恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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お久しぶりです。
ゴールデンウイークごろに投稿しようとおもっていたのですが、忙しく毎日パソコンを開く暇もありませんでした。

通勤時間が片道1時間になったのですが、やはり自宅に帰ってからの時間が圧倒的に減りましたね(;´・ω・)


今回は本編1本、外伝1本の更新予定です。



動乱の序章編8

 

時刻は夜の8時。

雅は神楽の練習をしていた太刀川家の道場を後にしたところだった。

日曜日の明日も早朝から神楽の合わせがあるため、今日は早めに切り上げている。

 

キャビネットに乗り込み、端末を開くとそこには雅にしては中々な量の未読メッセージが溜まっていた。

どうやら放課後の時間から今までの間に何かあったらしく、古いものから目を通していく。

最初のメッセージは泉美から来ており、放課後、詩奈が生徒会室から何も言わずにいなくなったらしい。

一緒に登下校している護衛の侍郎にもなにも告げず、かばんも学校に残したまま帰宅するのはおかしい、誘拐されたのではないかということだった。

ピクシーに校内の監視カメラ映像を調べさせたところ、自分の足で学校を後にしたことは確かだが、外部からの訪問者も連れていたらしく、その後の足取りは今のところ分かっていない。

この後、達也と深雪に相談しに行くということだった。

 

エリカからも同様の連絡が来ていたが、こちらは侍郎を連れて千葉家で情報が集まるのを待っているらしい。

七草姉妹が相談しに行くと言っていたとおり、十文字家と四葉家との会談の場に二人が現れ、会談は中止になったそうだ。

 

続報がないところを見ると、詩奈はまだ行方不明のようだが、先行してエリカや七草姉妹が動いているものの、三矢家が何も関知していないところが気にかかる。

達也も三矢家が動いていない以上、警察に任せるべきという判断らしい。

そう考えているうちに、キャビネットは自宅最寄りの駅まで到着していた。

 

 

 

通勤通学ラッシュの時間からは少し外れているため、駅にいる人の数はそれほど多くはない。

普段からそれほど込み合う駅ではないのだが、朝夕を除けばさらに人は少ない。

 

普段ならば雅は駅からは歩いて帰るか、もしくは無人の配車サービスを利用している。

都市部では、有人タクシーはほぼ絶滅しており、自動車の運転手という職業自体は残っているものの、多くは富裕層向けの護衛を兼任しているか、もしくは僻地や自動運転の未整備区間での話だ。

改札を抜けて、配車サービスの方へ向かおうとしたところで見知った顔が液晶案内板の前にいた。

 

「やあ、こんばんは。雅君」

「こんばんは、伯父上」

 

作務衣姿ではなく、ごくごく一般的な春用の短い丈のコートにスラックス姿の九重八雲が立っていた。

坊主頭にやけに良い姿勢に悪目立ちもしそうな雰囲気だが、不思議と気を留める人はいない。

 

「何かお急ぎの御用ですか?」

 

雅も極力声は控えめにして問いかける。

 

「君に用事があるというより、君に対して用事のあるお客さんが来ると耳にはさんでね」

 

ここで言う客が単に来客やアポイントの仲介として来たというわけではないのは、剣呑な目を見ればわかる。

 

「なるほど、動き出したというわけですか」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うものの、龍の逆鱗に触れに行くだなんて正気の沙汰とは思えないけれどね」

 

情報部が動いているという話は聞いていたが、どうやら詩奈だけでは達也が釣れなかったため、雅にも接触してくるようだ。

雅が利用しようとしていた配車サービスそのものは民間の事業者だが、犯罪防止目的から国の監督と監視を受けている。

高度な暗号化で守られているとはいえ、システム障害などと理由をつけて、別の目的地に移動させることができなくはないだろう。

今のところ、監視の目は感じないが、駅には多数の監視カメラが設置されているため、カメラ越しに見られているはずだ。

 

「幸いにも人員はそれほどこっちには割いていないようだから、ちょっとの目くらましで済みそうだ」

「分かりました」

「じゃあ、行こうか」

 

そうして、二人は駅から姿をくらませた。

 

 

 

 

 

「―――消えた、ですか」

『はい。申し訳ありません。駅に九重八雲が来ていたのは把握していますが、合流後の足取りが追えません』

 

遠山つかさは、軽井沢にある情報部所有の建物にて、部下からの連絡を受けていた。

つかさは本作戦の立案と実行を担っており、若くしてそれなりの地位にいるのは、本人の実力もそれなりながら十山家という数字付きの家柄も相まってのことだった。

今回の表向きには人質奪還作戦、要人救助訓練と銘打ってあるが、実態としては司波達也の危険性及び行動調査にある。

 

軍内部としては、非公式とはいえ朝鮮半島の軍港を一撃で吹き飛ばすような規格外の威力を持つ戦略級魔法師が四葉家の次期当主として目されていることを危険視する声もあり、国にとって有害かどうか判断せよというのが上層部の指令だ。

この建物は、国防軍の人質救助演習で使用する体で詩奈を連れてきており、外部の古めかしい洋館とは裏腹に中には最新の情報通信機器とCADを携行した魔法師が待機している。

ただし、救助演習と言いつつ、予定どおり司波達也が現れなかったら、別動隊が奪還作戦を行うように計画されている。

 

司波達也が本当に助けに来れば、それを演習として遂行し、明日の18時までに来なければ名目上の奪還チームが突入してくる手はずになってくる。

それと同時に、予備プランも並行してつかさは管理していた。

 

「監視カメラの映像は?」

『そちらも見直しをさせましたが、どの時間、どの角度から追ってもルートBを通過していたターゲットが煙のごとく消えているのです』

 

現代の監視カメラはほぼ死角のないように、公共交通機関や政府関連施設に配備されている。

路上に設置されたものも含めると、カメラに映らないということはかなり難しい。

さらに顔認証システムにより、特定の人物の監視や発見、追跡もできるため、主要な軍や警察などには比較的容易に映像を手にすることができる。

テロ対策がメインだが、このような非合法的な作戦で使われることもある。

死角らしい死角なく、更に人的な監視体制も敷いていたにもかかわらず、まるで煙が立ち消えるようにすり抜けていったという。

さらに想子レーダーにも引っかかってはいないとなると、魔法的痕跡を一切残さずにやってのけたということだ。

 

「さすがは九重八雲ということでしょうか」

『追いますか?』

「いいえ、作戦は終了です。全班、帰投してください」

『了解』

 

通信を切ると、つかさは椅子に背を預けた。

司波深雪には護衛として桜井水波がついていることは把握していたが、九重雅に護衛らしい護衛がいることは資料にも挙がっていなかった。

本人の魔法的な戦闘力や統合武術の実力者という点から護衛いらずということは分かるが、隠遁術にも長けていれば納得もする。

九重雅との接近はあくまで雅本人のガードの固さと司波達也の出方を確認するための予備の作戦ではあったが、それも無駄骨になった。

だが、作戦が作戦通りに成功する事自体が必須ではない。

当初の計画は予定どおり推移しているため、つかさに今はできることはない。

 

それが触れてはいけない玉だということに、当のつかさはこの時はまだ気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

煙のように消えたと証されたが、実際に人体が煙になるわけではない。

八雲と雅は纏いの逃げ水を主とした古式の術式をいくつか組み合わせ、駅から追われることなく去ることに成功した。

カメラの死角らしい死角はないといっても、死角がないわけではない。

高速鉄道との乗り継ぎやもっと都心部の主要駅であれば、死角なくめぐらされているカメラも住宅街が主な地域の駅では、多少監視の目は緩い。

その隙間を縫って、レーダーに反応させないように術をつかうことなど雅にも八雲にも息をするほど簡単なことだ。

更に群衆にまで偽造した虚像を紛れ込ませるなど、念を入れてある。

監視の手を振り切るのはそれほどかからず、雅は念のため、自宅マンションではなく八雲と一緒に司波家へと帰宅していた。

 

「師匠、ありがとうございました」

「このくらいのこと、構わないさ。そちらの話し合いはどうやら中断されたようだね」 

 

達也も深雪もまだ自宅用のラフな格好ではなく、帰宅後間もないことが伺える。

今日の会談のことは八雲には伝えてはいなかったが、道中雅にでも話を聞いたのだろう。

 

「三矢の末のお嬢さんがいなくなった、ということで延期になりました」

「なるほど。学校の後輩が攫われて、達也君がどう動くのか見たかったというところかな」

 

八雲は口元に笑みを浮かべながらも、目元は柔和な様子を一切見せていない。

 

「詩奈ちゃんに危険はないのですよね」

「そのあたりは大丈夫だよ。三矢家が黙認しているところをみると、幼馴染君には知らされていなかったようだね」

 

深雪は心配そうに確認を取るが、八雲はいたって平然としている。

侍郎は自らボディガードを名乗っているが、正式な護衛は外された立場であり、詩奈を警護する義務はない。

そうは言っても行方知れずの幼馴染を放置できるほど侍郎は無神経ではない。

むしろ居場所が分かれば突撃しないとも限らないが、そのあたりはエリカが上手に手綱を握っているらしい。

 

相変らず、どこで情報をつかんでいるのかと達也は苦笑気味に思うが、藪の中を覗き込むような真似をするつもりはなかった。

 

「雅の方は?」

「そっちも同じ情報部だね。人はそれほど割かれていたわけではないから、オマケの作戦といったところかな。あまりちょっかいかけすぎると、火傷で済まないことは向こうも織り込み済みだろうね」

 

雅もこれまで達也絡みで標的になったととがないわけではない。

達也が四葉家の関係者と分かるとその頻度も増えてはいるが、あくまで監視程度であり、直接手出しをするものは多くない。

ただし、血は水よりも濃いという言葉のとおり、歴史の長さはそれだけ連なる家の多さに比例する。

政財界とのつながりもあり、国内で観れば四葉とは違った意味で手出しが容易ではない家である。

まして九重神宮は古くは宮中の鬼門の守りとして置かれた(やしろ)であり、九重神楽の舞手など信仰の対象にも等しい。

雅に手出しをしたら単に計画にどこからか水を差されるだけならまだしも、物理的に首が飛ぶことも冗談では済まない。

だからこそ、戦略級魔法師の伴侶に雅は相応しいという声も一定数あり、達也もその名の重さは知っているため不本意ながら深雪を任せても良いと思えるのである。

 

「それで達也君はどうするつもりだい?」

「そうですね。ちょうど本家から指示もありましたから、相応にけじめはつけようかと」

 

達也たちが帰宅した直後、ちょうど四葉家本家からヴィジホンが掛かり、真夜から連絡があった。

昨日、達也と深雪を襲撃されたのは、国防軍の情報部が国内に潜伏していた米国工作員を洗脳して起こした事件だと伝えられた。

そしてその工作員を救出するように依頼されたのだ。

いかなる事情があろうとも、深雪と雅を襲った情報部は達也にとって許し難い。

しかし、非合法活動中の米国工作員の確保は、情報部の職務であり、それを邪魔してまで達也は報復を考えてはいなかった。

 

「察するに房総半島の()の施設には、米国工作員の中でも有力者、それも四葉にコネクションを持てるだけの大物が捕まっていると」

 

達也は否定も肯定も口にはしなかったが、深雪のわずかな表情の変化で肯定したのも同然だった。

 

「けれど、君がその命令に素直に従うとは驚きだ」

「こちらの利益にならないわけではないので」

 

潜入していた米国工作員は、スターズを主力に組まれていると達也は考えていた。

昨年のパラサイト事件から真夜とスターズの間にコネクションができていて、救出の依頼があったとみるのが妥当だろう。

達也としての利は薄いが、スターズへ借りを作っておいて損はない。

情報部が仕事として国外工作員を収容することは真っ当だが、捕らえた魔法師を洗脳したとなると相手も表沙汰にはとてもできない。無論、その行方がどうなったのかということも同様だ。

 

「君も丸くなったのかね」

「さあ、どうでしょう」

 

深雪の守護者(ガーディアン)として、当主の命にも従順なふりをする必要は今の達也には以前ほどない。

だが、盤石と言えるほど四葉家の中での立場が固まったわけでもなければ、真夜との関係が無条件に良好というわけではない。

かつて達也の天秤には深雪だけが乗っていた。

その皿には、今は別の重さも加わっている。

そのことに後悔はない。今はただ、そう思えるだけだ。

 

 

 

 

 

日曜日、詩奈奪還作戦は、エリカ、レオ、侍郎と千葉家の門下生で編成されたチームと七草家双子を含めた七草家配下の部隊が突入し、無事保護することができた。

白々しい見届けの演習という説明にエリカは釈然としなかったが、目的どおり詩奈は解放されたため、門下生(エリカ親衛隊)と共に現場を引き上げた。

達也も時刻をやや遅くして、米軍の非合法工作員がとらえられている収容所から目的の人物を解放させた。

 

 

一週間後の昼時。

司波家に一本の国際電話がかかってきた。

 

『ハーイ、達也。深雪。元気だったかしら?』

「そちらも元気そうだな、リーナ」

「久しぶりね。でも、どうしたの?そちらは深夜ではなくて?」

 

たまたま達也も深雪も自宅にいたため、二人で電話に応対できたが、普段からリーナと連絡を取り合っているわけではない。

実際、リーナがUSNAへ帰国して以来、およそ1年以上期間を開けて初めての連絡になる。

学校では友人という体でふるまってはいたものの、リーナの立場上、気軽に連絡を取れる友人はいない。

いたとしても軍関係の部下であり、日常を戦略級魔法師として作戦と任務に身を投じている。

 

『ええ、もうすぐ23時よ。こんな時間じゃないと話もできなくて……。この電話も上官が特別にって本部に内緒で許可してくれたものだから』

 

この電話が特別なものであることは、達也も深雪もよく理解していた。

四葉家本家の関係者、それも達也は次期当主と目されているとなれば、リーナが連絡を取ることは容易ではない。

 

『そういえば、またちゃんとお祝いを言っていなかったわね。二人も婚約おめでとう』

「ありがとうリーナ」

 

深雪が柔く微笑む。

白皙の美貌がまるで芽吹きの春を待っていたかのようなその美貌は、千の言葉を語るより雄弁だった。

 

『達也と雅のことは知っていたけれど、深雪は雅のお兄さんと婚約でしょう。全然そんな素振りもなかったから驚いたわ』

「リーナも良い話があれば教えてちょうだいね」

 

一転、にっこりとした余所行きの深雪の笑みにリーナは小さく否定の意味で手を振る。

 

『嫌味のつもりはないのよ。ただ、兄妹どうしそれぞれの兄妹と婚約だなんて、アニメにもない事が現実におきて本当にびっくりしているのよ』

 

リーナは達也と雅の婚約は元々日本に来る前から情報として知っていたが、深雪には婚約者の影も形もなかった。

四葉家という身分を隠されていたこともあるが、学校にいたころから色恋のイの字も出さずに恋に恋するように敬愛する兄と姉を見ていた記憶はある。

 

「それに、達也としてはフクザツかしら」

「俺としては深雪が幸せならそれ以上言うことはないよ」

「お兄様―――」

 

画面の向こうでまるでその二人が恋人であるかのような熱いまなざしにリーナは思わず肩をすくめた。

 

『相変らずで安心したわ』

 

できれば自分が通話を切ってからやってくれと内心思いながらも、懐かしい様子に安堵も感じていた。

 

『雅も変わらず元気なのかしら?』

「ああ。お祝いのメッセージをもらったことは伝えておくよ」

『あら、てっきりもう一緒に住んでいるのだと思っていたのだけれど、違ったかしら』

 

雅がたびたび司波家に泊まっていることは、情報収集をしている部隊の報告から潜入前にも聞いていた。

学生とはいえ、家柄的に誘拐の危険も考えればいくら治安のよい日本とはいっても、一人暮らしは危険度が増す。

防犯の意味でも複数で行動することは理にかなっていることだとしても、年頃の男女が一つ屋根の下というのは良からぬ妄想をしてしまうのは仕方のないことだった。もしそんな状況下で何も手出ししていないなのだとしたら、朴念仁を通り越して枯れ木もいいところだ。

 

「リーナ、それこそそれはアニメの観すぎじゃないか」

『観すぎというほど観てないわよ!』

 

呆れたように言う達也に思わずリーナの声も裏返ってしまった。

確かに日本に初めて来たときも、アニメを参考にした衣装を着たし、普段の服装にも取り入れたりしたが、すぐに任務のため同居していた部下であり友人でもあるシルヴィア・マーキュリーにダメ出しされた苦い思い出がある。

潜入捜査に向いていないとは自分でも思ったが、情報収集から間違っていたことに何度もため息をつかれた覚えがある。

リーナは仕切り直しとばかりに、一つ深呼吸をして画面に向き直った

 

『お祝いもだけれども、今回、どうしても伝えたいことがあったから、連絡をさせてもらったの』

 

リーナは居住まいを正し、深く頭を下げた。

 

『達也、今回は本当にありがとうございました。おかげでワタシは大切な部下と大切な友人を失わずにすみました』

 

今回、達也が収容所から解放した捕虜の中には、そのシルヴィア・マーキュリーも含まれていた。

秘密活動中ともなればそのまま裏に処理されても何の言い訳もUSNA政府は弁解もできない。

いくらリーナが最強の魔法師といっても、太平洋を越えて居場所も分からない部下を独断で助けにも行けはしない。

最悪を想定していたリーナだったが、無事に彼女の部下と友人は祖国の土を踏むことができた。

そのために支払われた達也の労に、リーナはどうしても礼を言いたかったのだ。

 

「リーナ、頭を上げてくれ」

 

わざわざ危険を冒してまで礼を述べるためだけに連絡を取ってきた。

その義理堅い様子に深雪は心から嬉しく思い、達也はやはり軍にいるには心根が優しすぎると感じていた。

 

『本当は直接お礼を言いに行きたいのだけれど』

「リーナの立場じゃ難しいわね」

『そうよね』

 

軽い口調で深雪とリーナが笑い合う。

 

「また会える日を楽しみにしているわ」

「ええ。私もよじゃあね、達也、深雪。See you again」

「また、今度」

 

セレストブルーの瞳はモニターが消えるまでまっすぐに達也と深雪を見つめていた。

 

 







毎年思うのですが、猫の換毛期って抜け毛の量がすごいですよね
 ^・ω・^
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