書ききれなかった部分も多々ありますが、ちょこちょこ捕捉していけたらなと思います。
今日は2話投稿します。次はオマケみたいな話なので、読み飛ばし可です。
ちなみに23巻買いましたが、表紙のお兄様の美麗さに打ちのめされてまだ読めてません(;゚Д゚)
10月28日(日)論文コンペ 当日
昨日夕方に起きた宇治基地での騒ぎは、大半の生徒たちの耳には入っていない。本来ならば陸軍憲兵隊が内々に処理する案件を、達也と一条君が基地を襲撃し、潜伏していた周公瑾を炙り出した。潜伏先は鞍馬の古式魔法師と軍に裏を取ったようだ。金沢に位置する三高も前日入りしており、一条君には達也が協力を要請したらしい。
補給と名前がついていても相応の戦力を有する基地の襲撃はリスクも高く、内乱一歩手前どころか、ほぼ内乱と言っても差し支えない事態だったそうだ。
そして結果的に言えば、周公瑾は自決した。
襲撃の騒ぎに乗じて周は基地から車を使って逃走し、宇治川で二人に追い詰められ、最期は自ら発動した炎に包まれて塵となって死んだらしい。
魔法師の体は機密情報の塊だ。スパイならば生きていれば生体実験、例え死体であろうともバラバラにされ、遺伝子情報の解析をはじめ数々の実験に用いられる。そこには死者に対する尊厳など存在しない。
大亜連合ならばソーサリーブースターに流用される可能性もある。今ではソーサリーブースターの供給源となっていた
そういう事情もあってか体を残さず死んだのは、自身の体を調べられることを恐れたからだろう。
そう達也から教えられたのは、昨夜9時を少し過ぎてからだった。硝煙も戦闘の埃っぽさも微塵も感じさせなかったが、どことなく達也からは血の匂いが感じられた。
怪我がなかったことは幸いだが、達也としては捕縛できなかったことで任務の結果には満足していないようだった。今回の一件は四葉から達也に与えられた任務であり、達也の四葉家への貢献と力量を図る意味合いもあった。
この結果がどう左右するのか、今の段階では分からない。全てはまだ真夜様の裁量次第だった。
目下の標的であった周公瑾の存在を気にしなくてよくなったことは幸いだが、私は朝から警備の担当として
一高の発表自体は午後から予定されているが、警備の主体は一高であり、私も朝から会場入りし、各校の警備担当との最終確認をしている。各校担当と最終的な打ち合わせが済めば、簡単に全体会を行い、持ち場に散ることになっている。
各校から人員を割いてもらっているが、単純な人数言えば一、二、三高の生徒が多い。一高は警備責任、二高は開催地に最も近い学校、三校は武の三高と呼ばれるだけあって立候補が多かったこともあるが、単純に各学校の人数比率に合わせている部分もある。
「おはようございます、一高の方々」
警備の打ち合わせは二高の代表からはじまり、打ち合わせの時から何度か画面越しに顔は合わせていて知ってはいるが、二高の警備代表は芦屋さんだ。
「二高警備主担の
「こちらこそ、よろしく頼む。二高には準備をはじめ多くのことに協力してもらい、感謝している」
芦屋さんは薄っすら笑みを携え丁寧に一礼したのに対し、服部先輩も背筋を伸ばし、軽く頭を下げた。二人とも元々生徒会役員であったためコンペ以前から面識があり、今回の警備の件で何度も打ち合わせの通信をしているので知らない相手ではないが、やけに挨拶は堅苦しさがあった。
服部先輩は警備総隊長という役割と本人の性分もあるだろうが、芦屋さんもどこかピリピリしている。芦屋家ならば昨日の基地襲撃の一件を耳にしていても不思議ではない。
「いえ。本来ならばこちらが任せていただくべき事ですので、お気になさらず」
「土地勘がある者がいるのは心強い。去年のようなことがないように念を入れてはいるが、それに油断することなく気を引き締めていきたいと考えている」
二高があるのは旧兵庫県の西宮市であるが、二高からしてみれば京都開催は地元での開催と言っても差しさわりないくらい熱が入っている。その年の九校戦モノリスコードの優勝校が警備主担当になることが慣例とは言え、余所者に大きな顔をされるのはあまり気分のいい事ではないのだろう。
芦屋さんは服部会長から私に視線を移し、先ほどとは違う人当たりのよさそうな柔らかな笑みを浮かべた。
「雅さんは、予定どおり受付でしょうか」
「ええ。受付の警備の後、来賓の皆さまに警備状況の説明をする予定です」
「そうですか。何かお気づきの点がありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとうございます」
当日なので二、三点報告と確認だけで二高との打ち合わせは終わった。昨年は対人警護の方に当たっていたので私は全体警備の細々とした部分は詳しく知らなかったが、準備自体は当日までに整えているので、それほど今日改めて確認することもない。体調不良の生徒などが出ると配置転換などもあるが、人員は余裕をもって配置されているため、一人抜けた程度では大きな支障は出ない。去年のようにテロが発生すること自体、異例だったと思わなければいけない。
「それではまた」
芦屋さんは一礼して、その場を後にした。芦屋さんと直接会うのはかなり久しぶりのことだったので少し身構えていたが、特に何もなく挨拶のみで終ったので心配は杞憂だったようだ。
「九重は二高の元生徒会長と知り合いか」
沢木先輩が芦屋さんの去った後に小声で話しかけてきた。沢木先輩は警備スタッフの訓練に携わることが多かったので、代表の打ち合わせについては連絡を受けているだけで実際に芦屋さんとはこれが初対面のはずだ。
「中学時代に学校間の交流で何度かお会いしたことはあります」
事実とは言え、まさか求婚されていますとは口が裂けても言えない。学校こそ違ったが、彼も京都在住であり中学時代は生徒会に所属していた関係でなんどか顔を合わせたことはあるので間違いではない。
芦屋という名前から分かるように、古式魔法師でも名門と呼ばれる芦屋家の嫡男であるため、顔を合わせる以前からその噂は私の耳にも入ってきていた。全く知らない相手ではないが、あれほどまで好意的にみられている理由が分からないのが腑に落ちないところではあるし、いい加減諦めてほしいと常々思っている。
「単なる顔見知りならいいが、変に因縁を付けられても困ると感じたところだ」
「大丈夫ですよ。なにか気になる点でもありましたか」
服部先輩との会話にも私との会話にも、芦屋さんの対応に問題はなかったと思うが、沢木先輩は苦手なタイプだと言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。
「笑顔が胡散臭い。対応は丁寧だが、言葉の端々といい、眼の奥といい、なんか腹にヤバイものを飼っていそうな気がしてならなくてな」
これには私も驚いた。燈ちゃんが狐と称するように、彼も十重二十重に縁絡まる陰陽系古式魔法師の筆頭とも言える一家の跡取りとしてそれ相応に内に飼っているものはあるし、それを常人に悟られないための処世術も持っている。短時間のやり取りではあったが、沢木先輩の観察眼は並ではないようだ。
「コンペ自体に水を差すような野暮なことはなさらないと思います。強いて言うならば、二高生としての矜持ではないでしょうか」
「まあ、プライドは高そうだな。やっぱ念のため司波を呼んどくか?」
「達也ですか?」
生徒会長である深雪は審査員の一人として朝から会場に詰めているため、ここで言う司波は達也のことだろう。昨年はコンペの発表メンバーだったため警護される側だったが、今年は警備の一人だ。魔法工学科の生徒でもあることが配慮されたのか、発表の行われるホールの方の警備が中心となっている。
「嫁さんが他の男に色目使われているなら、追加の警備くらい司波も引き受けるだろう」
芦屋さんに好意を持たれていることは知っているが、沢木先輩に達也を引き合いに出されるとどう返答して良いか困るものではあった。
京都開催ともあり、来賓の顔をそれなりに知っているという事で私は来賓受付の担当に朝から出ていた。生徒会からは泉美ちゃんが同じく受付に割り当てられており、姉仕込みであろうマルチスコープで許可をされたメディア関係者以外の違法すれすれの盗撮機械の発見に尽力していた。
学生コンペと言っても産業スパイなどの危険もあり、指摘された者は恐らく来年から出入り禁止になるだろう。来賓の来る時間帯はある程度決まっているので、予定人数が来たところで私は来賓の皆様に警備の説明をして、その後は警備隊の詰め所で待機していた。
警備隊の詰所はホール近くにあり、中での発表の様子や観客の様子はモニタに映し出されているので、コンペの発表を全く見られなかったということは無い。
交代でホールや会場の見回りもして午前の部が終わると、私はとある控室に呼ばれていた。一部の来賓は開会式で帰ってしまった人もいるので、来賓控室は設けられているが、全員が全員個室というわけではなく、個室の控室を利用しているのはごく一部だ。
「改めて久しぶりね、雅さん」
「ご無沙汰しております、舞衣様」
私は来賓として訪れていた
「そのように畏まらなくてもいいのよ。コンペは久しぶりだから少し顔を見せにきただけなの」
にっこりと笑う二木家当主、二木舞衣。表向きは複数の化学工業、食品工業会社の大株主だが、十師族の一角の二木家として阪神、中国地方の警戒監視に当たっている。
京都の監視は九島家の管轄だが、彼女が筆頭株主である企業が京都にいくつか存在し、九重神宮にも多額の寄付をしてもらっているので何度か会ったことはある。ただ、個人的に親しく連絡を取り合う間柄でもなく、九重神宮としてはともかく、家としての付き合いは無いに等しい。
私が呼ばれた理由はいくつか思いつくが、まだこの段階では推測に過ぎなかった。
「昨日はちょっと宇治の方で騒ぎがあったみたいだから心配していたけれど、雅さんが警備をしているなら安心ね」
「恐れ入ります。協会とも連携し万全を期しておりますが、至らない点がありましたらご指摘いただけたら幸いです」
宇治の方というのは、昨日夕方、陸軍宇治第二補給基地が何者かに襲撃された件だろう。実行犯は身元不明の男性二人と確認されているが、未だ犯人に迫る確定的な情報はない。そもそも陸軍憲兵隊がこのことを表沙汰にしていないので、捜査自体行わないことになりそうだ。
それでも十師族という立場上、その情報は個人的な伝手か協会を通じて彼女の耳には入っているはずだ。その情報の真偽も確かめるべく、私の反応を伺っているのが見て取れる。
「説明を聞く限り警備に不足はないと感じたわ。協会も警察もいつもこのくらい協力的ならば助かるのだけれど、派閥の枠というものは困ったものだわ」
彼女は困ったようにため息をついて見せた。
京都という都市は複雑だ。
近くに第二研究所、第九研究所出身の家々があり、魔法師が絡む組織の監視体制が敷かれている一方で、古式魔法師の地盤がとても強い。宇治基地の中でも被害が大きかったのは古式魔法師の派閥であり、周を匿っていたのもまた密教系のグループが中心となっていたことは私の耳にも入っている。派閥は違っても、すぐ近くの宇治であったことを私が知っていると推察することは当然だった。
「ですが市民の方々にも丁寧に広報をしてくださったおかげで、無事開催できたことは喜ぶべきことです」
聞かれてもいないことを答える必要はない。彼女が言外に昨日の一件の情報を求めていたとしても、宇治基地での顛末を私が説明する義理はない。
情報を渡して借りを作ることもできるが、それをしたところで九重に利益も不利益もない。精々寄付の額に色が付くかつかないかの差だろう。
どんなに憲兵隊が秘密にしようとも、二木家ならばその内事態を把握できることだろう。
私が答えないことが伝わったのか、それ以上の詮索はなかった。
彼女は少し姿勢を正し、用意されたお茶を口に含んだ。
「それにしても、雅さんは素敵なお嬢さんになっていて驚いたわ」
声色はそれまでと変わらない。それでも目の色から先ほどの話があくまで導入でしかなかったことが伺えた。
「そんな。魔法も神事に関しても未熟な点が多く、お恥ずかしい限りです」
「さぞ噂の婚約者も鼻が高い事ね。上のお兄様も錦織家の方とご結婚なされたんでしょう。うちの子もそろそろと思っているのだけれど、そんなに興味がないのかまだ独身で、結婚については姪の方が乗り気なくらいなのよ」
「確か麻美様さん、というお名前でしたでしょうか」
彼女の長女の二木結衣さんは今年で28歳。魔法師としては結婚は遅い方だが、次期当主ならばそれだけ相手選びにも慎重になっているだろう。それより、ここで姪のことを持ち出してきたことが重要だった。
「ええ。身内贔屓かもしれないけれど素敵なお嬢さんなのよ」
「今は魔法科大学に通われているのですよね」
次兄の高校時代の同級生だったので、話くらいは聞いたことがある。
「ええ。3年生よ。でも研究テーマに魔法技術の経済学を選ぶ当たり、ウチの商売人としての気質が出たのかしら。確か貴女のお兄様とは高校の時の同級生だったのよね」
「同じ学年のはずです」
「悠さんにも素敵な方が見つかったのでしょう。九重は祝い事続きね」
ここまでくれば彼女の本題は明らかだった。
「さぞ縁の深い人なのでしょうね。その方には貴女もお会いしたことがあるの?」
「いいえ。薄情な兄は時期が来るまではと教えてくれないのです。もしかしたら妹に紹介だなんて気恥ずかしいと思っているのでしょうか」
「あら、そうなの」
「流石に両親には伝えているようですよ」
意外そうな反応はしているが、私を探る視線は止まない。
次兄の婚約者の存在は公表されていない。存在は確定したが、正式な結納もまだであり、私でもその彼女の年齢も家柄も何も分からない状態だ。
「聡い貴女なら、私が招いた理由はお判りでしょう」
九重の次期当主として内定している兄の婚約者の存在は、十師族としても関心事だ。昨今の魔法師を取り巻く情勢を考えれば、九重という看板は家の名を大きくすることに役立つ。
そして身内でも同じ血が流れているのか時々疑いたくなるような美貌を持つ兄に見染められたいと思う女子は決して少なくない。それが同じ学校であったならば可能性があると考えることは不思議ではなく、正式な婚約者の発表前ならばその候補として名乗りを上げることも可能だ。
魔法力はともかく、二木家の家柄は魔法師としては上に位置し、年齢の釣り合いも取れている。次期当主に自分の娘を据えるならば、親戚をどこか有力な家に嫁がせ、後ろ盾を得るということは当主として間違った判断ではない。
「このような場を使って申し訳ないけれど、後日正式にお話を持って伺うことを伝えていただいてもよろしいかしら」
「承りました」
「吉日、お目にかかりましょう」
彼女は十師族、二木家当主。その名前は伊達ではなく、柔和な笑みの奥に蛇のような狡猾さを伺わせた。
控室から退室した私は長く、息を吐きだした。
落ち着かない時間だった。
お姉様が二木家の当主に呼ばれたと知らされたのは、周公瑾の最期を聞きに来た七草先輩との面会を終えた後のことだった。
「お姉様、大丈夫でしたか」
「大丈夫よ。個別の挨拶をしただけだから」
来賓控室から出てきたお姉様はどこかお疲れのようだった。
いつも通りに笑って何もないと私の髪を梳いてくれるが、私にはそれが強がりにしか見えなかった。私を心配させないようにという気持ちから来るものではあるのだろうが、それが少し悲しかった。
通常、生徒が来賓個人に呼ばれることは無い。
審査員と個人的に会うことは審査への関与を疑われるが、来賓には審査を左右する権限はない。来賓は魔法科高校に大なり小なり関わる者なので、影響力が全くないとは言えないが、コンペの審査はあくまで審査員の裁量次第だ。
だから今回、お姉様が二木家当主に会うことは表向き問題のないことだ。
呼び出しの理由も会場警備についてもう一度聞きたいと言われた以上、説明担当であるお姉様が対応されることに間違いはない。ただ、個人的な挨拶と呼ぶには重要な話があったことは聞くまでもないことのようだった。
「まだ時間がありますのでどこかで休まれますか」
「警備の詰所にいるわ。警備体制の説明を行ったとなれば、服部先輩に報告が必要よね」
「私もご一緒してもよろしいですか。今のところは大きな問題は上がってはないと聞いていますが、念のため服部先輩と状況を確認しておきたいのです」
「分かったわ」
ラウンジは昼休憩の時間とあって比較的人が多い。
多くが制服を着た魔法科高校の生徒や国立魔法大学の関係者だが、生徒の保護者らしき人や受験を控えた中学生なども聴衆として来場している。
魔法科高校の生徒たちも制服が違う生徒たちで話し合っていた。九校戦と違って論文コンペでは、応援に来た生徒たちは和やかに歓談していたり午前の発表内容を議論したりと交流の機会になっていた。
お姉様を見かけて話しかけたそうな男子生徒もいるようだったが、私がそちらを見ると慌てて視線を逸らしたり、顔を赤らめていたりしていたので、話しかけるまでには至らなかった。この程度で怯んでいるような相手にお姉様のお話の相手が務まるとは到底思えない、と私はお兄様に代わり、お姉様に近づこうとする不届き者を警戒していた。お兄様がいてくださる方が安心なのだが、お兄様は今、発表者である五十里先輩の激励に向かわれている。
私は午前中のところで五十里先輩には挨拶したので、あまり重ねて行っても負担になるだろうと辞退したところだったが、お姉様が二木家に呼ばれたと聞いたのはお兄様がそちらに向かわれた後だったので、タイミングが悪かったとしか言いようがない。
ラウンジを横切るように歩いていると、前の方から私たちめがけて近づく女の子の姿があった。魔法科高校の制服はどこもブレザーを基調としているので、濃紺のセーラー服は聴講に訪れた中学生の可能性が高い。
隣にいるお姉様に目配せをすると、二人に気が付いたお姉様はその場で立ち止まった。
「
「こんにちは」
「久しぶりね、二人とも」
お姉様は顔見知りのようで、二人に笑顔を向けた。お姉様の笑顔に緊張もなく、愛想笑いでもないので、どうやら少なくとも敵対している家ではないのだろう。
「今日はお兄様の応援に?」
「二高の応援もですが、後学のために参りました」
「二人とも受験生ですものね」
「けど結構難しかった」
「確かに高度な内容よ。後日、コンペの内容は論文と総評を合わせて本にまとめられるから、時間があれば読んでみるといいわ」
私が思ったよりお姉様にとっては親しい相手のようで、二人とも気さくに話していた。それよりも私は驚きを上手く消化できなかった。目の前の少女から視線を外すことができないでした。
「お姉様、あの」
「ごめんなさい。紹介がまだだったわね」
やっとのことで私が声を出すと、お姉様は私と視線を合わせた。
「いえ、お名前は存じておりますわ。司波深雪様ですよね。九校戦のアイス・ピラーズ・ブレイクで二年続けて優勝なさった方ですし、ご活躍は遠く京都の地まで聞き及んでおります。ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。
「
自己紹介と共に、二人は静かに少しだけ頭を下げた。
私のことを知っていることに別に驚きはしない。彼女が話した内容は九校戦を見ていたならば知られている情報であり、一般的な検索エンジンで調べても出てくる情報だ。
率先して話しかけてきた芦屋玲奈は、お姉様に言い寄る不届きな芦屋家次期当主の関係者だろう。彼とは顔立ちはあまり似ていないようだが、人当たりのよさそうな可愛らしい笑顔と油断ならない雰囲気はそっくりだった。本当ならば義理の妹になる私だけに許される“お姉様”という呼び方をしていることも気になる点ではあったが、今はそれよりも重大なことがあった。
その顔をはっきりと認識してから、目が離せない少女がいた。
咄嗟に声を上げなかった自分が不思議なほどの衝撃だった。
それはあまりにも自分が知る人物に似ていた。
肩より少し長い程度まで伸ばされたゆるく波打つ長い黒髪。受験生といっていたので、おそらく中学3年生あたりだろう。背丈は高くないことも相まって少し幼い顔立ちが実年齢より幼く見せている。おっとりとしながら良家の出らしく背筋の伸びた粛々とした雰囲気を持っている。
今は緊張からなのか、元々なのか、あまり表情の変化がないのかもしれないが、うっすらと笑みを浮かべれば魔性と呼ばれるような大人びた笑みを浮かべるだろう。
これが単なる美少女であればよかった。
けれど、その少女はあまりにも自分の叔母である真夜に似ていたのだ。
叔母のように穏やかに見えて息が詰まるような笑みの中に含まれた圧力はないが、その顔立ちは他人の空似にしては似すぎている気がした。叔母の10代のころを直接知るわけではないが、仮に彼女の写真を見せられて叔母の学生時代だと言われたら深雪は信じてしまいそうなほどだった。
赤の他人の空似というには似すぎている。
「私も本当は雅お姉様と同じ一高を受験したいのですが、両親の許可が下りず、残念でなりませんの。ですが、私たちも来年は二高を受験予定ですので、今後お会いする機会があるかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「ええ。大変だと思うけれど、良い結果が出ることを願っているわ」
「ありがとうございます」
芦屋玲奈は私に向かってにっこりと可愛らしく微笑んだ。
私も混乱を押しとどめ、彼女に向かって当たり障りない返事を返す。
本当ならばニ、三点、諫めたいこともあるのだが、築島小夜子と名乗った少女のことの方が優先だった。
単なる他人の空似ならば構わない。
けれどもし、という想像が私の頭を支配する。
「雅お姉様、この後ですがよろしければ一緒に拝見いたしませんか?」
「申し訳ないけれど、色々と仕事も任されているから一緒にというのは難しいわね」
芦屋玲奈の申し出に、お姉様は残念そうに眉を下げた。
「そうですわね。ご多忙のところを引き留めて申し訳ありません。お姉様、もしお時間がよろしければ当家にいらしてください。今は紅葉が丁度見ごろを迎えたころなんですよ」
懇願するようにお姉様を見上げる彼女は随分と自分の可愛さを理解している。お姉様を単に慕っているならばそれに文句を付けるつもりはない。
ただ、お姉様にお兄様という存在があることを知ってなお、彼女が芦屋充の協力者としてその提案をしているのならば、随分と顔の面の厚い少女であると評価せざるを得ない。
「ありがとう。時間があれば、連絡させてもらうわ」
「お待ちしておりますわ」
「雅お姉ちゃん、またね」
お姉様は当たり障りなく返事をした。
この場で断ってしまっても私としては構わないと思うのだが、色々と九重家としての付き合いがある以上、即断することは失礼にあたるのだろう。
芦屋玲奈はそれ以上話を長引かせることはなく、お姉様に対して一礼し、築島小夜子も続くようにその場を後にした。
二人がホールへと戻っていくのを確認し、私は息を吐きだした。どうやら自分が思っている以上に肩に力が入っていたようだ。
「お姉様、築島家とは親戚なのですか」
「かなり遠縁だけど、親戚にはなるのかしら。そんなに怖い顔をしてどうしたの?」
お姉様が心配そうに私の頬に手を添える。お姉様の手はいつも通りに温かかったが、私の心は少しも晴れはしなかった。
「他人の空似としてはあまりにも叔母様に似ていませんか?」
「確かに言われてみれば似ているかもしれないわね。かなり昔まで遡って遠縁同士のつながりはあるかもしれないけれど、小夜子ちゃんは違うだろうから
お姉様はそう言うが、私の不安は消えてはいない。
叔母は過去の忌まわしい出来事によって子どもはできない体だと聞いている。
だが、自分での出産が不可能だとしても、現代医療の技術をもってすれば卵子自体が無事であれば代理母という手段は可能ではある。
もし仮に叔母が自分と同じ目に合う可能性を恐れ、四葉とは無関係な家に自分の子を託したのだとしたら。
家に仕える者たちが言う、九重への大恩にそれが含まれるのだとしたら。
突如として出現した可能性に、深雪は今すぐ兄の元へ駆け出したくなった。
その後、波乱はもう一つ起きた。
一高の発表は問題なく、この論文発表が優勝を飾っても相応しい内容だった。
ただ、二高の発表者が突如変更となったことでその評価は塗り替えられる。
発表者は九島の秘蔵っ子である光宣君。
発表内容は『精神干渉系魔法の原理と起動式に記述すべき事項に関する仮説』。
未だ解明されていない点の多い精神の分野について、実験の解析結果から能動的な精神作用が想子情報体を作り出していることを示し、テレパシーなどの知覚系『超能力』と呼ばれる能力も想子情報体を使用した魔法と解釈できると推測した。加えて精神干渉系魔法の定式化、それに対する対抗魔法に関する理論応用、属人的技術に寄らない魔法の発展の可能性を示唆した。
発表終了のしばしの静寂の後、割れんばかりの拍手に包まれ、彼はコンペ優勝の栄冠を飾ったのだった。
お兄様成分が足りない_(:3 」∠)_
いいんだ。もうちょっとしたらイチャイチャ書くから。もう少しお預けです。
感想、評価ありがとうございます。毎回励みになってます。ぼちぼちですが、お返事返していきますのでお待ちください。