恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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4月に更新したいなーと思いつつ、GWも終わり、この時期の更新となります。まだお待ちいただいている皆様がいると思うと、嬉しいです。

もうしばらくしたら、また年単位で更新が止まる可能性があります。
細々とでも続けていけたらなと思います。

甘い話が書きたいので、やる気が出るような切なくて甘い系の話を供給してほしい_(:3 」∠)_


エスケープ編
エスケープ編1


 

2097年5月27日(月)

 

昨日の話し合いと戦闘の後、十文字先輩や七草先輩は達也のディオーネ計画への疑問に完全に納得したわけではないため、調べ直すといって帰っていった。

同じく、私や深雪は東京の自宅に戻った。伊豆から第一高校まではかなり距離があるため、翌日の学校のために残念ながら連泊はできなかった。

 

 

 

私は朝、一人で九重寺に鍛錬に出かけ、伯父である八雲相手に組手をしていた。

まだ伯父との力量差があるため、今日も転がされて終わった。

もう数年もしたらどうなることか、と笑ってはいるが、まだ私相手では余裕に見える。

達也はもう体術でいえば、伯父を上回っているだろうし、魔法を含めた戦闘でも勝負は拮抗するだろう。

私も魔法戦闘力を含め、弱くはないとは思うが、達也とどんどん差をつけられているようで追いていかれないように必死になっている。

 

「師匠、お勤めのところ失礼いたします」

 

弟子の一人が、組手の合間に声をかけてきた。

 

「なんだい?」

 

基本的に門弟は私や達也が組手をしている時に話しかけてくることはない。

特別禁じられているわけではないが、この時間は朝のお勤めがあるため、緊急時でなければ特別指示を仰ぐようなことはないはずだ。

 

「お二人にお耳に入れたいことがございます」

「室内の方がいいかな?」

「いえ。この場にて」

 

秘匿された情報ではないが、急ぎではあるようだ。

 

「先ほど、朝の情報番組にて『七賢人』のうち、第一賢人と自称する者から国内のメディア宛てにビデオメッセージが送られ、トーラス・シルバーが第一高校の司波達也であることを公表しました」

「それはそれは」

 

ディオーネ計画の発案者であるエドワード・クラークは、トーラス・シルバーの参加を呼び掛けていたが未成年の学生であるという事から氏名の公表はしなかった。

魔法協会や外交筋を通じて圧力は掛けてきており、国内外の世論もトーラス・シルバーのディオーネ計画への参加を後押ししている。

だが、一向にトーラス・シルバーからの反応がないことから、しびれを切らしたのか、事態をさらに引っ掻き回しにきたようだ。

 

「君は早く学校に向かうべきだね」

「分かりました」

 

これが報道の第一報なら、まだ学校にマスコミが集まってくることはないだろう。幸い、今日は長めに訓練をする予定だったので、学校に必要な一式持ってきている。

手早く準備を済ませて、学校へと向かった。

 

 

 

 

予想していたマスコミは、登校時間には間に合わなかったようで、生徒たちがマイクを向けられることはなかった。

しかし、二限目が始まるころには正面にも通用門にも記者やレポーターで人垣ができていた。

 

記者は達也に取材をさせろと学校側に求めていたが、学校側はそれを拒否。

重大な罪を犯したわけではなく、未成年のプライバシーを考えれば当然の反応だった。実際、達也は校長から登校免除や試験免除のうえ、魔法科高校の卒業資格も校長によって保証されているので、最近は登校していないのだが、マスコミにはそれは伏せられている。

 

学校側が取材を断っても、マスコミは昼休みの時間になった段階でも変わらず学校の出入り口を固めていた。

 

「まだいますよ」

「というか増えているみたいだよね」

 

泉澄ちゃんと香澄ちゃんが外の様子を見ながら、ため息をついた。

生徒会室には、達也を除く生徒会役員と風紀委員長の吉田君、それと部活連からは私と十三束君が来ていた。

 

「警察を呼ぶ?」

「それは先生方がお考えになることだわ。私たちの一存では決められないわ」

 

雫の提案に深雪が首を横に振った。

問題は下校時刻までこの人垣が消えない場合の対応だ。

魔法を使わずにあの人が気を突破するのは難しい。

強引な手を使ってくることを見越して、魔法の探知装置も持っている可能性がある。

マスコミは表現の自由や報道の自由という盾をもっていることから、正当防衛の名目で魔法を使うことはハードルがかなり高い。

こちらが未成年であったとしても魔法の使用が合法と判定されるのは難しそうだ。

 

「何か対策を考える必要があるわね」

 

昼休みは放課後までに何か案がないか考えるという事で解散となった。

 

 

 

 

 

「少しは減ったようね」

 

放課後になり、出入り口を取り囲んでいたマスコミは半分程度に減っていた。FLTから金曜日にトーラス・シルバーが会見を行う予定だと公表され、第一高校や関係機関に迷惑をかけるようなことがあれば会見から締め出すという事が通達されたらしい。

会見への締め出しに屈しなかった記者や会社からそのことを知らされていない者もいる可能性がある。

減ったとはいえ、人数自体は少なくない。

ペンの暴力はこの時代も強く、ジャーナリズムを聖域視する風潮はまだ残っている。

ただでさえ、魔法師を取り巻く社会情勢は好意的とは言えない中、魔法師も社会の一員として生きていくためには、ここで物事を荒立てるのは拙い。

 

「だけど強行突破っていうわけにはいかないよね」

「香澄ちゃん、物騒なことは言わないでください」

「そんなことわかってるよ」

 

校門へと続く一本道を遠くに見ながら、香澄ちゃんが口を尖らせた。

記者に見つからないように、今は前庭の並木道の木に姿を隠しながら様子を伺っている。

 

「FLTからの連絡を聞いていないだけならまだいいのだけれど、本当に記者かどうか怪しい人がいないとは限らないからね」

「本当ですか、雅先輩」

「野次馬ってこと?」

 

香澄ちゃんと泉澄ちゃんはもう一度、校門の外を垣間見た。

 

「野次馬ならまだかわいいわね」

 

本当に怖いのは、反魔法師を掲げる暴漢が潜んでいる場合だ。

 

「深雪、校長先生はどうだった?」

「残念だけれど、警察の介入を避けるおつもりのようね」

 

やはり学校としてマスコミ対策をするつもりはないようだ。

 

「それじゃあ、大人しくマスコミにつかまるしかないのでしょうか」

 

詩奈ちゃんが涙目になりそうな顔で深雪を見上げた。

 

「マスコミの人たちも手荒なことはしないと思うけれど」

 

深雪は自信なさそうに答えた。まともなマスコミなら無遠慮にマイクを向けてくることはあってもあれだけのカメラがある中で乱暴な手段には出ないはずだ。だが、あそこにいるのがマスコミだけとは限らない。殺気があるとまでは言わないが、悪意を持った気配がないわけではない。

 

「全クラブに活動中止は通達してあるから、いつでも帰れる状態で待機させているわ」

 

部活中止に多少の不満はでたものの、仕方ないかという反応が大多数だった。

 

「学校側からFLTで会見が行われることを伝えてもらって、それでも引かないようなら、説明に出ることも考えないといけないわね」

 

おそらく、私か深雪が説明に出ることになるだろう。

 

「会見があるっていうのを知らせるのは賛成。だけど、深雪や雅が出ていくのは拙いと思う」

 

雫は冷静に反対意見を唱えた。

 

「私もお姉様も嫌だけれど、でも何もしないわけにはいかないでしょう?特に私はお兄様の妹で、生徒会長なのだから」

 

深雪は事態が好転しないなら、自分が出るつもりでいるようだったが、私は深雪一人を矢面に立たせるつもりはない。

 

「深雪や雅の責任感は理解できる。でも今回はやめた方が良い」

 

雫の父である北山潮は大企業のオーナーであり、大物すぎて逆にマスコミが気を遣うレベルではあるが、それでもマスコミ対策については気を遣う事だろう。

全てではないにしろ、その姿を見てきた雫はマスコミの力を十分理解しているのか、譲らなかった。

 

「ひとまずFLTから会見があることを伝えてからでも、遅くはないと思う。先生たちも帰れなくて困るのは一緒だから、それくらいは説明してもらう」

 

雫の意見は筋が通っている。問題を先延ばしにしているだけかもしれないが、何もしないよりは良いだろう。

 

「分かったわ。もう一度、校長先生と話してみるわ」

 

深雪が雫の意見に賛成し、ひとまず校舎に戻ろうと全員でその場を立ち去ろうとしたとき、後ろ髪をひかれたような気がして、振り返った。

深雪もなにかを感じ取ったのか、足を止めて私と同じ方向を見た。

 

「まさか……?」

 

校門の向こうから、一台の電気自走車(エレカー)が近づいていた。

深雪が駆けだしそうになるのを制止し、歩いて私たちも校門まで近づく。

 

「何故……」

 

深雪は小さくつぶやいた。

エレカーから降りてきたのは、制服姿の達也だった。

 

 

 

 

 

 

「司波達也さん、ですね?」

 

報道陣も今日この場に達也がくることは予想外だったようで、動揺が広がっている。報道陣は達也の顔は知っているはずだが、半信半疑で質問した。

 

「そうですが、何か?」

 

達也は淡々と返事をした。

 

「……貴方がトーラス・シルバーというのは事実なんですか?」

 

記者は達也の反応に一瞬ひるんだものの、持ち前に図々しさで質問を重ねた。

 

「報道機関にはすでに連絡が言っているかと思いましたが、金曜日にFLTでトーラス・シルバーの記者会見が行われます。質問があるようでしたら、そちらでお尋ねください」

 

達也はイエスともノーとも答えなかった。

 

「通していただけますか」

 

威圧しているわけではないが、堂々として物怖じしない達也の態度に記者たちは思わず後退った。

 

「貴方がトーラス・シルバーということでいいんですね!」

「どちら様ですか?」

「はい?」

 

半ば興奮ぎみな赤ら顔で達也に食って掛かった記者は、一瞬戸惑いをみせたものの、自信満々に大手の新聞社の名前を名乗った。

 

「そうですか。フリーの方ではないなら、会社から連絡があったと思いますが、ご存じではないと」

「何をですか?」

 

年下である達也に歯牙にもかけられていないことに反発しているのか、喧嘩腰に聞き返す。

 

「第一高校の方からクレームが入った場合、記者会見の会場に該当の報道機関の方は、入場できなくなります。FLTはそうお報せしたはずです」

 

報道陣に動揺の波が広がる。やはりここにいるマスコミの半分は、その事実を知らなかったようだ。残りは、知っていて居座ったということになる。

 

 

 

「みんな、下がって」

「えっ」

 

私はみんなの一歩前に出て、CADを待機状態にする。

記者が次の言葉を発するより早く、銃声が響いた。

報道陣の中の女性リポーターが甲高い悲鳴を上げる。

達也に食って掛かっていた記者が尻餅をついて、道路に倒れこんだ。

達也の背後から発砲された弾丸は、銃弾は達也の手のひらに収まっていた。

握りしめた手を開くとから銃弾の弾が地面に落ちる。

 

マスコミは押し合い()し合い、もつれ込み、叫びながらその場から逃げ出す。

達也の姿が見えないため、精霊と視覚同調を行い、俯瞰で状況を確認する。

血走った目の暴漢は、逃げていく人には目もくれず、達也を睨みつけている

拳銃を達也の方に向け、続けざまに発砲する。

達也はそれを全てつかみ取る。

分解魔法を使用し、銃弾そのものではなく銃弾の運動量のベクトルを全方位に分解している。

ほぼ停止状態で掌に銃弾を掴んでいるだけなのだが、襲撃犯から見れば物理的にはあり得ない状態だ。

ほぼパニック状態でマスコミに混ざっていたテロリストは、達也に向けて弾切れになるまで、弾切れになった後も引き金を引き続ける。

 

「くそっ」

 

空になった拳銃を達也に向かって投げ捨てると、暴漢はポケットからナイフを取り出し、達也に向ける。

達也は間合いを詰めると、胴体めがけて突っ込んできたナイフを手を捻り上げて落とすと、その勢いを利用して男を地面に引き倒す。

ナイフを持っていた手を踏みつけて、警備員が出てくるのを待っている。

 

「今のは?」

「魔法は使ってなかったのか……」

 

遅れるようにして、報道陣にざわめきが広がる。

やはり報道陣の中には魔法を感知する装置を持ってきていた者もいたようだが、彼らの簡易な機械では銃弾を受け止める際の魔法は感知されなかったようだ。

報道陣が呆気にとられている間に、ようやくやってきた警備員と入れ替わるようにして達也が門を超えた。

 

「お兄様!」

「すまない。騒がせたな」

 

深雪がすぐさま達也に駆け寄る。

 

「いいえ。お兄様であれば、お怪我をなさることはないと信じておりました」

 

万に一つも達也が怪我をすることはないだろうが、はやり過激な反魔法師主義者が紛れ込んでいたようだ。単独犯というのが怪しいが、今のところ、こちらに対する敵意は感じられない。

 

「すまないが、このまま帰れるか?」

「分かりました」

 

長居してしまえば、冷静になったマスコミに再びマイクを向けられる可能性もある。

そうなれば、また下校するのに手間がかかってしまう。

 

「私は残るわね」

「お姉様」

 

深雪が心配そうな顔をしている。

 

「カメラはあるけれど、先生方に事態の説明は必要でしょうし、残っている生徒に帰宅のタイミングも知らせないといけないでしょう」

 

今日は元々、神楽の稽古が入っているので、帰りは別々の予定だった。

 

「分かった。また連絡する」

「ええ」

 

達也は少しだけ思案した後、深雪と水波ちゃんを連れてエレカーに乗り込み、学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也が去ってから、30分もしないうちに、マスコミは学校周辺から撤退した。やはり記者会見から締め出すという脅しは効いたようだ。それに普通の生活をしている者が、いくらジャーナリストとはいえ銃撃現場に長時間いるというの心理的にも苦しいだろう。

帰り道に待ち伏せされるという事もなく、私も尾行されるようなことはなかった。

 

「こんばんは、達也」

「こんばんは」

 

達也はあの後、深雪と水波ちゃんを調布の家に送った後、伊豆の別荘に帰ったらしい。

私は学校帰りの稽古の後、自宅用のマンションに帰り、今は達也と映像付きで通話をつなげている。

 

「あの後、学校は大丈夫だったか?」

「ええ。発砲事件で中継とか始めかねないと思ったけれど、大人しく引き下がったみたい」

 

流石にいくらマスコミとはいえ厚顔無恥ではなかったようだ。

 

「九重家にも迷惑をかけたな」

「あちらは取材慣れしているから大丈夫よ」

 

達也と私の婚約関係にあることは、少し調べればわかることだ。

FLTや一高から話が聞けないとなると、九重家に取材依頼をしてきたメディアもいたようだ。もちろん、取材は丁重に断っている。

 

「金曜日の記者会見は何を話す予定なの?」

「トーラス・シルバーの解散と恒星炉のプラント建設についてだな」

 

ここでいう恒星炉とは、以前から開発を進めていた常駐型重力制御魔法式熱核融合炉のことだ。

正式名称は、Extract both useful and harmful Substances from the Coastal Area of the Pacific using Electricity generated by Stellar-generator.

日本語訳は恒星炉による太平洋沿岸海地域の海中資源抽出及び海中有害物質除去。正式ではないが、略称はESCAPES計画(エスケイプスプラン)というらしいが、エスケープスに合わせて言葉を組み合わせた側面が強い。

日本語の名称も長いため、公式な名称はこれから考えるとのことだ。

 

「エスケープって、魔法師が兵器としての役割を脱却するっていう意味にもかけているのかしら」

「ああ。軍事力とエネルギーの関係は切っても切り離せないからな」

 

現在、魔法師の活躍の場は軍事面に偏っていると言っても、間違いではない。

むしろ九重家のような神楽として魔法を用いることの方が珍しい。

 

日本は各国に比べ、魔法師の割合が多いとはいえ、成人後も実用的なレベルで魔法を使うことができるのは、およそ1万人に一人。潜在的に魔法技能を持つ者、実用レベルではないが特定の魔法を使うことができる者に広げればもう少し割合は多いが、それでも絶対数は少ない。

その少ない人数が軍事面に割かれているのは、どこの国も変わらない。

 

だが、増え続ける人口を賄うためには、エネルギー問題も長年の課題だ。

魔法師の数を増やすことは容易ではないため、軍事力とエネルギー供給の間でリソースの奪い合いにはなる。

つまり、魔法師を軍事利用したくともできない状況にすることができる。

日本だけではなく、世界各国でその状況を作り出せる。

 

「現実的な分、賛同は得やすそうね」

「本当はもう少し後で公表するつもりだったんだが、レイモンド・クラークが暴露した以上、前倒しだが仕方ない。あとは、了承を得られるのを待つだけだな」

「スポンサーの方の?」

「そこまで知っているのか」

 

達也は少し困ったように笑った。

達也が言う了承とは、四葉家や分家の了承ではなく、四葉家の後ろ盾をしている東堂青波(とうどう あおば)のことだ。

表立った組織ではないが、政治や経済分野に広く影響力を持つ元老院、その中でも東堂青波は四大老と呼ばれる最も発言力の強い人物だ。

彼の了承が得られれば、記者会見でこの計画を披露することができるらしい。

 

「何度かお目にかかったことはあるわ」

 

九重家は元老院に所属しているわけではないが、構成している家とは長い付き合いがある。仲人を引き受けたり、九重神宮で婚姻を執り行ったり、遠縁では親類関係にある家もある。

 

「きっと了承が得られるわ」

「心強いな」

 

元老院は、道を外れた魔法師や異能を持つ者が表の秩序を乱さないために、力のある魔法師を支配下に置いている。元老院全体が魔法師を管理するのではなく、各家々が力のある魔法師やその家系を配下にしているといった構図になっている。

魔法協会はあくまで魔法師のための相互機関であり、中心として十師族を据えているに過ぎない表の組織だ。

 

東堂青波の人となりを詳しく知っているわけではないが、兄から聞いた話では色よい返事をもらえるとのことだ。兄のことを信頼していないわけではないが、すんなり全面的な了承という楽観視はしていない。

 

安寧はまだ遠い。

 





今回は7000字程度で、少しいつもより短いです。
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