恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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こんにちは、生きてます。|д゚)
相変わらず、誤字脱字は酷いけど、すり身並のメンタルで鯛の御頭は頑張ってます。
感想もらえると、水を得た魚になります。お返事はできないことが多いけれど、「もう、しょうがないな(*゚∀゚)」って方はぽちっと書いてもらえると、元気出ます。








ダブルセブン編4

新学期が始まり、およそ二週間が過ぎた。

その日の魔法工学科は午後から実技の授業が組まれていた。魔法工学科は魔法工学的な分野に力を入れているとはいえ、通常通り魔法を使った実習も行われる。

 

実習内容は昨年度行われた実習の復習だった。

質量、形状、材質の異なる物体を指定された位置に1m移動させること。

物体から術者までの距離は20mに設定されている。

移動された物体の位置の正確性と終了までの時間が評価の対象となる。

用意される物体は実習のレベルによって異なるが、今回用意されたのは5つのビー玉、100mlの水、重さ100kgのベンチプレス用の重り、20gの砂、10cm四方の白い和紙の5種類だ。

ビー玉の直径は1.7cm

移動する先には直径3㎝ほどの赤・青・黄色・緑・透明の5色の筒状の入れ物が設置されており、それぞれの筒に同じ色のビー玉を移動させるようになっている。水は目盛りのついたビーカーに入れられ、水のみを移動させ、コップに移すという課題だ。また、和紙も移動する場所が明示されており、誤差0.5mm以内に移動させなければならない。

 

魔法工学科は元二科生が多数だが、元一科生も少なくない数いる。入試成績に加え、一年間教員の指導があった成果もあり、ここで明確に元一科、二科の魔法力の差が出てくる。

 

達也は昨年度からクラスの同じだった美月と組むことになった。

 

この実験、物を移動するという簡単そうな実技に見えるが、難易度が高い物体が含まれている。水という不定形の物体、砂という単一で定義しにくい細かな物体は、どのような魔法を使用するかによっても結果は大きく異なる。

 

更に、昨年度までは学校側が用意したCADを使用していたが、今回の実習では生徒自らCADを用意することが課題の一つになっている。課題内容については事前に予告されていたため、自分の力量も含め、最善の魔法は何かについて考えることが魔法工学科としての目新しい点であった。

 

しかし、CADの規格はある程度決まっているとはいえ、CADの調整技術はまだ高いとは言えない生徒が多く、加えて本人の魔法力が無関係な課題とはいえない。単なる移動でも100kgの質量を移動させるにはそれ相応の干渉力が必要となるため、魔法力の低い生徒には厳しい課題だ。

 

30秒以内で課題をクリアできればかなり優秀。最低でも1分以内でクリアが基準となっている。それぞれ、工夫を凝らした魔法を用意して課題をクリアしている生徒がいる一方、二科生出身の生徒は苦戦している者も多く、また、遠隔魔法を不得手とする十三束も目標タイム以内のクリアはできていなかった。

 

 

起動式のアレンジは達也の十八番ともいえる得意分野だ。起動式の簡略化による魔法力の省エネ化、CAD自体の最適化により、達也の乏しい仮想演算領域でも発動できる魔法を用意してきていた。

 

特に今回の課題で最難関なのが水だ。水分子の分布を調整して水面を傾けたり、移動魔法の応用で渦を作ったりすることは難しいことではない。しかし、水そのものを操る流体制御の起動式の規模は大きく、それをさらに移動させるとなれば当然難易度は格段に上がる。魔法工学科の中でもタイムどころか、全ての物質を移動させることができない生徒も出るほどだ。

 

 

「達也さん、凄いですね。49秒。目標タイム内です」

 

美月が半分驚いたように、タイムを告げた。達也はあらかじめ、自宅で実習用と同じ規格のCADで練習を行っていたが、その際の結果は1分を数秒超過していた。起動式を再度見直してみても、1分をコンマ数秒単位で切れるか切れないかというレベルにまでしかならなかった。

 

しかし、今回の記録は49秒とテスト記録から大幅に結果が良くなっていた。その結果は魔法工学科内でみれば、十分上位の成績だった。

その結果に流石だと感心する男子生徒と、怨恨じみた視線で睨み付ける女子生徒がいたが、達也はそれらについて微塵も気に留めなかった。

 

「水の流体制御をやめ、疑似的な無重力の空間を形成し、それを一つの物体とみなして移動させているんですよね。水の空中での高度維持に魔法力を割かなくても、疑似的な無重力空間に閉じ込めた水は空間内を移動するものの、不定形のままの移動が可能になるんですね。流石です、達也さん」

 

興奮気味の美月の声も半ばになりながら、達也は冷静に結果を分析していた。その結果は、明らかに以前の達也が残した記録より発動スピードと干渉力が増加していたことを表している。

 

魔法力とは魔法式を構成するスピード、事象改変の干渉力、魔法式を構築できるキャパシティの三つの要素から成り立つ。

『再成』と『分解』

達也はこの二つの能力に先天的な魔法演算領域が占められており、後天的に母によって激情を白紙化させることで植え付けられた仮想魔法演算領域の能力は、一般の魔法師としては酷くレベルが低いものであった。だから達也は昨年度は二科生なのであり、実技の成績は赤点にはならないが学年で言えば下から数えた方が早い順位だった。

 

それ故、魔法師としての重大な欠陥を補うためにCADの技術や体術を磨き上げることで、ガーディアンとしての役目で四葉で生き残ることができている。

だが、今の結果は達也の予想と実感を大きく上回るものだった。

実験用のCAD機器は確かに昨年度より比較的精度の良い物と入れ替えられ、それに伴って昨年より良い結果が出ることは一般的にはあり得る。

しかし、それだけでは説明できない部分が多く、一番可能性が高いのは自身の魔法力が向上しているということだった。

 

「達也さん…?」

 

返答のない達也に美月が問いかける。

 

「……ああ、悪い。少し考え事をしていた。理論は美月が言っていたことで間違いないよ」

 

達也はやや間をおいて答えた。

 

「達也さんが悩まれるということは、随分と難問だったんですか」

「………そうだな。難問だ」

 

魔法の行使は精神的な部分にも大きく左右される。この世の事象に付随する情報を見通す精霊の眼を持ってしても、達也が行きついた仮説は頭を抱えるほどの難問だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会入りを拒否した七宝君は予想通り服部先輩の推薦の元、部活連の所属となった。毎年新入生総代が迎え入れられている生徒会には入試次席の泉美ちゃんが入り、香澄ちゃんの方は教職員推薦で風紀委員会入りしたそうだ。

 

新入生の役員が決まったところで、今年も賑やかな時期がやってきた。

部活動のお祭り騒ぎ、新入生歓迎、通称:新歓の時期だ。

この時期だけは魔法競技系の部活動の部員に対してCADの携帯が許可されるため、それを悪用し、新入生獲得を巡って衝突も発生することがある。

その対処に部活連、生徒会、風紀委員会で見回りや魔法を使った違法行為の取り締まりを行っている。魔法を使わずとも喧騒は起きるが、それは大事に至ることなく使用時間の厳守や単なる新入生の取り合い程度のことだった。

 

騒動は毎年のことだが、大きく規制できないのには理由がある。

第一高校では各部活動の活動実績、大会成績によって学校から支給される活動費が左右される。活動費が増えれば、それこそ設備投資も増え、ホテル宿泊費や遠征費も賄うことができる。

そのため、入試成績は裏で出回っており、成績上位の生徒はこぞって魔法競技系の部活から勧誘を受け、例年新入生獲得を巡った争いを起こす部活が出てくる。

活動費がかかっているため各部活動の競争心を掻き立てると言えば体はいいが、要は結果を残さなければ活動の意味がないとしてシビアに切られるということだ。

 

幸いにして新歓初日は珍しく大きな問題なく終わった。

去年、下手をすれば停学処分になった剣術部の乱闘騒ぎや図書・古典部の産学スパイ騒動などあったことが珍しいのだと認識しなければならない。

 

 

新歓は四月十二日木曜日から一週間。今日は新歓二日目になる。

私は弦楽部や合唱部といった文化部系のステージ発表の見回りを終えて、部活連本部に報告に戻っていた。インターホンを鳴らすと、内側から鍵が解除され、中に招かれた。

 

「よう、お疲れ。ステージ発表は問題なかったか」

 

桐原先輩が片手を上げて様子聞いた。私が見回りに出た際は達也と深雪が生徒会から応援に来ていたのだが、本部には桐原先輩と服部先輩しかおらず、おそらく二人はどこかのトラブルの対処に向かっているのだろう。

 

「お疲れ様です。弦楽部の片付けに時間がかかり、少々予定時刻より遅れましたが、進行に大きな支障はありませんでした」

「毎年文化部は基本的に平和だよな」

 

桐原先輩は昨年の自分の失態のことを言っているのだろうが、発言を咎めなくても服部先輩は非常に呆れ顔だ。

 

「司波兄妹はロボ研とバイク部の仲裁に向かったぜ」

「そうですか」

 

時間を確認すれば、もうすぐ設けられている勧誘時間は終わりに近い。このまま二人は生徒会に戻って今日の報告を上げているのかもしれない。

 

「戻りました」

「おっ、お疲れ」

 

噂をすれば影ということで、深雪たちではなかったが十三束君が見回りを終えて戻ってきた。その声は覇気がなく、立ち姿も力なさげで随分と萎れていた。そして助手として連れていたはずの七宝君の姿がない。

 

「七宝はどうした」

「ちょっと頭を冷やすために、先に帰らせました」

 

服部先輩が聞くと、十三束君は疲れたようにため息をつきながら答えた。

頭を冷やすためというのはどこか怪我をしたということではなく、取り締まる側の彼が揉め事を起こしたか、感情的になっていたのだろう。

私は部活連で準備していたお茶を淹れ、十三束君の前に置いた。

 

「ありがとう、九重さん」

「どういたしまして。そんなに大変だったの」

「ロボ研とバイク部の問題というより、取り締まりの方でトラブルがあって……」

 

十三束君は報告を始めた。

ロボ研とバイク部が新入生を取り合って、いがみ合いを発生させているという連絡を受け、十三束君と七宝君が現場に駆け付けた。

二人が仲裁に入ったのだが、少し遅れて風紀委員の香澄ちゃんが登場。

七宝君が香澄ちゃんに引けと言ったものの、なぜか次第に彼らの雰囲気は喧嘩腰になっていき、ロボ研とバイク部をそっちのけで一触即発の状況となっていた。なんとか十三束君が二人をなだめると、すでにロボ研とバイク部はおらず、周りの生徒に聞けば生徒会が撤収させたのだという。

それにさらに気を悪くして、二人は手柄をとられただの、お前が喧嘩を吹っかけてきたせいだ、とまた口論を始め、十三束君は諫める作業が追加され、無駄に気疲れしたらしい。

 

「以上が報告です」

「それは、ご苦労だったな」

 

桐原先輩が十三束君の肩を叩いた。

 

「一応取り決めでは、先に到着した方が対応することになっているが、風紀委員の彼女は知らなかったのだろうか」

「入ったばかりだから無理もないと思います。ただ、ちょっと僕は冷や冷やしました」

 

訝し気に眉を顰める服部先輩に十三束君は苦笑いを浮かべた。

 

「風紀委員の方には俺からルール確認を含めて、言っておこう」

「はい。僕の方からも反省が足りないようならば、七宝には改めて注意しておきます」

 

教育係として十三束君は当初から大変そうだった。

 

魔法師としては優秀なのかもしれないが、話を聞く限り、七宝君の態度や行動は褒められたものがない。私自身、七宝君とは挨拶程度で特に会話らしい会話はしたことがなく、部活連に入ったのもつい先日のことで、見回りも今のところ同行したことはない。

今回は大事には至らなかったが、今後彼が大きな問題を起こさなければいいと願うばかりだ。

 

 

 

 

 

新歓最終日 4月19日

一週間の熱気のこもった新入生獲得の騒動はひとまず終息し、明日以降のところで生徒会と風紀委員、部活連の代表で今回の新歓の反省会が行われる予定になっている。

最終日の本部には当番として私とスバル、七宝君が待機していた。

他の先輩方は見回りに出ていたり、自分の部活動の勧誘に出ていたりするため不在であり、七宝君の教育係も今日だけは私が代理で務めている。

代理と言っても、今日の業務はほぼ終了の時間に近いので、新歓時期の報告データの整理をしている程度だ。

その整理も終わりが見えてくる程度に片付いている。

 

「あの、九重先輩。先輩は古式魔法に精通しているとお聞きしました。よろしければ、ぜひ古式魔法の最上と言われる九重の術を見せてくださいませんか」

 

比較的緩やかな空気の中、作業をしていた七宝君が手を止め、唐突にそう切り出した。

 

「理由を聞いてもいいですか」

 

私も作業を止め、彼と向き合う。

ここで私に問いかけたことに対して、彼の真意が見えてこない。

話を聞く限り、短い時間で彼から受ける印象は『不遜』と『驕り』。

自分が優れているということを疑わない、傲慢さが言葉の端々から滲み出ているように思う。

 

「実は恥ずかしながら古式魔法については文献での知識しかなくて、ぜひ勉強させていただけたら嬉しいです」

「古式魔法クラブを見学するという手もあると思うわよ」

「先輩は昨年、古式魔法クラブに圧勝されたんですよね。勉強させていただくなら、レベルの高いものを拝見する方が有益だと思います」

 

殊勝な態度を見せているが、古式魔法がどれほどのものか値踏みするつもりだろう。

そして、昨年ほぼ非公式で行われた試合について、なぜ知っているのかという点はこの際気にしないことにした。

 

「簡単なもので構わないかしら」

「はい」

 

少しだけ高い鼻を折ってやろうと、私は彼の提案に乗ることにした。

 

 

持ってきていた筆ペンで懐紙に円を基本とした魔法陣を描く。

懐紙はこの部屋に置いてあった備品であり、もちろん事前に細工などはしていない。言ってしまえば工業生産されたただの和紙だ。

仕掛けがないことは同席しているスバルにも七宝君にも確認してもらった。

 

魔法陣を描き終えると、お茶を淹れるために用意されていた水をガラスのコップに半分程度注ぎ、筆ペンで描いた魔法陣の上に置く。

魔法陣は四つの円と八つの小円を中心に、その外側に均等に配置された六つ円を線でつなぎ、円の内には隈なく梵字書いたものを基本にしている。

今回はかなり略式の手法をとっているが、本来であれば墨も清酒で擦り、新品の硯を用いて作るのが好ましい。

さらに欲を言えば媒体となる水も水道水ではなく、自然濾過された綺麗な清水を使い、水晶で清めてから発動するのが良いのだが、いつ呼び出しがかかるか分からないため略式で行うことにした。

コップのふちを指で一度なぞり、目を閉じて、肺の奥まで息を吸い込む。

 

『色は匂へど 散りぬるを 我が世誰そ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて、浅き夢見じ 酔いもせず』

 

私の声を呼び水に精霊が喚起されているのを感じ、ゆっくりと目を開ける。淡い光を帯びた精霊が明滅している。存在を語り掛けてくる精霊に、さらに言霊に想子を乗せて力を与える。

 

『移ろいゆく世に万物、一として同じものはなし、変わらざるものはなし

過ぎ去る時は二度と戻らず、森羅万象、我は存在せず、御仏の導く縁起に所以する』

 

声に導かれた水精がコップの水に溶け込む。

それを合図にコップに手をかざせば、重力に反して水が宙に浮かぶ。

濃い精霊をまとった水は丸い球形を保ち、ぷかぷかと無重力状態であるかのように浮いている。それを机から50cmほど浮かせ、停止させた。

 

『一を分かてば、憐れ死は忽然と、微々たる千射の弓に塵埃(じんあい)のごとく病と散る』

 

詠唱と共に、一だった水が十分の一に均等に分かれた。その十分の一がさらに十に分かれ、水の塊は宙に浮いたまま次第に水の粒、粒子、微粒子と徐々に小さくなっていく。

 

『しばらく(バク)模糊(もこ)逡巡(しゅんじゅん)してみれば、息つく間もなく、指を弾き、刹那、六徳を積めど虚空に清浄され、あらや、あまら、涅槃寂静』

 

詠唱の最後に手を一度合わせれば、霧状までに微細になった水は極彩色の霞となって、宙に儚く消えた。

即席にしては悪くないが、水の規模も少量なので、せいぜい本部の部屋を彩る程度だった。正式な手順を踏み、九重神楽で用いれば視界一面の天空から降り注ぐような極彩色の光を出現させることもできる。

 

反応はどうかと七宝君を見れば、口を開けて呆然としていた。

それを見てか、スバルはやや芝居がかったように大きく手を叩いた。

 

「さすがは雅だ。CADなしで、この規模の魔法を展開し、息切れ一つも起こさないなんて驚きだ。詠唱も命数法とは面白いね」

「よくわかったわね」

 

思った以上にスバルは博識のようだ。

仏式のこの詠唱は『三方印』と『命数法』をベースにしている。

三方印とは仏教用語で『四苦八苦』を理解するための釈迦の掲げた三つの心理、『諸行無常』『諸行無我』『涅槃寂静』のことを指す。九重は神道の家だが、神仏習合の時代の名残もあり、仏教用語も交えた詠唱も数多く存在している。

 

「面白がって調べてみたことがあってね。小数があるということは、大数の数え歌もあるんだろうね」

「さあ、どうかしら」

 

興味深そうにしている割に、面白半分で細かな詮索をしてこないのがスバルのいいところだった。聞かれたくないところの引き際をよく(わきま)えている。

 

 

そんな息抜きの間にトラブル発生のコールを端末が告げた。

 

「お呼び出しだね」

 

端末をとり、状況と場所を聞きながら席を立った。

どうやら馬術部の馬が柵を飛び越え、脱走したらしく、風紀委員も出動して校内を追いかけているそうだ。

 

「行きましょうか、七宝君」

「あ、はい」

 

ようやく現実に戻ってきた七宝君を連れて、私は現場に向かった。

 

 

 

 

 

トラブルの報告を受けて現場に向かって雅の後ろを進む琢磨は冷静を装っていたが、内心は酷く混乱していた。

簡単な古式魔法だといって披露されたのは、琢磨を閉口させる圧倒的な魔法力の実力差だった。

現代魔法に置き換えれば、少なくとも加重系マイナス魔法、流体物制御、移動魔法を発展させた群体制御、光波振動系のマルチキャストだ。

彼女はその高度な魔法をまるで息をするかのように平然と使って見せた。

今の琢磨にはたとえCADを使用したとしても実現不可能な魔法だ。

そのどこが簡単だといえるのか!!と琢磨は内心悪態をついていた。

しかも、自分のお家芸ともいえる群体制御を、しかも扱いの難しい水という不定形の物体に対して使って見せたのだ。

これがどれだけ高度なことか、説明されるまでもなく、否、高い魔法力と人並み以上の魔法に対する知識がその実力差を理解させていた。

 

古いだけの九重家がどれほど優れていても、現代魔法に古式魔法は敵わないと思っていた。

古式魔法の大家だから何なのだという思いを持って、半ば興味半分、自身の目的半分のことだった。

しかし、目の前の先輩が発動して見せたのは、琢磨の認識を根本から覆すような、目を疑うような絶景にして絶技だった。

ギリッと奥歯を噛みしめた。

 

父からも七草はともかく、最低限九重には丁寧な対応をするようにと言いきかされていた。

確かに九校戦の結果は見事だったが、学校では司波深雪には劣る次席という順位。

琢磨の中で現代魔法の優位性も疑うことはなかった。

しかし彼女に対する認識を改める必要があるほど、一瞬にして琢磨の常識が覆された出来事だった。

この先輩を自分の陣営に取り込めないか、琢磨は虎視眈々とその布石を考えだした。

 

 

 

 

 

 

 

同日夜。

日中の麗らかな温かさとは違って、春の夜はまだ寒さが堪える。

暗闇の九重寺の境内で、私は伯父相手に幻術と体術の訓練を行っていた。

 

「そういえば」

 

何もない空間から声がして、伯父の足が顔面を捕らえようと蹴りだされる。それを腕でガードしつつ、反動で後ろに衝撃を逃がすために跳ぶ。

 

「今度、民権党の神田議員が一高に行くそうだよ」

「国防軍に批判的な若手議員ですよね」

「そうだね。名目は魔法師の権利擁護。本心は魔法師が軍と大きなつながりを持つことを避けたい思惑があるそうだよ」

「面倒ですね」

 

先週からマスコミの反魔法師報道が急増している。つい先日、四葉家経由、正確には諜報を担当している黒羽家経由で告げられたUSNAの反魔法師勢力によるマスコミ工作の一環だろう。

論調としては、魔法師の権利擁護を建前に、魔法の軍事利用を批判。さらに魔法大学卒業生の四割が軍属であるということから、教育機関と国防軍の癒着を指摘。

魔法科大学に多くの生徒を輩出している一高をターゲットに、軍事利用されている子どもたちの解放をアピールするとのことらしい。

 

「理解できない存在は忌避される。避けられない人間の悪癖だね」

 

姿を完全に見せた伯父が放った砂礫が飛んできたところを避け、叔父の姿より半歩右を標的に蹴りを繰り出す。

なにもない半歩ずれた空間ながら魔法でガードされた感覚がした。

予想通り、幻術で自分の位置を誤魔化していたようだ。

 

「おや、お見事。ちなみに裏で煽動しているのは七草家だよ」

「七草がですか」

 

攻撃が当たっても伯父の声には焦りもなにも感じられなかった。

 

「態々、魔法師に不利益になることに協力して、大きな見返りでもあるのでしょうか」

「そこはもっとよく考えてみてごらん」

 

考えろという割に、その隙に伯父の手元から閃光玉が地面に落とされる。

炸裂する前に移動魔法でそれを遠くに飛ばすと、パレードを使って自身の姿を偽る。

 

「世論操作の目的が何かしらある。それは結果的に魔法師や魔法師社会、七草家の利益になることである」

「間違ってはいないが、核心は分からなかったみたいだね」

 

幻術の腕は伯父が遥かに卓越している。体術もまた然り。

こちらの攻撃はすべてガードされ、手数もあちらが圧倒的に多かった。

 

「去年の横浜事変から世界情勢は不安定だ。そしてその中心となっている事項は何かなんて言わなくても分かるだろう」

 

要するに、魔法はマスコミからしても叩くのに“おいしい材料”というわけだ。

 

「反魔法主義者は早くからそれに目をつけ、魔法は悪だという世論を作り上げようとしている。圧倒的に非魔法師が多いこの国では、意見がどちらに傾くかは明確だね」

「だから、対象を魔法全体から高校生が軍人教育されているという話題にすり替えたということですね」

「ご名答」

 

いやな気配を感じて横に跳べば、先ほどまでいた地面に千本が刺さっていた。刃をつぶしてあるとはいえ、咄嗟に避けていなければ、危なかった。

パレードを展開していて、視界に映る位置を誤魔化したとしても、伯父は正確に本体を突いてきていた。

伯父の前では秘術も形無しだ。

 

「世論と言っても、結局世間は他のニュースやスクープに追われてその勢いを衰えさせられ、下火になる。七草絡みという点を考えると、四葉と一○一との関係性を考慮しての部分も大きいんじゃないかな」

「強すぎる四葉の弱体化が真の目的ということですか」

「だから七草が動いたと僕は見ているよ」

 

このことが露見すれば七草も火傷では済まないだろうが、諜報には七草も力を入れているという。そう簡単に露見することはないだろうし、あるいは確固たる擁護される理由があってのことだろう。

 

「俗世には関わらないんじゃないんでしたか」

「可愛い姪っ子を憂いての情報提供だ。四葉もこの程度のことは掴んでいるんじゃないかな」

 

立ち止まって暗闇の中に潜む伯父の気配を探っていると、ぴたりと背後から首にクナイが添えられた。少しでも動かせば、頸動脈を切り裂かれるだろう。

 

「はい。今日の鍛錬はここまで」

「ありがとうございました」

 

無論、稽古なのでそんなことはなく、簡単にクナイは除けられた。

 

「いやー、雅君も成長したね。ヒヤリとする場面も増えたよ」

「会話の片手間にするには難易度高すぎませんか」

 

私たちがやっていたのは、互いに幻術を掛け合いながらいかに相手を制圧できるかという化かし合いだった。

 

「幻術と体術が同時に訓練できて効率的だろう?」

「その幻術が果心居士(かしんこじ)の再来と謳われるレベルですよ」

 

実家では幻術に最も優れていると言われるのが次兄であり、母も伯父の妹だけあって幻術の腕は高い。九重神楽の幅を広げるための訓練でもあるが、これほどまでに手も足も出ないとは思わなかった。

 

「達也君は次の策を考えているのかい?」

「情報はリークされていましたから、なにかしら対策はとると思いますよ」

 

国会議員がマスコミを連れて出てくるとなれば、あまり私は矢面に立たない方がいいのだろう。九重という家は良くも悪くも表にも裏にも顔が利く。たとえ未成年だとしても、私が表立って動くことは憚られる。

この件は一旦持ち帰り、達也と検討すべきだろうと私は額の汗を拭った。




雅と達也をイチャイチャさせたいが、どうしようか検討中です。
雅の誕生日は考えているんですが、達也の誕生日が未定です(´-ω-`)
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