うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「いいかげんにしろっ!
俺は姉上からお前を預かっているんだ。
これ以上危険な事に首を突っ込むな!」
「わたしだってのんびり過ごしたいですわ。
あんなのをいつまでも放置している
叔父さまが悪いのではありませんか」
「放置などしていないっ。
今日とて、包囲が完成すれば
討ち果たしていたのだ。
お前の身勝手な行動がなければだな――」
「あらあら、そのセリフも何度目でしたかしら」
「グ……」
森から城へと戻った後も、デリホウライ皇の怒りは収まらず、広間では未だ言い争いが続いていた。
もっとも、カリンと呼ばれた少女の方は、向けられた言葉のことごとくを涼風のように受け流していたが。
一向に埒(らち)のあかぬやりとりに、ついに業を煮やし尽くしたらしい。
デリホウライ皇は苛立ちも露(あら)わに、カリン嬢の振り回していた剛剣を片手で掴み、立ち上がった。
少女の顔に、はじめて動揺の色が浮かぶ
「なにをしますの」
「しばらく城からの外出は禁止だ。
この剣も必要ない。
しばらく預からせてもらう」
「横暴ですわ」
「皇(オゥルォ)とはそういうものだ」
ようやく小さな笑みを見せ、デリホウライ皇は場から去っていった。
残されたカリン嬢は小さく憤慨しながらも、態度はあくまで余裕のまま。
「……まあいいですわ。
どうせいつでも持ち出せますし」
完全に皇(オゥルォ)を手玉にとっていた。
髪をかきあげ笑む様は、見た目の幼さに反して堂に入ったもので、なぜだか末恐ろしい。
そんな少女に、見開いた眼を向け続けている娘が二人。
「それで、あなたがたは……
ええっと、なにか?」
「いやー、ホントにカルラ姉様に
そっくりだなーって」
「ん」
カミュとアルルゥの好奇に満ちたまなざしに、それでもカリン嬢は悠然と応じていた。
「お二人は、お母さまをよくご存じですのね」
「うん。
あの、ね。
聞いてもいいかな?」
「なんですの?」
「そのー、
お父様は誰なのかなー、って」
「カリリンのおとーさんも、
おとーさん?」
心底知りたそうな表情に、少女は涼しげな笑みを返す。
「それは……秘密ですわ。
いい女には謎が多いものだと、
お母さまも仰(おっしゃ)っていましたし」
「えー、教えてよー」
「うー」
「ふふ」
頬を膨らませる二人に比べ、カリン嬢の対応はよほど大人びていた。
不意に向けられた流し目に、不覚にも鼓動がわずかに跳ねる。
「えーっと、
どうしたものですかね、これから」
「ま、なりゆきに任せてみるのが一番かね、
こういう時は」
思わず彷徨わせた視線がいきついた団長の表情は、こんな状況に至ってなお、心底楽しそうだった。