だが、話の切れ目の関係で過去最大に1話が長いです。
21巻、22巻読みました。そして23巻が8月発売って、佐島先生の執筆スピードどうなってんの???
翌10月21日、日曜日。
達也たちは昨日打ち合わせたとおり、二手に分かれて京都市内を調査することになっている。
本来の目的を告げられた幹比古は、前日よりやる気と緊張感を滲ませている。過度に肩に力は入っていないが、内戦からの開戦などという最悪の想定を聞かされた以上、決して調査とは言え気の抜けるようなことにはならなかった。
雅の自宅が会場に比較的近いため、九重神宮前で合流すると昨日調査できなかった辺りを歩いて回ることとなった。
「おはよう、雅」
「おはよう」
早朝という時間帯ではないが、観光地である九重神宮には既に観光客の姿もあり、エリカたちも仲の良い友人たちと観光に来たように見える。
「うん………。改めてみると凄いね」
「なによ、ミキ。一人感心しちゃって」
独り言のような幹比古の感嘆にエリカは目敏く反応する。
「だから僕の名前は幹比古だ」
茶化し交じりの呼び方に幹比古が訂正するのもいつも通りのことだった。
「昨日は圧倒されて終わってしまったけど、神格の高い神社というのは本当に空気から違うと思ってね」
昨日は緊張していた部分もあってよく分かっていなかったが、敷地に踏み入れる前ですら目の前の場所は清廉な所であるという事が伝わってくる。
精霊も多いのは儀式を行う際に喚起した精霊がまだ残っているのだろうが、水の精霊も土の精霊も風の精霊も力強い波動を幹比古に伝えている。
心なしか雅の周りにも精霊の波長を感じるので、朝から祈禱かなにかしてきたのだろうかと幹比古は推測していた。
「時間があったらもう一度参拝していく?今日は特に催し物はないけれど、周りのお店も含めて案内するわよ」
「じゃあ抹茶の甘いものが食べたいな。できれば敷居の高くないところで」
「エリカ、遊びに来ているんじゃないんだよ」
九重神宮の参拝に心ひかれる幹比古ではあったが、能天気に観光に乗り気なエリカに釘を差す。
「昨日今日と続けて襲撃するほど、向こうも頭が回らないわけじゃないし、こっちには雅もいるなら余計に手は出しにくいだろうから、ホテルから会場周辺までのルートと駅からホテルまでのルートを押さえておけば十分だって昨日の打ち合わせで決まっていたでしょ」
「まあ、そうだけれど……」
あっけらからんと言うエリカに幹比古は口渋る。
狭いようで広い古式魔法師のコミュニティは、噂が回るのもそれなりに早い。昨日吉田家の人間を襲撃してきた伝統派の連中も、報復の考えはあっても二日続けて騒ぎを起こすほど愚かではないと分かっている。
家から出した抗議文もおそらく牽制にはなり、昨日のような大掛かりな手出しはないとみている。
加えて雅がいれば更なる牽制にもなり、監視されることはあっても排除されることは無いと昨日の打ち合わせでは確認している。
「あまり昨日の話を吉田君がそこまで深刻に受け止める必要はないわ。達也が依頼されて動いているってことはそちらからのサポートもあるのよ。協力まではしてもそれ以上のところまで踏み込むことはないわ」
「意外と冷静なんだね」
地元で騒ぎが起きているとはいえ、達也が任務としてくるほどの一件に雅が他人事のような雰囲気で説明をするので幹比古やエリカは意外感を覚えた。
「まさか。血で汚した人をもてなすほど寛容ではないわよ。準備だけは整えているわ」
三人が抱いた意外感は一瞬で消え去った。雅の穏やかそうに見える表情の奥に目だけはどこか底冷えのするような冷たさを孕んでいた。
京都という地元の土地を引っ掻き回されて、古式魔法師同士の対立を煽る周をむざむざ放置するほど九重は甘くない。その準備が何を意味するのか、分からない三人ではなかった。
「そういえば、九島君体調崩したって聞いたけど、雅にも連絡あった?」
「ええ、聞いているわ」
剣呑な雰囲気を振り払うように、エリカは話題を切り替えた。
光宣は病弱であり、学校も休むことが多い。
昨日までは調子よく過ごしていたが、明け方から熱が出て今日はホテルに残ることになっている。雅も心配ではあったが、達也から水波がホテルに残って看病に当たっていると聞いているので、そこまで酷いものではないのだろうと考えていた。
「それと向こうの組には七草先輩が来られるそうなの」
「七草先輩が?」
突如登場した意外な名前に三人が首を傾げる。
達也や深雪には親交があるとはいえ、すでに卒業し大学生である彼女が軍も絡んだ今回の調査に同行するほど親しいとは三人とも思っていない。まして真由美は十師族であり、簡単に動くには立場が大きすぎる。
「七草家に仕えていた名倉さんっていう方が桂川河畔で任務中に亡くなったから、その調査と言っていたわ」
「先輩本人がってことはその名倉さんの任務がよほど重要だったのか?」
レオはそのようなニュースは聞き覚えがなかったので、おそらくローカルニュースに取り上げられていたのか、警察や公安によって情報規制がされているのだと考えた。名倉が仮に京都に縁があったとしても、十師族のボディガードが遠方地で何かあったとなれば、それなりに重要な案件のはずだ。十師族の体裁上、たとえ殺害されたとしても身内の失敗が表沙汰にされることは権威の低下につながる。殺害されたとしても十師族とのつながりが出ないようにしているはずだ。
「先輩自身は名倉さんが受けていた任務の内容までは知らないそうよ。彼女の護衛として縁のあった方だったから、事件の真相が有耶無耶なのが納得いかないそうなの」
「意外と正義感溢れているのね」
エリカはそれほど真由美の人となりを知っているわけではないが、よく言えば公私の弁えができている、俗っぽく言えば猫かぶりの気質のある真由美のような強かな女性は、涼しい笑みを浮かべながら冷酷なことも時にはすることができると思っていた。まして十師族の七草家としてではなく、真由美が個人的な捜査をしていることが意外性を高めていた。
「その件に達也君が協力することにしたの?」
周の捜索という任務もあるのに面倒をまた持ってきたのかとエリカは疑問とあきれ顔半分だった。達也に巻き込まれることはもうエリカは何度も経験しているが、巻き込まれるのではなく恋人のいる達也に協力を迫る真由美も図々しいとも思う。
「横浜事変もしくは周と接点があった可能性が否定できないみたいなのよ」
「七草家が!?」
エリカが思わず大きな声を上げ、一瞬周りの観光客から視線を集める。慌てて咳払いをすると、観光客は何事もなかったかのように通り過ぎていった。
別件かと思った真由美の参加が、まさか今回の調査に関わる事案と聞いて驚かずにはいられなかった。
「七草先輩の推測も混じっているわよ。その方が亡くなる直前に横浜によく出向ていたそうだから、無関係とは思えないと言っていたわ」
「それってやばいんじゃないの?」
エリカが思わず声を潜めて聞き返す。年が明ければ十師族を選定する師族会議が控えている。海外の諜報員と繋がっていたなど他の家に知られれば七草家の十師族としての地位も危ぶまれる。それどころか日本を代表する魔法師の家の一つがそのように外患誘致をしていたとなれば、魔法師そのものの信用も失墜する。ただでさえ横浜事変以降、魔法師を排斥する風潮が強まっていると言うのに、この状況でそれが明るみになった場合を想像できない者はいなかった。
「仮にそれが事実で表沙汰になればという話よ」
現状、周の関与は真由美の推測に過ぎない。真相は当主と名倉、それと逃走中の周だけが知っている。表に出なければ、世論も動きようはない。
「会場周辺の下見を終えたらホテルと京都駅からの移動のシミュレーションをしましょうか」
「了解。行きましょ!」
一先ず雅たちの行動は昨日の打ち合わせ通りである。四人は近くのコミューター乗り場へと向かった。
一方の達也、深雪、燈、将輝は嵐山ではなく、その道中でコミューターを降りていた。これからもう一人落ち合う人物がいると燈と将輝は聞いていた。
「達也君、遅くなってごめんなさい」
「時間通りですよ」
ほどなくして駅前で待っていた達也たちの前に駆け寄ってきた女子大生は深雪も良く知る顔だった。
「あら、深雪さんたちも?」
「ご無沙汰しております。先日はお目にかかれなかったのでお久しぶりですね」
「ええ、そうね」
にっこりと余所行きの笑顔の深雪に対して、真由美は戸惑いを隠せていない表情で相槌を打つ。
達也は協力するとは言ったが、なにも彼一人とは真由美に言ってはいない。逆に言えば同行者がいるとも言っていないのも確かだ。
「一条君は初対面でもないけれど、一応自己紹介させていただきます。七草真由美です」
「お目にかかったことは覚えています。一条将輝です」
真由美は猫を被り直し、淑女らしく丁寧に頭を下げた。真由美は何時だったか父と共に参加したパーティーで彼を紹介された覚えがあり、尚且つ九校戦でも生徒会長として彼のことを紹介されていたが、直接会話したことはないに等しい。
九校戦で『
「それと確か香々地さん、だったわよね」
真由美は燈と初対面ではあるが、2年連続九校戦の個人種目で優勝という経歴は耳にしている。雅の遠縁だとも聞いているので、今回の達也と行動を共にしている理由もそれだろうと推測していた。
「どうも。香々地燈言います。よろしゅう」
燈は素っ気なく簡潔に挨拶をした。雅に対する七草家の横暴は燈も知るところであり、燈個人はまだ真由美を信用していなかった。
遠距離魔法の実力は指折りだと聞いてはいるが、血生臭い近接戦闘ができるタイプではないと立ち振る舞いから判断するに評価を留めていた。
「ところで雅ちゃんは?」
「幹比古やエリカたちと会場周辺の見回りをお願いしています」
「そうなのね」
真由美としては同行者が深雪より雅の方が有難かったのだが、今回の一件で彼女が真由美に協力する義理はないことは理解している。達也の協力があるだけで助かるのは確かだったが、将輝や燈を巻き込むか、真由美はまだ決めかねていた。真由美としては一条の跡取りを顎で使うように自分の一件に巻き込むことにやや抵抗があったのだが、この状況下で話さないわけにもいかないだろうと腹をくくり、達也に名倉のことを説明しても良いと伝えた。
将輝と燈にも達也から状況を説明したのち、真由美の案内で駅から徒歩で事件を担当した刑事のいる警察署へと向かうこととなった。
所変わって、ホテルに残った水波は達也から光宣の看病を頼まれていた。
看病と言っても光宣は少し熱が高い程度で容体は安定しており、水波が甲斐甲斐しく世話をする必要はない。
ホテルではするべき家事もなければ、勉強もない。
雅から面白いと勧められた小説を読みながら、静かに部屋でのんびりとしていた。今時珍しい紙媒体の書籍だが、静かな部屋の中でページをめくるのは中々悪いことではなかった。
同じ年頃の男の子がすぐ近くにいるのに、水波の心はひどく穏やかだった。絶世の、それこそ目のくらむような美少年が同じ部屋にいるのに、このように寛いだ気分になれることが不思議だった。
毎日顔を合わせている深雪がいるおかげで、目を見張るような美貌が目の前にいたとしても既に慣れがあるというわけではない。
九島家で光宣を初めて見た時はそれこそドキドキと胸が震える思いをしたが、それはあまり接点のない同年代の男子に対するものであったと今になって思う。
光宣は九島の秘蔵っ子と呼ばれるほど魔法力は深雪に匹敵しうるほどであり、外見の特異性もまた言うまでもない。
そんな非凡なはずの彼に、なぜか水波は親近感を覚えている。同い年だからという単純な理由ではない。どこか自分に
彼に惹かれている、意識している自分を自覚してどこか緊張もしている。
「情けないですよね、ボク」
そんな考え事をしていると、光宣からの独り言のようなつぶやきに水波は思わず手に持っていた本を落としそうになった。
「折角雅さんの役に立てると思ったのに、一緒にいられると思ったのにこのザマだなんて」
今にも泣きそうなほど光宣の声は弱弱しく震えていた。
傍から見た限り、光宣は今回の調査に熱心だった。
元々は九島が引き起こした問題の後片付け的な意味合いもあるが、雅と行動できることがなにより嬉しそうに見えた。達也や水波とも普通に話はしているが、雅と会話している時ほど花が舞い散るように嬉々とした様子ではない。それが何を意味するのか、水波は深雪から既に聞かされて理解しており、雅と光宣の間に入ることもしばしばあった。
その際に非常に残念そうな顔をされることは水波の罪悪感を駆り立てたが、主人の命令の方が優先だと自分自身に言い聞かせていた。
「病人の弱音だと思って聞き流してください」
へにゃりと光宣は笑おうとするが、どこか力がない。単に熱があるからという理由だけではないだろう。
「光宣様は雅さんのことを……いえ、何でもありません」
水波は途中まで口にした言葉を閉ざした。
聞くまでもない。
聞いてはいけない不必要な話題であったと反省する。
仮に光宣が雅に好意を寄せていたとしても、それを水波の立場としては肯定するわけにはいかない。
「好きですよ」
だが、光宣は水波の質問に答えた。
まっすぐとした、迷いのない言葉だった。
光宣自身、驚くほどすんなりとその思いを言葉にしていた。
「おじい様に連れられて奈良で行われた九重神楽の舞台に連れて行ってもらったんです」
当時、光宣はまだ本来ならば観覧は許可される年齢ではなかったので、九重神楽の舞台と言っても本番前の練習を見させてもらっただけである。
それだけでも光宣の脳裏にはその光景が今でも鮮やかに残っている。
桜の淡い色が何より鮮烈で、小さいころに信じていたおとぎ話のような魔法で、ただ舞台の雅から目が離せなかった。
一目惚れだった。
美しさで言えば、当時はまだ少年の域を出ない悠の方をこの上なく美しいと称賛する者が多かった。それでも光宣には舞台で可憐に舞う雅が誰よりも、少なくとも知り得る限りの女の子の中で一番綺麗に思えた。
雅には将来を決められた婚約者がいると知っても、この想いを憧れまでに留めようとしても、微笑みかけられ、言葉一つでその決意は崩れ去る。
「でも、僕はまだなにも告げられない」
水波には雅に対する思いを口にできても、この想いはまだ雅本人には曖昧にしか伝えられていない。達也に遠慮はしないと言っても、光宣は意気地のない自分に嫌気がさす。
今の彼女からもらえる答えは決まっている。
核心的な言葉を口にすれば、今までとは同じ関係ではいられない。
親戚という雅に近づくための建前も、パラサイトの一件で九重が九島と距離を取ったことで、向かい風に変わる。
雅が年下に甘いという認識を光宣はしている。
雅は利益を狙って近づいてくる相手にはいくら押しが強かろうと譲ることは無いが、真摯な相手には本気で向き合ってくれる。
そう知っているからこそ、猶更言葉を押し殺してしまう。
浮かんでは飲み込んだ言葉の数は、積もり積もって心の中で躊躇いという重石に変わる。自分だけを見てほしいと思いながらも、そう口にすることを恐れている臆病者だった。
「初恋は実らないだなんて誰が言い出したんですかね」
それでも好きだと心が叫ぶ。なんて不自由で儘ならないものだと悪態を吐く。いっそ知らなければこんな苦しむこともなかったのにと思うのに、無関心でいられたらと思うのに、思い通りにはならず現実はひどく胸を締め付ける。
「っ……」
「光宣様!」
水波が慌てて椅子から立ち上がり、光宣の枕元に付き添う。
今まで弱弱しくも話ができていた光宣の呼吸が乱れたのだ。息はか細く、浅い。額に手を当ててみれば熱も上がっているようだった。
水波はフロントに連絡し、医師を手配しようと部屋備え付けの連絡端末を手にしたところで一度停止する。
光宣は第九研究所の作品の血を引く魔法師だ。普通の医者に見せてもいいのだろうかと思案した。魔法師は体のつくりとしては特別な器官が備わっているわけではない。中には遺伝子調整体など人為的に作られ、敏捷性や反応速度などの身体能力が強化された者も存在するが、人体の構造上は非魔法師と魔法師の差はない。それでも彼個人になにかしらの事情があるのならば、普通の医師では対応できない可能性があり、尚かつ彼個人の人体に関する情報が検査されてしまう。
だが、素人看病だけで済む領域は越えている。
水波は考えを巡らせた後、部屋の備え付けの端末ではなく自分の端末を手にして達也に指示を仰ぐことにした。
水波が達也に連絡をしたころ、達也たちは警察署を出て名倉の死体があった渡月橋で有名な桂川の川原、嵐山公園の中之島地区の方に来ていた。
連絡を受けた達也は今は通常通りの看病をすることと、藤林に連絡をすることを水波に伝え通話を終了させ、続けて藤林に連絡を取る。
元々藤林からは光宣が体調を崩した場合、連絡をするように言われており、状況とホテルの部屋を伝える。直ぐ向かうという事だったので、光宣が体調を崩すことを予期していた部分もあるのだろう。
「光宣君、熱でも上がったんか」
会話の断片を聞いていた燈が達也に問いかけた。
「そのようだ。藤林さんに来てもらうように頼んでいるから、そちらは問題ないだろう」
「まあ、光宣君学校もあんまり来られへんからなあ」
学年は違うが、光宣は学校でも有名人だ。
十師族という肩書に加え、あの美貌となれば噂にならない方が可笑しい。
そして体調を崩しやすい事もまた知られており、学校も4分の1程度休まざるを得ず、本人の儚げな印象を加速させている。
今回の体調不良も燈は心配こそしても驚きはしていなかった。
「それより、香々地は先ほどのアレをどう感じた」
「なんや。唐突に」
「名倉さんの遺留品だ。アレを見て顔を顰めていたが、単に血痕に眩暈がしたわけではないだろう」
達也は先ほどの警察署での燈の様子が気になっていた。
警察署では事前に真由美が頼んでいたとおり、名倉の遺留品を検分させてもらった。名倉の遺留品は衣服や時計など日常身に着けている物しかなく、CADは既に七草家によって回収されている。CADがあれば直前にどのような戦闘が行われていたのか推測も容易になるのだが、CADは魔法師にとっては機密情報の塊である。
達也もそれは想定の範囲内だったので、衣服に魔法的な痕跡がないか検分し、名倉が幻獣の類に襲われたことが感知できた。加えて、事件を担当した刑事の証言や真由美からの話を合わせて名倉の死因を、魔法によって自らの血を針のように打ち出した捨て身の攻撃と推測していた。
燈は積極的に検分には参加していなかったが、遺留品を一瞥すると眉間に皺を寄せ、険しい顔をしていたのが達也には気になっていた。
燈は初対面の真由美がいるから意見を遠慮するような可愛い性格ではない。そして例え血まみれの遺留品を見たところで顔を青くするほど肝の小さい少女ではないことも知っている。
達也には感じ取れなかった何かがあったとみるべきなのだろうと推測していた。
「自分、後ろに目でもあるんか」
燈は気が付かれていないと思っていたのか、驚きを通り越して呆れ顔だ。
燈は目を一度伏せ、ため息をついた。
「あれはヤバイで」
ヤバイという言葉に真由美と将輝の表情がより真面目なものに変わる。
「獣くさいのと、腐臭が酷すぎる」
「そんな悪臭したか?」
将輝は燈の言葉に疑問を呈した。
名倉の血は既に時間が経過し、固まっている。匂いも鼻を近づければ分かるだろうが、腐臭がするほどではなかった。
衣類に付着していたのは全て本人の血であり、その他は現場にあった砂利などの微細なものしか付着しておらず、犯人の痕跡は警察の分析でも分からないままだった。
「感覚的なもんや。獣くさいのはたぶん幻獣で間違いないけど、腐った匂いは飼い主やな。しかも単なる怪我やのうて、呪術の類や」
「周が何らかの致命傷を負っているという事か」
九校戦の最終日、達也は周が四楓院家の者と接触したことを知っている。決して小さくない傷を負っただろうが、その傷が何らかの理由で治癒できていないとなれば、傷の一部が腐敗している可能性も十分にある。
「知らん。少なくとも戦った時には既に腐っとる。誰かに呪われたか、なんかの術を使った代償かまでは分からん」
「術の代償で悪臭や腐敗を伴うものがあるのか」
古くは他人の体や自分自身を供物として、大掛かりな術を発動させる魔法が存在した可能性は示されている。今となっては各流派とも伝承としてしか残っていなかったり、禁術に指定されているが相手にその常識が通じていたら、そもそも工作員などやっていない。危ない橋はいくつも渡っていることだろう。
「多少誤魔化せるやろうけど、
燈の感覚では戦闘の詳細までは分からない。
『佐鳥』の家の者ならば衣服一つでその服の製造先から誰の手に渡り、名倉が身に着け、さらにその服が受けたであろう攻撃のすべてを把握することができたであろうが、それを口にするほど燈は今回の名倉の件に関して協力するつもりはなかった。
「ひとまず周りを見て回ろうと思いますが、よろしいですか」
「分かったわ」
達也たちが今いる場所は既に警察の現場検証は終わっており、現場にも問題なく入れた。血痕など事件があったことを示すものは一見なさそうだった。真由美の同意も得られたので、達也は足を上流へと向けた。
その後上流に向かって歩いて行った五人は渡月橋を渡り、嵐山公園亀山地区の丘陵を登っていた。坂の頂上までくれば竹林の道と示された案内板があり、更に進めば天竜寺に行きつく。
「ちょっと達也君」
真由美は裾の広がった丈の長いスカートとヒールのあるローファーであり、スニーカーとパンツスタイルの深雪や燈に比べると動きやすさという点では劣る。決して動きやすさを無視したわけではないが、同じように歩いてきた深雪や燈が涼しい顔をしているのに対して真由美は上り坂にやや息を切らせていた。
「少し速かったですか」
「そうじゃないけど、達也君どこか当てがあるの?全く迷う素振りがないけれど」
指摘されて、達也は自分の態度が不自然なものであったことに気が付いた。
このあたりに伝統派の一味が潜んでいると前日、料理屋の呪い師から聞き及んでいてそれを確かめるべく達也は歩いていたのだが、真由美に伝統派の一件は何も話していないため達也はすぐさまどう誤魔化すべきか、思案する。
将輝はそれほど接点がなく、巻き込んでも後腐れがない。光宣に関しても最初から協力者であり、伝統派とも因縁のある家だ。だが、真由美は中途半端に親しく、巻き込んで怪我でもさせたならば「責任を取れ」などと借りたくもない借りを作る羽目になる。あくまで達也が真由美に協力しているという体裁を崩したくはなかった。
「なあ、取り込み中のとこ悪いけど、囲まれとるで」
燈は小声でつぶやいた。
その静かな声は4人の警戒を引き上げるのに十分だった。
「いつの間に」
「人除けの結界や。感知されんようにうちらを囲うような形で敷かれとる」
確かに言われてみれば、観光地であるはずなのに人気があまりにもない。
達也が眼を外に向けると、確かに結界が自分たちに感知されないように大きく取り囲む形に設置されていた。
一条や真由美は視線を彷徨わせて相手に気取られるようなことは無く、真由美はすぐさまマルチスコープで潜んでいる敵を探し出し、一条もポケットに入れていたCADの待機状態を解除していた。
「お兄様!」
深雪が領域干渉を広げる。
こちらに飛んできた鬼火が深雪の対抗魔法に呑まれ、消えた。それを見た相手もすぐに手を切り替え、真空の刃を走らせるが、またもや領域干渉に阻まれ霧散し、達也たちに届くことは無かった。敵には強力な領域干渉の下では、それを維持し続けるだけの魔法力がないことは明らかとなった。
「一条!」
「任せろ!」
達也と将輝で前後を挟むように真由美と深雪を守る体制を取った。
燈は側面を守るべく、指ぬきのグローブを既に手にしている。
「正当防衛は成立やな」
燈は心なしか嬉しそうに、深雪に向かって伸びてきていた青、赤、白、黄、黒の紐を掴み取る。燈が小さく舌打ちをしたのを目にした達也がそれを燈から引き受けると、キャストジャミングに似たノイズが奔っていた。
空間に魔法発動を阻害するノイズをばらまくアンティナイトとは違い、対象の魔法発動を直接阻害する効果がある。密教系の古式魔法師が使う羂索と呼ばれる術だった。達也は羂索そのものを分解せず、ノイズのみを分解した。掴んだ紐を力強く引っ張ったところ、二人の男が竹藪からつんのめるようにして姿を現せた。一般的な男子より力は強いが達也は並外れた怪力というわけではなく、普通ならば大の男二人を引きずり出すほどの力はない。だが、相手の古式魔法師は思わぬ方法で術が破られたため虚を突かれた格好となった。
「二日続けて警察のお世話は勘弁やで」
「穏便に制圧できるのか」
ちらりと燈を盗み見ると既に呪符を用意していた。どうやら何か策があるようだった。
「合図したら耳塞ぎ」
「遮音壁でいいのか」
「せやな」
真由美がブレスレット型のCADに指を走らせると雹の礫が竹林に降り注ぐ。空気中の二酸化炭素を固体化させ、時速500㎞を超える高速で発射されたドライアイスの礫に、古式魔法師たちは重症には至らなかったものの所々に血を滲ませていた。隠れていても無駄と悟ったのか、攻撃を回避するためか、竹林から達也たちを前後に取り囲むように姿を現した。
だが、その数は11人。達也の眼にはまだ一人竹林に潜んでいる術者の姿を捕らえていた。
「壁頼むで」
「分かりました」
準備が終わったのか、深雪は燈を除く形で遮音壁を展開する。
燈は大きく息を吸い込む。
燈が大きく口を開き何か叫んだ途端、古式魔法師たちは耳を押さえて膝をついた。燈がもうよいと手を振り、深雪は展開していた遮音壁を解除する。
「穏便に済んだやろ」
「穏便の定義はさておき、大音響による鼓膜破壊と三半規管へのダメージで気絶させたか」
「まあ去年、自分がモノリスでやったパクリやけどな」
燈が実行したのは新人戦のモノリスコードで達也が行った音響攻撃の手法であり、将輝は苦い顔をしている。
「あの距離で気絶するだけの音量を出していたのか」
達也がモノリスコードで将輝を気絶させたときは耳元で音を増幅させていたが、今回の燈の手法は敵との距離が少なくとも10mはあった。
いくら爆音とは言え、音は距離に比例して感知できる音量が変化するため、至近とは言い難い距離に気絶させるほどの威力を出す方法には疑問が残った。
将輝はCADを構え、警戒しながら術者に近づき安否を確認する。
全員、耳から血を流しているが、息はあった。
音響攻撃というのは牽制や奇襲の意味合いが強いが、暴徒の無力化にも用いられる。鼓膜が破壊されたとはいえ、内耳に影響が出るほどでなければ後遺症も残らない。
方法としては確かに穏便とも言える。
「精霊を使って術者の耳元で増幅するように調整していたのだろう」
「せやで。女々しい声で喉痛いのが難点やな。人除けの結界もあんだけでかい音がすれば流石に気付いて誰か来るやろ」
「それで悲鳴か」
「昨日の一件であっちこっち警察の魔法師が巡回しとるから、ボチボチ来てもらえるやろ」
古式魔法師たちが敷いていた人除けの結界であっても音まで防ぐ類のものではなく、女子の悲鳴となれば騒ぎになることは確実だった。通行人はいなかったものの、悲鳴を聞いたと言う証言があれば警察にも襲われたと言う印象を持たれやすいだろう。
竹藪の中で気絶していた男も合わせ、12人の男たちを羂索の紐を用いて固く縛ると警察に一報入れることとなった。
「時間的に鞍馬は行けん可能性あるけど、最悪ミヤちゃんたちに頼むか?」
「いや。こちらの騒ぎを聞きつけて相手も今日は警戒しているだろう。話を聞いてくれるとは限らない」
「コイツらが話せば早いんやけど、鼓膜イッてるからなあ」
失敗だったなあと言わんばかりの表情で燈はやや冷や汗をかいている。
「例え耳が無事でも、私人が取り調べを行えば下手をすれば拷問、不当逮捕、脅迫、暴行などの罪に問われる」
「てことは、また警察に丸投げかい」
「そうするしかないだろう」
燈の重い溜息を聞きながら、背後では既に深雪が警察に連絡を取っていた。達也は古式魔法師たちに目を向ける。それでいて焦点は負傷者たちの上にないことを真由美も将輝も気が付いていなかった。
案の定、警察での取り調べが長引いた結果、達也たちは鞍馬寺方面まで回ることはできず、ホテルに戻ってきていた。
担当した刑事が十師族に好意的な人物でなかったことも時間が長引く要因となっただろう。傷自体は燈や将輝が前日相手取った者たちよりは小さいものの、二日続けて未成年の魔法師が起こした問題に警察としてもなあなあで済ませるわけにはいかなかったようだ。
一条と七草の名前があって不利な調書を作られることは無かったが、取り調べをしたのが芦屋の傍系の陰陽系の古式魔法師とあって燈には敵対心が滲んでおり、燈が下手に出ていても嫌味の過剰積載だった。
真由美が場を持ってくれたおかげもあったが、精神的に疲労したのは言うまでもない。
幹比古たちが帰ってきたのはそれからおよそ30分後のことだった。
その30分で達也はホテルに来ていた藤林に頼まれ
藤林が口利きをしたのか、今日は会議室ではなく燈や雅も男子が使用していた和室に揃って今日の成果について情報交換することとなった。光宣も藤林が持ってきた薬を飲んで体調が回復したのか、ダルさから布団からは起きられないものの呼吸は安定しているので、話し合いを聞くこととなった。
幹比古たちの方は特に大きな問題はなかった。昨日の一件があってか警察の制服、私服の魔法師が多く巡回に当たっていたらしい。会場周辺にも不審人物や不審な建物も見られず、去年のような事件は引き起こしにくいと判断していた。
達也たちの方は密教系の古式魔法師に小倉山の麓で襲撃を受けたが、こちらは無傷で済み、襲撃者は既に警察に引き渡したことを伝えた。
「それで、これからのことなんだが」
「今日でホテルをチェックアウトして東京に戻るんじゃないの?」
エリカが素っ頓狂な声をあげる。
エリカの言う通り、変則的だがこの後チェックアウトして東京に戻る予定になっていた。
「俺はもう一泊していく。明日警察に行って今日捕まえたやつらのことを訊いてくるつもりだ」
「私も報告をかねて家に寄ってから朝には東京には戻る予定よ」
「お兄様とお姉様が残られるのでしたら、私も」
深雪の言葉を達也は途中で遮った。
「深雪、お前は生徒会長だ。いくらコンペのためとはいえ、この時期に二日も学校を休むのは宜しくない」
「……分かりました」
深雪にとっては学校よりも達也と雅のことが重要だったが、強い口調で命じられれば彼女に反抗する言葉はなかった。
「風紀委員長が二日連続で不在にするのも、ずる休みをするのもよろしくない」
エリカは自分が残ると言いたげに上げかけていた手を所在なく下におろした。
「達也は良いのかよ」
「俺は立場上、もう少し調べる必要がある」
レオや幹比古は達也の言う立場が何か知っているし、エリカはさらに詳しいことまで知っている。それを持ち出されれば素直に他のメンバーも引き下がるしかなかった。
まるで今生の別れかのように目を潤ませた深雪に思わず計画の変更をしそうになったものの、達也はなんとか深雪を宥めて駅まで見送りをした後、雅と九重本宅を訪れていた。
雅は報告がてら一泊して、早朝のリニア特急で東京に戻る予定になっている。京都での稽古事が長引くこともあり、制服は京都の自宅と東京の住まいの両方に置いてあるため、東京の家に帰って準備をしなくても自宅から通学することができる。早朝のリニアは人気もまばらなため、見慣れない第一高校の制服を着ている生徒が一人いたとしてもそれほど目立つことは無い。交通機関の発達により朝早いことと金銭的な負担を除けば、京都から東京というのは通えなくはない距離にある。
達也と雅は本家の客間に通され、そこには悠が座していた。
一枚板の立派な応接机を挟んで、悠は達也と雅に茶を出した。
茶室ではないので、湯呑に入った普通の緑茶だが、それ程茶葉に詳しくない達也でもそれなりの品だという事は分かった。
「随分と派手に仕掛けられたそうだね」
悠が昼間の戦闘を把握していることは達也の想定の範囲内だった。
青年の域に入った悠が濃紺の普段使いの小袖を着て、ゆったりともてなしていたとしても達也としては姿勢を崩すことはしなかった。
九重の中でも悠は今のところ好意的に達也を扱ってくれてはいるが、全幅の信頼を寄せる味方というわけではない。息抜きと称して達也を色々なところに遊びに連れ出して随分と振り回された経験もあるが、油断のならない相手という意識は抜けない。本人はそれを非常に残念そうにしているが、達也はそのスタンスを崩すつもりはなかった。
「それで収穫はあったかい」
「有力な手掛かりというほどのものはありません。ただ周公瑾が幻獣を使う可能性と、何かしら負傷をしていて治癒できていない可能性が浮上しました。足取りについては明日、鞍馬寺近くに潜伏している術者に確認する予定です」
「ちょっとお灸も据えておいてくれると助かるな」
「手短に済ませるつもりです」
達也の返答に悠は満足げに笑みを深めた。
「それと達也。光宣君を
監視されていた気配が一切ないのにもかかわらず、千里眼で悠に見られていたことに達也は思わず眉間に皺が寄りそうになる。なまじ異能の類であって魔法的な痕跡が非常に残りにくい千里眼は、達也の感覚を持っても感知することは非常に困難だ。隠し事は通じず、手の内は全て知られ、行動も把握されているという前提で動かなければならない厄介な相手である。
その眼から逃れる術を達也は聖遺物も含め模索はしているが、それですら知られていることだろう。
達也たちがホテルに戻ってから雅たちが戻るまでの30分間。
真由美は同じホテルの別室におり、将輝はバイクを引き揚げ、金沢に帰っていった。光宣がまだ穏やかに寝ていたその時間で、達也は藤林にとある調べものを頼まれていたことを素直に認めた。
「ええ。藤林さんから彼の病弱の理由が想子体にあるのではないかと言われ、確認しました」
「それと彼のルーツも知っただろう」
達也の精霊の眼で光宣を見てほしいと藤林に頼まれたが、想子体を見るという事は光宣が何によってできているか、彼のルーツを知ることになる。
その情報は光宣一人だけではなく、彼の両親の遺伝情報、ひいては第九研究所の研究成果の一端まで分かることとなる。
「雅にも話しておこうか。それとも達也から話す?」
達也は首を横に振る。悠が同じことを知っていたとしても、自分の口から話せるような内容ではないことは確かだった。
「光宣君は九島真言氏と藤林の奥方との子だよ」
悠は一呼吸置いた後、無機質に事実を告げた。言葉の意味を察した雅は目を見開き、体を強張らせる。
「九島家の実の兄妹間の子ということですか」
雅の確認に悠は静かに首を縦に振った。
光宣は対外的には九島烈の長男と彼の妻の間にできた子であるとされている。しかし達也の眼は九島真言と藤林に嫁いだ九島烈の末娘の子であるという結果を示した。
「調整するために人工授精だっただろうけれど、なんらかの不備があったのか、虚弱ではないけれども体調を崩しやすくコンスタントに実力を発揮できない体になってしまった。彼があれだけの美貌と才能が有りながら驕るどころか謙虚という自信のなさが表れているのはそのせいだね」
「なぜ九島はそのような愚かなことをなさったのですか」
「九島家というより真言殿がということかな。彼個人は魔法師としては有能でも、トリックスターと称され軍でも活躍していた先代当主に比べれば、劣等感に駆られることもあったんじゃないかな。ならば自分の血を引く最高の魔法師を誕生させたいと妄執に捕らわれてもおかしくはない」
雅が息を呑み、膝の上で拳を握りしめる。大人の身勝手な理由で光宣が生まれたことは明白だった。
「彼はこの事実を知っているのですか?」
「知らないと思うよ。知っているのも九島家のごく一部だろうし、倫理的に大問題であることは承知のはずだよ」
黎明期の魔法師研究所でさえ、近親間の魔法師の交配は避けられていた。
例え遺伝子を調整したとはいえ、近すぎる遺伝子情報が魔法師の身体や精神にどのような影響をもたらすのかはっきりしなかった部分もある。
達也としてはするべき報告は既に終わっている。
この後は達也は適当に定食屋かどこかで夕食を済ませてホテルに戻るつもりだったが、雅の母から達也の分も夕食の準備ができていると言われれば断るのは忍びなかった。
夕食を辞退する理由が全くないわけではなかったが、一見気丈に見えるが、光宣の出生の秘密を聞かされ、衝撃を受けている雅を放っておくほど達也は薄情ではなかった。
「あ、そうだ。達也」
夕食が用意されている部屋に移動するために席を立った達也を、悠はちょいちょいと小さく手招きをする。机を回って悠の傍に近づくと、悠は懐にしまっていた扇を広げ、口元を隠しながら達也の耳元で囁く。
雅には口の動きは見えないが、僅かに眉を顰めるように動かした達也の反応を見る限り、あまり達也にとっては良い話ではないことが窺えた。雅がいるこの場で話したことであるので、差しさわりがある話というより、おそらく揶揄っているのか何かなのだろう。
その後、ホテルに戻るとなぜかホテルのBarから出てきた酔いどれの真由美に絡まれ、部屋まで送り届けたは良いものの、幼児退行した口調で服まで脱がせろと無茶を言ってきたのには閉口した。達也はやはり千里眼に嬉々として予言された日には碌なことが起こらないと思い知った。
悠が達也に耳打ちした言葉
「今夜だけど、女難の相が出ているよ。頑張ってね( `・∀・)ノ」