恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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実宣君ってなんだよ。光宣くんだよ、鯛の御頭はバカですか(・д・`)

感想・誤字の指摘ありがとうございます。



ダブルセブン編2

入学式の前日

東京都内で指折りの豪邸と呼ばれるレベルの邸宅、北山邸では北山家長女の帰国祝い&進級祝いのパーティが行われていた。

実際、この家に住んでいる雫の家族は祖母、両親、弟と本人を合わせた5人なのだが、家長である北山潮は5人兄弟である。

富裕層では5人程度の兄弟は珍しくない数ではあるが、潮が晩婚だったため雫の従兄弟たちは成人済みの者が多く、なおかつ家庭のある者が少なくない。

加えて、今日のパーティには結婚はしていなくてもフィアンセや近々婚約を控えているパートナーも同伴している。

そのため、身内のパーティとはいえ、ホームパーティと呼ぶには些か多い人数が集まっていた。

 

そして、入学式の前日という忙しい日にこのパーティが開かれたのは、雫の社長令嬢という側面も考慮してのことだった。

帰国後ほぼ息つく暇もなく、雫は関係各所へのあいさつ回りに追われていた。北山家は前世紀から続く実業家の家系であり、彼女は従業員を多数抱える社長の令嬢という立場もある。

身内向けのパーティも忙しいとはいえ、体面上行わないわけにはいかない。

 

「まあ、身内といってもまだ他人まで連れてくるのはどうかと思うけれど、蔑ろにはできないのよね」

 

北山夫人、雫の母である北山紅音はそう愚痴をこぼした。

主催者夫人(ホステス)にあるまじき発言だが、幸い聞いていたのは隣にいて適当に相槌を打っていた達也だけだった。多少居心地の悪さは感じながらも、理由を付けて逃げる場所もなく、おとなしく達也は彼女の会話に付き合っていた。

 

「潮君はビジネスが絡まなければ身内に甘いからね。厚かましさは好きにはなれないけれど、多少許しましょうか」

 

達也は一部納得する部分もあった。愚痴の内容というより、雫の的確なツッコミはこの母からきているのかと納得していた。彼女は毒舌だが、社長夫人としてTPOはわきまえているだろうし、吐き出す相手は選んでいるはずだ。

 

一通り話してすっきりしたのか、紅音は達也にターゲットを変え、値踏みをするような視線を向けた。

 

「ところで、貴方がほのかちゃんの片思いの相手で、九重さんの婚約者なのかしら」

「片思いの名称はともかく、そのような者ではあります」

「あら、否定しないのね」

 

達也が片思いの部分を誤魔化さなかったことを紅音は評価したようで、表情が多少友好的なものに変化した。

 

「モテるのね。ほのかちゃん可愛いのに、揺るがなかったのかしら」

「可愛いと思いますよ。容姿だけではなく、性格も。ですが、それとこれは別問題でしょう」

 

随分と不穏当な発言だと達也は思っていた。

 

「あら、誠実なのね」

 

少しだけ面白くなさそうに紅音は言った。

 

「でも貴方なら器用にほのかちゃんを使えるし、彼女も役立つし、喜んで仕えてくれるんじゃない」

 

だが、その後の発言はあまりに大きな爆弾だった。魔法師が魔法師に向ける言葉として、それは不謹慎でナイーブな問題に切り込んでいた。

ごく普通の高校生ならば彼女の言葉の意味を理解していなかっただろう。

魔法師の中でも若い世代でその言葉の意味を知るものは少数だ。

その例外にあてはまってしまったのが達也であり、わずかな表情の変化から紅音は彼がその意味を理解していることを読み取った。

 

「わかっていてそういう顔ができるのね。ひょっとしてほのかちゃんと友達でいるのも計算なのかしら」

「利用しているつもりはありませんよ」

 

紅音の声はやや硬質で怒りを心の奥に沈めているようなものだった。

少しずつ敵意を向けられていることを達也は感じていたが、それに対して動揺しないように訓練されている。彼はそういう風に作られた人間である。

紅音は目の前の少年があまりに少年離れしていることに、より疑念を深める。

 

「……ほのかちゃんは雫にとって親友だと思っているし、私達ももう一人の娘のように大切にしているわ。だから、貴方のことも調べさせてもらったわ。司波達也君」

 

挑発的な視線を紅音は向けた。

 

「貴方、何者?企業連合のサーバーを使っても君のパーソナルデータ(PD)がないだなんて」

「PDがないということはないのでは?それがなければ高校にも入学できないわけですよね」

「大人を舐めない方がいいわ。貴方のPDは適度にネガティブなデータとポジティブなデータが入っている。清廉潔白すぎるということもない。私も雫から話を聞いて、なおかつ九重と婚姻を結べるほどの相手と聞かなければ気が付かなかったわ」

「どこかおかしな点でも?」

 

達也はあくまで知らないと無機質な声で反問した。それが余計に紅音の神経を逆なでした。

 

「九重という家の重さは、私も理解しているわ。関西方面や古式魔法の方面には明るくなくても、日本という国で九重という家系の特殊性は一言では言い表せない。だから、貴方のパーソナルデータがあまりに普通であることがおかしいのよ。こうして話しているだけでも貴方が『普通じゃない』という印象の方が強くなるわ」

 

敵か味方か、高校生とはいえ、まるで得体のしれない、油断ならない相手と対峙していると紅音は感じていた。

 

「天才とも鬼才とも呼べるあなたの才能を九重が早くに目を付けて、上手に匿っているという可能性は勿論あり得るわ」

「PDはあくまで情報ですので、本人から受ける印象とは違うと思いますよ」

 

達也は推察ではなく、あくまで理論的に反論する。彼は憶測での反論を許さなかった。

 

「……とぼけるつもり?」

 

声量こそ落としていたが、彼女の口調はまるで喧嘩のように荒っぽいものになっていた。だから、少しずつだが二人の会話に注目が集まってしまっていた。

 

「紅音、少し落ち着きなさい」

 

身内とはいえ、集まっているのは完全な身内(仲間)ではない。

主催者夫人が自分の子供とそう年の変わらない少年に怒っている姿を見られることは当然好ましいとは言えない。慌てて北山潮が仲裁に入ることは当然だった。

 

「妻が失礼したね」

「いえ、こちらも随分と生意気なことを言ってしまいました。未熟な若輩がいうことですので、ご容赦いただけると助かります」

 

潮に頭を下げられ、達也も丁寧に一礼した。言葉はややトゲのある物だったが、それを咎める者はいなかった。

 

「雅さん、ずいぶんと連れまわしてしまって悪かったね」

「いえ。色々と興味深いお話を聞かせていただきました」

 

潮に声をかけられ、雅は集団の輪の中から一歩抜け出し、達也の隣に立った。

 

雅は会場で『九重』とわかると否や、大勢の大人に取り囲まれていた。

主役の雫を差し置いてでも、ここにいる者たち、それも家長と呼べるような年齢の者たちは顔を売ることに必死だった。

 

九重神宮の名前は古式魔法に疎い魔法師よりも、むしろ一般社会の方に影響力が大きい。家の名で言えば、この会場にいる誰よりも雅は家の格が上である。九重の直系と友人であるというだけで雫の株も上がり、雅を招待できるというだけで北山家にとっては収穫が大きい。

だから、潮が失礼のないようにと、雅に取り入ろうとする親戚連中を牽制しつつ、つきっきりで相手をしていたのだ。

 

「二人とも、雫とも話をしたいだろう」

「そうですね。雅は久しぶりになるでしょうから。……それでは御前を失礼します」

 

達也は潮の提案を素直に受け取り、潮に一礼した。達也に続いて雅も一礼し、足を友人たちの方向に向けた。

同時に潮もクールダウンが必要だと判断し、妻を壁際の椅子へとエスコートしていた。

 

 

 

声を張り上げなくても届く距離になると、まず雫は頭をペコリと下げた。

 

「達也さん、雅、ごめんなさい」

 

顔を上げた雫は乏しい表情ながら、置き場のない羞恥心にかられているようだった。幸いにして会話の内容までは聞いていなかったのか、自分のパーティに招いた同級生に母親が突っかかっていたように彼女には見えたのだろう。

 

「自分の娘が見ず知らずの男と仲がいいのなら、母親として心配もするだろう」

 

だからこの話はこれで終わり、と達也は微笑んだ。

その提案に雫は首を縦に振った。

 

「でも雅はグッジョブ」

 

雫は小声で親指を立てた。どうやら彼女はおじ様方の長い話は好ましくないようで、その役目を雅が引き受けてくれたことへの感謝で空気を換えようとした。

 

「これから雫があいさつ回りでしょう」

「……頑張る」

 

あまり気分が乗らないようで、乏しい表情の中で声だけはやや暗さが見えた。その様子にほのかや深雪はクスクスと笑いあった。

 

 

だが、一難去ってまた一難というべきか、雫たちが談笑をしていると、一人の青年が近づいてきた。

 

「雫ちゃん、久しぶり」

 

なれなれしい言葉で挨拶をしたが、ペコリと雫は頭を下げた。

どうやら従兄の一人のようだ。やや軽薄そうな印象を受けるが、身なりは富裕層らしく品も悪くないようにまとめている。

だが、その隣にいる女性についてはやや怪訝な目を向けていた。ルックスもスタイルも納得の美女と呼べる女性であり、整った容姿にドレス姿も宝石、化粧もTPOに合わせている。どうやら彼女と雫は初対面のようなので、北山家の親族ではなさそうだ。

 

「あ、俺婚約したんだ。といっても、まだエンゲージリングは受け取ってもらっていないんだけれどね」

 

その視線に気がついてか、青年の方から紹介があった。

 

「そうなんですね。おめでとうございます」

 

雫は礼儀的に祝いの言葉を述べた。

 

「初めまして。小和村真紀(さわむらまき)です。よろしくお見知りおきをください」

「あの、ひょっとして女優の小和村真紀さんですか。『真夏の流氷』でパン・パシフィックシネマの主演女優賞にノミネートされていましたよね」

「あら、あの映画、観てくださったの?」

 

ほのかの問いかけに上品さは失っていなかったが、やや得意げにそう答えた。

雫の従兄が連れていたのは、夏ごろ話題になった映画の主演女優だったようだ。海外の賞にもノミネートされ、芸能ニュースでも取り上げられていたはずだ。映画に疎い達也たちでも、作品の詳細は知らなくても話題になっていたことは覚えていた。

 

ほのかは直接映画館で観たらしく、興奮気味に感想を伝えていた。

真紀はそんなほのかを初々しいと受け止めているように、笑みを浮かべながら話を聞いていた。達也や深雪としてはその女性に対する興味はあまりなく、マスコミと密接に関係する間柄の人物との接点が多いのは彼らにとってはマイナス面が多すぎる。

早く他の場所へ行ってはくれないかと、相変わらず読めない表情のまま達也が思っていると、彼女の視線が雅を捕らえた。

 

「すみません。ひょっとして九重雅さんですか」

「ええ。そうですが、以前お目にかかったことがありましたでしょうか」

「いいえ。彼に雫さんが出ているからと九校戦の中継を見ていたんです。それに今日は随分と話題になっていましたから、私もお話しをしてみたかったんです」

 

雅は礼節の仮面を張り付けながらも、彼女に対するキナ臭さを感じていた。一癖どころか、何重にも癖があり、一筋縄ではいかない二枚舌を持つ者たちの相手をしてきた雅にとって、彼女に何かしらの下心があることを見抜くことは容易いことだった。

にっこりと優しげで、なおかつ目を輝かせた少女のような印象を与えるように真紀は言葉を続けた。

 

「九重神楽の噂は常々お聞きしています。極楽浄土すらこの光景には敵わないだろうと言わしめる舞台はとても素晴らしいと。私はまだ観覧をしたことがないのですが、観覧した方のお話を聞くと絶賛しか聞いたことがありません」

「そのようにお褒めいただき光栄です」

「芸能に関わる身としてはその演出方法や舞台には興味があって、よろしければ、今度私達のサロンに皆さまでいらっしゃらない?」

 

少しだけ砕けた口調で、無垢と無邪気を上手に混ぜ込みつつも、女くささを消して人当たりの良い仮面を彼女は演じた。

だが、演じることに関しては雅の方が一枚も二枚も上だった。そんな安い演技には釣られないとばかりに、雅は微笑みを絶やさずに首を横に振った。

 

「確かに神楽は芸能としての側面も持ちますが、九重神楽は神事ですので些細なことでも、お話しできないのです」

「魅せ方というのを参考にさせていただきたいと思いますが、それもダメでしょうか」

 

一瞬にして悲し気に眉を下げて見せる表情の変化を、流石は女優なだけはあると達也は感心していた。

 

「たとえ友人でも話せないことですので、ご容赦ください」

 

雅は同じく申し訳なさそうに見えるように笑って、彼女の提案を拒否した。

 

「そうですか」

 

彼女の視線がほんの一瞬怒気を含んだのを達也は見逃さなかった。

事実上、名家の出身といっても10歳近くも年の離れた少女に全く相手にされなかったのだ。

言葉遣いは丁寧だとしても、雅が真紀に対して興味がないことを彼女は感じ取っている。多少、その自尊心が傷ついたことは確かだろう。

何とか次の言葉を探そうとしている一瞬の間に、達也は雅の腰に手を回した。

 

「では、失礼します」

 

その意図に気が付いた雅は優雅に一礼して、彼女に背を向けて歩き出した。敵意の視線を達也は背に感じたが、この場で済むことに、怨まれ役を買うことはどうということはない。

 

その時の達也は彼女に今後も関わりができることを想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期

 

魔法科大学付属第一高校では、今年度から新たな取り組みがおこわなれる。

入学定員は変わらず。一科生100人、二科生100人の計200人だが、2年生に進級する段階で魔法工学科のコースが選択できるようになったのだ。

無論、それは選抜制であり、試験をパスしたものだけが進めるコースである。新学科設立のモデルを兼ね、魔法科大学から講師が派遣されるそうだ。将来的には入学の時点で魔法工学科が選択できるようになるというところまでが計画されている。

一般教養科目はどの科でも以前と大きく変わらないが、魔法工学科はその名のとおり、魔法工学技術にカリキュラムの重点が置かれており、魔法工学技師志望の者が多数を占める。

 

さらに一科、二科から選抜された分、一科の生徒の空き分は二科生から成績優秀者が順に一科への転科が認められている。

そもそもこの制度ができた裏側には、九校戦で大活躍してしまった達也を対外的にも「補欠」という立場に置いておくことができない学校側の立場もあるのだろう。

 

 

さて、新学期を迎え、私たちの所属も少し変わった。

まず、クラス編成では達也と美月が魔法工学科へ転科。達也は昨年度から内定していた生徒会に副会長として正式に就任。

エリカは西城君とまた同じクラスだったそうだ。

私と深雪はクラスが別れ、私はなじみのある顔ぶれでは雫とエイミィと同じB組になった。深雪はほのかと同じA組であり、ほのかも深雪も雫と私がいないことにショックを受けていた。

上位成績者4人が一クラスに集まっていたので、今年は各クラスのバランスも考え、分散されたともいえるだろう。

お昼は一緒に食べましょうね、といつも以上に距離が近く、さらに人目もはばからずに抱き着いてくる深雪を慰めることに追われていた。

 

 

始業式というシステムは魔法科高校にはなく、各自で連絡事項は確認するようにとのことだ。

1時限目こそ選択教科等のオリエンテーションに使われたが、2時限目以降は普通のカリキュラムだった。昨年度の復習がメインだったが、春休みボケをしている余裕はなさそうなほど密度の濃い日々が戻ってきた。

 

 

 

そして、新学期の放課後。

 

私は部活連の役員として召集されていた。

第一高校部活動連合会、通称:部活連は第一高校で正式に活動している部活動、クラブのすべてが加盟している団体だ。

昨年度までは必要数を各部から選出していたが、今年度から常任制になり、男女総勢二十名となり、生徒会、風紀委員を超える規模となった。

執行部役員は部活動に所属している生徒から選抜され、部活動全般に対する意見の取りまとめや、学校や生徒会への報告や部活関係でのトラブルの折衝などの仕事がある。

 

日常の仕事はその程度だが、一番大きな役割は九校戦メンバーの選出だろう。九校戦は学校を代表するメンバーであり、出場する選手は夏季課題の免除だけでなく、出場経験だけでも大学入試には加点となる。

さらに成績を上げれば高校生の内から企業や大学から声がかかることもある。

 

そのための選出には色々と利権も絡むため、公平・公正な判断ができる人物が求められる。その選出に関わる部活連の役員は部活動の成績も加味して、教職員選抜と各部推薦によって決定される。

昨年度、生徒会から引き抜きのあった服部先輩は十文字先輩からの推薦だったそうだ。

 

執行部役員は文化系、魔法競技系、非魔法競技系からバランスよく選出され、一応不公平感のできるだけでない体制を目指している。

3学期の途中まで、私はそのまま来年度も部活連推薦枠で風紀委員の予定だったが、これはちょっとした訳があった。

 

 

 

~回想~

 

3学期が終わる直前、服部先輩が風紀委員会本部に訪ねてきた。

部活連と風紀委員会は、魔法を使った違反者の取り締まりの関係で協同したり、対立したりすることがある。

最近では特に大きなトラブルはなかったが、その日の服部先輩は来年度の部活連の役員に私を風紀委員会から引き抜きたいと打診したのだ。

 

「ダメよ。雅ちゃんがいなくなったら、誰が風紀委員会の書類を整理するのよ」

「千代田先輩、胸を張って言うセリフではありませんよ」

 

勿論、それは現風紀委員長である千代田先輩も同席しての話であり、真っ先に拒否した理由に私は呆れた。

私は図書・古典部所属なので、部活連の役員になれる権利はある。

だが、現在所属している風紀委員との兼務は利害関係が絡むため禁止されている。

 

「実力だけで言えば、勿論部活連幹部に相応しい人物は十分いる。だが、部活連の会頭は部活動の代表で、九校戦をはじめとした学校を代表する立場の一つだ。彼女以上に相応しい人物はいない」

「雅ちゃんは1年から風紀委員の実績があるし、調整とか尋問にも欠かせないのよ」

「古典部で彼女の実績は十二分に評価されている。風紀委員の書類仕事や荒事の調停も部活連として十二分に生かせる」

 

話は私を置き去りにして平行線。

あわや一触即発の雰囲気に、生徒会も絡む騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

「で、結局どうなったんだい?」

 

3学期末のいきさつを話しながら部活連の会議室に向かう最中、隣を歩くスバルがそう聞いた。彼女も同じく、今年度から部活連の役員に選出されている。

 

「千代田先輩と服部先輩が模擬戦をすることになって、服部先輩が僅差で勝利」

「晴れて雅は部活連の役員入りってことか」

 

ちなみに、私の意思の確認は最後まで二の次だったことはここに明言しておく。

 

「そういうこと」

「風紀委員はどうするか聞いているのかい」

「吉田君と雫が教職員推薦枠と部活連推薦枠で加入するそうよ。二人とも書類仕事はできるだろうし、特に吉田君は頼まれると断れないタイプだから書類負担は彼にかかるわね」

 

今日あたり、正式に推薦がされるだろうが、昨年度出た欠員分の補充は吉田君と雫が当たることになっている。

あと1名、教職員推薦枠が残っているのだが、そちらは1年生の内から誰か、入試で優秀な成績をとった生徒から選出されることになっている。

 

「おやおや。それはご愁傷さまだね」

 

いつも通りの演技かかった口調でスバルは笑った。

 

「雅はそれで、よく生徒会に引っ張られなかったね」

「深雪は不満そうだったわよ」

「相変わらず麗しい姉妹愛だね」

 

風紀委員ならば、生徒会室と部屋がつながっているため、気軽に私も行けたのだが、部活連の活動している部屋は生徒会室からも遠い。

クラスも分かれたため、深雪はかなり寂しがっていた。

 

「でも、意外だね。服部先輩が雅をそこまで買っているなんて、司波君は嫉妬しないのかい?」

 

にやりとからかう様に、スバルは尋ねた。

 

「服部先輩がどこまで見越していたか分からないけれど、結局真っ正面から深雪に向かって反対意見が言える人材が欲しかったんじゃないかしら」

「どういうことだい?」

「生徒会と部活連、それに名誉職だけれど風紀委員会は三つ巴で学校を支える仕組みになっている。昨年度は三巨頭と呼ばれるくらい、それぞれ実力・名声・人柄のある人物が揃っていた。今年度は3人とも穏やかに話し合いができるメンバーで、多少の立場上の意見の違いはあっても結果的には妥協点を見つけて話していける人たちだと思うの」

「だが、僕らの学年はパワーバランスの面を見ると現在の配置では不安が残るということかな」

「そういうこと。まして部活連は学校と生徒会相手に予算請求もするから、なおさら深雪と対等に話ができないと務まらないでしょう」

「意外と考えられた選出だったんだね」

 

服部先輩から直接聞いたわけではないが、私の推察にスバルは納得したように、首を縦に振った。

 

 

 

 

部活連の会議室には新旧役員が顔をそろえていた。

昨年度は男子一辺倒だった部活連だが、今年度は私とスバルが久々の女子役員ということで、少し注目を集めていた。

年度当初の議題は各部活動の新歓に向けた対策と、新規役員の顔合わせが主だった。

 

「では今年度、新規役員として2-Bの九重雅、2-Dの里美スバルの2名が加わることになった」

 

2年生の中では十三束君と五十嵐君は昨年度の時点で声がかけられており、二学期にはすでに役員として活動していた。今年度は昨年度卒業された先輩の補充で私達2名が追加で任命された。服部先輩の紹介に合わせて、スバルと二人で席を立ち、一礼する。

部活連は部活動の顔役とあってか、3年生の先輩も部活動で表彰を受けた人が目立つ。生徒会とは異なり毎日の仕事は少ないが、その分、各自部活動でも成績がある程度求められるせいもあるだろう。

 

「今年度最初の活動だが、入学式の際に各部活動が新入生勧誘のフライングをしていないか、入学式後に見回りを毎年行っている。配置は先ほど端末に送った資料を各自確認してくれ」

 

簡単な紹介を終えると、服部先輩から今年度の年間予定の説明があった。

入学式と新歓時期の見回りを終えると、5月下旬には九校戦の選手選定が始まる。思った以上に新学期の活動は忙しくなりそうだ。

 

「それと例年、各部新入部員の獲得に必死になるだろうが、今年は部活連も巡回に当たることになった」

 

毎年、新歓の時期はお祭り騒ぎ、喧騒騒ぎになる。

特に入試成績が裏で出回っていることから、魔法力の高い一科生を中心とした争奪戦が毎年行われるため、事態の収拾に風紀委員と生徒会が当たっている。

昨年度、剣術部のデモで殺傷性の高い魔法が使われたことや、反魔法のテロ組織に魔法科高校生が利用されていた事件も踏まえ、今年度は見回りを強化することになったらしい。

 

「風紀委員との兼ね合いはどうされるのですか」

 

十三束君が手を挙げて質問した。

 

「そこは、早く現場に到着した方が指揮を執って対処することになった」

 

風紀委員会と部活連で騒動の収拾ではなく手柄の取り合いにならなければいいが、一応の規定は決められているらしい。喧嘩早い千代田先輩や沢木先輩のことはやや不安が残るが、冷静な吉田君と雫の活躍に期待するしかない。

 

「それから、今年度から生徒会や風紀委員会同様、部活連でも1年生を入れようと考えている。多くても人数は二人。指導係は五十嵐と十三束に頼んでいる」

 

生徒会と風紀委員会では、新入生からメンバーを選出している。後継者育成のために早くから人材教育をしているが、部活連は早くて1年生の後半からの加入になる。十文字先輩は良くも悪くもカリスマ性で引っ張ってきた部分があるから、組織として機能させるなら、後継者育成は重要な仕事だ。

部活動に入ってまもなく役員というのも大変かもしれないが、生徒会も風紀委員会も力量を見て仕事を振っていたので、服部先輩も無茶をさせるようなことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

久しぶりになる司波家へ帰宅すると、いつも以上に甲斐甲斐しい深雪の歓迎が待ち受けていた。玄関先での出迎えに加えて、かばん持ちから着替えまで手伝わせてしまった。そこまでは必要ないと私が言うものの、深雪は好きでしているのだからと、クラスが離れて寂しかったのだと、いつも以上にべったりだった。

至れり尽くせり、というより実家でもここまで世話を焼かれることはないので、なんだか気恥ずかしかった。

 

水波ちゃんの入学祝を兼ねた少し豪勢な夕食を終え、コーヒーで一息ついていると、話題は明日の入学式のことになった。

水波ちゃんは3月に第一高校の入学が決定して、四葉本家から司波家へとやってきた。当主である真夜様の命令なので深雪たちも断ることはできず、年頃の男女が4人で同居生活という不思議な構図ができている。

同居にあたり、水波ちゃんは二人の従姉妹と言う事になっている。

実際は水波ちゃんは使用人で、深雪は主人の立場だが、どちらが家事をするかで無言の攻防があったらしい。今は達也に関することは概ね深雪がすることで落ち着いたが、虎視眈々とどちらもその役割を担おうとしていると達也から聞いた。

 

閑話休題

 

「そういえば新入生代表はどんな人だった?」

 

私がそう尋ねると、深雪が顔を顰めた。

確か今年度の代表は師補十八家の中でも十師族に近いといわれる七宝家の長男だったはずだ。

実力、規模も十師族には一歩劣るものの、現代魔法への貢献度はそれなりにある。十師族の地位に固執しているという噂も聞く。

 

「まさか、いきなり深雪とにらみ合いになるとは思わなかったが、七宝家の長男はどうやら好戦的な性格のようだ」

「なにかトラブルがあったの?」

 

今日は生徒会の方で明日の入学式に向けたリハーサルが行われていた。

リハーサルと言っても発表原稿の最終確認と当日の流れの説明程度で、それほど時間のかかるものではない。達也たちは今日が初めての顔合わせだったが、どうやら印象は良くなかったらしい。

 

「お兄様に対する彼の態度は不遜というより、どこか敵対心がにじみ出ていると感じました」

「俺に対して敵対心というよりも、深雪に対してライバル認定しているのだろう」

「わたしが、ですか?」

「深雪は去年の新入生代表。七宝は今年の新入生代表。比較されるのは当然だし、深雪は九校戦でも大活躍だった。彼がお前を意識することは仕方のないことだろうし、俺はせいぜい深雪の付属物として敵視されている程度だろう」

「そんな、お兄様は付属物ではありません!」

 

今にも立ち上がらんばかりの深雪を達也は落ち着くよう手で制した。

 

「そんなに興奮しなくても……あくまで七宝から見た仮定であって」

「そんな仮定は受け入れられません」

「受け入れられないって言ってもな……」

 

やや暴走気味の深雪に、達也は困ったように私に視線を向けた。

 

「赤の他人にそれほど憤慨するのは時間が勿体ないでしょう。達也が誰よりも素晴らしいことは貴女が誰よりも知っているのではなくて?」

「お姉さま……そうですね。取り乱してしまい、失礼しました」

 

深雪はしゅんと頬を赤らめ、自分の行動に対して羞恥に駆られていた。

兄を見下されたことに彼女が怒らないはずがないが、赤の他人に対して怒りを向けるより今、兄と話しているこの時間の方が大切だと頭を切り替えたのだろう。

達也を見ると流石だなと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。

 

「もう一つ、可能性は低いが俺たちが十師族の関係者だと知っている場合だ」

「それは、考えすぎではありませんか?」

 

あれほど興奮していた深雪も声のトーンをかなり落とした。

彼らが四葉の関係者だと知られる可能性はかなり低い。

それも他の十師族ではなく、師補十八家。情報網もコネクションも劣るが、何かしら特別な手段で情報を手にする可能性も捨てきれない。

 

「考えすぎかもしれないが、彼の目にはそれほどまで強い思い込みが宿っていたように感じる」

 

達也が言うほどだ。十師族に向けるような敵対心を彼らに持つということは、何かしら事前情報があってのことだろう。

 

「九重との関係も考えたが、七宝家は魔法工学と古式魔法にはそれほど熱を入れていない。念のためだが、注意はしておいた方がいいだろう」

「そうですね」

 

この時はまさか、七草先輩との関係を疑われているとは思いもよらなかった。

 




久しぶりに1万字超えましたΣ(゜д゜;)
そして、水波ちゃんが一言も話していない・・・

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