恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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お久しぶりです。
干上がりながらですが、なんとか水面で息してます。

引っ越しだとか、私的なことでバタバタしていました。
二次創作を読む体力はあっても、書く体力は落ちているなあという感じです。ぼちぼちリハビリしながら書いていきたいです。


気づけば来訪者編のアニメが終わり、魔法科高校の優等生が始まるようです。お兄様の人気はとどまることを知りませんね


いただいた、感想、脱字はすべて拝見しています。
続きが読みたいと待っていてくださった皆様、ありがとうございます。
あんまりイチャイチャさせられてません( ˘ω˘ )




動乱の序章編7

 

火曜日

 

雅と達也はこの日も九重寺で組手の鍛錬を受けていた。

最近こそ達也が勝ち越すことが多くなったとはいえ、雅相手の組手ともなれば達也でも何度も余裕のない攻防が繰り返される。

 

単純な腕力や体力だけで言えば達也に軍配が上がるが、発動速度と瞬きをするほど自然で違和感のない古式魔法の幻惑が織り交ぜられれば、達也でも後手にならざるを得ないこともある。

4月の涼しい早朝とはいえ、二人とも終わるころにはトレーニングウエアが汗で重くなっていた。

 

「いやはや、熱心で結構」

「恐れ入ります」

 

雅が弟子として丁重に八雲に一礼するが、八雲も何も無条件に達也と雅の稽古を褒めているわけではない。二人とも実戦さながらの熱心さであれば、打撲の一つや二つ重いものが入っている。

平日ともあれば、達也も雅も学校があるため、この稽古はあくまで調整や日課的な役割を持っている。

それを態々熱心と表現するほど八雲は甘くなく、海千山千の老獪を相手にしてきた雅も殊勝に受け答えしている。

 

「さて、本格的にきな臭いことになりそうだ」

「どちらの方面か伺っても?」

 

達也と深雪は、四葉家の現当主の親族と世間に知られたとしても、あまり個人の立場が強いとは言えない。

名前こそ、十師族の次期当主候補とはついているものの、達也が事実上の次期当主と目されていることに危機感を抱いている分家の親族や使用人は多い。また深雪も研究所出身という、歴史が浅く控えめに表現しても得体の知れないあの四葉家から、国内でも有数の名家である九重家への次期当主へ嫁ぐということに難色を示す者もいる。

 

古式魔法師と新興の研究所出身の魔法師の家々との対立は、かつて結ばれた九重家と九島家の婚姻を期に下火にはなったが、それが再燃しかねないという噂も耳にしている。

基本的に達也は好戦的でも戦闘狂でもないが、深雪や雅にとって脅威であると判断すれば、そこに感情を挟む余地なく、敵対することに迷うことはない。

自ら敵を作りに行く趣味はないが、敵を作ることを厭わないとは評される。結論から言えば、達也は現状、八雲の言葉に心当たりが多すぎた。

 

「軍の情報部が動き出した」

「情報部が?」

 

情報部が陰謀を企むことが仕事のようなものであり、情報部が何かを企てていること自体に、疑問も戸惑いもない。

情報部と言えば、軍における諜報機関を意味するが、単に国内外の脅威の情報収集と排除にとどまらず、当然表立って公表できない非合法的な活動も行っている。

大黒竜也という戦略級魔法師としての位置づけはされているが、それが司波達也とイコールであることが勘づかれた、もしくは何かしらのリークがあった可能性もある。

八雲の情報網の広さに驚かされることはこれが初めてでもないが、八雲が具体的に警告を提示したことに達也は驚きを隠せなかった。

 

「今回は直接君たちを狙ったものではないけれど、その影響は後々厄介ごととなって降りかかってくるだろうね」

「何が起きるかは教えていただけないんですよね」

 

達也は八雲に問いかけてはみたものの、期待はしていなかった。

 

「君が動けば事態は余計に悪化する。君なら阻止できなくはないが、動かない方が賢明だね」

「分かりました。手出しはしません」

「じゃあ、教えてあげよう」

 

薄情な達也の返事に、八雲は人の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「今後の対策を立てるためにも心構えは必要だろう。ああ、雅は先に身支度をしてきなさい。いくら情報部でもさすがに花に手を伸ばすことはしないよ」

「分かりました」

「では、達也君はこっちだよ」

 

八雲はそう言って、達也を本堂の奥へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、深雪ちゃん」

「こんばんは、悠お兄様、―――悠様」

 

深雪は自宅の部屋で悠とテレビ電話越しに向かい合っていた。

 

「事前にわかっていたとはいえ、無事な姿が見られてうれしいよ」

「悠様から先生にお言付けいただいたのではないのですか」

「さあ、どうだろう。あの人もなかなか眼は広いようだからね」

 

茶目っ気交じりに片目を閉じてみせる悠に深雪は上品に頬を緩ませつつも、内心はかなり舞い上がっていた。

深雪が通っている上流階級向けのスクールに暴漢を装ってその実、洗脳された魔法師が雪崩混んできたのは、非常事態ではあったが、八雲から事前に知らされていたことなので対処できた。

ここで言うところのスクールとは、元々和洋のテーブルマナーやダンス、生け花など淑女教育を行う男性禁制の総合スクールであるため、身分のしっかりとした令嬢ばかり通うところであり、誘拐などの対策も取られていた。

控室には女性の護衛の待機もできるようになっているため水波も控えており、何より騒ぎを知っていた兄が必ず助けてくれることが分かっていたため、襲撃という危機的な状況にさらされても深雪には恐怖を抱くことはなかった。

 

「久しぶりに深雪ちゃんと話せるのに、こんな話題でなんだか申し訳ないね」

「いえ、そんなことはないです。悠様が心配してくださったことは嬉しく思います」

「愛しい人が危険な目にあって、穏やかでいられるほど私は腐ってはいないよ」

 

モニター越しにでもわかってしまうくらい、深雪の頬は赤くなっていた。

通信が始まる30分も前から映りのいい角度はどうだろうか、服装やメイクは見栄えよく仕上がっているか、気が気ではなかったが、そんなことはもう吹き飛んでしまった。

 

嗚呼、なんて狡い。

惚れた方が負けだなんて今までの深雪では理解できなかった言葉が、心に広がる。

かつて雅が達也に対して抱いていたもどかしさと気恥ずかしさと、それと胸を締め付けるような幸福はこんなものだったのだろうかと早まる鼓動は収まる気配を見せない。

心の底から大切な、愛しいものを見るその視線だけで深雪の準備していた淑女の仮面はいとも簡単に解かれてしまう。

 

深雪が狼狽えるのをみて、モニター越しの悠はまた音に出さずに“かわいい”とだけ唇を動かす。

本当に狡い。

なんだか深雪ばかり掌の上で転がされているようで、いつか悠を赤面させるようなことがあるのだろうかと子どもじみた負けん気がのぞいてしまう。

しかもそんな深雪の心の機微などやはり手に取ったように分かっているのか、悠はそういえば、と話を変えた。

 

「あえて達也の逆鱗に触れるようなことをするとは、随分と情報部も大胆な行動に出たものだね」

「情報部の目的は何だったのでしょうか」

「そうだね。強いて言うなら単純に達也の脅威を図りたかったんじゃないかな」

「脅威ですか」

 

深雪の口から出た言葉は思ったよりも堅かった。

達也が四葉家の次期当主候補有力と目されている、もっと正確に世間の評判からは次期四葉家当主としてほぼ内定しているとみられている達也は、単に背負っている名前は一つだけではない。

魔法科高校3年生である司波達也以外にも、天才魔法工学技師トーラス・シルバー、非公開戦略級魔法師大黒竜也としての名も背負っている。

深雪にはどれも誇るべき自慢の兄ではあるが、それを快く思わない者が内外にいることは理解している。

ただ、理解はしていても共感を覚えるどころか、むしろ心中穏やかではいられない。

 

「情報部だからね。対処するのは国家の危機。そのための工作や表向きには違法な調査なんかもお手の物」

「あれだけお兄様の力を当てにしながら、自分たちに歯向かうのではないかと情報部が危険視しているということでしょうか」

「現状、達也の身柄は佐伯少将靡下の一〇一旅団だけど、それはあくまで四葉家と軍の考えが相違しない限りの限定的な協力関係だろう。いくら戦略級魔法が国家の命によって発せられる魔法であったとしても、達也に対しての拘束力はあってないようなものだからね」

 

達也は深雪に嘘はつかないが、あまり軍関係のことを事細かに説明することはない。

職務上の機密というより、達也が情報を取捨選択し、必要な事柄のみ伝えているという方が正しい。

おそらく深雪が強く望めばいかなる情報も開示してくれるだろう。

達也は少なからず旅団を好意的に思ってはいるが、政治の駒にされるようであれば、なんの未練もなくその立場を捨てることは厭わない。

 

「情報部もあくまで達也の心の内まで読めるわけじゃないからね。分からないから恐ろしい、というのは、得てして人間の根幹の感情だ。僕らは達也が必要なく、無意味にその引き金を引くことはないと十分理解しているけれど、その他大勢には個人所有の引き金が存在していること自体が恐怖心を抱かせる。だから調べて、様子を伺って、国のためという大義名分の名のもとに、達也が(はか)られている」

「なんて傲慢な」

 

深雪は思わず膝の上で手を握りしめた。

達也の力を求めながらも、その力が自分の方に向かないのかと穴倉の中からこそこそと伺っているという事実は、深雪の心を乱暴に搔き立てる。

 

「これがもし、達也の婚約者が七草のお嬢さんだとか三矢や二木のお嬢さんであれば、軍部としても多少安心はしたけれど、雅がいるからね。軍部は言うことを聞かせたくとも、雅に取りついて話ができるわけではないから、余計に頭を煮やしているんだろう」

「お姉様が危険にさらされることはないのですか」

「むしろ危ないのは達也だね。ハニートラップが効かないことは分かっても、瑕疵(かし)を達也につけて破談になれば、軍と協力的な家の娘を後釜に据えやすいなんてことくらいは考えてそうだね」

 

画面の向こうの悠は呆れたように頬杖をつきながら息をついた。

確かに家として長い歴史を持つ九重家直系の雅に対して嫌がらせのようなことを行えば、軍部お抱えの政治家や資金提供をしている資産家の方から槍玉にあげられるのが目に見えている。いくら四葉が触れてはいけない者と呼ばれていたとしても、学生の身分と軍にも籍のある達也に対してはまだ干渉しやすい。

 

「ああ、心配しなくても存外、深雪ちゃんが思うよりずっと、雅は達也に執着しているから、その程度の嫌がらせで達也から離れはしないね。執念ともいえるかな」

「お姉さまがお兄様のことを深く思っていらっしゃるのは存じておりますが、いささかお姉さまに対して失礼ではないですか」

「ごめん、ごめん。そう怒らないで」

 

達也も深雪も冗談はさておき互いのことを悪く言うことはないが、悠と雅は互いに軽口程度の皮肉は慣れたものだった。

深雪は口では咎めつつも、愛のある皮肉だと分かってはいるし、何より減らず口の叩き合い自体はそれで一種のコミュニケーションであることは友人たちからも学んでいる。

 

「隠すことは上手いつもりだろうけれど、同じ舞台に上がれば分かってしまうよ」

 

モニター越しの黒い瞳が深雪をとらえる。

深雪とは5つしか年齢の差はないはずなのに、どこか言葉や雰囲気がそれ以上の長さを感じさせる。

100年を超えてもなお生命力に満ち溢れた枝垂桜のような、悠久さを醸し出す声が耳介を振るわす。

 

「あれだけ酷な神楽に雅が打ち込めるのも、単に九重に生まれたからじゃない。無意識にせよ意識的にせよ、雅はいつだって達也の視線を君から奪いたくて、仕方がないんだ」 

 

達也の心から大切に思える者は深雪だけだった。

雅がそれで思い悩むことも、達也が無条件に与えられる愛を素直に受け止められないことも、深雪は見てきた。

達也の魔法力の一部は、深雪の安全のために常時作動している。

深雪が危険にさらされることがないように、現実的な視界とは別に意識下で魔法的な視界の一部を割いている状態だ。

それに対して深雪は監視されているという思いを抱いたことはない。

むしろ兄に守られているという安心感を覚える。

それと同時に一部どころかすべてを深雪ではなく、雅に対して向けてほしいとも思っている。

雅は達也が意識、無意識問わず深雪を第一に動いていることは知っているが、そこに嫉妬を表したことは一度も深雪は知らない。

 

「お兄様は愛されていますね」

 

あの神楽は美しいだけではない。

綺麗な感情だけではない思いを、仮面や化粧の下に隠して、弛まぬ努力と才能の数々が、神をも魅了するものに昇華しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日

 

達也と深雪、水波は真由美に招待された赤坂の料亭に来ていた。

明らかにこの店の客層とは似つかぬ三人ではあったが、店側も名店らしく笑顔のみ浮かべて三人を部屋まで案内した。

 

「お待たせしてしまいましたか」

「いや、時間どおりだ」

 

室内には、克人のみ座しており、仲介役の真由美の姿はまだなかった。

克人と向かい合うようにして達也が座ると、深雪はその隣に、水波は一人少し外れた畳に正座で足を下した。

 

 

つい先日行われた十師族の若手会に引き続きの対面ではあるが、今回は真由美を介してはいるものの立場上は十文字家の当主である克人が四葉家の代表として達也と深雪を招いたものとされる。

そもそも達也と深雪がいくら真由美のお膳立てとはいえ克人との会談に応じる義務もないが、断る特別な理由もなかった。

呼び出されている理由にも見当がついている。

 

四葉家が十師族体制、つまり現在の魔法師の枠組みから孤立しているのは元々だが、先の会談で達也の態度はいくら若手の集まりとはいえ今後も四葉家はその立ち位置を崩さないと示したと取られている。

大多数の魔法師の幸福や安全より、妹である深雪の安全が守られることが達也にとっては何よりも上位に位置することであり、自身と深雪に敵対するならば、たとえそれがどんなに場の空気をつぶそうが顔見知りであろうと容赦などしない。

 

奇しくも同時刻、第一高校の生徒会室では七草泉美が、達也について他の者に対して配慮する余裕があっても手を貸さないところや、相手が何を感じているのか洞察する力はあっても気を遣わない部分だとか、相手の感情を分析できても必要ないと判断すれば相手の感情をあっさりと無視する冷血漢と称していたが間違いではない。

例外は深雪と雅のみである。

 

深雪を現代魔法師の広告塔にして魔法師の活躍を印象付けたい七草と、批判と中傷の絶好の的となる立場に当主の姪を勝手に推薦されたことに憤る四葉との間で、克人は挟まれていた。

だが、克人としても何も好き好んで板挟みになっているわけではない。

 

日本の魔法師は十師族を頂点にまとまってはいるが、それを快く思わない者がいないわけでもない。

達也にしても一部の界隈では四葉家が九重家との婚姻を足掛かりにして、師族体制を転覆しようともくろんでいるという根も葉もない噂も耳にしている。

当然、四葉家も九重家も現行の体制を打ち崩すつもりはないが、古式魔法師の台頭に喜ばないものは少なくない。

今でこそ魔法師と言えばCADではあるが、現代の評価基準に沿わないが何かしらの魔法を使えるものは古式魔法師の家々を中心に存在している。

高々百年にも満たない新興の家々に国の代表という大きな顔をされるくらいなら、国内でも指折りの名家である九重家を担ごうとする輩はいないわけではない。 

そうした動きを警戒し、克人はこの場を設けていた。

 

「ごめんなさぁい!お待たせしちゃった?」

 

達也と克人が切り口を思案するひと時の間に、場違いな朗らかな声が響いた。

 

「いえ、我々も今来たところです」

 

真由美と渡辺摩利が障子を開け、姿を見せた。

その様子に克人は苦い顔をしたまま口を噤んでいた。

 

「やはり雅は難しかったか」

「仕方ないわよ。急なお願いだったんだから」

 

摩利が残念そうな顔をするが、真由美がすかさずフォローを入れる。

今回、達也だけではなく深雪や雅も真由美は招待していたが、単に後輩の顔が見たいからということではなく、二人がいれば多少は達也の対応が穏便になることを期待していた。

深雪も雅も他者を慮ることのできる人物であり、達也の唯一の弱点ともいえる。

 

深雪はまだ前回の会議の話題に上がった人物として呼ぶにしても、これが雅を招待するとなると、少し勝手が異なる。

いくら雅が達也の正式な婚約者とはいえ、現段階では九重家の直系の姫君である。

料亭の口が堅いとは言っても、先輩後輩の間柄とはいえ、十師族の問題に雅まで呼びつけた(・・・・・)のならば非難されるのは克人の方だ。

四葉当主の姪だけに飽き足らず、九重の姫まで俗世の衆目に晒すつもりとは、なんと傲慢なことと様々な方面からのお言葉が一つ二つでは済まないことを、十分予想していた。

九重家に国の現行の十師族会議に基づく魔法師体制を崩す意思がないことは、十文字家の情報網から知ってはいても、直接本人の意思を確かめたいということもあり、克人は招待自体には賛同していたが、今回この場に雅はいない。

雅のスケジュールは学校と神事、それに付随する稽古事で埋まっており、特に神事が絡むことならば雅の都合で予定を変えることは容易ではない。

 

「先輩方にお会いできないことを残念がっていましたよ」

「せっかくの機会だから、達也君の甲斐甲斐しさでも聞こうかと思っていたんだが、残念だな」

「あら、それは私も興味があるわ」

 

摩利の茶目っ気に真由美が便乗する形で笑みを深める。

二人が高校在学時代から、このようなやり取りは何度もあったので、今更達也は慌てるようなことはない。

本題から趣旨がそれていく前に、克人が咳払いを一つすれば、場の空気は整う。

 

「そのあたりの親交は時間があれば構わないが、本題に入らせてほしい」

 

摩利と真由美も居住まいを正す。

 

 

 

「ご歓談中に申し訳ありません」

 

克人が説得という名の交渉を始めようとした出鼻をくじくように、障子の向こうから声が掛かった。

 

「お連れ様とおっしゃる方がお見えになっていますが、いかがいたしましょうか」

 

応対に現れたのは、仲居ではなく若女将であった。

当初の予約の人数はそろっているため、その表情も困惑気味だ。

 

「先方のお名前は?」

「七草泉美、香澄様御両名でございます」

「え!?」

 

何してるのよと頭を抱える真由美の様子に、どうやら真由美も寝耳に水だったことが伺える。

 

「まあ、落ち着け真由美。二人とも今日の予定があることを知っていて来たのだから、よほど緊急のことじゃないか?」

「そうよね、ごめんなさい。少し中座させてもらうわ」

 

若女将が先導するのも待たずに、真由美は極力音を立てない早歩きで玄関へと向かっていった。

 

 

「あの事でしょうか?」

 

ちらりと深雪が達也を伺いみる。

 

「達也君、あの事とは?真由美の妹たちが押し掛けてきたことに何か心当たりがあるのか」

 

一高時代とかわらない気安い様子に克人は眉をひそめたが、達也は気にせず摩利に応えた。

 

「ええ。三矢家の末のお嬢さんが本日、一高から連れ去られた可能性がありまして、その件でしょうね」

「三矢の末っ子というと、詩奈か」

 

摩利は真由美を通じてなんとなく詩奈とは面識があった。

 

「連れ去られた、というのは本当か?」

 

達也は現状把握している範囲で、状況を説明した。

この料亭に到着する前に七草姉妹から深雪宛に連絡が届いていた。

荷物も生徒会室に置いたまま、ボディガードである侍郎にも告げず、学校を後にしたらしい。

ピクシーに校内の監視カメラのログを当たらせてみれば、軍人らしき人物と学校を後にしたことは分かっている。

無理強いされた様子もないため、達也は警察に任せた方が良いと回答していた。

 

「そこまで分かっているなら、なぜ動かない」

「本人の自由意志によるかもしれないからでしょう」

 

達也の声は実に素っ気ないものだった。

 

「何者かが連れ去ったとしても、本人の同意の上行われたことであれば、救出に踏み込んでもこちらが不法侵入に問われるだけです。一高生として表立ってできることはありません。それでもこの席を延期するとおっしゃるのであれば、否やはありません」

「見損なったよ!司波先輩」

 

障子が乱暴な音を立てて開いた。

 

「香澄ちゃん、待ちなさい」

「香澄ちゃんったら……。深雪先輩、司波先輩、誠に申し訳ありません!」

 

香澄を一歩止めるのが遅くなった真由美と、青い顔をして平謝りする泉美が続いて入ってきた。

 

「あの子が僕らに何も言わずに勝手にいなくなるはずないだろう。詩奈を見捨てる気!?」

「聞いていたのなら、話は早い。詩奈は未成年だ。たとえ詩奈の同意があっても、保護者からの依頼なら警察は保護できる」

「だから何さ!!」

 

暴走気味の香澄の服の袖を泉美が引いて制止する。

 

「香澄ちゃん、司波先輩は相手が違うと仰っているんですよ」

「相手?」

「自分ではなく、詩奈ちゃんのご家族と話をすべきだということです」

 

泉美はこれ以上、ヒートアップしないように香澄の右腕を抱え込んだ。

 

「貴重なアドバイスもいただきましたし、これでお暇いたします」

「そうね」

 

真由美も香澄の左腕を抱え込んで、部屋から退出させた。

 

「え、ちょっとお姉ちゃん。何するの!」

「達也君、深雪さん、こちらから招いておいて失礼なことは分かっているけれど、今日はお開きにさせて。埋め合わせはどこかでするから」

「ええ、良いですよ」

 

既に真面目な話をする雰囲気ではなくなっている。

こうして四葉家と十文字家の密談は何一つとして進まないまま、終了した。

 






ツイステ始めました。
推しはお耳がキュートなおじたんです。
CVの梅原さん、良い声っ(゚Д゚;)
そしてやっぱり力があるゆえの不遜が好き……

not監督生で、書きたい話があるのですが、短編じゃあ済まない気がするので、手が出せてません。
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