哲学冒険RPG『境界の外側』
一人の旅人が、人格を持つ「概念」たちの世界を歩く。
彼は剣も魔法も持たず、ただ言葉を携えて旅をする。
目的は答えを得ることではない。
出会い、言葉を交わり、また旅立つこと。
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第一章 忘却
旅人は雨の降る「忘却の駅」で、一人の少女と出会う。
少女は尋ねる。
「もし名前を忘れたら、人はまだその人なのかな?」
旅人は答える。
> 「名とは、標。中身は、名に依存している訳ではありません。」
さらに彼は続ける。
> 「標を失っても、ただ其処に帰るだけなのです。」
少女は初めて、「忘却」とは失うことだけではなく、「名前の届かない場所へ帰ること」でもあるのかもしれないと気づく。
駅は「忘却」ではなく、「境界」への駅へと姿を変える。
旅人は少女へ礼を告げる。
> 「話をしてくれて、ありがとうございました。縁があれば、また会いましょう。」
少女は静かに、自分の場所へ帰っていった。
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第二章 正しさ
次の駅で待っていたのは、「正しさ」を名乗る老人だった。
老人は長い年月、あらゆるものを量り続け、自分が何なのか分からなくなっていた。
旅人は語る。
> 「正しさとは、ベクトルと原動力です。」
さらに、
> 「力とは流れであり、『正しさ』とは力との同居を宿命として持つものです。」
老人は気づく。
正しさとは固定された答えではなく、人が正しさへ向かおうとするときに歩む道なのだと。
量ることをやめたとき、老人はようやく自分自身を知る。
旅人は再び歩き出す。
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第三章 奇跡
旅人は「奇跡」を訪ねる。
しかし自分の考えを語る前に言う。
> 「貴方自身の自己紹介をしてもらいましょう。」
青年は驚く。
今まで誰も「奇跡」という存在自身を知ろうとはしなかったからだ。
旅人は理由を尋ねられ、
> 「興味にすぎません。言うなれば、顔を覚えるため、でしょうかね。」
と答える。
青年は初めて、自分にも「顔」があることを感じ始める。
やがて青年は、
「奇跡とは何か」
ではなく、
「自分は何者なのか」
を考え始める。
旅人は急いで答えを与えない。
ただ言う。
> 「感じたことに素直にいてください。それは真実ではないかもしれませんが、自然ではあります。」
青年は、自分が今感じていることを受け入れる。
そして旅人は静かに告げる。
> 「では『奇跡』とは、それですね。そう思えたのであれば、それが奇跡でしょう。」
その瞬間、「奇跡」は初めて、自分自身の名を自分の意志で受け入れる。
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旅人
旅人は概念を変えようとはしなかった。
忘却にも、
正しさにも、
奇跡にも、
自分の答えを押しつけることはない。
ただ、自分が感じたことを置く。
相手はそれを受け取り、自ら考え、自ら言葉を見つける。
旅人はその姿を見届けると、礼を述べ、また歩き出す。
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終章
この旅で変わったのは、概念たちだけではない。
「忘却」は帰る場所を知り、
「正しさ」は流れの中の道となり、
「奇跡」は自分の顔を見つけた。
そして旅人は、何かを得たわけではない。
ただ、行き、交わった。
それだけだった。
しかし、その一度きりの交わりは、それぞれの存在に小さな灯を残した。
だからこの物語は、英雄譚ではない。
世界を救う話でもない。
一人の旅人が、概念たちの顔を覚えに行く旅の記録である。