恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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いよいよ、九校戦編です。

基本的には原作通りですが、オリジナル要素強めとなるかと思います。


九校戦編
九校戦編1


学生であれば逃れられない、付きまとわれるのが成績の評価であり、生徒たちの学力の到達度を手っ取り早く評価するのがテストだ。

魔法科高校も例外ではなく、むしろそのカリキュラムの詰め込み具合は数ある高校の中でもトップクラスだ。古典や数学、化学などの一般教養に加え、各種魔法理論と魔法実技の授業が組まれ、土曜日も例外なく学校がある。

 

校内順位は魔法実技、魔法理論、総合成績の上位20名が公開され、生徒たちのモチベーションを上げている。一般教養の科目はそこまで重要視されていないが、魔法科目同様、赤点を取ると夏休みに補習という痛い現実が待っている。

 

一学期定期テストの結果は次の通りだった。

 

総合順位

一位 司波深雪

二位 九重雅 

三位 光井ほのか 

四位 北山雫 

五位 十三束鋼

 

 

とAクラスの女子がトップ5の中に4人となっており、これは教職員も頭を抱えているそうだ。

 

毎年、各クラスの実力が均等になるように入試結果を踏まえてクラス分けが行われているはずだったが、今年はなぜかAクラスに上位者が固まりすぎていたのだ。

これだけならまだよかったのかもしれない。

 

 

魔法理論の結果は先生方のみならず生徒たちの間でも話題となっていた。

 

一位 司波達也

二位 九重雅

三位 司波深雪

四位 吉田幹比古 

 

と達也が私と深雪に“平均点”で10点以上の差をつけている。

今回、私の理論の成績が良かったのは、古典部主催の試験対策講座のお蔭もあるだろう。

数か月だが、私もずいぶんと理論的な思考を叩きこまれた。

 

他にも今回の定期テストでは魔法理論で美月が17位、エリカが20位とこちらも二科生の名前が例年に比べて多いそうだ。

 

ちなみに実技は 一位 司波深雪、二位 九重雅、三位 北山雫 四位 光井ほのか となっている。

 

女子がここまで上位を独占するのは男子のメンツが丸つぶれだと、同じ古典部の男子から愚痴をこぼされたが仕方がない。そう言う年もあるだろう。

 

達也は理論だけずば抜けていたため、教師に実技で手を抜いているのではないかと疑われていた。

勿論そんなことはないと分かってもらえたようだが、その代わり理論を重視している四高への転校を勧められたらしい。

 

深雪が聞いたら憤慨すること間違いないだろう。

 

その他にも理論の所では、少し気になる名前があったので達也に聞いてみた。

 

「吉田君って古式魔法の名門吉田家の次男でしょう。かつて神童とまでうたわれていたけれど、事故があったそうよ」

 

「それで二科生なのか」

 

精霊魔法、彼らから言わせれば神祇魔法の名門であり、歴史もそれなりにあったはずだ。

優秀な次男の噂は聞いていたが、彼がそうなのだと知ったのは入学してしばらくたってからだった。

 

「達也も気が付いていた?」

 

「ああ。思った以上に体は動くし、視野も広い。昔ながらの荒行をしているのならば理解できる」

 

「理論の成績も4位ですからね」

 

おそらく、その事故さえなければ一科生だっただろう。

 

未熟な魔法師はちょっとした事故で魔法が使えなくなる。魔法は精神状態に大きく左右される。

そのため、事故に対する不安、魔法に対する不信感。魔法師にとって魔法を行使するためのイメージが現実の事象改変となるため、それを信じられなくなると魔法が使えなくなる学生がどうしても出てくる。そのための二科生制度でもあると考えている人もいる

 

魔法を使える人材はとても貴重であり、各年齢人口千人当たり一人というのが魔方師の実際だ。

一般人の中にも、サイオン量は多くある者もいるが、実際に事象を改変する事の出来るレベルで魔法が使える人間は限られている。しかも、成人後も実用レベルで魔法師として活躍できるのはその10分の1、つまり一万に一人しかいない計算になる。

 

一高も入学時200人いた生徒も1割~2割が何らかの原因で退学や休学しているので、実質の全校生徒は600人に満たない。

 

未だ100年ほどしか研究が進んでいない魔法は不安定で、解明されていない不可解なことが多い。それでも魔法という不確かな才能に縋り、自分の才能に賭ける生徒は少なくない。

それだけ、魔法という分野は魅力的で、社会的な地位も保障されていると言える。確かに危険性があっても魔法という稀有な才能を誰も簡単にあきらめたり、手放したりできないものである。

 

 

さて、苦しいことの後には楽しいことが待っている。

魔法科高校一大イベント、夏の九校戦の開催が近づいていた。

 

私と深雪も選手に選ばれ、深雪は生徒会役員として準備に追われている。

ユニフォームや備品の準備だけではなく、応援に来る生徒のホテルの確保まで生徒会の仕事らしい。

選手は既に1年生から3年生まで決まっているが、技術スタッフの不足が深刻らしい。

 

九校戦のメンバーは主に三種類。

 

まず、競技選手。

昨年度まで男女枠がない競技も多く、負担の度合いによって競技を分けていたが、フェアリーダンスとモノリスを除き、今年度は各種目男女別で行われる。

 

競技は10日間にわたり、1年生が出場する新人戦と学年制限枠のない本戦がある。

しかし実際に本戦に1年生が出場することはほとんどなく、こちらは2、3年生が主力だ。

 

そして選手を支える作戦スタッフと技術エンジニア。

九校戦は魔法“競技”であるため、ルールと制限がいくらか設けられている。その一つがCADのスペックであり、既定のハードのなかで各校はソフトとハードの調整を行うことが求められる。魔工技師志望の生徒を中心に、腕の見せ所でもある。

 

作戦スタッフは文字通り、競技に関する作戦を立案するスタッフである。

各校、誰がどの競技に出場するのか情報を集めたり、競技用の作戦を練ったり、確実に点数を稼げるよう調整するのも一つの役割だ。

 

あとはボランティアで雑務等をするためにいくらかの生徒が手伝いに来てくれるらしい。

 

九校戦の競技選手は1年男女が20人、本戦メンバーが男女20人、作戦スタッフ4人、技術スタッフ8人が最大枠になっている。

学校の威信もかかっているためか、正式なメンバーは夏休みの課題が免除となり、九校戦に打ち込めるよう学校を上げて選手団をサポートしてくれている。各部活も選手の活躍が評価に加えられ、予算が配分されることから、各部出場が決まった選手の強化にも必死だ。

 

 

 

 

 

いつものように生徒会でお弁当を食べていると、自然と話は九校戦の事になる。

 

今一番難航しているのは技術スタッフの確保であり、学生でCADの調整ができる人材は貴重らしく、今年度は特に3年生は魔法師志望に偏っているそうだ。2年生は中条先輩や百家の本流、五十里先輩など優秀な人材がいるが、まだ必要な人数が確保できていない。

 

競技日程は10日間に渡るとはいえ、競技は5種目、そのうち各校から3人まで出場できる。一人の選手が参加できる競技は二種類まで。

 

選手一人一人、サイオンの特徴も異なれば、得意な魔法も異なるため、調整内容が変わってくる。会長や十文字会頭は自分で調整できるそうだが、そうでない方が多数だ。

 

 

「摩利がせめて自分のCADくらい調整できるようになればいいのに」

「いや、深刻な問題だな」

 

渡辺先輩は七草先輩や十文字先輩と並び称される【三巨頭】の一人であり、高い魔法力があるがCADの調整はまた別の話らしい。

力なく机に突っ伏す七草先輩はどうやら相当行き詰っているらしい。

 

話の流れを察知してか、達也が私たちに目くばせをした。

 

 

「では俺はこれで」

 

厄が回ってくる前に、お弁当を持って立ち去ろうとした。だが、彼は厄星に愛されているようだ。

 

「だったら司波君に技術スタッフをやって貰えばいいんじゃないですか?

深雪さんと雅さんのCADは司波君が調整しているんですよね?」

 

「え?」

 

「盲点だったわ!」

 

達也を風紀委員に任命した時同様、いやそれ以上に嬉々とした様子で七草先輩は達也を技術スタッフに推薦することにした。

風紀委員会のCADも達也が調整しているし、中条先輩も深雪のCADの出来栄えには感嘆していた。

だが達也は二科生であること、CADの調整はユーザーとの信頼関係が重要なことをあげ、断ろうとしていた。

 

「私は九校戦でもお兄様にCADを調整していただきたいです。お姉様もそちらの方が安心でしょうし、いけませんか」

 

「そうよね。深雪さん達も信頼できるエンジニアがいてくれたら嬉しいわよね」

 

「ええ。お兄様がエンジニアならば光井さんや北山さんも安心して全力を出すことができます」

 

 

深雪にそこまで期待されてしまえば、達也の性格上断ることはできない。

むしろ反対意見をねじ伏せる様プレゼンをしなければならないだろう。

 

「ダメかな?」

 

私もお願いすると達也は眉を下げたが、ここまで来てしまえば王手だった。

 

 

 

 

達也はもはや諦めモードに入っていた。

その後、気を紛らわすためか、普段は生徒会室ではしないCADの調整を行っていた。

 

それに気が付いた中条先輩は調整途中の達也からシルバー・ホーンを借り、うっとりとした様子で眺めていた。前々から思っていたが、中条先輩はデバイスオタクらしい。

普段の大人しい様子とは打って変わって、新鮮だった。

 

「そういえば、あーちゃん、課題があるとか言ってなかった?」

「ふああああ」

 

昼休みも三分の二を過ぎたところで、中条先輩はやらなければならない課題を思い出したそうだ。

可愛い後輩のため、七草先輩が手伝うことを申し出た。

 

課題は現代魔法の三大難問がなぜ解決できないかであり、二つは理解できたそうだ。

 

「常駐型重力制御魔法がどうして実現できないのか上手く説明できなくて…」

 

常駐型重力制御魔法。つまり、重力を操作し、飛行する魔法だ。

重力を軽減して跳躍や落下を防止する魔法や、空中を一定距離移動する魔法は存在する。しかしながら長年飛行魔法は実現に向けての実験が行われているにもかかわらず、未だに三大難問に数えられている。

 

魔法は連続で発動し続けると前の魔法式に対して上書きを行うため、前の魔法以上の干渉力が必要になる。過去には飛行魔法も確認されているが、基本的にBS魔法、つまり超能力的な俗人的技術として見なされている。

 

「理論と個人技の中間にはなりますが、一応古式魔法で飛行の定義はできていますよ」

「本当ですか?!」

「ええ。汎用性に乏しいですが、理論として実証されています。」

「これですね」

 

古式魔法の話が出たので、私が言葉を挟むと市原先輩が生徒会室にある端末で論文を出してくれた。

 

「精霊喚起による限定的飛行術式です。

魔法陣を描き、回路の役割を果たす術者を陣に配置し、精霊を喚起して飛行を行います。いわゆる重複魔法の応用だと考えてください」

 

「ちょっと待って、こんな術式で本当に飛べるの?」

 

 

中条先輩と七草先輩が半信半疑で論文の内容を見ていた。

確かに古式魔法に精通していないと、この理論は分かりにくいだろう。

 

「ただ飛ぶ方も、陣に作用する魔法師も想子量が相当量必要ですので、飛行可能時間はおよそ5分が限度です。限定的と言う言葉があるように、自由自在に宙を舞う範囲は限られています。

重力制御ではなく、指定領域内の気流を操って前後左右上下に移動しているんです。

あまり実用的とは言えませんが見かけ上は重力に逆らって自由に飛行していますね」

 

「つまり、5人がかりで一人を飛行させると言うことですか?」

 

「ええ。魔法の相克が起こらない様に、あくまで術式自体は精霊の喚起です。一定空間内の風にまつわる精霊の密度を上昇させることで、気流を操りやすくするのが特徴ですね。実用的というより、目的としては歴史上の再現実験になります」

 

「なるほど」

 

「でも今回は常駐型の重力制御ですので、参考にはならないと思います。蛇足でしたら申し訳ありません」

 

「いえ、とても勉強になりました」

 

 

実はこれ以外にも空を飛ぶ方法はある。

 

四楓院家お抱えの【織姫】。彼女の作る最高傑作の一つが「天の羽衣」と呼ばれる織物だ。

一見はただの精巧な織物にしか見えないが、手にするとそれは羽よりも軽く、さらに複数の魔法が編み上げられた魔法道具だ。

風の精霊に対して感受性の高い織物であり、そこには気流の操作と重力の軽減魔法が組み合わされており、纏った者に空を飛ぶという能力を与える。

 

稀に文献では聖遺物として取り上げられている代物だ。現代技術をもってしても作成不可能と言われる聖遺物。

しかし、天の羽衣は作れる人材と使用できる者が限られているため、その作成方法は四楓院家によって秘匿にされている。

 

さて、話は戻るがなぜ飛行魔法が実現不可能なのか。

魔法式は魔法式に作用できないという大前提がある。

魔法が終わる前に新たな魔法を発動するとそれだけ干渉力が必要になり、それは領域干渉も例外ではない。イギリスの実験はその点についての認識が間違っており、失敗したのだと達也は説明した。

 

流石、今研究しているだけあって詳しい。

達也の説明に呆気にとられる先輩に無情にもお昼の終了を告げる鐘が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後の準備会議。

内定者が一堂に集まる中で、達也に向けられる視線は敵対的なものも少なくなかった。

中には風紀委員としての実力を知っているために、そこまで不思議ではないと思っている先輩方もいるが、特に男子からの視線が厳しい。言わずもがな、森崎君をはじめとするグループだ。

彼らも実力はあるが、少々子供っぽいところもあり、プライドだけが高い。

彼らを横目に、私は先輩の中に見知った顔がいることに驚いた。

 

「鎧塚先輩も参加されるのですね」

「おう。作戦スタッフで市原先輩の手足だな」

「少し意外でした」

「どういう意味だ?」

 

言い方が悪かったのか、鎧塚先輩は眉を顰めた。

 

「てっきり、選手として出場されると思っていたので」

「ああ、一応補欠要員だぜ?まあ、知略・戦術は得意分野だからな」

「彼の戦術には目を見張るものがあります。少々突拍子もないことも多いですが、概ね期待していいと思いますよ」

 

市原先輩が補足をしてくれた。確か鎧塚先輩は剣術部でもどちらかといえば戦術家だと聞いている。

 

 

 

 

会議が始まると案の定、達也の技術スタッフ入りを支持しない生徒も多かった。

雫やほのかは応援する側だが、様子見半分の生徒、反対意見半分強の様相となっている。

グダグダと感情的な意見が多くまとまらない中、十文字先輩からの提案で達也の力量を見ることになった。

 

実際の調整を受ける役に十文字会頭や七草先輩が立候補する中、その役を買って出たのはあの桐原先輩だった。新歓の一件を表面的に知っている生徒はかなり意外そうだったが、彼の男気ある行動に達也も心なしか嬉しそうだった。

 

 

 

指示された内容は桐原先輩が普段使用しているCADの起動式を競技用CADにコピーし、即時使用可能とすること。ただし起動式には変更を加えない事という条件だ。

スペックで劣る競技用にハイスペック機種の起動式をそのまま移行するのはあまり好ましいことではないが、安全第一にと言って達也は調整を始めた。

 

起動式のコピーと測定は時間がかかることなく終わり、達也は調整に掛っていた。

普通はここにグラフ化された本人のデータや二つのCADのデータが表示されて、微調整していくだけだ。だが、達也は測定後、じっと画面を真剣に見つめていた。

深雪と私はいつもの見慣れたことなので安心してみていたが、興味を持った中条先輩は画面を覗き込んだ。

 

「へっ?」

 

華の乙女には少しばかり似つかわしくない、間の抜けた声が聞えた。

画面には数字の羅列、つまりグラフ化されていない生データが並んでいる。

そのデータを元に、達也がキーを高速で(といっても達也にとっては普通のスピード)で叩き、サイオン測定波のデータをコピー元に適合するように調整していく。

目まぐるしく画面が移り変わって数字が流れていくが、目で追えている生徒は私と達也だけだ。

多くはそのキーボードタッピングに目を奪われているようだが、技術スタッフの優秀な人は達也がどれだけ高度なオペレーションをしているのか理解していた。

 

 

時間にしておよそ5分もかかっていないが、調整は終わった。起動式自体には手を入れていないため、時間自体はそれほど必要なかった。

桐原先輩は少々緊張した様子で、CADを腕に付け、魔法式を展開させた。

 

「桐原、どうだ?」

「問題ありませんね。自分のものと比べても全く違和感がありません」

 

 

それは過小評価も過大評価もしていない、純粋な感想だった。

しかし、魔法を問題なく発動出来ただけであり、平凡だと指摘する上級生も多かった。まだ難癖を付けるつもりだろうか。

 

意外にもすぐさま反論したのは中条先輩だった。

 

「私は司波君のスタッフ入りを支持します。彼が見せてくれた技術はとても高度なものです。あれだけ安全マージンを大きく取りながら、すべてマニュアルで調整するだなんてとても私にはまねできません」

 

「でもそれだけ安全マージンを大きく取るより、効率を重視した方がいいんじゃないの?」

 

「それは…その、急だったからで・・・」

 

中条先輩は勢いこそ良かったものの、あまり弁の立つ方ではないようで、尻すぼみになっていた。

 

「補足説明させていただいてもよろしいでしょうか」

 

僭越だが、助け船を出すために手を挙げて発言を求めた。

 

「構わん」

「ありがとうございます」

 

 

十文字先輩の許可を貰い、私は反論していた先輩の方を向いた。

 

「携帯端末で学校の教育用端末のデータをそのままコピーしただけで、処理できると思いますか」

 

「そりゃ、当然OSも違えば容量も処理速度も違うだろう」

 

「彼が行ったことは、それを可能にしたといえば分かりやすいでしょうか。つまり、携帯端末レベルのものに膨大なデータベースを植え込んだようなものです。しかも安全かつ運用できるレベルで置き換えたといっても遜色ないと思います」

 

「まさか…」

 

 

少々分かりにくい例えだったかもしれないが、どうやら凄さは多少なりとも伝わったようで、反論していた先輩も驚きの表情を浮かべていた。

 

「桐原の個人のCADは競技用のものより性能が高い。その性能の差を感じさせない技術は高く評価されるべきだと思いますが?」

 

私の言葉にさらに援護を重ねたのはこれまた意外にも服部先輩だった。

 

 

「会頭、私は司波のメンバー入りを支援します。技術スタッフの選考に難航している現段階で、肩書にとらわれるのではなく、能力にベストなメンバーを選ぶべきです」

 

九校戦はチームであり、学校の威信がかかっている。

下らない感情論よりも、優秀なスタッフの確保の方が先決だろう。

 

 

「決まりだな」

 

服部先輩の後押しもあってか、達也のエンジニア入りが正式に決まった。達也も思いがけない後押しに、少しだけ笑ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、内定メンバーで競技決めが行われた。

 

達也は棒倒し、ミラージ、スピード・シューティングの女子の3競技を担当することになった1年女子からの強い推薦(主に深雪)もあって、作戦スタッフや練習も手伝ってくれるそうだ。

 

残念ながら私の出場はそれ以外。バトルボードとクラウド・ボールになった。

 

理由としては二つある。

一つ目に私は自分のCADくらいならば自分で調節できる。

達也ほど高速かつ、精密にはできないが、達也からすれば十分だと褒められた。古式魔法の現代魔法への転換や起動式の無駄な部分を指摘してもらったり、分からないことは助言してもらっている。

 

私だって万能ではない。

特に、今回は魔法の“競技”であり、戦闘ではない。

ただ相手を倒せばいいのではなく、定められたルールが多数存在する。限られた中でどう魔法を組み合わせていくかが、どのように力を配分するかも勝敗を左右する鍵になってくる。

一応念のため、バトルボードは中条先輩、クラウドボールは和泉先輩のお世話になることになった。

 

 

二つ目に、私と深雪の戦力分散だ。

ほぼ実力が拮抗していると言われる私達。

同じ競技にして、1位2位で表彰台を取るより別競技で1位をそれぞれ取った方が点数効率はいい。新人戦の得点も半分とは言え、総合優勝には関わってくる。

 

深雪は非常に残念そうだった。私と同じ競技かつ、達也に担当してもらいたかったようだ。本音では私も達也に調整をお願いしたかったが、競技が被っている以上、可愛い妹に譲ってやるのが姉の性分だろう。

 

「深雪はどんな衣装にするのかしら?」

 

深雪が出場する女子のアイス・ピラーズ・ブレイクは毎年ファッションショーと名高い。

衣服の規定は『公共良俗に反しない事』のみであり、見た目の美しさが点数に換算されることはないが、メディアも観客としても美味しいところなのだろう。

深雪がリビングで電子ペーパーの雑誌を見ていたので、おそらく衣装決めをしていたのだろう。

 

「その・・・・・・お姉様は御実家で、巫女用の緋袴を着ていらしたでしょう?私も是非着てみたいと思ったのですがどうでしょうか」

 

深雪は少しためらいがちに私に聞いた。

 

「あら、良いと思うわ」

 

「本当ですか」

 

私が同意を示すと、深雪は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ええ。深雪は何を着ても似合うけれど、清廉な様子が際立つと思うわ」

 

「ありがとうございます。それで、申し訳ないのですがお姉さまが着ていたものを貸していただけますか」

 

実家では巫女の手伝いをすることもあり、個人用に緋袴を持っている。流石にこちらに来て使うことはないため、実家に置いてある。

 

「私の?深雪に合わせて誂えなくてもいいの」

「お姉様のものがいいのです」

 

お古でいいのかと聞こうと思ったが、新しく買っても深雪が着る回数もそう多くないだろうし、あの袴はお婆様のお手製であるから箪笥の肥やしにしておくには勿体ない。

 

「分かったわ。家に連絡してみるわね。必勝祈願も掛けてもらわなくちゃ」

「それは心強いです」

 

私の方が若干背は高いが、数センチの差だから困ることはないだろう。

細部は送られてきた後に調整すれば問題ない。

私の実家は深雪も可愛い義妹としているので、このお願いははむしろ歓迎されるだろう。

正式な魔法儀式でもないし、多少髪飾りや装飾も付けても良いだろうと可愛い妹を見て思った。

 

 




原作のイラストで、どことなく挿絵のお兄様と某王子様、一条君とス〇クが似ているな、と思っていたのですが、イラストを描いている石田さんはアニメーターだそうで、コードギアスにも関わっていたそうです。

今更ながらですが、納得しました

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