あの日芽吹いたこの花を、僕は今も渡せずにいる。
10月20日土曜日。
通常ならば、学校では授業が行われているこの時間、達也、雅、深雪、水波の4人はトレーラーを使って移動していた。
ここで言うトレーラーとは一昔前のような被牽引自動車を指すのではなく、この場合はリニアモーターを使用した連結列車を示す。トレーラーという名前が付いているのは、一階部分に
リニア特急とそれほど速度も変わらないが、個型電車の沿線上にトラブルがあるとトレーラーの運航に支障をきたす可能性もあり、リニア特急のみ運行する路線と比べれば到着時間の確実性はやや劣る。それでも年々遅れの時間は改善されており、リニア特急に比べるとコスト面からも若者の長距離移動には支持されている手法である。
「あら、達也君たちもこの時間だったの」
達也たちが2階のアメニティスペースでくつろいでいると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「おはよう、エリカ」
「おはよう。すごい偶然ね」
エリカは偶然というが、それほど珍しい鉢合わせではない。沿線上を走っているトレーラーは都市間軌道を規定時間で走っているため、目的地と時間が決まっていれば、自ずと同じトレーラーに乗り込む可能性は高い。
4人に倣うように、エリカはリラックスチェアに座り体を伸ばした。
「やっぱり手足が伸ばせるっていうのは良いわね」
「エリカは個型電車を窮屈だと感じるタイプなの?」
様々な体格の人、特に海外からの利用者や荷物の積み込みも想定して個型電車はゆったりとした設計となっているが、閉鎖空間とあって一定数それを窮屈だと感じる人は存在する。
深雪がエリカにそう質問したのも、それを想定してのことだった。
「そうでもないよ。これでも狭い部屋の中に正座で何時間も座っている鍛錬とかもあるからね」
「そんな鍛錬があるの?」
「クソ親父は剣術の修行だって言い張るんだけどね」
辟易したように眉に皺を寄せながら、エリカはため息交じりに吐き出す。
この言葉に達也たちは意外感を覚え、顔を見合わせる。
エリカは一見ガサツなように見えて、言葉遣いや所作には良家の子女としての教育が伺える少女だ。バカ兄貴程度の憎まれ口ならともかく、クソ親父のような汚い言葉は本人も好まないはずだった。
「茶道とか、お稽古事?」
「あ、分かった?」
雅の問いかけに少々驚きながら、エリカは肯定した。
「茶道と武道を結び付けた個人は少なくないと思うが」
「まあね。うちの親父もその真似事をやらせたいんだろうけど……まず跡取りにやらせるべきじゃない?」
「それはそうだと思うが」
達也がやや返答に困っていると、すかさず深雪がフォローを入れた。
「でも、それは酷な話じゃないかしら。お茶のお稽古はどうしても女性のお弟子さんの方が多くてお兄様方は入りにくいんじゃないかしら」
「逆にエリカが茶道を習っていてもおかしくはないと思うな」
「ええっ、そう?」
エリカは上擦った声でそっぽを向く。
普段の様子からも、エリカ自身もお淑やかという言葉が似合わないと思っており、それを茶道のようなお稽古事が似合うと言われると正直に喜ぶよりも照れる部分の方が多かった。
「ああ。流派の違いで多少差はあるだろうが、あの雰囲気はエリカに似合っていると思うぞ」
「達也君も嗜みがあるんだ」
エリカは一瞬意外感を覚えたが、深雪と雅がいて一度も茶席に招待されないと言うことは無いのだろうと考え直した。
「いや、俺は一通りの作法を習った程度で、嗜みと言えるほどではないな」
茶道は総合芸術と言われる。客人をもてなすための茶室を整えるにあたり、そこに用意する菓子や茶だけではなく、掛け軸や生け花にも意味を込める。今は工業生産品も出回ってはいるが、手焼き独特の風合いは愛好されており、陶芸は細々とではあるが、全国に窯元が残っている。
そのような茶道具の出所の話から掛け軸の作者やそこに描かれたものに対する知識だけではなく、何をどう選ぶのかというセンスも問われるものであり、茶の湯の世界では流派は枝分かれしていても、一生の勉強であることはどこも変わらない。それを客人としての一通りの振舞いができる程度を嗜みと呼ぶには程遠いと達也は感じていた。
「私だって嗜みだなんて呼べるほど大それたものじゃないわよ。それに、似合っているって言っても、深雪や雅ほどじゃないでしょ」
拗ねたようにそっぽを向いたエリカの態度は照れ隠しであり、達也は困ったように、深雪と雅は微笑ましげに笑みを浮かべた。
定刻通りにトレーラーは京都駅に到着した。
休日とあって人は多いが、比較的朝早い時間帯とあって人は少なく、達也たち5人が京都駅の改札を出たところでは、既に幹比古とレオが待っていた。まだ集合時刻前だが、どうやら二人は達也たちより早い時間帯のトレーラーに乗り込んだようだ。
「二人とも早かったな」
「ちょっと気が焦ってしまってね」
幹比古はやや照れくさそうにそう答えた。元々生真面目な性格をしている分遅れてくるようなことは無いと思っていたが、少し気も張っているようだ。
これから相手取るのは古式魔法師。幹比古も相手に後れを取らない自信はあっても、土地勘のない場所での戦闘となると土着の古式魔法師の方に地の利がある。変に肩に力は入っていないが、性分として落ち着かない部分があったのだろうと達也は解釈した。
「じゃあ、これで全員揃ったね」
京都の視察メンバーは生徒会長、風紀委員長、部活連会頭という実質学校の三トップに、護衛としてエリカ、レオ、達也、水波が選ばれた格好になっている。エリカの言うように、一高のメンバー7人は合流したが今日の視察に参加するのはそれだけではない。
達也が見知った気配を感じてそちらを向くと、つられるようにして雅や深雪もそちらを向く。
「雅さん」
「光宣君、燈ちゃん」
視線が合ったことで、やや小走りに光宣は7人のところに駆け寄った。
「お久しぶりです」
「久しぶりね。元気だった?」
「今日はばっちりです」
光宣はまるでそこに日差しが差し込んだかのように、光満ち溢れるような綺麗な笑みを零した。目の前にいる初対面のエリカたちだけではなく、見ず知らずの通行人すら思わず息を呑むほどの純粋な笑みだった。恐ろしく均整の取れた美少年の笑みは、それだけで一種の絵画のようで、思わず躓く人や足を止め渋滞ができるほどだった。
「燈ちゃんも今日はよろしくね」
「任せとき」
光宣からやや遅れるように燈も雅の前に立つ。
「紹介するわね。二高二年の香々地燈ちゃんと一年の九島光宣君。みんなにはメールで連絡したとおり、二人とも下見を手伝ってくれることになったの」
「よろしゅう」
「よろしくお願いします」
達也や深雪はともかく、呆気に取られているエリカやレオのために雅は二人を紹介した。気を取り直したように、やや混乱しながら二人とは初対面である幹比古が自己紹介をし、それにエリカ、レオも続いた。
「急なお願いで大変じゃなかったかしら」
「まあ視察はある前提で準備は進んどったみたいやし、流石に警備の頭はそっちでも、現地を知らん人らに任せるには不安やって声もあって、キツネ黙らせて休みもぎ取ったわ」
申し訳なさそうに尋ねる雅に、燈は構わないと言うように手を振る。
九校戦の警備のトップは一高の前部活連会頭である服部が行っているが、データ上だけで判断するよりも土地勘があるに越したことは無い。
達也たちが視察に訪れることは開催地に最も近い二高にも連絡を入れており、一高のトップが揃っている状況で二高が視察対応に動くことはおかしな話ではない。人選に関して多少揉めたようだが、達也にとって燈も光宣も顔見知りであり、尚且つ達也が動いている一件については知らせても問題ない相手のため、達也としてはありがたいメンバーだった。
「それにしても、深雪の男の子バージョンっていうのかな。ビックリするぐらいの整った顔立ちの美少年だよね」
エリカが小声で達也に話しかける。
流石に声量は控えているが、本人を目の前にしていう事ではないなと達也は思ったがそれは口にはしなかった。
「しかも結構雅と親しいの?九島ってことは親戚なんでしょう」
エリカは輝かんばかりの美貌に呆気に取られはしていても、流石に状況はよく見ていたのか、はたまた冷静になって気が付いたのか、達也は内心エリカの鋭さに舌を巻いていた。
女の勘という部分もあるだろうが、達也の考えでは光宣は魔法技能に比べあまり感情を隠すような対人関係の訓練は積んでいないためだと思っている。エリカや幹比古が自己紹介した時も、千葉や吉田の名前に【剣の魔法師】と称される千葉家のことや古式魔法としては比較的名の知られた吉田の名前に反応した素振りが伺えた。その点で言えば年相応らしいと言えるが、もしこれが演技なのだとしたら末恐ろしいとも感じる。
光宣は幸いなのか、雅との会話に花を咲かせているようで、こちらの話は一切聞こえていないように見えた。
「まあ昨日、今日の感情ではないとは知っているし、面と向かって宣戦布告はされたからな」
「へえ、恋敵なんだ。でも意外と深雪が静かなのはなんで?」
エリカと同じく声を落として達也は淡々と述べた。
達也の言葉にエリカは僅かに目を見開いたものの、すぐさま光宣たちの会話を見守る深雪にちらりと視線を向ける。その表情はいつもと変わらないお淑やかな美少女に見えるが、それなりの付き合いのあるエリカには深雪がやや困惑しているようにも見受けられた。
初対面であるエリカにも分かりやすい光宣の反応に、吹雪でも吹き荒れはしないか心配したが、これはこれでエリカにとっては意外な反応だった。
「いくら表情と声に感情を乗せようとも、直接的な言葉がないから、いきなり苦言までは難しいだろう」
「ふーん。可愛い顔して、九島の名前は飾りじゃないみたいね」
十師族という事を抜きにしても、婚約者のいる相手をあきらめないと宣言するだけ強かなのは確かだろう、と達也はエリカの考えに心の内で同意した。
「まあまあ。話は積もるやろうけどこの辺にしといて、まずは九重さんに挨拶しに行くか」
燈が小さく手を打ち鳴らした。
「九重さんって九重神宮のことですか」
「せやで。自分らは先にホテルに荷物置きに行く方がええか?」
聞きなれない呼び方に幹比古が質問を投げかけると、燈はサイドテールを揺らしながら答える。
「そう考えている」
「んじゃ、そうしよか」
達也に確認を取った燈はさりげなく光宣と雅の間に入ると、コミューター乗り場へと足を向けた。
光宣が一瞬面白くなさそうな顔をしたが、燈は知らぬ存ぜぬと楽し気に雅に話しかけていた。今の一瞬ではあったが、どうやら燈も光宣が雅に向ける感情は察しているようで、今のも牽制の一種だろうと達也は理解した。
光宣も今回の下見の目的は理解しているだろうが、せっかくの機会を利用しない手はないと思っているのだろう。
厄介なことにならなければと思うが、隣から無言で笑みを張り付けた深雪の視線に居心地の悪さを覚えながら達也もコミューターに乗り込んだ。
電車のような大型輸送からキャビネットのような個別輸送に切り替わったことで、路面電車や路線バスというものも形態を変え、公共交通の一つとしてAIタクシーであるコミューターが普及している。
バイクなどの二輪車や自動車など個人持ちの移動手段も広く存在はしているが、観光地や学生などはもっぱらコミューターを使っての移動が多い。
特に観光地は観光客向けに5人乗りのコミューターの台数も多く、特にこちらは事前予約なども必要としない。
2台のコミューターでホテルまで移動し、カウンターに荷物を預ける。チェックイン時間にはまだ早かったが、事前に荷物を預けることができるのは今も変わらないシステムとしてある。
週末で観光客の多い時期ではあったが、ホテルは幸い論文コンペで一高が使用するホテルと同じところを押さえることができた。光宣はこのホテルに泊まるとのことだったので合わせて荷物を預け、雅は元々報告や進捗も兼ねて実家に泊まる予定であり、燈も同じく九重に宿を借りるとのことだったので、特に大きな荷物はない。
9人が最初に移動したのは九重神宮だった。
九重神宮は京都御所から北東の位置にあり、論文コンペが行われる京都新国際会議場までも徒歩圏内にある。京都盆地の境に近く、鎮守の森を擁し、本殿前までは緩やかな坂道となっている。
九重神宮は厄除けにご利益があると言われており、京都御所から見て鬼門の位置に設置されているのも宮家に降りかかる災いを祓うために建立された謂れがある。古くから清めの地として京都各所の寺社をめぐる際には訪れるとよいとされていたが、最近になって美しすぎる神主と悠が一部SNSで話題になったこともあってか、女性の観光客も多い。
紅葉の時期としてはまだ早いが、夏の盛りを過ぎて色が薄くなり、一部赤や黄色に色づきだした木々もあり、カメラを片手に散策する人も見受けられた。
「話には聞いてたけど、本当に立派ね」
「歴史はそれなりにあるからね」
鳥居の大きさや見て取れる敷地の大きさに感嘆しているエリカに雅が少し照れたように言う。
今では木造建築は古くからある神社や寺、保存区画の町家などには多くみられるが、一般家庭では木材より安価な木目調の合成建築資材が主流になっており、本物の木の要素はインテリアとして用いられることが多い。
雨に吹き曝しになるような場所の木材というのは手入れをしなければ耐久性は鉄には劣るため、鳥居の先にある大門だけでも数百年を数える歴史的な価値のある建築物である。
達也や深雪にとっては見知った場所で、何度か参拝したことのある場所ではあるが、それでも背の伸びるような感覚はすがすがしさを伴っており、それを維持する九重の神職には敬意を払っている。
ここで記念撮影をするのが高校生らしい行動とは言えるのだろうが、そのようなことを口にするような者はいなかった。活気あふれる門前の商店街を背に、一礼して朱塗りの大鳥居を順にくぐっていった。
幹比古も一礼して鳥居を過ぎようとした瞬間、静かに息を呑むこととなった。
そこは紛れもない神域だった。
名のある寺院や神社、霊峰や神域として呼ばれる場所など、幹比古が精霊の息吹や波長を感じることができるスポットは多々ある。しかしこれほどまで濃密かつ、清廉で、それでいて圧倒的な神域は初めてだった。
観光客も多く、賑やかな場であるのに、幹比古が感じるのは静寂。圧し掛かるような威圧感や息苦しさではなく、自然に頭を垂れるような、それでいて背筋の伸びるような空気を感じていた。
これでまだ入り口だというから、本殿前はどれほどのものだろうかと、身震いがした。
「吉田君、大丈夫?」
幹比古が立ち止まっていたのに気が付き、雅が声を掛ける。幼馴染の様子にエリカは周囲を警戒するが、それらしい敵の気配はない。そもそも達也も雅も警戒していないので、すぐさまエリカも剣呑な気配を鎮めた。
「あ、うん。少し驚いただけだから、問題ないよ」
「みやちゃんのお帰りや。多少気合入るのも無理ないわな」
幹比古の呆然とした様子に、燈は腕を組み当然だと言わんばかりに頷き、雅はやや苦笑いを浮かべた。だが、状況が呑み込めていない者が大半だった。
「何かあったか?」
訝し気に達也は尋ねた。九重神宮の敷地内で手を出してくる馬鹿はいないとは思っているが、念のためこの周囲に敵がいないことは既に達也の目では確認している。
だが達也とて幹比古のような古式魔法に鋭敏な感覚は持ち合わせておらず、自分の知らない範囲で何か行われているのかと再度周囲に気を巡らせていた。
「大したことないで。吉田の坊ちゃんが、ここの神気に気圧されただけや」
「香々地さん。坊ちゃんはやめてくれ」
燈の言うように文字通り圧倒されたのは間違いないが、それでも幹比古にとっては坊ちゃん呼びは看過できなかった。
「ほな、ミキティ。問題ないなら行こか」
「ミキティ?!」
燈の思いがけない呼び方に幹比古は仰天する。
幼馴染からミキと女子のような呼び方をされるならまだしも、ほぼ初対面の女子にどこかの女性アイドルのような呼び方をされるとは思ってもみなかった。
「よかったじゃない、ミキティ。早速あだ名で呼んでもらえるだなんて」
ニヤニヤと幹比古を隣で小突くエリカに、幹比古は米神のあたりが動くのを感じた。
「だから、僕の名前は幹比古だ」
そう決まり文句を言う時点で、既に幹比古がいいように揶揄われているのはもはや鉄板のことだった。
その後は晴天の秋晴れに突如として雷鳴が轟いたり、声を荒らげる観光客がいるようなこともなく、平穏無事に参拝は終わった。
会場周辺の様子を確認する意味も含め、九重神宮から徒歩で新国際会議場まで移動した。去年の横浜事変に先立ち発生した一連の事件で、外国人工作員が拠点として使用できるような老朽化したビルなどは取り壊され、周囲には二階建てまでの民家しかなく、大人数で潜伏するような場所はない。
それほど鬱蒼とした深い山ではないが周囲には木々が多く、当日テロ等を目論んでそこに潜伏してくる可能性もある。民家も少人数ならば潜伏先としては周辺住民さえ誤魔化せば、警察にも怪しまれないため向いている。
「土地柄としては古式魔法師も多いから、少人数で潜伏されると探し出すのは難しいと思う」
幹比古は会場周囲を見回して問題点を述べた。
「さっすがに九重さんのこんな近くでドンパチする阿呆はおらんとおもうけど、その阿呆が出てこんとも限らんのよな」
燈は周囲をぐるっと見回しながら、ため息をついた。去年の横浜事変において、襲撃を受けたのは魔法協会関東支部だけではなく、すぐ近くの魔法協会本部も少人数のゲリラによる襲撃を受けた。
攪乱が目的だったが、その騒動を燈は知っているだけあって、去年の二の舞はごめんだと考えている。
「周囲を手分けして歩いてみるか?暗示ならともかく、結界なら違和感程度なら察知できると思うが」
「いや、それは非効率だと思う。民家に隠れているなら結界もごく最小限にしてあるはずだ。みんなの能力を疑うわけではないけれど、偶然気配を感知できる幸運にかけるのは時間がもったいないと思う」
事前に台本は用意していなかったが、達也の提案に対して幹比古は達也の思惑通りの返答をした。
「なるほど。では、どうする」
「僕が探索用の式を打ってみるよ。その間、どうしても周りの注意が疎かになるからエリカとレオは周りを警戒する役目をお願いしたいんだ」
「仕方ないわね。いいわ。守ってあげる」
気が乗らないというような返事だが、エリカの眼と表情には闘志が静かに漏れ出ていた。
「よろしく頼む。それで、達也たちの方なんだけど、最初の打ち合わせ通り市内を回ってみてくれないか。えっと……」
幹比古は燈と光宣に視線を向け、戸惑いの表情を浮かべる。当初の予定では一高だけの下見であったため、光宣や燈のことは事前連絡があったとはいえ、ここからの二人の行動は未定だった。
「んじゃ、ウチはこっちに回るわ」
燈はエリカの横に立ち、幹比古の方に付いていくことを示した。
「吉田の坊ちゃんが術を間近で見られていややって言うならあれやけど、ウチと光宣君は別がええやろ」
「いや、僕は構わないよ」
燈も光宣も名目上は視察対応として参加している。達也たちが二組に分かれるなら、燈と光宣も別に動いた方がいいのだろう。
「じゃあ、燈ちゃんよろしくね」
「任しとき」
9人は二手に分かれ、行動を始めた。
キリがいいので、少し短めです。
久々に2話投稿します。
関西圏の出身じゃないので、燈ちゃんの口調があってるのかどうなのか悩みながら書いています。