恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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短めです。そして進んでない。いいんだ。原作でも京都の下見に尺が取られてたんだから

イチャイチャさせたい(/・ω・)/





古都内乱編12

 

 

警察の事情聴取から解放された幹比古たちは、体力的な消耗や魔法力的な消耗はともかく、取り調べでの精神的な消耗からその後の捜索は打ち切り、予定していた時刻より早いがホテルに戻ることにした。達也たちに連絡を取ってみれば彼らも諸事情で早めに捜索を切り上げたという事でお互い都合がよかったのもある。

 

取り調べに千葉や一条、香々地の名前が影響したことは否めないが、無罪放免が言い渡されたのは路上に設置された監視カメラと想子センサーの記録によるところが大きかった。古式魔法は現代魔法に比べて想子センサーにかかりにくいとはいえ、単に術者の特定が難しいだけであり、魔法が使用された形跡はしっかりと記録される。死者が出たとはいえ加害者の一人を生かしていたこともあり、5人は日が暮れる前には警察署を後にすることができた。

 

状況報告と現状確認も含め、一条将輝を連れて宿泊先のホテルに戻った5人は丁度チェックインをしていた達也たちと鉢合わせた。

ロビーのエントランスで座って待っていた雅は5人に駆け寄った。

 

「お疲れ様。みんな、大丈夫だった?」

 

雅の確認は単に怪我の心配だけではなかった。初動で担当した刑事が魔法師ではない場合や現代魔法師嫌いの場合、よそ者であるエリカたちが不利益な調書を取られなくとも無駄に取り調べを長引かされたり、しつこく正当性を疑われたりすることは否定できない。

 

「かすり傷一つなしや。最終的に知り合いの刑事さん来はったからスーっと話は終わったで。まあ、学校には連絡行くやろうけど、コンペには影響ないやろ」

 

燈は問題ないと軽く手を振った。

 

「一条君が助太刀してくれたのでしょう。ありがとう」

「いや、礼を言われるまでもない。こちらとしても見逃せない事態だったからな」

 

将輝は達也と深雪が来ていることは幹比古たちから聞いていたが、雅が来ていることはこの時まで知らなかった。しかし一高の下見に京都出身の彼女がいない方が不自然だと思い直したのか、そのまま会話を続けた。

 

「エリカも無事で安心したわ」

「まあ、ちょっとヒヤっとしたところもあったけどね。ネチネチ警察に絡まれなかっただけマシよ」

 

エリカは疲れたように肩を竦めた。彼女にとっては戦闘そのものの疲労より、取り調べの拘束時間の方が負担だったようだ。

 

 

 

荷物を受け取り終えた達也と深雪が会話をしている6人に近づくと、将輝は深雪を見つけて途端に目を輝かせた。

 

「一条」

「司波さん」

 

一条に呼びかけたのは達也だが、一条は深雪に呼び掛けた。甘いルックスに花が舞うようなはにかむ笑顔に、呼びかけられた深雪は反射的に余所行きの笑顔を張り付けた。

敬愛する兄の呼びかけを無視するとは何事だと内心思いながらも、エリカたちを助けてくれた手前、会って早々それを指摘するのは憚られたため、万感の思いで深雪はその言葉を封じた。恋は盲目というべきか、はたまた深雪のよく鍛えられた鉄壁の笑顔というべきか、深雪の不機嫌は将輝に悟られることはなかった。

 

「お久しぶりです、一条さん。京都にいらしていたのですね」

「こちらこそ、ご無沙汰しております。来週の論文コンペの下見をと思いまして」

「自分らと違って学校無断欠席やけどな」

 

二人の会話に割り込むように燈が指摘すると、将輝は少し不機嫌そうに言い返す。

 

「それは既に終わった話だろう」

「ウチが助言してやったからやで。感謝しいやプリン」

「だから、その呼び方はなんだ。しかも食べ物になっているぞ」

 

将輝も燈の軽口にいちいち反応するのだから、燈のトークは加速する。外野のレオやエリカなどはニマニマと笑みを浮かべている。

 

「見通しも根回しも甘っちょろいプリンスはプリンで十分や」

「その点に関しては甘かったのは認めるが、せめてその呼び方はどうにかならないのか」

「はいはい、そうカリカリすんなやプッチンプリン」

「プッチンプリン!?」

 

燈と将輝の掛け合いに、堪らず深雪とエリカは笑い声を漏らす。

燈との幼稚なやり取りを深雪に笑われ、途端に将輝は顔を赤らめる。

こんなつもりではなかったと一条は燈を恨めしく睨むが本人はどこ吹く風。好きな女の子の前では格好つけたいお年頃の将輝にとっては、調子を狂わせられる燈は一種の鬼門だった。

 

「一条さんは京都に宿泊予定ですか」

「ええ。ホテルは隣のKKホテルですが、明日も下見の予定です」

 

深雪に話しかけられた将輝は姿勢を正して答えた。

 

「よろしければ今回の一件のお話を聞かせていただいても構いませんか」

「勿論です」

 

深雪の提案に将輝は二つ返事で了承した。

その様子に達也と雅は顔を見合わせてやや呆れたように笑みを浮かべている。どうやら恋した相手を前にしては達也や雅など既に視界に入っていないのだろう。

 

「一条と雅、それと香々地は先に会議室に向かってくれ」

「会議室?」

 

将輝は今度はきちんと達也に聞き返した。下見の宿泊にホテルの会議室まで取っていることに、意外感があったのだろう。

 

「コンペ前日にもリハーサルで使うから設備の確認を含めて借りているんだ」

「そうなのか」

 

ホテルの客室は原則宿泊客以外の立ち入りを禁止している。元々宿泊予定のない雅や燈と打ち合わせをする目的もあり、予約をしていた。会議室の規模から将輝一人増えたところでは問題なかった。

 

「じゃあ私たちは先に会議室に行って準備しているわね」

「ああ、頼んだ」

 

雅と燈、将輝は会議室に向かい、残りはエレベーターに乗り込み宿泊の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

荷解きは後ですることにして、ホテルに宿泊するメンバーは準備が整った会議室にやってきた。防音設備のしっかりとした会議室ではあるが魔法的な探索を警戒して、雅と水波の手によって盗聴防止の遮音障壁と人除けの結界を用いて会議室の機密性を高める。

 

当初の予定と違い、将輝がこの場にいることでエリカたちは今回の一件を達也の軍務であると言わずにどう将輝に伝えるか思案していた。

 

「一条、去年の横浜事変で大亜連合侵攻軍の手引きをしていた魔法師が京都方面で匿われていることが分かった。俺はその捜索任務として来ている」

 

しかしその思案は本人によって不必要なものへと変えられた。エリカたちだけではなく、深雪や雅も想定外だったのか、顔を見合わせ一瞬戸惑いの表情を浮かべる。

 

「任務だって!?司波、お前……」

「第一高校の生徒であると同時に俺は国防陸軍一〇一旅団独立魔装大隊所属の特務士官でもある」

「なん……だと」

 

その言葉が嘘ではないことは、彼の隣で沈痛な面持ちの深雪が物語っている。

 

「一条、言うまでもないがこのことは他言無用だ」

「分かっている」

 

十師族として次期当主と目され、13歳で既に義勇軍として佐渡防衛の任務に当たった将輝にはその機密の重要性が分かる。

国防陸軍一〇一といえば、大天狗と畏怖される風間玄信少佐が率いる部隊として将輝も耳にしたことがある。横浜事変の一件では大亜連合の強襲にいち早く駆け付け、飛行魔法師部隊を展開させ、市街地における敵勢力の制圧に大きく貢献したと父伝えに聞いていた。

 

司波達也が魔法工学理論と体術において並外れた実力を持っていることは将輝も痛感している。妹の深雪の才能も無視できるようなものではなく、九重の直系と縁組できるともなればそれなりに名の知られた血筋である可能性も視野に入れていたが、今のところ九重によって匿われているのか彼らの素性を洗っても怪しい点は一切見当たらない。だがその理由も今となっては納得がいく。

 

それ以上に未成年が戦場に出るという意味を将輝が理解していないわけがない。

戦場は戸惑いなく引き金を引ける者だけが生き残る。相手が大人だろうと、顔見知りであろうと、女性であろうと、敵兵としてこちらに銃を向けた以上は排除すべき対象となる。ただ者ではないと思っていたが、特務士官という肩書も達也の口ぶりから昨日今日の話ではないだろう。

 

「その工作員は今回の論文コンペでもなにか騒動を引き起こす可能性が高い。幹比古たちはコンペの安全確保を兼ねて手伝ってくれている」

「工作員の素性は分かっているのか」

 

将輝は動揺を押し殺し、達也に説明を求めた。

 

「周公瑾と名乗っている。外見は20代前半の青年、正確な年齢は不明。写真を見る限り整った顔立ちと長髪ということは分かっている」

「周公瑾だと!?」

 

将輝は聞き覚えのある名前に思わず奥歯を噛みしめる。

 

「知っているのか」

「横浜事変の際に中華街に逃れた侵攻軍の引き渡しを迫った。その時に対応した男がそう名乗っていた」

 

横浜事変の折、将輝は義勇軍として大亜連合の魔法師工作部隊と交戦し、侵攻軍の一部の者は同胞の多い中華街へと逃げ込んだ。その連中の引き渡しを求めて素直に応じたのがこの男だった。

何か裏があるのではないかと疑っていたとおり、引き渡しが終わると静かに中華街へ戻ろうとする周を四楓院の男は攻撃した。将輝は突如始まった戦闘に呆気に取られていたのと、工作員を正規軍に引き渡す責任もあったため、四楓院の男も周の姿もその後は知る由もなかったが、そもそも侵攻の手引きをしていたのなら四楓院の攻撃にも納得がいった。

 

「その男が京都に潜伏しているなら九重家ならば何か掴んでいるのではないか」

 

九重と四楓院に繋がりのあることは現行の十師族当主ならばほぼ知っている。将輝も横浜事変に関わった後に父からその存在について知る限りのことは聞き及んでいる。

文字通り千里を見通し、その正確さから未来まで見通すと言われる千里眼ならば、一度手の内の者が交戦しているならばその所在も明確に掴んでいるのではないかと将輝は考えたのだった。

 

「一条君、私に九重家として動けばいいのではないかということ?」

「相手が利用しとる派閥を忘れたんか」

 

それに対する雅と燈の返答は冷たいものだった。

 

「…すまない。考えが至らなかった」

 

将輝は敵勢力図とこちらの人員を思い直し、失言だったことに気が付いた。

 

「すまん。俺もまだよくわかってないんだが説明してもらえるか」

 

レオが恥を忍んでか、会話の説明を申し出た。エリカも無言で巻き込むなら詳しく話しをしろと雅ではなく達也に鋭い目で訴えている。

 

「九重さんが、九重家がこの状況下で周公瑾の捕縛に乗り出せば伝統派と諸派の内乱になる危険が高いんだ」

 

確かに先ほどの会話だけでは言葉足らずではあっただろうと、主にエリカを宥めるためと自身の考えに間違いがないか確認するため、幹比古が説明を買って出た。

 

「第九研究所への恨みから『九』の各家や現代魔法師に反感を持つ伝統派とそれと対立する組織。大まかに分けてしまえば、古式魔法師はそのどちらかに属する」

「んで香々地(ウチ)も吉田も九重も伝統派とは反目する家や。特に九重が伝統派を敵として対立するなら、最悪こっちの軍や警察の魔法師は統制が効かんようになるで」

 

呆れたように肘を付きながら、燈は深くため息をついた。

 

「古式魔法師の家の出身言うたかて、いちいち流派ごとに組織分けされとるわけやない。今日の一件で吉田の坊ちゃんは関東の人間やから多少抗議したところで日和見連中の牽制程度やろう。ウチが攻撃されたかてまあ大したことにはならんけど、九重が動いて伝統派が匿っている奴を捕まえるいうことは伝統派の連中はいよいよ後がない。んで、馬鹿な奴は保身に走って軍と警察の所属やろうと周を逃がしにかかるんやで」

「軍や警察が!?」

 

燈の発言を静かに聞いていたエリカが驚愕の声を上げた。声こそ上げなかったものの、レオや幹比古、将輝や光宣までも顔には驚愕を浮かべている。いくら古式魔法師の間の溝があったとしても、国家の保安を司る組織が対外勢力の息のかかった人物を逃がしにかかるなどとは耳を疑った。

 

「敵さんが一人かどうかは知らんけど、いくら伝統派が甘言に乗せられとったとしても、ちょろすぎる。精神支配系か認識操作系、もしくは両方の魔法を使った二枚舌の可能性もあるやろ」

「鬼門遁甲以外にも警戒が必要というわけか」

 

達也もその可能性を捨ててはいなかった。実際、その方が内部工作員としては有用な能力だろう。

 

「まあ精神操作系魔法とか鬼門遁甲の対処は一旦置いといて、今回の件はみやちゃんが論文コンペに合わせての散策ならまだ言い訳が効く。けど、九重家そのものもが動くなら火薬箱の中に爆竹ぶち込むようなもんやで。伝統派が九重に楯突いたなら連鎖で比叡山や芦屋も動くで」

 

芦屋も比叡山も伝統派とは対立する組織だ。芦屋としては伝統派の処罰に九重が動いたとなれば、陰陽系の筆頭として動くことは予想される。次期当主が雅に入れ込んでいるとあれば、恩を売りたい思惑も理解できる。また、延暦寺は雅の叔父である九重八雲が住職を務める九重寺の本山である。元々比叡山は伝統派に対して粛清やむなしの過激派寄りであるため、この期を逃すはずがない。

 

「そうなれば人探しどころじゃなくなるな」

「ついでに内乱おっぱじめたら大亜連合や新ソ連が侵攻してくる可能性もあるで」

 

この発言は達也も聞き捨てならなかった。

 

「侵攻の準備がされているのか」

 

新ソ連や大亜連合の軍が動いているという話は達也の耳には入っていない。

だが、横浜事変の際も侵攻の直前まで、本格的な戦争をすべく大亜連合の艦船が集結している情報を軍諜報部は掴めていなかった。その結果、日本は新たな戦略級魔法師が存在する可能性を他国に知られる危険性を冒してまで、戦略級魔法(マテリアルバースト)を用いて大亜連合の基地及び艦隊を消滅させたのだ。文字通り朝鮮半島の一部が地図上から消失したこの一件は、灼熱のハロウィンと世間で呼ばれている。

大亜連合の被害は尋常ではなく、表沙汰にはされていないが戦略級魔法師も死亡していることがほぼ確定しているためしばらく大規模侵攻はないと達也は踏んでいたが、どうやらその想定が甘かった可能性はある。なにせ人口規模にものを言わせた物量戦は大亜連合が古くから得意とするところだ。早急に藤林か風間に確認が必要だと達也は予定を一つ追加した。

 

「国内の眼が一か所に集まっている隙を突くのは戦争の定石やろう」

「僕もそこまで考えてなかった」

 

幹比古は古式魔法師の内乱を最悪の想定としていたが、事と次第によっては開戦となると聞かされ、顔を青くしている。

 

「忘れとるかもしれんけどまだ戦時中やで。5年前の沖縄侵攻に合わせて新ソ連が佐渡でなにやったかなんて態々一条の坊ちゃんに説明する必要はないやろ」

 

表情が良くないのはなにも幹比古だけではない。敵味方の血にまみれ、地獄のような戦場を進み、クリムゾン・プリンスという二つ名が付いたあの戦争は将輝の脳裏にこびりついている。

 

「燈ちゃんは最悪の可能性を提示したけれど、少なくとも私個人で論文コンペの安全確保という名目で動く部分に関しては咎められることは無いわ」

「とりあえず明日の行動について話を進めよう」

 

場の空気が俄かに重くなりだしたころ、達也と雅は目下の行動について話題を切り替えた。

燈の想定は昨年と同じ状況を仮定してのものだ。

達也の目的はあくまで周公瑾の捕縛。そこを押さえないことには今後も脅威はなくならない。最悪の事態が示されたとはいえ、明日行うことも同じく変わることは無い。

 

「これが京都市内の地図で、宇治川がここね」

 

雅はスクリーンに京都市内から宇治の一部が表示された地図を示した。

 

「周が最後に目撃されたのが先週。場所は今日私たちが下見に訪れた三千院だそうよ」

「そうなると意外と範囲が広いな」

 

将輝は地図をじっくりと見る。それなりに京都には足を運んだことがあるが、この人数で人一人を見つけるには範囲が広いのは確かだった。下見という体裁をとっている以上、警察に協力を求めて路上の監視カメラを当たるわけにはいかない。第一その権限は今の自分達にはない。

 

「そうでもないわよ」

 

雅は端末を操作し、スクリーンの画面を切り替えた。

京都市内の地図の大半が濃淡の異なる青に塗りつぶされ、塗りつぶされていない場所のうちいくつかには赤のフラッグが立っている。青に塗りつぶされている地点をよく見れば、古くからある寺院や神社が目立ち、赤のフラッグの数はそれほど多くはなく、どちらかと言えば中心地ではなく市の外れの方に位置している。

 

「青く塗りつぶしている場所が伝統派とは対立している京都市内の古式魔法師の流派の土地。それより薄い青は魔法師と関係ない組織、または魔法師自体と反目している団体ね」

「赤のフラッグが伝統派の主な拠点ですか」

 

幹比古の問いかけに雅は首を縦に振る。

 

「伝統派って九重と敵対するくらいだからもっと拠点が多いかと思ったんだけど、そうでもないのね」

 

エリカが意外そうに地図を見ながらつぶやく。

 

「奈良に主要な拠点があるから、こっちはそれほど多くはないわよ」

 

九重が動くことは無理だが、雅が知っている知識を提供する程度なら問題はない。濃淡の異なる半透明の青で塗りつぶされた場所は7割以上に及ぶ。官公庁や民間企業などの不明個所も多いが、古式魔法師の拠点が絞れているだけで周の移動範囲は随分と狭まっている。

 

「ただ楽観視ばかりはできないわよ。宇治川は越えていないことは今日のところでわかったのだけれど、宇治川を越えずに大阪方面に向かうルートも残されているのよね」

「山伝いに鞍馬寺や嵐山方面に逃げ、そこから大阪方面に既に逃れたのなら厄介だな」

 

達也は地図を見ながら、これまでの情報を元に潜伏している可能性が高い場所を割り出していく。宇治川は桂川と木津川と合流し淀川になるが、結界が果たして宇治川のどのあたりまでを宇治川とみなしているのか不明な以上、範囲として削除はできない。プロファイリングは彼の専門ではないが、捜査の基本は藤林から仕込まれている。

 

「そこまで逃走距離が広がれば何かしらの移動手段を使わないわけにはいかないだろう。まだ京都市内に潜伏しているとみて可能性の高いところから叩いていくしかないか」

 

将輝の意見に達也も異論はない。

 

 

「当初の予定通り幹比古たちは会場周辺を頼みたい」

「分かったよ。達也の方は?」

「俺たちは嵐山と鞍馬寺の方へ向かうつもりだ」

 

清水寺近くに居を構えていた伝統派の男の話を鵜呑みにするつもりはない。嘘の中に真実を混ぜることはその虚言の信憑性を逆に強く印象付ける。裏が取れるなら重畳。そうでなければ可能性の一つがつぶれることには変わりない。

 

「なあ、みやちゃん。チーム交代してもらっていいか?」

 

燈が達也たちとの同行を申し出た。

 

「嵐山か鞍馬でドンパチすんならウチの方がええやろ」

「まだそうと決まったわけではないわよ」

 

先ほどの戦闘でやや余韻が残っているのか、燈は一戦交えるつもりだった。

 

「あっちは血の気荒い連中みたいやから念のためな。みやちゃんがそっちに付いとった方が、やられた連中の身内も馬鹿な報復なんぞしてこんやろう。光宣君はそのままでええか」

「分かりました」

 

光宣はやや不満な表情を一瞬浮かべたものの、仕方なさそうな雰囲気を隠して燈の申し出を受け入れた。光宣は伝統派ができる原因ともなった第九研究所出身の家系だ。

相手が目をつけてくるのは光宣であり、ただの会場周辺の下見よりは達也たちと嵐山に向かう方が敵を刺激しやすい。

燈は光宣に囮になってもらうことを言外に望んでいる。光宣自身それには不満がない。今回の一件は九島が見てみないふりをしてきたツケでもあるからだ。先ほど見せた不満はあくまで雅と別行動になることに対してだった。

 

「俺はどうしたらいい?」

 

将輝は正直言えば部外者だ。勝手にすればいいと言ってしまえばいいのだが、その言葉に反発しない男ではないことは達也も理解している。

それにチラチラと妹を見る目に期待が込められていることは明白だった。

 

「一条さんには私たちに同行をしていただけると嬉しいのですが」

 

深雪はそれほど相手の視線に鈍感ではない。達也から提案するより深雪が申し出た方が丸く収まると判断した。

 

「はい!お任せください」

 

深雪にはその方が将輝のモチベーションが上がるという打算的な判断はなかったと釈明しておこう。

 





プッチンプリンはイライラしてプッチンときれた一条君(クリムゾン・プリンス)でプッチンプリン。鯛の御頭にギャグセンスは期待しないでね(´・ω・`)





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