恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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シングルベール、シングルベール、クリぼっち♪(# ゚Д゚)♪

というわけで、サンタさんの代わりに、ケーキをホールで食べたくらい胸焼けするほど甘い話をお届けするぜ(`・∀・)b




古都内乱編
古都内乱編1


夏休みの最終週になり、ようやく雅は京都から東京へと戻ってきた。

連日、舞台の稽古と神事の手伝いに追われていたが、課題は既に片づけられている。

夏季課題程度なら、学年上位を維持している雅にしてみれば、予習復習程度の労力だ。

 

夏休みはまだ数日残っているが、魔法科高校ではすでに一部の生徒は登校している。

二学期から一部の生徒を除き、3年生は本格的に受験モードに入り、それに従って部活や各種委員会等も新規役員に代わる。夏休み後半から9月にかけては引継ぎや新規役員の候補者選びが行われ、正式な活動は10月から始まる。

 

生徒会選挙は例年、生徒会経験者の中から一名選出されて、信任投票が行われる。

生徒会は間違いなく深雪が次の生徒会長として選ばれるが、部活連や風紀委員は次のトップは未定である。風紀委員長は幹比古か雫が有力視されており、部活連会頭は十三束か雅のどちらかと言われている。生徒会長は信任・不信任を全校生徒が投票し決定する一方、風紀委員長は風紀委員会内部での互選、部活連は先代会頭からの指名と役員による信任投票が行われる。

深雪と達也は生徒会副会長として新学期の準備があり、雅もまた今年度の九校戦のデータをまとめるため、夏休み中とはいえ一般的な生徒より早い時期から学校に登校しなければならない。

 

雅にとっては何の制約もない夏休みは、明日の一日のみだった。

勿論、その日は達也のために使われる。

いつも通り買い物デートなので、雅は深雪も一緒にどうかと誘ってみたが、深雪は頑なに断った。

深雪は申し訳なさそうにいくつか理由は述べながらも、顔は雄弁に一緒に行きたいと語っていた。けれど兄と姉の邪魔をするわけにはいかないと、自重しているのだが、雅も達也も深雪を邪魔者に思ったことは一度もない。

雅と達也はそんな深雪の思いを分かっているから別の日に約束を取ると、まるで春のように綻んで笑うのだから、裏表のない素直な様子に思わず二人で笑みを零した。

 

深雪の豪勢な夕食を堪能した後は、翌日のデートプランをまとめるために、コーヒー片手に雅は達也の部屋にいた。

深雪も途中までは一緒だったのだが、先にシャワーを浴びると言って退散してしまった。雅と達也に気を使ってのことだったが、あまり気を使われすぎるのもどこか雅にとっては気恥ずかしい。

 

対して達也にとって、雅を想う感情はあるかないかと問われれば、ないとはいえず、かと言って我を忘れるほど冷静でいられないほど強いものかと問われれば、おそらくそれも違う。

だが、その手に触れるのも、その瞳が向けられるのも、その唇が微笑み、囁くのも、自分以外の男ならば不愉快であるという感情はある。勿論、世間一般でその感情にどんな名前が付けられているのかも知っている。そうではあるが、改めて文字にすると、自分に不似合いな感情だと苦笑いをせざるを得ないことも分かっている。

一生抱くことのないと思っていた感情は、達也の中で知らず知らずに芽吹いて、いつしか無視のできない大きさになっていた。

 

楽しそうに夏休み中のことを語る雅に、達也は自然と頬が緩む。

一年前の自分なら、こんな自分の変化にすら無頓着だった。この変化を、この感情を、なかったことにはもうできはしない。

雅を繋ぎとめるための恋人らしい行動は、いつしか自分が望んでの行動へと変わっていた。か細く不確かな感情の糸を()り集めるように、雅との日々で編まれた思いは、雅を手放しがたいものへと変えていた。

 

 

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

 

明日に備えて、早めに部屋に部屋から出ていこうとする雅の腕を達也は捕らえる。

不意に腕を掴まれた雅が振り向くと、達也は正面から雅を抱きしめる。予告なく掴んだにもかかわらず、雅は驚きこそすれ緊張もしていない。自然と達也の腕の中に納まっている。

 

 

「どうしたの、達也」

「……いや、なんだろうな」

 

自分の行動の意味や感情の名前を頭の中で探すが、達也は首をひねる。ただ手を伸ばせば届く距離に雅がいたので、腕を伸ばした、というのが一番近い気がする。

他人から向けられる好意的な感情と同じぐらい自身の感情の機微に疎いとは自覚しているが、なにせ、達也にとってもこの感情は未知のもの。そもそも一般的な男子が経験する感情の多くを抑制されていたため、経験が絶対的に不足している。あれこれ一通りの理由を頭の中で思い浮かべてはみるが、答えになるようなものはなかった。

 

「もしかして、寂しかった?」

 

雅が冗談半分に聞いてみれば、達也は一瞬固まった後、照れくさそうな声で笑った。

 

「確かにそうかもしれない」

 

言われてみれば、去年の四月から雅とこれほどまで長く離れていたことは無い。夏休み中も連絡は取りあっていたとはいえ、思い返せばどこか物足りなさはあった。

腕の中にある存在に、達也はようやくその感情を知る。寂しさなど自分の中に存在していたことにも驚きだが、それ程不愉快ではないのも不思議であった。

 

 

一方の雅は堪ったものではない。心臓が止まるような言葉はやめてほしいと心の中で悪態を付きながら、雅は達也にしがみつく。嬉しいやら恥ずかしいやら赤い今の顔は、締まりがなくてとても達也に見せられないと言わんばかりに雅は達也の胸に顔を埋める。雅にとっては慰めのためでも、恋人らしさのためでもなく、純粋にこうして求められることに未だ慣れはしない。

 

「雅」

 

普段の凛と澄ました雰囲気ではなく、恋を知ったばかりのような初々しい雅の様子に、達也は自分の中にある感情の正体が間違いではないと知る。

顔を上げてほしい、と言いたげに、達也は軽い音を立ててつむじに唇を落とす。ピクリと雅は肩をすくめるが、シャツを握りしめる力を強めるだけで、やだやだと、まるで小さな子供のように頭を振る。頬に手を添えられても、雅は顔を上げない。

可愛い姿だと思いながら、達也は雅の髪を梳き、一房手に取ると、軽い音を立てて唇を落とす。

雅が驚き顔を上げると、ドロドロに煮溶かしたようなチョコレートより甘い声で達也が笑う。

 

「やっと顔が見られたな」

 

どこでこんなこと覚えてきたんだと、雅は恥ずかしさを天邪鬼な悪態に変える。

達也は雅を甘やかすのが上手になった。恋人としてそれ以前が不足だったと言うわけではないが、雅に触れることを躊躇わなくなった。雅にとっては嬉しい変化ではあると同時に、いまでも逃げ出したくなるような感情は消えてはくれない。

降参だと雅は目を閉じて、達也に寄りかかる。達也は目尻を緩めながら、片手を頬に添え、雅の柔らかい唇を食む。

二、三度、軽い音を立てては離れる唇に、今度は隠しもせずふにゃりと雅は表情を崩す。嬉しいかと問わなくても雄弁に語る、緩められたその瞳に、達也は不意にどこまで自分が許されているのか試してみたくなった。

 

もう一度という言葉の代わりに項に手を回すと、雅は少しの躊躇いと恥ずかしさで一度視線を落とした後、素直に目を閉じる。

信頼しきった雅に達也がこれからすることを思うと、自然と口角が上がる。

 

戯れのように啄むように口づけた後、雅の唇を熱い舌でなぞる。

小さく息を呑む雅は、まるで口を開けろと言わんばかりの達也の様子に恐る恐る小さく口を開く。

少し長めに唇を押し付けられ、そして熱い舌が境界を越える。雅の小さな口の中を逃げる舌を追いかけ、こすり合わせる。

そのたびに雅が小さく鼻にかかった吐息を零し、逃れるように待ってと言う言葉は達也の口の中に消える。

言葉を潰すように達也から絶え間なく与えられるそれに、まるで愛嬌のような甘ったるい鼻にかかる声が漏れてしまい、雅の羞恥心を駆り立てる。

 

雅もこれがどんなことなのか、知識としては知っている。それでも体感したことのない未知の感覚にぞわぞわと肌が泡立ち、体が跳ねる。

子どものような戯れではなく、雅の全てを欲しているような口付けは思考をドロドロに煮溶かしていく。

雅が薄っすらと目を開けると、ゾッとするほど熱を孕んだ瞳とかち合い、たまらず目を閉じる。それでいて濡れた音が耳までおかしくする。

いけないことなのに、はしたない事なのに、という思いに反して、その手は達也を突き飛ばしもせず、ただ力なく縋りつくことしかできない。離れていく唇が名残惜しくて自分から求めてしまいそうになる。

一つ一つ、達也から与えられる感覚に、雅は冷静ではいられなかった。

 

 

すっかり息が上がったころに離れた唇に、雅はもう限界だった。

一切乱れていない達也の呼吸に反して、雅は瞳に薄く涙を湛えながら視線を彷徨わせる。神楽や武道で鍛えているだとか、人並みに肺活量があるだとか、そんなことは関係ない。

まるで自分のものだと言わんばかりに許された唇を、達也は好きに楽しんでいた。

 

雅が呼吸を整えていると、達也は額を合わせ、空いた手で雅の長い髪を梳く。腰まで流れる艶やかな黒髪は普段は雅の清廉さを引き立てるものであるのに、浅く息をする色づいた頬に背徳感のようなものが沸き上がる。

 

「かわいいな」

 

猫なで声のような甘ったるい声で達也が囁く。

凛と大人びた雰囲気はなりを潜め、達也の手によって恥じらう乙女に変わる。この顔を知っているのは自分だけだと思うと、達也はわずかばかりの優越感を覚える。

 

雅は可愛くなんかないだとか、恥ずかしかっただなんて言葉が喉まで出かかって、結局声にはならず、達也の胸で顔を隠す。

クスクスと忍び笑いが耳にかかり、雅は益々居たたまれなくなる。

恋人のように甘やかされるのは、嬉しいという感情より先に恥ずかしさが来てしまう。

言葉はなくても、大切にされている。言葉よりも雄弁に、その声色と瞳が語っている。

 

「嫌だったか」

 

達也は困ったような口ぶりで、声は全然困惑した様子ではなく聞くのだから雅の感情はとっくにお見通しだ。心臓がいくらあっても足りはしない。

 

「いや、じゃない」

 

蚊の鳴くような絞り出す声で雅はつぶやく。

本当に狡い人だと雅はため息をつく。

何時だって雅は振り回されて、白旗を上げるしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2096年9月1日は土曜日であり、一部の学校ではまだ夏休み中だが、スケジュールの過密な魔法科高校にとってはこの日が始業式だ。

始業式は、九校戦や各部活動の結果報告会も兼ねている。

九校戦については中継とニュースで報道され、インターネット上にも即日結果が公表されている。結果について知らない生徒はいないだろうが、九校戦は全校生徒を集めて壮行式までしているのだから、結果報告もということのようだ。

 

加えて、魔法科高校に通う生徒は比較的に裕福な家庭が多く、教育だけではなく、習い事などの教養にもお金を掛けられてきた生徒が多い。

それなりに個人で実績を上げた生徒、部活動も同時にこの機会に表彰されている。

文系、理系、体育系、美術系と高校の段階である程度、進路分岐が進んでいるとはいえ、各学校、それなりに文化、スポーツの部活動は行われている。第一高校も例外ではなく、九校戦に選ばれなかった選手も部活動の大会やコンクールなどで成績を残していれば、魔法科大学や防衛大入試への加点にはなる。部活動予算も大会成績によって左右されるため、大会成績は重要な要素となる。

学校自体、部活動や委員会活動を推奨しているが必須ではないので、帰宅部や委員会活動、個人での習い事等に精を出す生徒もいれば、のほほんと緩く部活に参加している生徒もいる。

 

また九校戦と同じように大会結果自体は学校のホームページに掲載されるが、弦楽部やコーラス部などは二学期には演奏会を開いたり、魔法理論系の部活動も校内で研究報告会などを行ったりしている。そして日の当たらない技術棟の廊下の一角を用いて、美術部や写真部による展示が行われていた。

 

美術部である美月の作品が展示されているのであれば、達也たちがその場に足を運ぶのも必然だった。油絵や水彩画、CGやデジタル作品などが並ぶ中、特別に額付きで飾られていたのは美月の作品だった。

 

「おおっ」

「都の展覧会にも出展予定かー。さっすが美月」

「凄いですね」

 

雫、エリカ、ほのかに口々に褒められ、当の美月は顔を真っ赤にして俯いている。

 

「雅さん、すみません。許可なく描いてしまって」

 

所在なさげに目線を動かしながら、美月は謝罪を口にした。

 

「許可なんていらないわよ。それにこれだけ綺麗に描いてもらえるなんて、役者冥利に尽きるわよ」

 

美月が描いた作品は、元旦に行われた日枝神社での九重神楽を題材にしていた。

枝ぶりの見事な白い梅が手前にあり、奥に神楽殿が設置され、神楽の奉納の様子が描かれている。

奥の神楽殿からは音楽が聞こえてきそうな情景と、手前の梅の静かな様子の対比も見事であり、水彩画独特の淡い色彩と、光の美しさが際立つ作品だった。

『早春』と題名がつけられたように、春らしい温かさを感じる作品となっている。

他にも美月の作品として、牡丹や薔薇などの花や一高周囲の風景が描かれたもの、昨年度の菊花慰霊祭を模した作品などが展示されている。

 

「そういえば、雅。今年も9日は何かするの?」

 

展示されている菊花水霊祭の絵で思い出したのか、エリカは雅に問いかけた。

 

「正月同様、日枝神社で神楽の予定ね。ただ、未成年の観覧は難しいみたいだから、招待できなくてごめんなさい」

「またマスコミ?」

 

辟易したようにエリカは聞き返す。

横浜事変と灼熱のハロウィン以降、魔法師に対する風当たりは強まっている。直接魔法師に対する暴力行為や違法行為にはつながっていないが、九校戦の会場に向けた応援バスさえ、反魔法師団体の抗議に巻き込まれたりしている。一部マスメディアでも魔法師のネガティブキャンペーンが行われていたこともあり、観覧制限と聞いてエリカが外部からの圧力を考えることは無理のないことだった。

 

「菊酒が振舞われるから、未成年に飲酒がないようにそもそも観覧する年齢自体に制限を設けたのよ」

 

魔法を使った神楽の一般公開を正式に許可されているのは、東京の日枝神社、京都の九重神宮、福岡の太宰府天満宮の三か所に過ぎない。その他伝統の復活ということで、各地の神社や寺に伝わっていた文献を九重神宮と魔法科大学の共同で解析し、公開してはいるが、その数もまだ多くはない。

 

魔法の使用には制限が伴う。

それはたとえ神事であろうと変わりはなく、魔法協会や国、地方自治体への根回しなど面倒な手間が多く存在している。

エリカが言ったマスコミや反魔法師団体もあるわけで、安全性の確保の観点も含め、未成年が除外されたことは日枝神社にしてみれば譲歩の一つだった。

 

「達也君なら入れそう」

「確かに」

 

エリカの言葉に、雫もうなずいた。

達也の雰囲気ならば、制服を仕立ての良いスーツに変えさえすれば、受付も年齢を確認せずにパスできそうなものである。老け顔ではなく、彼の持つ高校生らしからぬ落ち着いた雰囲気がそう二人に感じさせているのだろう。

 

「そうだとしても、達也だけ来たら深雪が拗ねるでしょう」

「あの、お姉様………。そのように、子ども扱いしないでください」

 

仕方ないなと深雪の頭を撫でる雅と素直に撫でられている深雪はどう見ても、仲の良い姉と妹にしか見えない。深雪は夏休みで離れていた分、どうも最近甘えたな部分もあり、雅も気にかけてやっているところである。

相変わらず見目麗しい二人のやり取りに、遠巻きに見ている男子など百合姉妹の噂は真実だったのかと、囁き合っている。小声だとしても常人より感覚が鋭く、尚且つ情報の次元でそれを感じ取った達也にとっては溜息の出る噂でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月10日の夜、達也は九重寺を訪れていた。

九重寺は旧東京都府中市の小さな丘の上にある。しかし、その実際、100年ほど前にこの場所には丘はなかった。

 

二十年世界戦争の後期、調布飛行場を中核として、調布、府中、三鷹の武蔵野地区には首都圏防衛部隊が配置された。流石に首都圏も戦争の被害がゼロというわけではなかったが、この防衛部隊の配置によって旧都区圏は無傷で済んだ。しかし、この部隊の配置に伴い、この地域の住民は疎開を余儀なくされた。

 

戦後も復旧による区画整理に伴い、一部の住民は元には戻れなかったが、いち早く導入された『個別電車(キャビネット)』によって町の様子は以前とは様変わりした。キャビネットを走らせるための高架軌道に加え、大小の施設、住宅施設などが建設された。九重寺もその一つだった。

 

九重寺のある丘は大規模地下防衛施設を作るために掘り起こされた残土で作られた人工的な丘である。外観も古風を狙って作られてはいるが、その実、それ程歴史は古くはない。一応寺として法要や葬式も行っているし、門人たちも力仕事のボランティアに精力的なので地域住民にも受け入れられている。

いつも通り達也を手荒い歓迎で出迎えた門人たちを軽くあしらい、本堂前で悠然と座っていた八雲の前に立った。

 

「やあ、達也君。月曜日から熱心だね」

「こんばんは、師匠。地下をお借りしますね」

「構わないよ。そのための施設だ」

 

そして地下には地上からは想像できないほど広大で、当時としては最先端だった魔法実験施設が存在している。達也はその最下層にある最も強固な部屋で、以前からとある魔法の実験を行っていた。

達也の家にも一般家庭にはふさわしくない魔法実験施設が存在しているが、これから行う実験の安全性を考えると、この寺の施設が適切だと判断した結果だ。

 

「師匠、それは?」

 

達也は八雲の横に置かれている徳利とお猪口が目に入った。寺で飲酒とは生臭坊主のようだが、今時寺社仏閣に使える門人であっても肉食や飲酒の制限はない。

今夜は半月で、雲も薄いため、月を肴に飲んでいるのだろう。

 

「昨晩頂いた菊酒の残りだよ。君も飲むかい」

「未成年ですよ」

「神酒とは言え、律儀だね」

 

呆れる口調の達也に失敬失敬と、八雲は手酌で猪口に酒を注ぐ。

昨日は9月9日。重陽の節句だ。八雲が昨晩は留守にしていたのも達也は把握しているし、その酒の出所も知っている。

 

「それにしても、雅君。以前に増して色気が随分と出てきたね。あれは確かに寿命も延びるよ」

 

雅は昨晩、日枝神社で重陽の節句に合わせて祈祷の舞をしていた。

菊が長寿の象徴と言われるようになったのは、魏の文帝の時代の菊慈童の伝説が有力だ。昨年、雅が古典部の研究の一環で披露した菊花水霊祭も、この故事をベースにして作成されたものであり、重陽の節句の謂れとなった逸話である。

観覧者には菊酒がふるまわれるとあって、未成年である達也と深雪は観覧することが叶わなかったが、雅の叔父である八雲が招待されることは珍しいことではない。

 

「若々しく、瑞々しく、それでいて清廉。多くはため息すらしたことに気が付かないほど見入っていたよ。これも君のおかげかな」

「雅の実力ですよ」

 

雅がひと際美しく輝くのは舞台の上だと達也も知っている。男も女も関係なく、この世の美を凝縮させた絢爛にして古い時代から脈々と受け継がれた魔法。男装舞は難易度の高さから、その担い手はかなり少なく、雅も本家筋で言えば200年ぶりの演者と言える。

その雅が夏休みの間、研鑽に研鑽を重ねれば、以前からの神懸かり的な美しさに拍車がかかることは無理もない。そして、その稽古も九重神楽の本流直伝とあれば、その厳しさも、その実力も、言葉にするまでもないだろう。

 

「雅君の調子は君との関係で多少幅が出てくるからね。今回はいい方向に働いたみたいだけど」

 

どうやら昨年末のことを掘り返しているようだが、その程度の皮肉で達也の表情筋は動くほどのことでもなかった。

 

「無論、君もそうだろう」

 

知っていてそう発言しているのか、鎌をかけているのか、八雲は目は笑わずに口元だけで笑みを深めた。

 

達也の感情の変化については、深雪と雅しか知らない。

達也に掛けられた制御と母から施された魔法について、八雲には当然教えていない。

勘の鋭いこの師がどこまで知っていて、感じ取っているのかは分からないが、不用意なことは口にできない。八雲は達也の体術の師であり、四葉に対する義理はないが、どこからどのようにそれが伝わるか、警戒するに越したことは無い。

 

「深雪君以外には無頓着だった君が、雅君に関しては特別視している。それは間違いないだろう」

「婚約者ですからね」

 

達也が唯一この世界で守るべきものが深雪であることに変わりはない。それでいて雅の存在は、確実に他人と切り捨てることはできない大きさになっている。達也の抱く感情が変わったと言え、関係性は以前のまま変わりない。

 

だが、達也が感情を取り戻すことで困るのは、四葉の上層部や分家の家長たちだ。

達也が今まで通り、深雪を守ることを唯一命題とする兵器であれば、深雪の安全を害する恐れがなければ、牙をむく危険はないと知っている。いくら忌まわしい能力を持っているとはいえ、その戦力を簡単に手放すには惜しいため、飼い殺しにすることが一番有効な手立てなのだ。

達也にかけられた魔法が完全に解除されるのか、それは達也にも分からない。

ただ、そうなることを思わしくないと思って居る輩がいることも事実だ。

 

「流石の達也君も、色恋の話は苦手と見える」

「師匠相手にするつもりはないですよ」

 

軽口をたたきながら、八雲はそれ以上問い詰める気はないと示す。

達也としても安堵する部分であった。

 

「あまり遅くならないようにね」

「わかりました」

 

八雲に一礼すると、達也はようやく実験室に向かうことができた。

 

 

 

 

 




某ブランドの“二次元と運命が交差するスカート”とか同じブランドのピアノスカートとか、ツイッターで話題になった軍服ワンピースを着た、雅ちゃんと深雪ちゃんが見たい。
あと「ラグジュアリー」と「ノスタルジー」をテーマにした薔薇がモチーフの某ブランドとか。
パニエでふわっとしたスカートとか、ワンピースとか、クラシカルな格好をさせたいんじゃ(/・ω・)/
脳内妄想しているので、誰か二次元にしてください(ノД`)・゜・。


誤字脱字の指摘ありがとうございます。
非常に助かってます(`・ω・´)ゞ
来年の目標は誤字脱字の撲滅に努めること、にします。

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