んで!!」

 

球には、移動魔法と停止の刻印魔法が刻まれているため、自分のCADは必要ない。

移動と停止以外の魔法が必要な場合は、迷路上の金属板に攻略に必要な刻印が刻まれていて、球を起点に想子を流し込めば魔法が発動するようになっている。

私ならばこんなもの必要ないとは言いつつも、村田君から何番目の分岐でどんな魔法が必要になるかというヒントのメモを渡された。

 

精霊も喚起させると視覚を同調させ、内部の構造を把握する。

難易度ルナティック(狂気)のとおり中は複雑に入り組んでいる。

精霊でルートを先見しつつ、球に想子を流すと移動魔法で球は入り口へと移動する。

 

「実験としては、離れた位置にある魔法刻印に対して想子を一定量流し続け術を継続して発動すること、球を起点にしてさらに別の刻印術式へ切り替えができるかというところが実験のコンセプトです。現代の魔法師にとってCADは基本身につけていることが前提ですが、古式魔法の術具はその限りではない記述が散見されます。九重先輩が今行っている難易度では球を起点にレール上の別の刻印魔法を起動させる並列処理も行いますが、ましてそれが視覚を制限された状態となると魔法構築のイメージがより難しくなることが予想され、想子のコントロールはより精密さを求められます。この実験の優れた点は、魔法の発動規模が小さく単純であるため、一般家庭においても特殊な実験室なしに魔法の練習ができる点にあります。CADの複雑な調整も必要なく、繰り返し使うことも可能です。魔法の行使は法律によって固く制限されていますが、個人の敷地や魔法科高校のような特定の敷地内ではその限りではありません。しかしながら魔法を教える私塾は全国的にみても決して多いとはいえず、これは家庭における魔法学習に一石を投じるものと僕たちは期待し「村田君、できたわよ」

 

村田君が詩奈ちゃんに実験の要旨を説明していたが、私のテストの方が先に終わってしまった。箱の下部に取り付けられた出口から出てきた球をみて、村田君は目を丸くしていた。

 

「なんですと!!」

「三つ目の分岐、間違った方に進むと、最後のレーンの手前に落ちるようになっているから、正攻法ではないけれどね」

「そんな抜け道があったとは!!」

「見せて、見せて」

 

後輩たちが黒い覆いを外している間に、詩奈ちゃんを別の箱の前に案内する。

 

「相変わらず、静かですね」

「そう?」

 

由紀君がぼそりとそうつぶやいた。

刻印魔法を発動させる想子は最小限にしたため、余剰想子によるノイズが少なかったと言う意味だろう。

 

「え?」

「―――あ、いや。なんでもない」

 

詩奈ちゃんは由紀君の発言に対して不思議そうに首を傾げた。

静かと言われても、ただ魔法を使っていただけでそう表現されるのは一般的ではなかったのだろう。

 

「詩奈ちゃんは、まず覆いのないものから試してみましょうか」

「あ、はい。わかりました」

 

あーでもない、こーでもない、それはだめだという後輩たちの討論をBGMにしばしの息抜きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、私は久しぶりに司波家で夕食をご馳走になっていた。

 

「今日はお姉様にお任せしてしまいましたが、詩奈ちゃんはどうでしたか?」

「謙虚で、控えめだけど、自分の意見はちゃんと持っているし、人の顔を覚えるのも苦手じゃないみたい。古典部にも見学に来てもらって魔法を使う様子を見たけれど、入試主席の結果に間違いなく優秀な子ね」

「お姉様がおっしゃるなら安心ですね」

 

深雪が私の評価に肩をなでおろした。

昨年はいろいろと新入生総代には困らされたものだから、優秀ではあるが、驕りも的外れな向上心もない、真面目な後輩はそれだけでポイントが高いようだ。

幼馴染はやや暴走気味だったものの、深雪にとっては気に留めるほどのことではない微細な問題だったのだろう。

 

「そういえば、明日からしばらく悠お兄様がこちらにいらっしゃるんですよね」

「ええ。宝物殿の特別展示を連休期間にすることになっているから、その最終打ち合わせで東京(こっち)のほうに何日か滞在するみたいね。時間があれば、その展示を観に来る?招待するわ」

 

都内の博物館からの長年の依頼をかなえる形で、この5月の大型連休期間に九重神宮に奉納された宝物の展示を行う予定だ。

昨今の魔法師に対する風当たりの強さは心配されるが、10年ぶりのお蔵出しとあって前売りの売れ行きは好調と聞いている。

ちなみに裏向きに四葉家が配下に置いている会社や雫の父が関わる北山グループにも協賛してもらっている。

 

「お兄様」

「そうだな。深雪は初めてだったよな」

 

達也は一度、10年前に京都で行われた展示を観ているが、深雪はまだ知らないだろう。

 

「解説はうちのお兄様にお願いするといいわ。喜んで一緒に見て回るだろうから」

 

次兄の道楽と言えば演劇鑑賞だが、漆器や茶器、絵画や刀剣などの美術品についてもそれなりの目は肥えている。

いずれは管理を任される立場だからと表向き、裏向き問わずに九重神宮が所有する宝物についての教育は私よりも熱心に行われていると聞いていた。

千里眼があるから審美眼を兼ね備えているというわけではなく、美術品としての鑑賞はある種センスの問われるものだ。加えて、その宝物が九重神宮に至った経緯や作者の来歴、他の作品への影響や学術的価値など器一つにとっても覚えることは山のようにある。

流石に家族だけで宝物すべてを管理できるわけもなく、奉納品専門の管理者が常駐しているものの、宝物の管理監督も当主の仕事とされている。

 

「お姉様はご一緒ではないのですか?」

「私がいてもいいの?」

「お兄様、お姉様と博物館デートはいかがですか」

 

深雪が達也に甘えるように問いかけた。

要するにダブルデートがしたいらしい。

 

「美術品の鑑賞には疎いが、それでもよければ」

「歴史に関して言えば、達也の方が詳しいわよ」

 

達也は瞬間記憶に近い能力があるため、一度見たものは忘れないし、それに関する情報を記憶から呼び起こすことが可能だ。

テストに出題されないような事柄でも、膨大なデータベースを紐図けて、その宝物の作者や奉納の経緯などは解説をみなくても推察は十分可能だろう。

ただ、茶碗に使われている土や釉薬の成分、窯元や作者や作られた年代などは分かっても、茶碗のこのやや崩した形が趣深いというような個人の感覚的な美しさの評価については未だに苦手のようだ。

評論家が実にいい形の器だと評しても、達也には左右の傾きは何度でどのぐらいの重さで、この色合いはどんな化学反応の結果かという情報でしかない。

 

「展示が始まるまでに、一度食事にも誘いたいって言っていたから、また予定を教えて頂戴」

「わかりました」

 

しばらくは神楽の舞台の予定はないため、私も兄も食事に制限はない。

私としては、接待続きの兄が深雪の手料理を食べたいと駄々をこねないか心配だ。

 

「それと、今週末の十師族の若手の懇談会は達也だけ出席するのよね」

「ああ」

 

十文字先輩が発起人として、30代以下の十師族の若手を集めた会議をするそうだ。将来的にはナンバーズまで参加者を拡大して魔法協会の青年部のようなものを目指しているらしい。

十文字先輩も昨今の魔法師に対する風当たりの強さに思うところがあるようだが、どうやら影の発起人は七草家の長男のようだ。

 

「出席はしないけど、深雪も会場に?」

「いや、深雪には自宅にいてもらうつもりだが、何かあるのか?」

「体調が悪くなければ、光宣君もその日にこっちへ来るそうよ。会議にはお兄さんが出席するみたいだけど、達也たちともまた会いたいって言っていたから、予定はどうかと思って」

 

光宣君が体調を崩しやすいのは体質的なものなので、根治的な治療は今のところない。

最近はあまり連絡がなかったが、今回の会議をきっかけにまた連絡がくるようになった。

心なしか以前と違ってあまり恋心をうかがわせる文言ではなくなっていて、少し安堵した部分はある。

 

「そうだな。予定は今のところないが、少し新ソ連の動きが気になるからな」

 

北の方では新ソ連の艦隊が動いていると言う情報があり、風間中佐率いる一〇一大隊は北海道に展開している。

達也もいつ呼び出しがかかるかわからない状況であり、できることならば何時でも動ける体制にしておいた方が良いのだろう。

 

「そうね。光宣君には難しいって伝えておくわね。私もその日はお茶会だから、お土産買って帰るわね」

 

お茶会と言っても、形式はそれほど堅苦しいものではない。

主催は兄で、名目としては柚彦君の入学祝だが、実際には四楓院に関わる者たちの密談だ。

情勢が魔法師にとって悪い方向に傾いている以上、私たちも傍観者ではいられない。老獪な者たちでは話の通りが悪いと言うことで、各家の若い者たちが腹を割って話す機会を作るという名目での集まりだ。

長兄は子どもがまだ小さいのと、神事のため欠席だ。

 

「お気遣いありがとうございます、お姉様」

「水波ちゃんも、お土産はなにがいい?」

「いえ、私めにそんなお気遣いは過分です。どうぞ、お構いなく」

 

恐れ多いと首を振る水波ちゃんに何だか申し訳なさの方が先に立つ。

 

「いつも美味しい料理でもてなしてくれるでしょう。お礼がしたかったのだけれど、迷惑だったかしら」

「迷惑などとは思いません。私のような使用人へのご気遣いは無用ですので、お心は達也様と深雪様へどうぞおかけください」

 

深々と頭を下げる水波ちゃんに思わず私ではダメだなあと、達也に視線で助けを求める。

 

「水波、あまり謙虚すぎるのもかえって失礼だ。雅は年下の女の子を構いたいだけだから、素直に受け取った方がいい」

「あら。まるで私が年下の女の子を誑かしているみたいね」

 

思わぬ達也の辛口に深雪に同意を求めたが深雪にも首を振られた。

 

「お姉様、残念ながらお兄様のおっしゃる通りかと。詩奈ちゃんも芦屋家のご息女も随分とお気にかけていらっしゃるでしょう」

「そうかしら?私の中で一番かわいい女の子は今も、これから先も深雪よ」

 

深雪の指通りの良い艶やかな黒髪をひと房、指で掬うと白い頬が桃色に染まった。

 

「そういうところが、人誑しなのです!!

水波ちゃん、お茶を淹れに行きましょう」

「え、はい。ご用意いたします」

 

深雪が珍しく一人ではなく、水波ちゃんを連れ立って食後のコーヒーを淹れにキッチンに立った。

現代ではコーヒーを淹れるといってもホームオートメーションでボタン一つでできる作業だが、深雪のこだわりは豆を挽くところからなので、少し時間がかかるだろう。

 

「可愛いわね」

 

私がそう言うと達也はやや渋い顔をしながら無言で首を縦に振った。

 




小さいころ、30cmくらいの丸型の透明なプラスチックの中に迷路が組んであって、外枠のプラスチックを傾けながら、中にある金属球で迷路を攻略するというのがありました。失敗すれば球が落下するおもちゃ誰か知ってますかね。不意に思い出したので、作品に入れ込んでみました。

長々と書きましたが、今回のまとめ
年下の女の子は可愛い(`・∀・)b



もしかしたら、資格取得のため、年単位で更新止まる可能性があります。
できる限りは続けていきたいですが、まだわかりません。
ストレスたまると書きたい衝動が増すので、時々息抜きに筆を進めるかもしれません。
本格的に活動が難しくなりそうだったらまたご報告します。

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