随分と要約することになりました。
書きたいシーンがとりあえず書けたので、よしとします。
ついに魔法科高校の劣等生映画化ですか°˖✧(・∀・)✧
楽しみですが、田舎なので近くで放映してくれるでしょうか・・・
達也はピクシーから「吸血鬼事件」について実験棟の空き教室で尋問していた。
ピクシーはロボ研と交渉し、達也が借り上げている。達也をマスターとして認めている以上、下手にロボ研所有にして問題があった場合の対処が面倒なのと、第三者に学外に持ち出され、パラサイトを奪われる可能性を考慮した故の判断だった。
普段はロボ研のガレージにいるピクシーだが、尋問には向かない部屋のため、美月経由で美術部から借りた女子用制服をピクシーに着用させ、実験棟まで移動させていた。
ピクシーは達也の命令に対し従順に行動し、淀みなく尋問にも答える。
達也には一つの疑問があった。一連の事件の被害者は外傷がないにもかかわらず、失血が認められており、検死と捜査は進むがその謎の解明はされていなかった。
ピクシーから魔法師を襲った経緯について語られた。
パラサイトの増殖のシステムは幽体の掌握を行うために人間にパラサイトの切り離した一部《分離体》を埋め込むことから始まる。
ターゲットの血液を分離体に置き換え、人間に付随する情報体を掌握し、パラサイトと同化させる。
情報体を掌握すれば、相互関係として実体も掌握できる算段だ。
だが、成功例はない。
血液の喪失は同化に伴う肉体の変容に使用され、失敗した場合は埋め込んだ分離体は
一見無表情に見えるが、どことなく嬉しそうな声色で達也の質問にテレパスを使って答えていく様が達也にとっては正直気分が悪い。
好意を寄せられているとはいえ、その相手が魔物とあれば心境は複雑だ。
達也が一通り尋問を終えると、タイミングを見計らったかのようにドアが開けられた。
「達也君、ちょっといい?」
「ああ」
聞き耳をたてられていたのか、偶々なのかは分からないが、エリカが教室に入ってきた。達也は第三者がこの部屋に近づいていることに気が付いていたが、ピクシーからの返答はテレパスであり、第三者に聞かれることはないため、無視していた。
おそらくエリカならば達也が気が付くだろうと普段ならば思っただろうが、あいにく彼女の雰囲気からノックをして部屋に入るということが頭から抜け落ちているのだろう。
「話を聞くのは構わないが、そう殺気立たないでくれ」
「ああ、ごめん」
達也の指摘にエリカは頬を恥ずかし気にかいた。
刺々しいというより、刃を研ぐような鈍く光るような殺気が霧散する。
どうやら無自覚だったようで、これから話すことはそれだけ彼女にとって重いことのようだ。
「それで、聞きたいことって?」
「わかってるでしょう」
「予想はつくが?」
「……うちの兄が醜態をさらした件についてよ」
エリカの回答は達也の予想通りだったが、その内容は一つではなかった。
「それだけか?」
「ひとまずこっち」
どうやら彼女にも順序があるようだ。
「相手は?」
「USNA軍、魔法師部隊総隊長、アンジー・シリウス」
達也は相手を嘘偽りなく、昨晩相手取った者の名前をエリカに伝えた。
エリカは素直に教えてもらえるとは思わず、虚を突かれた。
エリカがそれを受けてどう返答する間もなく、達也は首を横に振った。
「止めておけ」
エリカがその名前を聞いてどうするのか、達也には聞くまでもなく分かっていた。
「無理だって言いたいの?」
エリカの怒気が膨れ上がる。
「無理だな。実力的にも、結果的にも」
「結果的にも?」
エリカは達也の言葉を図りかねた。実力的に無理だといわれるのは予想通りだが、結果的にという言葉が気にかかった。膨れ上がった怒気は疑問によりいくばくか小さくなっていた。
「今朝のニュースを見たか?活字でも映像でもいいが」
「なんのニュース?」
「USNAの小型艦船が漂流していたニュースだ」
「あれね」
エリカの脳裏には通学中にキャビネットの中で流し読みしたニュースを思い出した。
日本領海を航行中のUSNA所属の小型艦船が機関トラブルにより漂流し、日本の防衛海軍に保護されたというニュースだ。
当日は霧もなく、天候も海上も穏やかだったので、動力系のトラブルではないかと記事では推察していた。このところ、目立ったニュースがなかったせいか、活字だけではなく映像媒体でも話題になっていた。
「まさか……」
「ああ。おそらくシリウスはもう出てこない」
エリカはこれが、ただの機器トラブルではないことを理解した。
表立った軍部や警察ではなく、おそらく、裏の力。それもシリウスが絡むとなれば魔法師で力のある家が動いた可能性が高い。
「…………ねえ、達也君。貴方、何者?」
エリカは達也をまるで知らない存在のように見た。
「少なくとも
「そうかな」
「ううん。十三束も、五十里も、千代田だって無理よ。もっと上の力。例えば十師族のような……」
「エリカ、もう止めないか」
ややぼかした回答で言外に達也が教えられないことを告げても、この日のエリカはなぜか引かなかった。
「力のある家でないと無理よね。首都圏を勢力範囲にしている勢力。もしくは地域に関係なく動ける家」
「エリカ、もう止せ」
察しの良い彼女にしては珍しく踏み込んでくると達也は思いながら、明確にエリカに制止をかける。
だが、エリカは知らず知らずに自分の首を絞める思考を深めていた。
「九重の勢力?北陸を地盤にしている一条は除くとして、関東近郊を拠点としていると言えば十文字、七草、あとは四葉。達也君、貴方まさかっ」
「止せ、と言っている」
「っ!」
特別大きな声だったわけではない。
それでも達也の声には、エリカに口を閉じさせるには十分な圧力が込められていた。
「これ以上はお互いのためにならない。この話はもういいだろう」
達也は静かにそう告げた。修羅場をくぐってきたのはエリカも達也も並ではない。
「ええ、そうね。ゴメン……」
エリカは自分の声が震えていないだけマシだと思った。自分が無意識に境界の向こう側にまで、それも彼の核心的な部分まで踏み込んでいたことにようやく気が付いた。
「わかってくれればいいさ。シリウスが誰かだなんて捜索しても良いことはない。この話は終わりにしないか」
「ええ、そうしましょう」
達也の提案はエリカのためのみならず、彼にも深入りされたくない事情を含んでいた。
その後パラサイトのことについてお互い協力関係を確認し、エリカは部屋を出て行った。
エリカは達也と一通りの話を終え実験室から離れ、二科生エリアに着いたところで足を止めた。
そこでようやく息がつけた気がした。大きく息を吐きだし、廊下の壁に寄りかかる。
今更ながら冷汗が額から伝っていた。
迂闊だった。
普段の自分ならきっと気が付いて踏み込まなかったはずだ。
エリカは達也のことを十二分に認めている。
それは単に魔法戦闘力だけではなく、理論的思考力や彼の人柄も含めてのことだ。
深雪の実力も含め、今まで話題にならなかった方が珍しいほど、他を寄せ付けない圧倒的な魔法力を秘めている。
エリカはてっきり九重や軍が秘匿している人物と思っていたが、藪をつついて出てきたのは蛇どころか龍の逆鱗だった。
一瞬の殺気。死線をくぐってきたつもりの自分が視線一つで封じられた。
目を閉じて、天井を仰ぐ。
彼らのことも分かってしまえば、色々と納得できることも多い。
今まで不自然だった彼らの実力も、触れてはいけない者たちなら納得だ。
だが、これは誰にも話すことができないし、去り際に釘もしっかり刺されてしまった。
彼を守ってやるだなんて、なんて自分は傲慢なことを考えていたのだろうか。
自分は彼らのことを守らなければならない立場に追い込まれてしまった。
雅は知っているのだろう。知っていて彼の隣に立つことを決めた。
茨の道なんてものじゃない。蠱毒の中に自ら入っていく覚悟がないと、蠱毒の中で打ち勝つ強さがないととてもじゃないけれど無理だ。
一体、どんな覚悟をしたら、どれだけの想いをかけたらその決意は得られるのだろうか。
七草も十文字もおそらく二人のことを掴めていない。
徹底的に隠され、守られている。
そうしなければならないほど、二人が重要な立場にいるということだ。
兄にどう報告するか、なんて誤魔化すように思考を飛ばした。
言えないこと、聞いてほしくないこと、聞いてほしいけど自分からは言えないこと。
誰だって一つや二つ胸の奥底に抱えている。
それはエリカだって同じことだ。
きっと彼は私がどこかで話してしまっても笑って許してくれそうな気がする。
墓場まで持っていかなければならない秘密かもしれないし、意外とすぐに公表されるかもしれない事実かもしれない。
その日が来るまでこの口は裂かれてもその真実をこの口から割ることはできない。
トン、と誰かに肩に触れられた。
「エリカ」
「え、ああ。雅?」
足音もなく、気配もない中いきなり現れた雅にエリカは驚き目を開けた。自分も油断していただろうが、思わず攻撃態勢にならなかっただけよかったのだろう。
雅は心配そうにエリカに問いかけた。
「顔色が悪いけれど大丈夫?」
「あー、うん。大丈夫よ。それより、雅はどうしてこっちに?」
一科生と二科生では校舎も異なる。設備的には同じものを使っているのだが、如何せん生徒間にある見えない壁はいっそ校舎を分けてしまった方が楽であった。
基本的にお互いの校舎を行き来することはなく、制服でどちらの生徒かわかるので生徒会役員のような有名人でなくても多少目を引くことはある。
そのため、エリカの疑問も特別おかしいことではなかった。
「先輩のところにちょっと用事があって出向いていたところよ」
「ああ、そうなの」
雅の返答も特別当たり障りのない答えだった。
エリカにとっては、どう切り返せばいいのか今の状況に困っていた。
先ほど重大な秘密を知ってしまい、当の本人とまではいかないが浅からない相手が目の前にいる。
雅の鋭さはエリカもよく理解しており、声をかけたのもきっと自分の雰囲気が違ったか何かなのだろう。
「雅」
「何?」
雅と達也の間柄は生まれた時から決められている。
それに疑問を思ったことはないのか、達也の家を知って戸惑わなかったのか、どんな思いでそれを受け入れたのか。生まれたころから聞かされていた雅と自分では衝撃も違うだろうが、そんな言葉が喉から飛び出そうになった。
だが、今はまだそれを聞くべきではないと、理性が歯止めをかけた。
「何でもない」
エリカは結局誤魔化すように笑うことしかできなかった。
きっと下手くそな笑顔に違いない。そう思った。
「へんなの」
雅もつられて笑う。
ひとまず、この大きすぎる秘密は彼女の心の中にしまっておくことにした。
達也たちがピクシーを連れて青山霊園へ向かっているころ、私は神楽の稽古に励んでいた。
その原因は兄にあった。
学校終わりの帰宅を見計らったかのように、兄から通信が入った。
コールが5回をカウントする前に、私は通話に切り替えた。
「はい、雅です」
「学校は終わった時間かな」
「ええ。もうすぐ家です」
監視カメラを確認し、背を向けるように口元が映らないように壁際に寄って電話の声に耳を傾ける。
四葉がUSNAに忠告をし、これ以上USNAから我が国の魔法師に対する妨害はないとのことだった。
私たちを監視していた衛星はもうないので、そこまで警戒する必要はないかもしれないが念のためだ。普段この時間にかけてくること自体珍しく、いやな予感がしたのは間違いではなかった。
「そうかい。ああ、本題に入るけど今晩、この件で君は動く必要はない」
今晩、ピクシーを餌に他のパラサイトを釣る算段をしている。
彼らは異なる体に同一の思考を持った存在。
国内のみならテレパスを可能とし、互いの存在を認識している。
彼らの目的は種の保存と繁栄。
原始的な欲求に従い、行動しているが、ピクシーの場合、ほのかの思考に惹きつけられたため、リンクは現在切れているらしいと達也から聞いた。
失った同胞を取り戻すべく、他のパラサイトは何かしらの動きを見せるだろうと予想している。
兄には随時、こちらで把握した吸血鬼事件に関することは伝えていたが、今晩の一件は伝えていない。伝えていなくても、兄ならば今更不思議なことではない。
「それは九重としての決定ですか」
「そうだよ」
「理由をお聞かせ願えますか」
「吉田の次男がいるなら君までいなくてもパラサイトは封印できる。封印できなくても精神物質由来のパラサイトは深雪ちゃんに滅却される。
言われていることは理解できる。
話の筋も通っているが、私をわざわざ争い事から遠ざける理由として不十分に思えた。
「まだ、何かお隠しですか」
「納得しなかった?」
困ったな、と全然困った様子など感じさせない口調で兄は答えた。
出ても出なくても良いのではなく、出るなということは私や九重に不利益があるということだ。
例えば少なからずこの事件に関わっている十師族や九重という立場がこの一件に関わっていたという事実だ。
「……わかりました」
達也たちの実力は知っている。兄の言う通り、この一件は私が関与しなくても彼らの実力で十分な案件かもしれない。
だが、歯痒いような、参加を許されない悔しい気持ちがないわけではない。
九重の決定に反目することもできず、私は従うだけだ。
「そう気を落としている時間はないよ。君に許された季節も舞台も数えるだけしかないことを忘れてはいけないよ」
兄の言葉が耳に突き刺さった。
私が“高雅”の名前で舞うことができるのはほんの少しの時間。
過ぎ去れば一年があっという間で、また終わりもそう遠くない距離に近づいている。
はい、と答えた声は震えてはいなかっただろうか。
決心はしたつもりでも、いざ突き付けられた現実を私はうまく消化できていなかった。
兄の読み通りの流れで、その日のうちにとはいかなかったが吸血鬼事件は幕を下ろした。
直接パラサイトと対峙した達也たち以外にも四葉、七草、九島もそれぞれの思惑の下で暗躍していた。
この世界にやってきたパラサイトは全部で10体。内、1体は校内で最初に接触した際に封印し、あちらの世界に還されている。残りの9体の行方はというと、1体はピクシーに留まり、2体は封印、6体は深雪のコキュートスによって滅却された。封印したパラサイト2体は四葉と九島で分配したようだ。
事件当初から動いていた七草は青葉霊園の一件でこれ以上の利はないと手をすでに引いており、最終的な手出しはなかったそうだ。
そして人知れず、魔物と魔法師との戦いが終わった裏で、ゆるやかに日常は過ぎていた。
春は出会いの季節であり、別れの季節であった。
私の親しい先輩たちは無事、それぞれ次の進路が決まったようで晴れやかな表情をしていた。
七草先輩、十文字先輩、市原先輩、それに祈子さんは危なげなく魔法科大学への進学が決定した。
渡辺先輩は防衛大の方に進学するようで、合格後まで聞かされなかった七草先輩は少々ご立腹だった。
小早川先輩と平河先輩はともに防衛大に進むことになったそうだ。
小早川先輩は九校戦以降、スランプに悩まされ、平河先輩も一部の生徒からのバッシングにあい、ずいぶんと悩んでいた。
どうにかできなかったのかと、渡辺先輩は達也に聞いた。
彼女としては自分も事故に会いながら辛うじて事なきを得ており、とても他人事とは思えなかったそうだ。自分だけはバッシングを受けず、さらに論文コンペでの平河千秋の暴走がその悩みを深めていたのだろう。
どうにか直前ではなく、準備段階で発見ができなかったのかと。
それに対して達也の答えは否だった。あの事件も未然に防げただけで上出来だ。
達也も私も全能でも全知でもない。千里眼がない以上、未来まで見通すことはできやしない。
だが、渡辺先輩はさらに達也に問う。魔法の使えない魔法師が活きる道がないかと。
達也はそのまま無情に切り捨てることに気が引けたようで、情報の出所は言わないようにという前提で話した。
魔法師は主に国防や軍事関連産業に携わることが大多数だ。
魔法が現代兵器にも勝るとも劣らない性能を発揮するという事実がある以上、どうしてもその役割が求められる部分がある。したがって、必然的に前線での戦闘をこなす魔法師が多いため、魔法を取り入れた作戦を考える後方支援部隊の要員が不足しているらしい。
小早川先輩にとってはそこが活路となったようで、受験まで残り半年という短い期間であったが防衛大への進学を決めたらしい。魔法が使えなくなった人でも人生を諦めたり、道を閉ざす必要はない、と思えたのだそうだ。
同時に平河先輩も防衛大の魔法工学部への進学を決めた。どうやらウジウジといつまでも悩んで閉じこもっていたところを小早川先輩に発破をかけられ、ギリギリではあったが合格できたそうだ。
そして今日は卒業式。
式自体は形式に沿って、卒業生入場、卒業証書授与、校長、来賓、卒業生代表、在校生代表が挨拶をして終了となった。
式が終われば、3年生は一科生と二科生で別れて卒業パーティがある。2つの会場で別れて実施するのは大学進学率だとか、一科、二科にある見えない壁を考えると分けた方がいっそわだかまりも少ないのだろう。
立食形式でのパーティに加え、恩師からのビデオ映像や各部活後輩からのメッセージなど会場は涙あり、笑いありの賑やかな雰囲気だった。
「みんな、アリガトー」
そして私はそのパーティに駆り出されていた。今一番盛り上がっているのは催し物のコーナーだった。ステージ袖にいても聞こえるほど、会場は歓声と拍手で大盛り上がりであり、熱気に包まれている。そのステージ上に立っているのはリーナと有志のバンドメンバーだった。
年度末は卒業式など行事だけではなく、生徒会は予算等の事務処理にも追われている。
臨時とはいえ、リーナも生徒会所属なので深雪から送別会での催し物を頼まれていた。
深雪や中条先輩の案では適当に有志を募って、ステージをしてもらえばよかったのだが、リーナが勘違いして自分が催し物をするものだと思ったらしい。深雪は途中で勘違いに気が付いたのだが、面白いからと先輩たちにも口止めをしてそのままにしていたそうだ。
リーナは直前までその勘違いに気が付かず、自力でバンドメンバーを集めて、この送別会のステージで歌を披露している。プロ顔負けとは言わないが、鍛えた肺活量と元々ハイクラスのお嬢様だけあって音感は良く教育されており、歌もかなり上手いといえるレベルだった。
音響関係は放送部の部員が手伝い、照明は演劇部の協力、私は舞台演出に関わっていた。舞台演出といっても、曲はリーナたちが決めており、私は袖で光波振動系魔法による演出をしているという状態だ。
大学の発表で舞台にも魔法を仕込めるなら、魔法科高校らしく魔法で送り出してもいいのではないかとリーナから提案されたのだ。念のために先生方に確認すると、安全性の高い魔法ならばと案外すんなりと許可を出してしまったのだ。
光波振動系魔法はほのかの得意分野なのだが、彼女は別に仕事を任されており、私にお鉢が回ってきたところだ。
ノスタルジックな曲にはゆったりとした光の玉をシャボンのようにふわふわと揺蕩わせ、ロックにはぶつかったときに火花や電流が迸る様に弾けるような小さな色とりどりの玉を操る。
CADはもちろん達也の調整だ。
九重神楽でノウハウはある程度あるものの、完全に余興、それもロックやポップスに合わせる作業は初めての経験だった。しかもリーナは会場の雰囲気とノリでアドリブをサービスとばかりにするものだから、こちらの予想外の動きをすることもある。
おかげで気楽とは遠い演出になったが、それはそれで心地いい緊張感があった。
アンコールの曲を前にリーナが歌を一旦止め、マイクをとった。
「先輩方、卒業おめでとうございます。留学して3か月も経っていない私だけれど、この学校はとても刺激的で毎日が驚きの連続だったわ。
3年間を過ごした皆さんなら私以上に多くの思い出と掛け替えのない友人に出会えたことだと思います。私もこの学校で過ごせたことを誇りに思うわ」
会場はすでに拍手喝采。口笛で囃し立てる音も聞こえた。
リーナは歓声に手を振った後、一呼吸おいて、まっすぐに会場を見据えた。
「『才能も、容姿の美しさも、家柄も、それらはすべて贈り物であり、それらを誇ることは決して美しいことではない。卑しくそれらに媚びる者たちを貴方は友としてはいけない。世界は苦しいことでいっぱいだけれども、それに打ち勝つことでもあふれている。どんな絶望の底に落ちたとしても、背筋を伸ばして前を見て歩めば自然と貴方は真の友を得ることができるでしょう。』
私が勇気づけられた言葉です。皆さんのこれからに幸多からんことを、祈っているわ」
綺麗な笑顔でそう彼女は締めくくった。
リーナの言う才能とはきっと魔法という才能だ。
この才能は稀有であり、将来を有望された才能である。
時にその才能は唐突に終わりを告げることも、栄光に群がる亡者を呼び込むこともある。
だから常に考え、背筋を伸ばし世界と世間を見なければならない、と言っているのだろう。
考えさせられる言葉だった。
特にリーナは戦略級魔法師という平均的な魔法師以上に特殊な立場にある。
いつから軍属なのかは正確には知らないが、きっと悩んだことも多かったはずだ。
あれはきっと彼女が救われた言葉なのだろう。
盛大な送別にしようと思う。お世話になった先輩に、これからの門出を祝うにふさわしい光を。
そう思って私はCADに指を滑らせた。
過ぎ去る今日までの日々と、輝かしい明日をイメージした朝と夜の交わる空が天井に投影される。
降り注ぐ桜の花びらように切なくて美しい白い光が音に合わせて静かに舞い落ちる。
明るくも切ない歌詞の別れの曲は滲んだ空色に溶けていった。