一番の原動力は萌えです。
誰かおすすめの漫画教えてください(´;ω;`)。
少年少女なんでも読めます。
週明けの月曜日、学校はあるニュースで持ちきりだった。
大手マスコミがスクープしたのは不可解な死体。
傷口がないにもかかわらず、死体からは血液が抜かれていたのだという。
巷では吸血鬼事件と呼ばれ、血液ブローカーの仕業や魔法師絡みの犯罪など様々な憶測が飛び交っている。
町中にはサイオンレーダーが防犯カメラとともに設置されているため、魔法師絡みとは一概には言えない。
しかしながら、上級の魔法師の中にはサイオンレーダーを誤魔化すことができる術者もいる。
読者が鼻白むほどオカルト的な側面を合わせ、センセーショナルに報道されている。
そして、その話のために捕まった相手は何も同級生だけではなかった。
「例の吸血鬼事件、九重はどこまで把握している」
受験を控え、自由登校である十文字先輩と七草先輩と対面していた。
昼休みになると、七草先輩のアドレスでクロスフィールド部の第二部室に呼ばれた。
学校内部にも防犯カメラがあり、様々な込み入った話をするには向いていない。
ここは十文字先輩が管理しており、非公式な会合の場所として公然の秘密となっている。
「それは十文字家としての問いでしょうか」
「ああ。今回の事件、七草と十文字で共闘することになった」
「報道はされていないけれど、今回の事件で七草家にも被害が出ているの」
七草先輩の話によると、被害の実数は報道の3倍。
最初は魔法大学の学生と職員に被害が出て、調査を始めた七草の関係者が次々と無残な姿になってしまったらしい。
犯人のほうは魔法師かそうでないかはまだ不明だが、少なくとも狙いは魔法師である可能性が高いとのことだ。
遺体を調べてみればどれも不可解な死因であり、被害の拡大も受け、今回の一件は十文字家と共闘することになったらしい。
「私が知っている範囲で報道外のことですと、USNAでも同様の事件が起きているということでしょうか。時系列でいえば、あちらのほうが発生は先だったそうです」
「どこからの情報だ」
十文字先輩は私の発言に眉間の皺を深くした。
「同級生の北山さんが留学先で得た情報だそうです。あちらでも報道規制が敷かれているそうで、都市伝説として広がっているそうですよ」
学校でも当然のことながらその手の話題は出ており、ほのかが雫から聞いた話ではどうやらアメリカ南部のダラスでも吸血鬼事件があったらしい。ワールドニュースにも現地のニュースにも上がっていなかったことで、雫も留学先の情報通に聞いたとのことだった。
「今回の古式魔法の可能性も含め、できることならば四楓院家にも手を借りたい」
どうやら魔法師絡みの犯罪、それも古式魔法の可能性もあり得るとのことだった。
死体は刺し傷、切り傷もなく、CTもMRI、血液検査の結果も白。
現代科学では解明できない死因だそうだ。
「古式魔法なら九島、関東近辺なら吉田家など古式の名家は揃っているのではないですか」
「横浜での一件を踏まえれば、動ける人数、戦闘能力を考えれば九重が一番ふさわしいと判断した。九重の一存で決めることはできなければ、当主に話をしてもらえないか」
10月の横浜での白い羽織を纏った集団と私との関係はすでに知っているようだ。
公にしてはいないとはいえ、十文字家代表として四楓院家についても知らされているらしい。
「七草家も四楓院の協力を望むということに相違ありませんか?」
「ええ、私からもお願いしたいわ」
二人の目は十師族を代表して話しているだけあって、揺るぎないものだった。
今回の一件は魔法師に被害が出ている以上、四楓院も何かしら情報をつかんでいると思っているのだろう。
それでなくとも千里眼は国内外の出来事ならば手に取るように把握できると言われている。
情報源と期待するのは無理もないことだろう。
「残念ながら、今回の一件、『四楓院』は基本的に関与しません」
私は二人の期待を明確に否定した。
十文字先輩はピクリと眉を上げた。
「四楓院は事件解決に手出ししないということか」
「身に降りかかる火の粉は払いますが、現段階では積極的に退治するという方向にはなっていません。領分は弁えているつもりですよ」
今回の吸血鬼事件については事前に家として手出しはしないように言われている。
四楓院が絡むのは基本的に対外戦争や国の転覆にかかわる危機のみである。それ以外は基本的に俗世にかかわらず、静かにしているのが常だ。
表舞台に登場し、動くことがある方が異常なのだ。
四楓院家は全国に配下が散らばっているとはいえ、名だたる家は基本的に京都に集まっている。地理上の領分の踏まえ、手出しをしなくても解決できるという意味でもある。
「・・・承知した」
しばし間があり、十文字先輩は承諾した。
元々それほど協力に期待をしているわけではなかったようだ。
ダメ元半分、四楓院に借りを作るデメリットも考え、話だけでも持ち掛けたのだろう。
「四楓院は情報を持っていても一切援助しないってことかしら」
「お言葉ですが、七草先輩。11月の一件をお忘れでしょうか」
11月の一件という言葉に七草先輩は息を詰めた。
私が七草家の狂言誘拐に巻き込まれ、四楓院家のあれこれを聞き出そうとしたことだ。
達也がいるにもかかわらず、あわよくば私との婚姻関係まで考えていたというから私からすれば呆れるばかりだ。
少なくとも七草先輩は関与していないので、彼女に対する怒りはない。
だが『七草家』が『四楓院』に協力を求めることは、随分と腹の虫がよさすぎる注文だ。
「その一件に関しては父が申し訳ないことをしたと思っているわ。改めて謝罪いたします」
七草先輩は静かに頭を下げた。
「いいえ。私としては“七草先輩”とはこれからも良いお付き合いをしていきたいと思っていますよ」
七草先輩は個人的に見れば良い先輩だと思う。多少後輩で遊ぶ悪癖さえなければ、尊敬できる先輩だ。
公私の身の振り方もわきまえているし、十師族の名に恥じない魔法力も努力に裏付けされたものだとわかる。彼女とのコネクションはあったほうが今後のためにも良いと考えている。
「一つ、こちらで把握していることをお伝えします。非正規ルートでUSNAの魔法部隊が日本に入国していることはご存じですか」
「あのスターズが来ているということか」
「構成員の数までは私の方で把握していませんが、少なくとも一等星クラスが何人かいるというのは小耳にはさんでいます。USNAの者たちは少なくとも侵略目的で我が国に入国しているわけではないようです」
リーナのこともあるが、次兄からの情報なので少なくとも間違いはないだろう。
私の提示した情報に十文字先輩は渋い顔をしていた。
どうやら今回のスターズの訪日は四葉以外の十師族はノーマークの完全秘密裏だったようだ。
断りもなく軍関係者が私用外で外国を訪れることは侵略か、もしくはスパイだと思われてもおかしくはない。
USNAが危険な橋を渡っても秘密にしたいほど、今回の吸血鬼事件は後ろめたいことでもあるのだろう。
「そのことは七草でも調べてみるわ。分かり次第、連絡するわね」
「任せた。九重、これはあくまで
十文字家からの依頼ではなく、先輩としてのお願いならば私が動くことは問題ない。
「分かりました。私のできる範囲でやってみます」
リーナがシリウスだとは知らない二人だからこそ、私に軽々しく実力行使も辞さないと言えるのだろう。リーナがシリウスとしての力を出さなければ私にも勝算はあるかもしれないが、本気になった場合の被害が分からない。本気で敵対することがなければいいと願うばかりだった。
・・・放課後・・・
私の放課後は部活か風紀委員の見回りか、神楽の練習の3パターンが多い。
今日は風紀委員の見回りで構内の見回りをしている。
部活のエリアは部活連の管轄なので、基本的に遠くから見るだけで足を運ぶことはない。
千代田先輩はよく顔を出しているとのことだが、領分争いで部活連との衝突は今のところない。
実習室を見回り、実験棟に移動した際、精霊の気配を感じた。
古式魔法クラブが活動している日ではあるが、今日は野外練習場だと聞いている。
敵意は感じないが、人除けの術が敷かれている。
認識疎外の結界のようなものだろう。
上手に周りの気配に溶け込ませてあるので、感覚の鋭敏な者か古式魔法に精通していなければ気が付かないだろう。
いずれにせよ、部活動以外での魔法の使用は基本的に禁止であり、風紀委員の取り締まり対象である。記録用のデバイスに電源を入れ、術の境界を越え、術者を探す。
精霊の気配をたどると、あまり使用頻度の高くない実験室から人の気配がした。
扉に手をかけ、ゆっくりと開けるとまるで私を待っていたように吉田君がいた。
「九重さんなら気づくと思っていたよ」
精霊喚起の香が卓上で煙を揺らしていた。
「込み入った話かしら」
吉田君の発言ぶりからは、私が結界に気が付いて入ってくることは予想済みだったようだ。
記録用端末をオフにして、扉を閉める。
吉田君は一拍呼吸を置いて、前置きなしに話を始めた。
「今回の吸血鬼事件、どう思う」
「死体からは大量の血液が喪失しているが、血を抜かれた形跡はない。死因はいずれも不明。謎の不審死が相次いでいるっているというところまでは共通認識として良いかしら」
「ああ、僕はこれが単に人の仕業には思えない」
巷を賑わせている吸血鬼事件。
東京都内で発生した事件だけあって、学校からも注意情報が出されている。
吸血鬼のターゲットが魔法師だと知っているのはごく一部だが、被害者が増えればマスコミがかぎつけるのも時間の問題だろう。
組織的な犯行やオカルト的な事象など様々な噂が飛び交っているが、吉田君はそれを人ならざるものの仕業だと言った。
「人ならざる物が原因なら現代医学では死因が分からなくても不思議ではない。
ただ、これは僕の古式魔法師としての勘に過ぎない。不確定な情報だし、いたずらに不安を煽るようなこともしたくはない」
「吉田君は犯人の目星がついているということかしら」
「ああ。僕は人ならざる物、『パラサイト』だと思っている」
「確かロンドン会議の定義では
魔法という存在が科学的にも社会的にも確立するにつれ、それぞれ各国でバラバラだった用語や概念の共通化が図られた。
それは現代魔法だけではなく、むしろ古式魔法の分野で積極的に行われていた。
イギリスでも何度も国際会議が開かれ、国際的な連携を行っている。
『パラサイト』もその一つで、人に寄生して人間以外の存在に変えてしまう魔性のことであり、妖魔、ジン、デーモンなどがそう呼ばれている。
「ああ。それほど怪異に出くわす頻度が高いとは思えないけれど、可能性がないわけではない。だが、確信が持てないから九重さんの意見を聞きたいんだ」
確かに怪異が表舞台に現れ、悪事をなすことは決して多くない。
有名なのは菅原道真の怨霊だったり、玉藻御前だったり、酒呑童子が知られている。
エクソシストはそんな悪霊と戦うすべを持つ職業として一般にも知られているし、高僧や神職の中にも魔性を払うことができる者もいる。
だが、人ではない存在は何もすべてが悪事を働くわけではない。
「一つ訂正よ。人ならざるものは私たちの日常のすぐ隣にいる、いわば隣人のような存在よ。吉田君も毎日接している普遍的な存在だと思うわ」
「毎日?…まさか精霊がそうだというのかい」
「精霊の定義は実体を伴わない情報の海を泳ぐ情報体。世間一般で意思がないと言われているのは、単に私たちがその意思を科学的に証明できないからではないかしら」
「・・・言われてみれば確かにそうかもしれない」
吉田君は深く考えるように顎に手を置いた。
概念や用語の定義は進んでいるとはいえ、流派によって事象の解釈は異なる。
「精霊はあくまで隣人。元々この世界に存在する物。だけれど、今回のパラサイトはちょっと種類が違う気がするの。」
「種類が違う?」
個人的な感覚だが、今回の事件少し嫌な感じがする。なにか心が落ち着かないというか、空気がざわついているような、少しだけ異質な感じがしていた。
兄ほど見通せる感覚も間隔も広くはないが、漂う気配はそこにあるべきではないモノが混じりこんだような感覚だ。
念のために土地神様にお話を聞きに行ったらいい顔をされはしなかった。
八百万の神々がおわすこの国で、その神様が拒む存在とはいったい何なのだろう。
普段は潜んでいるのか、相当意識しなければ感じることはないが、土地神様も穢れを感じ取っていた。
精霊のように目に見えるわけでもなく、私も視認していないので何とも言えないが、感覚的にあまり近づきたくはない存在だ。
「私も上手くは言い表せないけれど、空気の馴染みが悪い気がするの」
「馴染みが悪い…。どこか別の世界から来たということかな」
お互い、しばらくの沈黙が続いた。
吉田君考えをまとめているだろうが、私もあまり遅くなるわけにはいかない。
「ひとまず、ここで議論をしていても尽きないわね。吉田君は妖魔退治の術を持っているかしら」
「あるよ。念のために準備を進めておくよ」
私も道具を取り寄せておいた方がいいのだろう。
妖魔退治は経験したことはないが、念入りに自衛の術は教えられている。
その用意が取り越し苦労ではなくなるだなんてその時は思いもしなかった。
翌朝、西城君が吸血鬼に襲われたとの連絡が入った。
昨日の今日で十文字先輩や七草先輩、吉田君にもいろいろと相談はされていたが、あくまでニュースの中での出来事だったものが、一気に他人事ではなくなった。
幸い、命には問題ないとのことなので、放課後にお見舞いに行く事になった。
廊下の長椅子にはエリカが座って待っていた。
どうやらエリカの兄、寿和さんが依頼していたことが入院の理由の一つだと悪態を付きながら教えてくれた。
病室に入ると西城君は ベッドから体を起こして、気さくに手を挙げ、元気な様子を見せた。
最も、心配をかけまいと空元気だったが、それを見抜けた人は多くない。
「酷い目にあったな」
「みっともないところを見せちまったな」
達也の問いかけに西城君は苦笑いで答えた。
「見たところ怪我は見当たらないが」
「そう簡単にやられてたまるかよ。俺だって無抵抗でやられたわけじゃないぜ」
「じゃあ、どこをやられたんだ?」
「それが俺もよく分からないんだよな…」
話を聞くと、巷を騒がす吸血鬼らしき不審者が誰かに襲いかかっていたところを見つけ、交戦したところ、いきなり体の力が抜けたらしい。西城君は一発相手にもお見舞いし、不審者は逃げていったが、西城君も立っていられなくなって倒れてしまったらしい。
切り傷も刺し傷もなく、毒を受けたわけでもなく、血液検査の結果も白。
これまでの吸血鬼事件と同様に原因が現代医学ではわからないらしい。
相手の手がかりを聞くが顔は白い仮面で隠し、体型も黒のロングコートとカーボンアーマーで良く分からなかったそうだ。
ただ、相手の構えた拳が小さく、もしかしたら女性かもしれないとのことだった。
一見、普通に会話もできており怪我がなさそうな様子だが、オーラはどことなく弱い。
兄や美月のように相手のオーラまで読み取るほど私の目は良くないが、少なくとも気力が普段より枯渇しているのは見てわかる。
「九重さん」
吉田君は推測が確信に変わった眼をしていた。
「ええ、間違いないと思うわ」
「なに、ミキも雅も原因がわかったの?」
主語のないやり取りにエリカが首を傾げた。
「僕の名前は幹比古だ」
吉田君は不貞腐れたようにいつもの決まり文句を返す。
「なにか心当たりがあるのか?」
達也にそう問われた吉田君は躊躇いがちではあるが、自信をもって考えを述べた。
「僕はこの事件は妖魔、パラサイトの仕業だと考えている」
吉田君は『パラサイト』のことを説明した。
人を乗っ取り、人以外のモノに変えてしまう魔性だとロンドン会議の定義では定義されている。
「まさか悪霊や妖魔が実現するだなんて・・・」
ほのかは不安そうにしていたが、魔法だってつい100年前まではお伽噺の世界だったのだ。
心配しないように達也がほのかの肩に手を置いた。
ほのかは達也に全幅の信頼を寄せている。
だからこそ、彼がそうすることによってほのかは肩の力を抜いた。
達也はすぐその手を放したが、ほのかが名残惜しそうにしていたのは私も見なかったことにした。
「レオ、幽体を調べさせてもらってもいいかな」
「お、おう。・・・ん、幽体?」
吉田君は決意した目をしていた。
その気迫に思わず西城君もたじろぐほどだった。
だが、すぐに幽体という字が分からず、オウム返しに問い返した。
現代魔法でも定義されている霊体ならまだしも、幽体は一般的な魔法用語ではないので、西城君と同じように首を傾げた者も少なくない。
肉体と精神を繋ぐ霊質で作られた器(情報体)のことを幽体と言う。
流派によって呼び方は多少異なるが、おおむね意味することは変わらない。
「幽体は精気、つまり生命力の塊。人の血肉を食らう魔物は血や肉を通じて精気を摂取していると考えられているんだ」
「つまり吸血鬼は血を吸うけれど、本当に必要なのは精気ってこと?」
エリカの問いかけに吉田君は緊張した様子で肯定した。
「ああ。でも、元々は物質的な生態を持たない彼らは本来精気さえ取り込めればいいはずだ」
ちらりと吉田君は私の方を確認した。
彼も書物の中でしかしらないことなので、確証がほしいのだろう。
「私の見立てもほぼ吉田君と変わりないわ。ただ、精気は彼らにとって餌ではなく、繁殖のために邪魔なものだったんだと思うの」
「邪魔なもの?」
エリカは眉を吊り上げた。
「寄生虫って名前が付いているくらいだから、乗っ取らなければ彼らにとっては意味がないでしょう」
シンと部屋の中が静まりかえった。
西城君やエリカはおろか、吉田君も予想していなかった答えだったらしい。
「んじゃ、なんだ。俺はただ襲われたんじゃなく、あいつの同族にされかけたのか」
言葉の意味を確かめるように西城君は聞き直した。
「あくまで推測の域よ。単純に邪魔だったから倒しただけだったかもしれないわ。
普通の人間は幽体に触れることは不可能。防御も攻撃も普通の人間はしていないわ。だから、なにもしていない幽体は魔性にとっては生身同然なのよ」
幽体を魔性から守るにはそれなりに準備が必要だ。
人の世の理ではなく、彼らの理で動くモノに合わせることは知識と技術がなければ不可能だ。
なまじ対策を知らなければ、ミイラ取りがミイラになってしまう。
「犬神憑き、狐憑き、蛇神憑き、日本に古来より伝わる憑き物たちは現世での器を得るために人に取り憑く。吸血鬼も人間の血を吸うことでその人間を吸血鬼にする。今回の一件もそうじゃないかと思っただけよ」
「まるでファンタジーだな」
力なく西城君は笑った。
あまりに突拍子のない話に現実感が伴っていないようだ。
「話が逸れたわね。吉田君、幽体を調べるのよね」
「あ、ああ」
吉田君ははっとしたように頷いた。
どうやら彼も話を聞き入ってしまったらしい。
「レオの幽体を調べさせてもらえばはっきりしたことが分かると思う。
実は今回のことは最初から人間の仕業には思えなかった。
科学的に証明できないということだけじゃない、僕の古式魔法師としての本能がそう言っていた。
だが、確証が持てなかった。九重さんにも相談はしていたんだけれど、いたずらに不安を煽るようなことは避けたかったんだ。そのせいでレオが襲われて」
「いいぜ、幹比古」
吉田君の後悔を西城君はさえぎった。
それは二つの意味での許しを持っていた。
吉田君はその信頼に応えるべく、顔をさらに引き締め、持ってきていたカバンに手を伸ばした。
和紙に呪が書かれた札と伝統的な呪具を使って、西城君の状態を調べていく。
幽体を調べる方法は九重にもあり、知ってはいるが、私も経験がない。
今回は吉田君に任せた方が確実だろう。
そして西城君の状態が出たら、吉田君は驚きを隠せない様子だった。
たぶん隠すという考えもないほど、異常事態だったらしい。
「達也も凄いと思っていたけれど、レオも本当に人間かい?」
「おいおい、あんまりな言い方だな」
冗談ならともかく、何度も紙を見直しながらそういう吉田君はまだ信じられない様子だった。
西城君は明らかに吉田君の発言に気分を害していた。
「いやだってさ、よく起きていられるね。これだけ精気を食われていたら普通の術者ならば昏倒して意識がないよ」
「精気が何かはさておき、失った量までわかるのか?」
達也はすごいなという顔で問いかけた。
吉田君は満更でもなさそうにうなずいた。意識しているにせよしないにせよ、達也に認められることは吉田君もうれしかったようだ。
「幽体は肉体と同じ形状をとるからね。入れ物の大きさが決まっているからどのくらいの精気が入っているのかおよその検討はつくよ。今のレオは普通の人なら意識を保てるのが不思議なほどの精気しか残っていない。
こうやって体を起こして話ができるなら、余程肉体の性能が高いんだね」
だが、西城君にとっては吉田の「性能が高い」という言葉はどうにも気にかかるようだった。
「まあな。俺の体は特別性だぜ」
そんな表情も一瞬でひそめ、二カッといつも通りの明るい笑顔を見せた。
「じゃあ、やっぱり俺は覆面女に精気を喰われたってことでいいのか?」
「そう思う。だけれど今までの被害者が血液を失った理由が分からないんだ。九重さんは心あたりがあるかい?」
「私もわからないわ」
血液を根こそぎ持っていくならわかるが、一部だけ抜き取る理由が分からない。触れるだけで精気を喰らうことができるならば、わざわざ血を抜く必要はない。血を抜くことが目的ではく、何かをしたことによって血が結果的に喪われたのだろうか。
いくらか考えを上げることはできるが、あくまで不確定な根拠のない推測でしかない。
結局その場では答えが出ず、面会時間もあり解散となった。
イチャイチャ成分が足りないよ(・д・`)