うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・5~ カルラの贈り物・白花

 

「みなさんの仰(おっしゃ)られる通り、

 この国は今重大な危機に瀕しています。

 静かに、しかし確実に」

 先までの茶化した態度から一転、幼いながらも真剣な言葉は確かな真実を感じさせ、自然と心を身構えさせる。

 居住まいを正したカリン嬢を前に、某(それがし)たちはようやくカルラゥアトゥレイの現状を知る機会を得た。

「集落や町を見た限りでは

 落ち着いてたけどね。

 見た限りでは」

「だが怯えがある。

 戦とは異なる、根底を蝕むような民の不安が……

 ですよね、姉上」

「……ああ」

 相槌をうかがいに変えるテルテォの隣で、リネリォ殿が小さく頷(うなず)いた。

 静かにというよりは、明らかに機嫌悪く、か。

 オンカミヤムカイを出立して以来ずっとこの調子だ。

 実害がないので触れずにいるが。

 意識を会話に戻す事にした。

 より核心的な話に。

「原因は、先ほどの大熊か?」

「アレはおまけみたいなものですわ。

 狂った森の主(ムティカパ)とはいえ所詮は獣。

 国一つが本気になれば

 対処できない相手ではありませんもの」

 平然と返された答えに、納得と共に驚愕した。

 あれだけの威を誇る存在の正体と、それに応じた少女の底知れぬ力に。

 これが「闘争の種族」と称されるギリヤギナか。

 湧き上がる畏怖にも似た感情が、顔にでも出ていたのだろう。

 カリン嬢は某(それがし)に柔らかな微笑みを向けた。

「問題はその狂気の原因。

 これですわ」

 手に持った、一輪の花を差し出しながら。

 それは小さく、儚くも、透き通るような美しい花だった。

 そう、時を忘れさせる程に。

「それ……」

「ちょいと拝見」

 息を飲むアルルゥに先んじ、ニコルコがその花を手にとった。

 触れ、透かし、匂い、また見、ふうむ、と一つ息を吐く。

「これは、白霊蓮(サラカジャ)ですね」

 表情と声は珍しく、軽い緊張を含んだものだった。

「白霊蓮(サラカジャ)?」

「……動物の躯(からだ)を苗床に成長する白い花。

 ヒトの生き血を糧にしたものが、

 一番キレイな花を咲かせる……」

「な……」

 淡々と語るアルルゥの言葉に、思わず絶句していた。

 白い花の美しさが、途端におぞましく映る。

「そう。

 その蜜は人の心を高揚させ、麻痺させ、錯乱させ、

 生ける屍と化す……」

 語るカリン嬢の声は穏やかで、どこか諦めにも似た悟りの境地を感じさせた。

「人の世を騒がすのはいつだって人。

 カルラゥアトゥレイを蝕(むしば)んでいるのは

 この花に毒された人々と、

 その毒を撒き散らしている者たちですわ」

 同時に、地の底に湧くような灼熱の想いを。

 小さく息を飲みながら、思わず腰の剣を探っていた。

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